東方転生伝 ~もう1人のスキマ妖怪~   作:玄武の使者

17 / 55
第15話 「神降ろしの術」

第15話 「神降ろしの術」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Another SIDE

 

 

平城京より少し離れた上空。

満月と満天の星が浮かび夜空の下で苛烈な戦いが繰り広げられていた。

夜空を駆け巡る紅い閃光と茜色の炎。そして、響き渡る金属音。

 

 

「八雲式剣舞、三之舞 冥雷鈴!!」

 

 

ゆかりは左手に持つ蒼月を投擲する。

当然、月の兵士はそれを避ける。が、蒼月はスキマに飲み込まれて月の兵士の背後から突き刺さった。

同時に妖力が雷に変換されて、周囲の兵士に襲い掛かる。

 

 

「結構倒してる筈なのに、あんまり減ってないね。」

 

 

「向こうは元々人手が多いからね」

 

 

ゆかりとルーミアが相手をしているのは、輝夜の迎え。

普通の人間と大差ない姿の兵士も居れば、玉兎と呼ばれる月のウサギも居る。

その比率はおおよそ2:3。

 

 

「舞え、闇の剣よ――《闇の剣舞》」

 

 

ルーミアの周囲に無数のロングソードが生み出される。

それらは別々の軌道を描きながら月の兵士たちに襲い掛かる。

 

 

「はあぁぁぁぁ!!」

 

 

ルーミアの死角に潜り込んだ玉兎が猛スピードで突進する。

しかし、彼女の身体は《魄翼》が変化した巨大な腕に掴まれてしまう。

そのままギリギリと身体を締め付ける。

 

 

「何となく予想してたよ。誰かは死角から攻撃してくるって。」

 

 

妖力で構築した無数のロングソードを操りながらルーミアは言う。

 

 

「そらっ!!」

 

 

ルーミアは身体を回転させて、玉兎を放り投げる。

放り投げられた玉兎は遠距離から攻撃を仕掛けようとしていた他の玉兎に当たった。

 

 

「ルーミア!! 少しだけ時間を稼いで!!」

 

 

「分かったけど・・・・・・あんまり長時間は稼げないよ!!」

 

 

「大丈夫よ。」

 

 

ゆかりは自信満々に言った。

ルーミアは無数のロングソードを攻撃モードから守備モードに移行する。

 

 

「さぁ、見せてあげるよ。私の秘術、降神術を!!」

 

 

ゆかりは焔月と蒼月を鞘に戻し、スキマから何も書かれていない無地の短冊を取り出す。

さらに、小型の書道セットを取り出して無地の短冊に文字と文様を書く。

スキマに不要になった書道セットを戻して、目を閉じる。

 

 

「―――――」

 

 

ルーミアの耳に聞きなれない言葉の詠唱が届く。

 

 

「―――――」

 

 

詠唱が進むにつれて、先ほど作り上げた御札が淡く光る。

月光よりも劣る光量だが、どこか神々しい。

 

 

「あの呪文は・・・いかん!! 何ともしても止めるのだ!!」

 

 

ゆかりが執り行っている儀式の正体を悟ったリーダーは総攻撃命令を下す。

しかし、その行く手を遮るようにルーミアが立ちはだかる。

 

 

「―――――――」

 

 

ゆかりはルーミアを信じて儀式に集中する。

その信頼に応えるようにルーミアは自身の妖術を巧みに扱いながら、敵の攻撃を阻む。

 

 

「ありがとう、ルーミア。」

 

 

ルーミアの奮闘のおかげでこの戦いに決着を着けるカードが完成した。

ゆかりは手に持った御札を高く掲げて、最後の一節を紡ぐ。

 

 

天之尾羽張神(あめのおはばりのかみ)

 

 迦具土神を殺した天尾羽張の霊威を今再び見せつけよ!!」

 

 

ピシャーンッ!! と雷鳴が轟き、ゆかりの背後に剣を携えた男性の姿が現れる。

 

 

「馬鹿な・・・。妖怪の分際で八百万の神の一柱を召喚するなど有り得ん!!」

 

 

 

《天之尾羽張神(あめのおはばりのかみ)》

別名、伊都之尾羽張。

建御雷之男神の父の当たり、葦原中国平定の際に建御雷之男神を推薦した神。

迦具土神を殺す際に用いられた十拳剣の名称であり、その剣の化身。

天尾羽張についたカグツチの血から、建御雷之男神などの火・雷・刀に関する神が化生している。

 

 

 

ゆかりが召喚した圧倒的な存在感を醸し出すその神に敵は完全に怖気づいていた。

彼女らの背後に控える輝夜たちも驚きを隠せなかった。

 

 

「神の炎と神の雷、その身に受けてみなさい!!」

 

 

人間界に降臨した天之尾羽張神が腰に携えてた十束の長さの剣を抜く。

天之尾羽張神が抜き放ったその剣を振るうと、急に夜空が曇天に覆われて雷鳴が轟く。

そして、雷と炎が敵を蹂躙し、断末魔の悲鳴が響き渡る。

 

 

「くっ・・・・・・撤退だ!!」

 

 

リーダーの命令に従い、兵士と玉兎たちは撤退を始める。

輝夜の追っ手が完全に居なくなると、雷と炎は止み、元通りの夜空が広がっていた。

 

 

「ありがとうございます、天之尾羽張神よ。」

 

 

ゆかりは天之尾羽張神にお礼の言葉を述べる。

天之尾羽張神の身体が透けていき、やがて完全に消滅した。

 

 

「凄いよ、ゆかり!! あんなことができるなんて!!」

 

 

ルーミアは《魄翼》を消して、ゆかりの下に戻る。

 

 

「・・・・・・八百万の神を召喚するのは、ちょっとキツイね」

 

 

ゆかりの身体は浮力を失い、重力に引かれて落下を始める。

天之尾羽張神を呼び出すのに保有する妖力のほとんどを使い果たしたゆかりには飛ぶために必要な妖力すら残っていなかったのだ。

 

 

「ゆかり!!」

 

 

落下するゆかりの腕をルーミアが掴み、ゆっくりと地上に降りていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~地上~

 

八雲ゆかりSIDE

 

 

「大丈夫?」

 

 

「妖力はすっからかんだけどね。」

 

 

ルーミアの肩を借りてゆかりは近くにあった樹に凭れ掛かる。

 

 

私が使ったのは八雲式符術の秘術、降神術。

その名の通り、八百万の神々の一柱を召喚する神降ろしの術。

この術は前世からずっと使えるけど、この世界に来てから消費が半端じゃない。

まあ、全盛期の神様の力を使えると考えたら安いものかな。

 

 

「ルーミア、何か妖力を回復できるものない?」

 

 

「うーん・・・・・・あっ、これがあった。」

 

 

ルーミアがゆかりに差し出したのは、月人の右腕だった。

 

 

「ありがと。」

 

 

ゆかりはそれを受け取り、くるっと背後を向く。

そして、失った妖力を回復させるためにそれに齧り付いた。

 

 

 

 

少女、食事中・・・・・・

 

 

 

 

「ふう。」

 

 

ゆかりは骨だけになった月人の左腕を放り投げた。

人の肉を食べたおかげでゆかりの妖力はある程度回復した。

そして、タイミングを見計らうように輝夜たちが空から降りてきた。

 

 

「八百万の神を召喚するなんてとんでもないことするわね。」

 

 

「ああでもしないと、物量で押し切られたかもしれないからね。」

 

 

そう言いながらゆかりは土埃を掃って立ち上がる。

 

 

「さて、これで依頼は達成したね。」

 

 

「ええ。まさかたった2人で月の迎えを追い返すとは思わなかったけど。」

 

 

「伊達に妖怪をやってないからね。輝夜はこれからどうするの?」

 

 

「そうね。永琳と一緒に月の追っ手から逃げつつ、安住の土地を探すことにするわ。

 貴女たちはどうするの?やっぱり夢幻郷に戻るのかしら?」

 

 

「うん。夢幻郷の管理者である私がいつまでも離れてるわけにはいかないしね。」

 

 

それに、都でするべきことは全て終わった。

遣唐使が齎してくれた唐の物品も依頼をこなす内に結構手に入ったし。

下手に長く留まりすぎると私が妖怪だと言う事が露見する。

 

 

「じゃあ、今日でお別れね。」

 

 

「うん。まあ、困ったことがあったら、夢幻郷に来れば良いよ。」

 

 

「そうさせてもらうわ。」

 

 

ゆかりと輝夜はお互いに笑みを浮かべた。

 

 

「妹紅、貴女はどうするの?」

 

 

ゆかりは妹紅に問う。

 

 

「私?私は輝夜についてくつもりだよ?」

 

 

妹紅の言葉に真っ先に反応したのは当然の如く輝夜だった。

 

 

「駄目よ、妹紅。私と永琳は不老不死の蓬莱人で貴女は普通の人間。

一緒に居たら、私が寂しい思いをするから駄目。

それに、私たちは追われる身。貴女を連れて行くことはできないわ。」

 

 

「・・・・・・」

 

 

妹紅は唇を噛み締めた。

輝夜の言っていることは尤もで、今の妹紅では2人の足手まといになるのが目に見えている。

しかし、そう思ったのも一瞬でポケットに入ってるモノを思い出した妹紅は笑みを浮かべた。

 

 

「ねぇ、私が普通の人間じゃないなら良いわけだよね?」

 

 

「まあ、ゆかりやルーミアみたいに何千年も生きられるなら・・・・・・」

 

 

「言質は取ったよ?」

 

 

「「「「??」」」」

 

 

妹紅以外の4人は妹紅の質問の意図が分からず、頭の上に疑問符を浮かべる。

この時、ゆかりはすっかり忘れていた。

依頼の報酬として貰った蓬莱の薬を妹紅に預けたままであることを・・・・・・。

 

 

「これ、な?んだ?」

 

 

「「「「あっ。」」」」

 

 

4人の声が見事に重なった。

そして、妹紅はポケットから取り出した薬品――蓬莱の薬の蓋を開けると一気に飲み干した。

 

 

「うぇ?にがっ」

 

 

「も、妹紅!?貴女、何を考えて・・・・・・」

 

 

「ニシシシ♪一度輝夜の困った顔が見たかっ――ぐっ!!」

 

 

蓬莱の薬が全身に回った瞬間、突然妹紅が苦しみ始めた。

妹紅の黒かった髪は脱色したような白、いや銀に近い白に変色してしまった。

同時に短かった髪は長くなり、妹紅の身長と同じくらいになる。

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・これで文句ないでしょ?」

 

 

妹紅はニコッと笑った。

 

 

「ねぇ、輝夜。私ね、輝夜に平城京から出ていく聞いてからずっと考えてたんだ。

どうやったら輝夜と一緒に居られるかって。そして、良く考えて出した結論がコレ。

私は貴女と永遠の時を生きることにしたの。」

 

 

「妹紅・・・・・・」

 

 

「クスッ。姫様、どうやらこの子の気持ちは本物のようよ。

連れていってあげましょう?」

 

 

「まったく・・・・・・」

 

 

輝夜はやれやれと溜め息を吐きながら妹紅に手を差し出した。

 

 

「これからよろしくね、妹紅」

 

 

「うん!!」

 

 

妹紅も手を出して輝夜の手を握った。

 

 

「さぁて、妹紅。貴女が飲んだ蓬莱の薬は私が翁老から正当な報酬としてもらったものだよね?」

 

 

「・・・・・・」

 

 

だらだらと冷や汗が流れる妹紅。

対して、笑ってはいるが、明らかにお怒り状態のゆかり。

 

 

「悪い子には、お仕置きね♪」

 

 

ゆかりは素早く妹紅の腕を掴むと思いっきり妹紅の右手首から先を噛みちぎった。

 

 

「ッッ???!!」

 

 

経験したことのないあまりの激痛に妹紅は声にならない悲鳴を上げる。

ゆかりは妹紅の手をある程度咀嚼するとそのまま呑み込んだ。

 

 

「蓬莱人って痛みも無いのかな、って思ってたけど、そうでもなかったか・・・・・・」

 

 

「蓬莱人は死なないってだけで痛み自体はちゃんと感じるわよ?

その証拠に妹紅の手だってもう再生してるでしょ?」

 

 

ゆかりに噛み千切られた部位は炎に包まれている。

そして、炎が消えると妹紅の右手首は完全に元の状態に戻っていた。

 

 

「凄い再生力・・・」

 

 

「痛かったよ?・・・・・・」

 

 

「よしよし」

 

 

蓬莱人の再生力の驚くルーミアと涙ぐむ妹紅、そんな妹紅を慰める輝夜。

いつの間にか山と山の谷間から朝日が顔を覗かせていた。

 

 

「妹紅、貴女にこれを渡しておくわ。」

 

 

「?何これ?」

 

 

ゆかりが妹紅に渡したのは、大脇差し。

そう。藤原不比等から依頼の報酬として譲り受けたあの脇差しだ。

 

 

「それは貴女の父、車持神子の形見。

 私が車持神子から貰ったものだけど、貴女が持ってるほうが相応しいわ。」

 

 

「お父様の・・・・・・」

 

 

「ルーミア、夢幻郷に帰るよ。」

 

 

「は~い。」

 

 

車持神子の脇差しを妹紅に託し、ゆかりとルーミアは夢幻郷に帰って行った。

 




改訂前からおなじみのゆかりのチートスキル、降神術が登場。
改訂後もその代償は変わっていません。使うと、ゆかりは高確率で戦闘不能に陥ります。依姫みたくバンバン使えません。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。