第5話「かぐや姫の本性」
八雲 ゆかりSIDE
竹取の翁からかぐや姫の護衛を頼まれた八雲 ゆかりとルーミア。
2人は屋敷に妖怪を寄せ付けないための結界を構築するために行動を開始した。
「まったく・・・符も回収して行ってよね。次に結界を展開するのに苦労するから。」
ゆかりはぶつぶつと文句を言いながら屋敷の敷地内に貼られている結界の符――ゆかりに言わせれば、中途半端な結界――を剥がしていく。
この符が邪魔をしてゆかり謹製の結界が張れないのだ。
高位の術者なら、重ねて決壊を張ることもできるが、ゆかりはそんな器用なことはできない。
「これで二枚目。」
剥がした符の代わりに自家製の符を貼り付けるゆかり。
その刹那、ルーミアに渡しておいた思念通話用の護符を通してルーミアの声が脳内に直接響き渡る。
『ゆかり、こっちは貼り終わったよ?』
『ん、こっちももうすぐ貼り終わる。ルーミア、前の符は剥がしておいた?』
『剥がさないとダメなの?』
剥がしてないのね。
まあ、ルーミアには式神ぐらいしか教えてないし、当然か。
『ちょっと残ってたりすると結界張るのに支障をきたすから剥がしておいて。』
『わかった〜。』
これが将来“バカルテット”って呼ばれるルーミアなのかな?
いや、博麗の巫女が施した封印がルーミアの脳の能力の一部を封印しちゃったと考えた方が自然か。
まあ、私が居る以上封印なんてさせないけどね♪原作なんて知ったこっちゃない。私が居る時点で狂ってるんだし。
たとえ誰が相手でも私の親友(かぞく)に手を出すなら容赦なく滅する。
「と、脱線してる場合じゃないや。」
ゆかりは自分の仕事を思い出すと結界符を張る場所を探して庭を歩き出した。
「―――っ!!――っ!!」
「?」
何かを蹴り飛ばす音とむやみやたらに愚痴を呟いているような声が聞こえてきた。
少し気になったものの作業を続けようと角を曲がったゆかりが見たモノは・・・・・・
「ああもう!!何で私があんな老人の相手をしなきゃなんないのよ!!」
随分ご立腹な様子のかぐや姫が庭に生えた太い柿の樹にヤクザキックをかましている光景だった。
季節はちょうど秋真っ盛り。かぐや姫が柿の樹を蹴っているせいでせっかく実った柿が地面に落ちてしまっている。
「つか、もう少し自分年齢を考えろ!!あんたたち、一体何年生きてんのよ!!」
「・・・・・・」
とんでもない光景を目撃したゆかりは驚きのあまり開いた口が塞がらなかった。
「絶対に持ってこれないような品ばっかりお題に出したからもう大丈夫・・・・・・」
その時、ゆかりとかぐや姫の視線がガチリとぶつかった。
「「・・・・・・」」
双方とも顔をひきつらせたまま静かな静寂が流れる。
「・・・・・・見た?」
そう訊ねてくるかぐや姫にゆかりは苦笑いを返すことしかできなかった。
ルーミアSIDE
「ふぅ。やっと剥がし終わった。」
ルーミアは前に雇われた陰陽師が残して行った結界符を剥がし終えて一息ついていた。
剥がした結界符はすべて破り捨てた。
「でも、腐っても陰陽師だね。妖怪が触ろうとするとちゃんと反応するようになってる」
まあ、私にはまったくの無意味だけど。私はゆかりの能力“境界を操る程度の能力”で妖力と霊力の境界を曖昧になってる。
だから、陰陽師が御札なんてまったく効かないし、普通の人間のようにしか思われない。
あと、妖怪にも同類だって気付かれない。
「ゆかりの方もそろそろ終わったかな?」
ルーミアはキョロキョロと誰も見ていないことを確認すると空を飛び、反対側の庭に移動した。
「しくしくしく・・・・・・」
「・・・・・・どういう状況?」
ルーミアが見たのは、布団にくるまってすすり泣くかぐや姫とそれを慰めているゆかりの姿であった。
「お願いだから私を殺してぇぇぇ・・・・・」
「落ち着いてください、かぐや姫」
「?」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
「落ち着きましたか?」
「ええ。」
ようやく錯乱状態から落ち着いたかぐや姫は思いっきり溜め息を吐いた。
「ああもう!!過去に戻って自分を殴り飛ばしたい!!」
「街の人の噂と随分違いような・・・・・・」
私が聞いた噂は“かぐや姫はたいそう美しくて、おしとやかでいらっしゃる”って内容だった筈。
でも、目の前に居るかぐや姫は美しいけど、おしとやかさの欠片もない。
私、騙された?
「いつものは猫かぶりよ。こっちの方が本来の性格なの。
何でか知らないけど、“おしとやかな姫”っていう噂が勝手広まったせいで猫を被るしかないの。
まったく何処のどいつよ!?変な噂を振りまいた張本人は!!」
「・・・・・・噂を宛にするもんじゃないね。」
「そうだね。」
「そう言えば、貴女たちの名前聞いてなかったわね。
ちょうど良い機会だし教えてくれないかしら?」
「そうですね。私は八雲 ゆかり。
平城京の外れで“何でも屋”を営みしがない陰陽師です。
彼女はルーミア。私の大切な親友(かぞく)であり、私の部下です。」
「ゆかりにルーミア、ね。」
「あっ、ゆかり。結界の準備はできてるよ?」
「おっと。かぐや様を慰めるのに精一杯で忘れてました。」
ゆかりは両手で印を組み、屋敷の庭の各地点に貼り付けた結界符を起動させる。
以前の陰陽師が張っていたような柔な結界ではなく、上位妖怪が来てもそう簡単には突破できない強固な結界。
「これで上位の妖怪もそうそう入って来れないので安心してください。」
「本当に大丈夫なの?」
今までの陰陽師がろくでもなかったのか、ゆかりに疑惑の視線を向けるかぐや姫。
「そればかりは信じていただくしかありません。
それに既に妖怪が侵入している以上過信はできませんが。」
「今聞き捨てならないことを聞いたのだけど。」
「気にしないでください。私たちが居る限りかぐや様には指一本触れさせません。」
かぐや姫に向かってゆかりはニコッと微笑む。
「ありがと。」
『ゆかり。』
『ええ、気付いてる』
言い忘れてたけど、私とゆかりはどれだけ離れてても会話できる思念通話用の符を持ってる。
ゆかりが言うには、“覚(さとり)”が出てこない限り私たちの会話が外部に聞こえることはないらしい。
何時も思うけど、ゆかりって妖怪だよね?なんで陰陽師より札の扱い方とか上手なんだろ?
「こそこそ隠れないで出てきたらどう?」
「ちっ。気付いてやがったのか。」
3人の前に現れたのは猿のような姿でありながら鬼のような二本の角を生やした猿鬼と呼ばれる妖怪だ。
「上手く隠してるつもりだったのかもしれないけど、私たちには丸わかりだよ?」
実を言うと私たちはこの猿鬼とは初対面じゃない。
ある貴族から妖怪の依頼された時、その妖怪を纏めてた妖怪。まあ、逃がしちゃったからこうやって相対してるわけで。
「かぐや様を喰らって私たちに復讐しようとしてたみたいだけど残念だったわね。」
「こうなったら、お前らを倒してかぐや姫を喰らってやる!!」
『ルーミア、貴女はかぐや姫を守って。』
『わかった!!』
ルーミアはかぐや姫の横に移動し、ゆかりは背中に携えていた焔月を抜く。
いつもなら、右手に焔月を持ち、左手に蒼月を握る。
しかし、今回は焔月だけを抜き、両手で構える。
八雲ゆかりSIDE
「さあ、私と遊びましょうか?」
「ほざけぇ!!」
ゆかりに挑発された猿鬼は何の考えもなしに突っ込んでいく。
何の意図もなく振るわれる2本の腕をゆかりは飄々と避ける。
「ふっ!!」
下段から上に振り抜くように焔月を一閃。
刀身が長い焔月は猿鬼の胴体を切り裂いた。しかし、致命傷には至らない。
「ぐおぉぉぉぉっ!!」
「八雲式剣舞、仇の舞 桜花連舞・十二連」
十二の剣閃が縦横無尽に煌き、猿鬼の身体を切り刻んでいく。
最後の十二回目の剣閃が煌いた直後、茜色の刀身に高熱の炎が纏わりつく。
「そして、トドメの・・・・・・」
――― 轟焔滅殺斬!! ―――
かぐや姫の屋敷に侵入していた猿鬼は焔月の炎に飲み込まれて消滅した。
「まったく・・・今日1日で2回も妖怪に襲われるなんて」
ゆかりはそんなことをぼやきつつ、焔月を鞘に納めた。
「結構強そうな妖怪だったのに・・・・・・」
「一度戦ってるからね~。性格とか攻撃手段とか筒抜けだし。」
かぐや姫は目の前に居る退魔師の実力が本物であることを悟った。