東方転生伝 ~もう1人のスキマ妖怪~   作:玄武の使者

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第17話 「封印の髪飾り」

第17話「封印の髪飾り」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~八雲神社 境内~

 

 

夢幻郷に存在する龍脈の終点。

そこには、夢幻郷の創始者である八雲 ゆかりが祭られる神社――八雲神社が聳え立つ。

里人と妖精たちが協力して作り上げられた立派な神社。

その神社の境内を掃除する1人の少女が居た。

 

 

「・・・・・・」

 

 

無言で掃除を続ける少女の肩に1羽の雀が降りてくる。

 

 

「どうしたの?ここに来ても餌はあげないよ。」

 

 

そう言いながら、八雲神社の初代巫女――水雲 しいなは雀の頭を小突く。

すると、雀は雲一つ無い青空に戻っていった。

仲間と一緒に飛び回る雀たちを視界に納めて、しいなはクスッと笑みを浮かべた。

 

 

「よし。終わり。」

 

 

境内の掃除――と言ってもまめに掃除しているのでそんなに時間は掛からない――を終えたしいなは近くの樹に竹箒を立てかけて木陰に座る。

夏真っ盛りなので、蝉たちがうるさく泣き喚く。

さらに、夏の太陽が容赦なく人の体力を奪っていく。

 

 

「あ~・・・涼しくて気持ちいい~。」

 

 

しいなは木陰の涼しさを満喫する。

元々、八雲神社は地表より高い丘の上に建設されたので地表に比べると少し涼しい。

しかし、それでも真夏の気温は流石にキツイ。

 

 

「そういえば、シアンさんに拾われたのもこんな夏の日だったわね。」

 

 

しいなは五年前の夏、シアンディームに拾われた日のことを思い出す。

彼女はとある事情で彷徨っていた時、偶々夢幻郷に入ってしまい、シアンディームに拾われたのだ。

そして、保有する霊力が高いことから初代巫女に抜擢されたのだ。

 

 

「およ、今は休憩中?」

 

 

「いえ、終わった所です。」

 

 

5年前のことを思い出していると、ゆかりがスキマから出てきた。

スキマに腰掛けて、日よけの唐傘を差す。

 

 

「ちょうど良かったわ。貴女に聞きたいことがあったの?」

 

 

「聞きたいこと、ですか?」

 

 

「うん。貴女、自分の能力については知ってる?」

 

 

「はい。」

 

 

“空想を現実に変える程度の能力”。

それが初代八雲神社の巫女、水雲 しいなの能力である。

 

 

「なら、話は早いね。

 しいなは自分の能力を何処まで制御できるの?」

 

 

「正直に言うと、あまり制御できません。

 普段は問題ないのですが、感情が高ぶってしまうと・・・・・・」

 

 

「勝手に能力が発動しちゃうわけ、か。」

 

 

しいなは頷いた。

 

 

「これは早急にこしらえる必要があるわね。」

 

 

ゆかりは何か独り言を呟くと、スキマの中に引っ込んだ。

と、思ったら再びスキマから顔を出した。

 

 

「そうそう。もうすぐ昼餉だから戻ってきなさいよ?」

 

 

「分かりました。」

 

 

そんな伝言を残して、ゆかりは再びスキマにもぐった。

 

 

「さて、私も行かないと。」

 

 

しいなは竹箒を持って居住スペースに走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ゆかりの部屋~

 

八雲 ゆかりSIDE

 

 

昼餉を終えた後、ゆかりは自室に籠もっていた。

窓際に設置された机には何やら墨で色々書かれた紙が散らばっている。

そして、部屋の主であるゆかりはすっかり頭を抱えていた。

 

 

「忘れてたよ・・・。私は術式の構築式なんて習ってないのを。」

 

 

しいなのために能力を制限する封印を作ろうと思ったんだけど・・・。

封印式の組み方なんてまったく分からないよ!!

そもそも、八雲式符術でも封印術はそれなりの高位技術。

そんな高位技術を初歩的な符術も満足に使えない私が使えるわけが無い。

 

 

「はあ・・・前途多難だね。」

 

 

ゆかりは深いため息を吐いた。

 

 

「でも、悠長に考えてる暇はない。」

 

 

しいなの能力は妖怪たちにとっても危険性の高い能力。

そんな能力を持つしいなを妖怪たちがほっておく訳がない。

それにしいなの能力は感情の高ぶりによって、制御ができなくなる。

 

 

「仕方ない。ここは神様の力を借りるとしよう。」

 

 

ゆかりは独力で封印式を組み上げることを諦めた。

そして、スキマから降神術用の御札を取り出して、四方に貼り付ける。

 

 

「これで準備完了。問題は、作業は終わるまで私の力が持つか、だね。」

 

 

ゆかりはちょうど部屋の真ん中に座ると、目を閉じて意識を集中する。

 

 

「八意思兼神よ、汝の神徳をしばしの間我に御貸しください。」

 

 

ゆかりが力を借りるのは、知識の神――八意思兼神の神徳。

その神徳は当然ながら八意思兼神の象徴とも言える、知識。

 

八意思兼神から神徳を借りたゆかりは机に向かい合い、封印式の構築に取り掛かる。

小筆に墨を浸けて、真っ白なキャンバスに術式を描いていく。

 

 

・・・

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

八意思兼神の神徳を借りたゆかりはほんの数分程度で封印式を書き終えた。

目的を達成したゆかりは両手をパンッと叩いた。

すると、四方に貼り付けられた御札は力を失っていき、神徳を返却する。

 

 

「ふぅ・・・・・・いくら神徳を借りるだけでもかなり力を使うわね。」

 

 

ゆかりは畳みの上に寝転がった。

 

 

「神威召喚も神霊召喚もちゃんと使えるけど、多用できないわね。」

 

 

私の切り札、降神術。

降神術とは、「神威召喚」と「神霊召喚」の2種類の術を纏めた呼称。

違いは神徳だけを借りるか、神霊そのものを召喚するかの違い。

どっちも多用できないのには変わりないけど。

 

 

「さて、八意思兼神の神徳を借りて術式はできたけど、実際に使わないとちゃんと効力を発揮するかはわからないね。」

 

 

後で、しいなに実際つけて貰わないと・・・・・・。

でも、御札を常備するのも結構面倒な話よね。

何か・・・・・・普通に身につけても変に思われないもの。

 

 

「そういえば、平城京で上質な布を貰ったのを忘れてた。」

 

 

ゆかりはスキマの中に手を突っ込んで、中を漁る。

そして、お目当ての物を引っ張り出してきた。

薬の代金としてさる貴族の婦人から頂いた緋色の布だ。

 

 

「これで髪飾りでも作りましょうか。」

 

 

ゆかりは手元にある材料と道具で髪飾りの製作に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~麓の里~

 

 

ゆかりがしいなの封印具を作っている頃。

シアンディームは八雲神社が建つ丘の麓にある人里まで降りてきていた。

夢幻郷の管理者を代行していた時から、時折麓に下りて来ているのだ。

 

 

「今年は日照りも無いし、問題はなさそうね。」

 

 

シアンディームが居るのは、里の田園地帯。

妖怪が出没する南側の森とは里を挟んで反対側に位置する共用の田畑である。

そこには農作業を手伝う妖精たちの姿も見える。

 

 

「みなさ~ん、冷たいお茶の差し入れです~」

 

 

シアンディームは大声で農作業をしている者たちを呼ぶ。

彼女の声を聞いた面々は一旦作業を止めて集まってくる。

 

 

「いつも悪いな。」

 

 

「いえ、お供え物を貰っていますから。」

 

 

そう言いながらシアンディームは神社から持ってきたお茶を配っていく。

配り終えた後、彼女は里長に話しかけた。

 

 

「今年の出来はどうですか?」

 

 

「いつも通り豊作さ。他の土地なら、こう上手くはいかないだろうな。」

 

 

「ここは龍脈の加護をたくさん受けていますから。」

 

 

「違いねぇ。ああ、ちょっと頼みたいことがあるんだが、構わないか?」

 

 

「何でしょうか?」

 

 

「どうも農具が限界に近くてな。新しいのが欲しいんだよ。

 その新しい農具を作るのに、できれば鉄を調達してきて欲しいんだ。」

 

 

「分かりました。できる限りのことはやってみます。」

 

 

「頼む。」

 

 

(鉄器か・・・・・・。ゆかりさんに聞けば、何か知ってるかな?)

 

 

 




神様万能説(笑)
オモイカネは本来知恵の神様です。知識の神様ではありません。
物語の展開上、知識の方が合うので知識にしました。
最後の部分は蛇足に思えますが、ちょっとしたフラグです。
そのフラグを回収するのはいつになるのやら・・・・・・

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