プロローグ
「ららら~♪らんらん♪ららら~♪」
日本某所。
木造の一軒家や洋風の一軒家が隣接する通りは陽気に歌いながら歩く一人の少女。
髪は金髪だが、顔立ちはれっきとした日本人のモノ。そして、着ている服は何故か巫女服。
普通なら、コスプレのように思われるが、すれ違う町の人はその姿に奇異の視線を抱くことなく、当たり前のように挨拶を交わして去っていく。
その街の人はむしろそれが当たり前なのだ。
なぜなら彼女はこの街にある神社の巫女だからだ。
「最近日照り続きだな~。こんな時、昔の人は雨乞いとかやってたんだよね~」
燦々と太陽の光が照りつける通りを巫女服姿の少女は歩いて行く。
少女の目的地はコンビニ。とある週刊誌を発売日当日に立ち読みするのが彼女の日課だ。
そして、目的地の一歩手前の横断歩道で赤信号に引っかかった。
「ここの信号結構長いんだよね~。交通量は多いんだから長くしてくれてもいいのに。」
そんな愚痴を呟いていると青信号になっている横断歩道を歩いてくる一人の少女が目に入った。
それと同時に赤信号だというのに猛スピードで突進してくるトラックの姿も・・・・・・
「っ!!」
最悪の予感が頭を過ぎった瞬間、少女は駆けだした。
陸上部で鍛えた俊足の追い足は少女を助けるためには十分な速度を出してくれた。
しかし、坂道を下ってくるトラックは徐々にスピードを上げ・・・・・・・
少女は助かったが、その代償として巫女服姿の少女は跳ね飛ばされた。
「ららら~♪らんらん♪ららら~♪」
真っ白な、真っ白な空間。右も左も、上も下も白に染め上げられているため判別できない真っ白な空間で年齢15歳ほどの少女が謳っていた。
「こんな状況でよく歌っていられるね」
少女以外誰も居ない真っ白な空間に突如として艶やかな黒髪が目を惹く少女が現れた。
少女は歌を止めて、黒髪の少女に視線を向けた。
「こうでもしないと精神が可笑しくなりそうですから。
それにしても、此処は何処ですか?私は死んだはずですよね?
トラックに轢かれそうになった少女を助けて」
「ええ。確かに貴女は死にました。でも、ほとんどの人間は自分が死んだことに気付いていないのに・・・・・・」
「あれだけ身体に激痛が来れば、誰でも死んだと思います。」
「まあ、どっちでもいいけど。」
「ところで、貴女は誰ですか?」
「名前なんて忘れたわ。現代の人が神を信仰することを忘れたせいで、ね」
「えっと・・・・・・もしかして神様?」
「そうよ。まあ、消滅しかけの神様だけど。
死んだ貴女の魂をここに呼び寄せたのは、私の娘を助けてくれたお礼がしたかったから。」
「へ?」
少女は思わず素っ頓狂な声を上げた。
「貴女が助けたのは私の血を引く娘なの。
そして、その娘を命を犠牲にして助けてくれた貴女に恩返しがしたかったの。」
「お、お礼なんていいですよ!!」
「それじゃあ私の気が収まらないの。
だから、私の残った神力で貴女を転生させる。それが私の恩返し。
本当なら、同じ世界に転生させてあげたいけど、私の神力ではそれができない。
ごめんなさい。」
神様を名乗る少女は深く深く頭を下げた。
「そ、そんなの気にしませんよ!!転生させてもらえるだけで十分です!!」
「・・・・・・ありがとう。」
神様はにこっと笑みを浮かべた。
「でも、貴女が転生する世界は危険がいっぱいだから、私の残った神力ありったけを注ぎ込んでその世界で生き残れる力を与える。」
「どんな世界に・・・・・・あれ、意識が・・・・・・」
「時間みたい。貴女が次に目を覚めたら、そこは違う世界。」
「せめて・・・・・・どんな世界に飛ばされるのか・・・・・・教えてくれませんか?」
何処かに飛びそうになる意識を必死につなぎ止めながら少女は神様に最後の質問をする。
「えっと・・・・・・“東方Project”の世界」
「へ?」
少女はまた素っ頓狂な声をあげて、その後すぐに意識を失った。
意識を失った少女の身体は黒い穴に吸い込まれた。
「さぁ、貴女たちも。今まで一緒に居てくれてありがとう。
私はこのまま消えるけど、貴女たちは新しいご主人と行きなさい。」
少し悲しげな表情を浮かべる神様の手には、茜色の光を放つ球体と青白い光を放つ球体。
その二つの球体は神様に別れを告げると少女が吸い込まれた穴に飛び込んだ。
「頑張ってね、八雲 ゆかり。」
穴は閉じ、力を使い果たした神様の身体はゆっくりと消滅していく。
しかし、神様は笑顔を浮かべていた。