東方転生伝 ~もう1人のスキマ妖怪~   作:玄武の使者

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第12話 「最後の手紙」

第12話「最後の手紙」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八雲 ゆかりSIDE

 

 

季節はちょうど夏に入った所。現代で言うと大体八月の初め。

車持神子の一件以来、かぐや姫の屋敷に彼の娘、藤原妹紅が遊びに来るようになった。

かぐや姫の屋敷に妹紅を背負ったゆかりが降り立った。

 

 

「よいしょっ、と」

 

 

妹紅を下ろし、そのまま縁側に座るゆかり。

妹紅とかぐや姫は友人関係であるが、二人の身分は違いすぎる。

なので、表門から堂々と入るのは憚れるのでゆかりが連れてきているのだ。

 

 

「姫様はいつも部屋に居るわ。」

 

 

「分かったわ。いつもありがとう。」

 

 

妹紅はゆかりにお礼を言うと、縁側を走ってかぐや姫の部屋に飛び込んだ。

一仕事終えたゆかりはふぅと一息つく。

 

 

《毎日毎日大変ですね、ご主人》

 

 

《本当にね。》

 

 

「まあ、その代わりに車持神子に色々貰ってるからね」

 

 

妹紅の迎えとかは無償でやってるわけじゃない。

車持神子からは植物の種とか布団とかを代金代わりに貰ってる。

それらは全部スキマ空間に保存してある。

 

 

「というより、貴女たちが口を開けるのも久しぶりね」

 

 

《口を開いてるわけじゃないですが・・・・・・》

 

 

《どちらかと言うとテレパシーに近いですね。》

 

 

焔月と蒼月はかぐや姫の護衛を引き受けて以来、口を開けるような機会がなかった。

大体かぐや姫に付きっ切りな上に部屋は隣同士。だから、ゆかりと会話する機会がほとんどなかった。

 

 

「それにしても、もう八月か・・・・・・」

 

 

竹取物語では、かぐや姫が月に帰ってしまうのは八月の十五夜。

数日前に帝がやって来たから、月への帰還は今年で間違いない。

一応、かぐや姫の着物には護符を忍ばせてあるけど・・・・・・無意味だろうね。

 

 

「ああ、此処に居ましたか。」

 

 

「何かありましたか?」

 

 

黄昏るゆかりに声を掛けたのは、かぐや姫の侍女の1人だ。

 

 

「実は、車持神子の使い者がこの手紙を八雲 ゆかりにと。」

 

 

そう言って次女はゆかりに手紙を渡した。

おもむろに手紙を広げて、その中身に目を通す。

 

 

「・・・・・・すいません。少し出てきます。」

 

 

「分かりました。」

 

 

ゆかりは立ち上がり、翁の屋敷を囲む垣根を飛び越えた。

通りに出たゆかりは急いで手紙を寄越した主、車持神子の屋敷に向かった。

 

 

 

・・・

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

車持神子の屋敷は平城京の東側にある。

朱雀大路を抜けて、右京の六条大路に差し掛かると車持神子の邸宅が見えてきた。

邸宅の門は何人も立ち入られないように固く閉ざされて、さらに2人の門番が立っている。

 

 

「止まれ!!」

 

 

「ここは車持神子の邸宅だ。残念ながら、通すことはできない。」

 

 

ゆかりの姿を見つけた門番は長槍を構える。

ゆかりは息を切らしながら手に持った手紙を門番に見せた。

すると、門番は驚いた表情を浮かべて長槍を下ろした。

 

 

「し、失礼しました!!八雲様!!」

 

 

「車持神子より話は聞いています。付いてきてください。」

 

 

門番の片割が閉ざされた門を開け、その門番に連れられてゆかり邸宅の中に入った。

 

車持神子の邸宅は見事なくらいの日本屋敷だ。

庭には大きな池があり、生えている草木も見事に切りそろえられている。

しかし、ゆかりはそんな庭園に見向きもせず神子の部屋に向かう。

 

 

「この部屋で車持神子がお待ちです。」

 

 

「ありがとう。」

 

 

ゆかりは連れてきてくれた門番にお礼を言うと、障子を開けて部屋の中に入った。

 

 

「車持神子、お体の調子はどうですか?」

 

 

「ああ・・・・・・貴殿か。」

 

 

広い寝室に敷かれた布団の上で仰向けに寝転がっていた車持神子が身体を起こす。

その動作は非常にゆっくりでどう見ても調子が悪いようにしか見えない。

 

 

「すいません。わざわざ来てもらったのに、このような姿で。」

 

 

「構いません。それよりも私に用事とは?」

 

 

「そうでしたね。八雲殿をお呼びしたいのは、少し頼みたいことがあったからです。」

 

 

そう言って、車持神子は枕元に置いてあった2通の手紙をゆかりに渡した。

あて先の名前はかぐや姫と藤原妹紅。この段階でゆかりは手紙の内容を察した。

 

 

「その手紙をかぐや様と妹紅に渡してください。」

 

 

「・・・・・・直接口で伝えた方が良いのでは?」

 

 

「私はもう屋敷から出ることもできません。

 妹紅もこの屋敷に来ることは嫌がるでしょう。」

 

 

そう言えば、妹紅は愛人の子供で本家ではあまり良い扱い受けてないんだよね。

でも、ファザコンの妹紅ならこのことを聞けば、飛んで来ると思うけどね。

 

 

「もう自分が長くないのは、私がよく分かってます。

 この老いぼれの最後の頼みを聞いてくださらぬか?」

 

 

「・・・・・・分かりました。」

 

 

「お願いします。それから、これは依頼料です」

 

 

車持神子が依頼料として渡したのは、刃渡り60cmほどの短刀だった。

その刀身は黒一色になっており、刃紋が波打っている。

それは硬度に特化した大脇差の黒刀だ。

 

 

「かなり立派な物のようですが?」

 

 

「はい。その脇差しは私が護身用に作らせた凄腕の刀鍛冶の物です。」

 

 

「そんな物を私のような者が貰っても良いのですか?」

 

 

「ええ。」

 

 

そこまで言った所で車持神子は激しく咳き込んでいた。

そして、口元を押さえた彼の手には真っ赤な血がべったりと付着していた。

その様子が彼の命がもう長くないことを物語っていた。

 

 

「八雲殿、依頼の件は任せました。」

 

 

「はい。」

 

 

そう言って車持神子は再び寝転び、目を閉じた。

ゆかりは彼の最後の頼みを達成するために屋敷を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翁の屋敷~

 

 

車持神子の邸宅を出たゆかりは翁の屋敷に戻ると、すぐにかぐや姫の部屋に直行した。

その部屋から妹紅とかぐや姫の話し声が聞こえる所を見ると、妹紅と入れ違いにならずに済んだようだ。

 

 

「かぐや様、入ってもよろしいでしょうか?」

 

 

「いいわよ~」

 

 

かぐや姫の許可を得てから襖を開ける。

 

 

「どうしたの?また帝からの手紙かしら?」

 

 

「いえ。車持神子からかぐや様と妹紅に宛てに手紙を預かって参りました。」

 

 

「お父様から!!」

 

 

ゆかりの言葉に妹紅が真っ先に飛びついた。

久しぶりの実の父親からの手紙が嬉しいのだろう。

しかし、手紙の内容におおよその見当がついているゆかりは少し顔を歪めた。

 

 

「ルーミア、貴女も席を外した方がいいわ。」

 

 

「?分かった。」

 

 

ゆかりはかぐや姫と妹紅に手紙を渡すとルーミアを連れて部屋を出た。

 

 

 

「ゆかり、あの手紙の内容知ってるの?」

 

 

「中身を見たわけじゃないけど、何となく内容は分かる。」

 

 

そう。間違いなくあの手紙は・・・・・・―――

 

 

 

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藤原妹紅SIDE

 

 

お父様直筆の手紙を貰うなんて、いつ以来だろ?

直接会うことはあっても、手紙なんて送ってることは少なかったし。

一体何が書いてあるんだろ♪

 

 

ゆかりから手紙を受け取った妹紅は嬉しそうに手紙を開いた。

そして、手紙の内容を見た妹紅はとんでもない絶望を押し付けられた。

 

 

―――妹紅へ。

 

 

   この手紙を読んでいる頃、私はもうこの世には居ないだろう。

 

 

   本当なら、口で直接言うべきなんだろうが、こんな形になってしまった。

 

 

   正直に言うと、私は父親らしいことは何一つしてやれなかった。

 

 

   その上、お前には不自由な思いをさせてばかりだ。

 

 

   本当にすまなかった。

 

 

   だが、これだけは言える。妹紅は私の大事な娘だ。

 

 

   こんな私を父と呼んでくれて嬉しかったよ。

 

 

   最後になるが・・・これからは自分の好きなように行動しなさい。

 

 

   家に縛られて一生を歩むも良し、家を出て見聞を広めるもの良し。

 

 

   ただ後悔のないように行動しなさい。

 

 

   では、また来世に。              藤原不比等より―――

 

 

 

手紙に目を通した妹紅の目尻からポロポロと大粒の涙が零れ落ちる。

大好きな父の死は妹紅に大き過ぎる衝撃を与えた。

 

 

「妹紅・・・・・・・」

 

 

「う・・・ううぅ・・・・かぐ、や」

 

 

もう涙が抑えられない。お父様に迷惑を掛けないために泣かないって決めたのに・・・。

 

 

 

「妹紅、今は思いっきり泣いてもいいわ。

 そのほうがすっきりする筈よ」

 

 

かぐや姫は妹紅に近寄ると、彼女を優しく抱きしめた。

その瞬間、妹紅は思いっきり泣き出した。

そんな妹紅をかぐや姫は彼女が泣き止むまで撫でてあげた。




展開が早過ぎる? いつものことです。
あんまり展開を遅くするをどうしてもグダグダになるんですよ。
原作の突入したら、多少は展開も遅くなりますが。

というか、原作入るまでにどれくらいかかるんだろうか?

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