東方転生伝 ~もう1人のスキマ妖怪~   作:玄武の使者

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第13話 「かぐや姫の正体」

第13話「かぐや姫の正体」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八雲ゆかりSIDE

 

 

車持神子が死去したというニュースはあっという間に都に流れた。

車持神子――つまり、藤原不比等には血族が大勢居る。

その藤原家の面々が一堂に会して、大規模な葬儀が執り行われた。しかし、その中に妹紅の姿はなかった。

 

 

「かぐや様、妹紅の様子はどうですか?」

 

 

「もう落ち着いてるわ。」

 

 

実の父の死去を知った妹紅は散々泣き喚いた。

車持神子の死去から二日が経過して、ようやく妹紅も落ち着きを取り戻した。

 

 

「車持神子の屋敷の様子はどうだった?」

 

 

「親戚一同が集まって盛大な葬儀が執り行われていましたいましたね。

 ただ・・・・・・妹紅のことはまるで存在しない子供のような扱いでした」

 

 

縁側に座ったゆかりはあからさまに不機嫌そうな表情を浮かべた。

ゆかりの隣に座るかぐや姫も彼女の言葉を聞いて不機嫌になった。

 

 

「地上に流されて、ここまで不愉快なのは初めてだわ。」

 

 

かぐや姫はボソッと呟いた。

 

 

「?かぐや様、何か言いましたか?」

 

 

「な、何でもないわよ!?わ、私妹紅の様子を見てくるわ」

 

 

あからさまに慌てた様子でかぐや姫はその場を離れた。

 

 

「分かりやすいわね~」

 

 

かぐや姫の慌てた挙動にゆかりはクスッと笑った。

ゆかりは聞こえていない振りをしたが、かぐや姫の呟きは実際は聞こえていた。

 

 

「次の満月まで、あと少しか・・・・・・」

 

 

車持神子の葬儀が行われているのに、天気はあいにくの雨。

雨雲に覆われた空をゆかりはじっと眺めていた。

 

 

 

・・・

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

その日の夜。

日中に降り注いでいた雨は嘘のように止んでいた。

その代わりに、雲1つない夜空には満天の星と三日月の月。

 

 

「・・・・・・・・」

 

 

夜空に浮かぶ月を静かに見上げる影があった。

ゆかりとルーミアの護衛対象、かぐや姫である。

彼女は自分の部屋から出て、少し悲しげな表情を浮かべていた。

 

 

「どうかしたの?かぐや」

 

 

かぐや姫の部屋で一緒に眠っていた妹紅が体を起こした。

 

 

「ごめんなさい、起こしちゃった?」

 

 

「うん。」

 

 

妹紅は眠たそうな目を擦りながら、かぐや姫の隣に座る。

日中に降り注いだ雨のおかげで風は涼しく、かなり快適だ。

 

 

「ねえ、かぐや。どうして月を見てたの?」

 

 

「ん?ここから見る月が綺麗だからよ。」

 

 

「でも・・・・・・月を見るかぐやの顔は悲しそうだったよ?」

 

 

「っ!!」

 

 

妹紅の言葉にかぐや姫は金槌で殴られるような衝撃を受けた。

妹紅のまっすぐな瞳を見て、かぐや姫は思わず目を逸らす。

 

 

「どうして目を逸らすの?」

 

 

「そ、それは・・・・・・」

 

 

妹紅はかぐや姫を見逃す気はないようだ。

かぐや姫は覚悟を決めて、口を開いた。

 

 

「本当は妹紅には黙っておくつもりだったんだけど・・・・・・」

 

 

そう前置きしながらかぐや姫は妹紅と視線を合わせた。

 

 

「妹紅。私はね、あの月から流された咎人なの。」

 

 

「月?あそこで輝いてるお月様?」

 

 

妹紅が夜空に浮かぶ月を指差すと、かぐや姫は静かに頷いた。

 

 

「私の本当の名前は蓬莱山 輝夜。月の都のお姫様。」

 

 

「えっ?あの月に人が住んでるの?」

 

 

「そうよ。まあ、信じられないかもしれないけど。

 そして、私は犯した咎によってこの大地に流されてた。

 その罪の期間がもうすぐ終わり、月からの迎えがやってくる。」

 

 

「輝夜が犯した罪って?」

 

 

「月の都で使用することを禁じられた不老不死の薬、蓬莱の薬を飲んだこと。

 それが私が犯した咎。」

 

 

「じゃあ・・・・・・輝夜も居なくなっちゃうの?お父様みたいに・・・・・・。」

 

 

妹紅は顔を伏せる。

口から吐き出される言葉はこの先の「孤独」を想像して震えている。

 

 

「生憎と、私は無抵抗に月に連れ戻されるつもりはないわ。」

 

 

そう言ってかぐや姫――蓬莱山 輝夜は妹紅を安心させるように彼女の頭を撫でた。

 

 

「どういうこと?」

 

 

「実は月の迎えの中に私の知り合いが居るの。

 その知り合いと共謀して逃げ出す手はずを整えてある。」

 

 

「成功、するの?」

 

 

「分からないわ。何せ、味方はたった1人。

 私の計画が失敗するか、成功するかは私自身にも分からない。」

 

 

「話は聞かせてもらったわ。」

 

 

「「!?」」

 

 

突然聞えてきた声に輝夜と妹紅はとても驚いた。

しかし、周囲を見渡しても声の主の姿は見えない。

 

 

「こっちよ。」

 

 

また声が聞えた。

その方向を見ると、垣根の傍に悠然と立っている柿の樹の更に上。

足場になるモノが何もない虚空に不気味な裂け目が顔を覗かせていた。

そして、その裂け目に腰掛ける2つの人影。それは二人にとって非常に見覚えがあった。

 

 

「ゆかりに、ルーミア?」

 

 

「そうだよ~。」

 

 

まさかと思いつつ輝夜はそのシルエットの名前を呼ぶ。

すると、張り詰めた空気を緩ませるように間抜けた声が響く。

刹那、腰掛けていた裂け目から輝夜の護衛役――八雲 ゆかりとルーミアが降りてきた。

同時に虚空に展開された裂け目――スキマが消える。

 

 

「あれ?何で2人は固まってるの?」

 

 

「ルーミア、妖力を少しは抑えて。結界が悲鳴を上げてるの。」

 

 

ゆかりの指と指の間には一枚のお札が挟まれており、墨で描かれた文字が淡く発行している。

彼女に指摘されて、ルーミアは垂れ流しになっていた妖力を抑えこむ。

そして、妖力という重圧から解放された2人が口を開いた。

 

 

「もしかして・・・・・・2人とも妖怪だったの?」

 

 

「正式な自己紹介はまだだったね。」

 

 

輝夜の質問にゆかりは肯定の笑みを浮かべる。

 

 

「私はここより東方にある隠れ里、夢幻郷の管理者。

 あらゆるモノの境界を操る妖怪、八雲 ゆかり。」

 

 

「夢幻郷に住まう宵闇の妖怪、ルーミア。」

 

 

「まさか身近に妖怪が居るなんて思いもしなかったわ。

 貴方たちは人を食らうような感じもなかったし。」

 

 

「妖怪もいろいろ居るんだよ。本能に任せて人を食らう者とそうでない者が。

 この世は常識では測れないモノがたくさんあるんだもん。」

 

 

月と背景にゆかりは笑みを浮かべる。

本来、人が恐れるべき妖怪だというのにその笑みにはまったく恐怖がない。

 

 

「さて、蓬莱山 輝夜。貴方は月に帰りたい?地上(ここ)に残りたい?」

 

 

「|地上(ここ)に残りたいわよ!! 月に戻るなんて真っ平御免よ!!」

 

 

月で余程不自由な思いをしてきたのか、口調を荒げて言う。

その様子にルーミアとゆかりは笑みを浮かべた。

 

 

「それは依頼と受け取ってもいいのかな?」

 

 

「・・・・・・死ぬかもしれないわよ?」

 

 

「妖怪はそう簡単に死なないよ。」

 

 

「・・・・・・分かったわ。ゆかりとルーミアに依頼するわ。」

 

 

輝夜は立ち上がって、二人に命令(依頼)を下した。

 

 

「私の逃亡を手助けしなさい!!」

 

 

「「御意。」」




夏休み中なのに、筆が進まない・・・・・・。
最近、暑くて暑くてパソコンを起動するのも億劫になります。
筆が中々進まないのも、この暑さのせい。

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