第14話「反逆する月の姫」
ゆかり視点
かぐや姫・・・本名、蓬莱山 輝夜の衝撃告白から数日後。月は満ち、満月が夜の平城京を照らしていた。
翁の屋敷には帝が派遣した兵士たちが守りを固めている。
輝夜が月に帰ることが何処かから漏れたせいで、帝に伝わってしまった。
肝心の輝夜は竹取の翁たちと数人の兵士と共に屋敷の一番奥に避難していた。
「守りを固めても無駄なのに・・・・・・」
「だよね〜。帝も上位妖怪を配置するくらいのことはしないと♪」
「ルーミア、そんなことができたら妖怪と人のパワーバランスが崩れちゃうからね?」
「冗談だよ、冗談♪」
これから人でもない妖怪でもない者たちと闘うというのに緊張感の欠片もないルーミアとゆかり。
2人が居るのは輝夜が居る部屋の一つ前の部屋の隅。
そこに妹紅も居る。
「ほら、妹紅。貴女が闘う訳じゃないんだからそんなに固くならないで。」
「・・・・・・うん」
固まっている妹紅を母親のように後ろから抱き締める輝夜。
「かぐや様。そろそろ奥の部屋に退避してください。」
「わかったわ。手はずどおりにね。」
「はい。」
輝夜は小さな声でゆかりに言うと、再び奥の部屋に籠もった。
襖が閉じられるとほとんど同時に太陽の如く眩しい光が隙間から射し込んできた。
手筈通りにゆかりたちはスキマ空間の中に引っ込む。当然妹紅も一緒だ。
さらに、スキマ空間内から外の様子を見渡せるように小さくスキマを開く。
「来たわ。」
独り手に襖が開き、輝夜の居る部屋まで一本の通路が出来上がる。
そして、帝が遣わした兵士たちは次々に倒れてしまう。
兵士たちの屍――死んでいる訳ではない――に目も暮れずに輝夜の前に歩み寄る月人たち。
「外見は普通の人間と変わらないね。」
月人の姿をゆかりはそんな感想を漏らした。
輝夜の前に現れたのは5人の月の使者らしき人物ら。
1人だけ衣装が違い、赤と青がきれいに半分に分かれた服を着ている。
他の4人は都の防人とよく似た純白の衣装を着ている。
あれが“月の頭脳”八意 永琳だね。
雰囲気を見る限り、あの取り巻きはそれほど強くなさそうね。
持ってる武器は槍に刀剣、それから銃か・・・・・・。
「あ、輝夜が何か渡してる・・・・・・」
スキマの外では輝夜が竹取の翁に瓶に入った何かの薬を、帝が遣わした兵士には手紙と同じ薬をそれぞれ手渡していた。
「あれが“蓬莱の薬”なのかな?」
「多分ね。」
「不老不死になれる幻の薬。あれがあれば、お父様も・・・・・・」
ゴツンッ!!
そんなことを宣う妹紅をゆかりが軽く殴った。
「妹紅、不老不死というものを甘く考えたら駄目だよ。
不老不死になれば、親しかった人が死に行く姿を何度も見続けないといけない。それはかなり過酷なこと。
普通の人間が耐えられるようなモノじゃない。」
「でも、ゆかりもルーミアも輝夜もそんな不老不死なんだよね?」
「私とルーミアは元々妖怪だし、いつかは終わりが来る。
私たちは不老長寿なだけであって、不老不死じゃないからね。」
「・・・・・・」
「ゆかり!!輝夜たちが外に出た!!」
「良し。」
輝夜は月から迎えに連れられて、屋敷を出たことを確認したゆかりたちはスキマから外に出る。
そして、輝夜から渡された不老不死になれる薬――蓬莱の薬を握り締める翁に声を掛けた。
「翁老、私たちはこのままかぐや姫を追います。
長い間御世話になりました。」
「なりました〜。」
「かぐやを連れ戻すことはできるのですか?」
翁はゆかりに縋るように呟いた。
翁の質問にゆかりは首を横に振った。
「そう・・・ですか。では、これは貴女に差し上げます。」
そう言って翁は蓬莱の薬をゆかりに渡した。
「よろしいのですか?」
「はい。かぐやの居ない世界に未練などありませぬ。私らはのんびりと余生を過ごします。
それに、依頼の報酬を払っておりませんでしたからな。」
「わかりました。」
ゆかりは翁から蓬莱の薬を受け取り、それを妹紅に渡した。
「私が持ってたら、壊れそうだから貴女が持っていてね?」
「う、うん。」
「では、翁老。お元気で。」
そう言い残してゆかりたちは竹取の翁の屋敷を出た。
しかし、何故か妹紅までついてきている。
「妹紅、貴女は此処で待ってなさい。」
「いや!!私だって輝夜が心配なの!!」
あ〜・・・こういう子には何を言っても無駄だね。
まあ、最悪の場合はスキマに放り込んでおけば大丈夫か。
「しっかり捕まってなさいよ!!!」
「うん!!」
ゆかりは妹紅の手を強く握り締める。
屋敷から出ると同時にゆかりとルーミアは地面を蹴り、満月の浮かぶ夜空に飛び上がった。
輝夜たちの位置はゆかりが彼女に渡しておいた護符が教えてくれる。
「お、落ちる〜!!」
「まったく・・・」
ゆかりは妹紅を背中に乗っけると輝夜が居る場所まで全速力で駆け抜けた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
「見えた!!」
「でも、ちょっとピンチぽい!!」
平城京から随分離れた地点に輝夜と永琳が居た。
しかし、敵に囲まれており、武器を突き付けられている。
何か話しているようだが、遠すぎてゆかりたちにはまったく聞こえない。
業を煮やした月の使者のリーダーは強硬手段に出た。
この時代には存在しない銃のような兵器から紅い光線が真っ直ぐ伸びていく。
「ちょっと不味いね。点と点を結び、強固なる盾となれ――《四天四方結界》!!」
輝夜に渡しておいた護符が一枚から八枚に分裂し、守護結界を作り上げる。
兵士が放った紅い光線はその結界に弾かれてしまった。
「でぇえええい!!」
そして、ルーミアが大剣を薙ぎ払い、衝撃波を発生させて月人たちを吹き飛ばす。
「助っ人参上、てね。」
「遅いわよ。」
「これでも急いで来たんだよ?っと、そっちの人は初めてだね。
私は境界を操る妖怪、八雲 ゆかり。輝夜の元護衛よ。」
「救援感謝するわ。私は八意 ××。輝夜の元教育係よ。」
「八意・・・なんて?」
うん。冗談かと思ったけど、本当に発音できない。
「地上のモノには発音できないから、永琳で構わないわ。」
「わかった。貴女は輝夜とこの子を守っててくれる?」
「別に良いけど、貴女たちだけで勝てるの?」
「十分よ。」
ゆかりは輝夜に妹紅を渡すと鞘から焔月と蒼月を抜刀してルーミアと合流した。
「ルーミア、今日は遠慮なく食べていいよ。」
「わかった〜♪」
刹那、飛び込んできた月人とルーミアを夜より暗い闇が包み込んだ。
ガリッ!!ゴリッ!!
バキッ!!ベキャッ!!
グチュッ!!グチャッ!!
闇の中から生々しい食事の音と月人の断末魔の叫びが響く。
妖怪が人を捕食する光景に慣れていない輝夜たちはひきつった表情を浮かべる。
そして、生々しい音が止むと闇の中から口元を血で染めたルーミアが出てきた。
「ごちそうさま♪」
「美味しかった?」
「うーん・・・微妙。」
「ふふ♪さて、さっきから震えてる月人をさっさと倒すよ?」
「OK♪久しぶりに全力を出すよ~♪」
ルーミアは楽しそうな表情を浮かべながら、妖力を完全解放する。
そして、闇で作り上げられた翼がルーミアの背中に展開される。
ルーミア固有の妖術《魄翼》。
背中に広がった闇の翼が自在に形を変えることが出来る。
闇を操る程度の能力を持つ彼女だからこそ使える妖術である。
「八雲式剣舞、一之舞 雀王吼波!!」
焔月から放たれた炎弾が鳥の姿をして、飛び立つ。
しかし、一直線に進む火炎弾は容易く避けられる。
「てりゃあぁっ!!」
さらに、ルーミアが上空から奇襲を仕掛ける。
ルーミアが月人を捕食する光景を見てしまったせいか、輝夜を迎えに来た月の使者はルーミアを非常に警戒している。
つまり、ゆかりの警戒が甘くなる訳で・・・・・・
「八雲式剣舞 四之舞 鳳仙花!!」
焔月から炎弾が散弾のようにばら撒かれて月人たちに襲い掛かる。
そして、足を止めた月人にルーミアが襲い掛かる。
「幻月・一閃!!」
三日月を描くように下段から上段に向かって切り上げ。
さらに、取っ手を持ち替えて投擲の体勢を取る。
「闇に、眠れ。――《ストームブリンガー》!!」
ゴツイ大剣はスマートで長い両手剣へと姿を変える。
真っ黒な刀身に不思議な文字(ルーン文字)が刻まれたその剣を力いっぱい投擲した。
ビュンッ!! という風きり音と共に少し離れた場所に居た兵士を貫いた。
「さぁ、全力で掛かってきなよ!!」
新しく妖力で長い両手剣を作り出し、ルーミアは笑った。