第9話 「護衛依頼」
第9話「護衛依頼」
八雲 ゆかりside
ゆかりとルーミアたちが遥か東方にある夢幻郷を離れて数十年の月日が流れた。
夢幻郷を出た彼女たちは当初の目的を果たすために、奈良の都から離れた場所で「何でも屋」を営んでいた。
ゆかりたちが営む何でも屋をちょうど1人の御客が訪れていた。
貴族らしい華美な着物を身を包んだ女性。店の入り口には従者が控えている。
「熱を下げる薬です。すぐには効きませんが、二日で熱が引く筈です。」
「ありがとうございます!!あの・・・御代の方は・・・・・」
「ご子息の病気が治ってからで結構です。早く飲ませてあげてください。」
「は、はい!!」
女性は感謝極まりないという表情を浮かべてお店から出ていった。
店の玄関に止めてあった牛車に飛び乗って、そのまま都の方に帰っていった。
「ふ〜・・・また熱病の薬を調合しないと。」
夢幻郷の管理をシアンに任せてから数十年。
最初こそ、ほとんど客が来なかったこの店も随分人が来るようになったね。
まあ、「裏」の依頼も舞い込んで来ることが多くなったけど。
「ゆかり〜、依頼終わったよ。」
「ご苦労様、ルーミア。お腹は膨れた?」
「大満足♪」
玄関から入ってきたルーミアはそう言いながらお腹を撫でる。
「まったく・・・人間も欲深いね。妖怪や妖精の方がずっとマシに思えるよ」
ゆかりは背もたれに身体を預けながら呟く。
ゆかりの何でも屋に舞い込んで来る依頼は大きく分けて二種類。
今は亡き神様からの贈り物、植物大図鑑を参考にしながら製作した薬の販売。
そして、もう1つが暗殺や妖怪退治である。
特に権力を狙う貴族・豪族から暗殺の依頼を受け取ることが多い。
ただし、ゆかりたちも無闇やたらに殺すようなことはしない。
「お風呂湧いてるから入って来なさい。」
「は〜い」
ルーミアは靴を脱いでお店の奥へと入って行った。
拠点の裏手には小川が流れており、そこから生活用水をくみ上げているのだ。
「さて、今の内に熱病の薬を作りますか。」
神様がくれた植物大図鑑。前の世界でいう植物図鑑とはまったく違った。
絵とか毒性の有無が書いてあるのは普通なんだけど、毒の症状とか特定の薬草と調合した場合の効能とか色々書いてある。
この時代って薬売りとか少ないし、薬の値段は高い。その点、私たちは格安で販売してるから結構繁盛してる。
「えーと・・・これとこれと。」
薬草用の引き出しから何種類かの薬草を取り出してすり鉢の中に投入する。
そして、すり棒を使って薬を調合する。
「はい、完成。」
作業時間僅か5分。
「あの、すいません」
「何?」
タイミングを見計らうように1人の女性が現れた。
着ている衣服は庶民の服装ではないが、貴族の服装でもない。おそらく何処かの貴族の侍女であろう。
「竹取の翁の代理で参りました。」
ようやくか・・・・・・。5人の貴公子が求婚したという話を聞いたから、ちょうど五つの無理難題を吹っ掛けられてる頃かな?
「要件は?」
「かぐや姫の護衛を貴女に依頼したいそうです。詳しいことは翁様よりお聞きください。
引き受けてくださるなら、明朝酉の刻に屋敷に参るようにとのことです。」
それだけ言い残すと竹取の翁の使い名乗る女性は立ち去った。
「立て札でも立てておこうかな?あと結界も張っておかないと。」
いくら都に建ててあると言ってもこの時代に“治安”の二文字なんてない。
別に取られて困るようなモノはないけど、私が作った薬を悪用でもされたら嫌だからね。
ゆかりはスキマを開いて必要なモノ、貴重なモノを放り込んでいく。
「ゆかり様、食事の用意が・・・・・・」
「ご苦労様、焔月。ちょっと長期間の依頼が入っちゃったから、しばらく刀剣形態でいてもらうことになるけど大丈夫?」
「私と蒼月はゆかり様の剣です。我らはゆかり様の命に従うのみ。」
「ごめんね。」
明朝酉の刻。(大体朝9時)
ゆかり、ルーミアは竹取の翁の屋敷に出向いていた。
翁の屋敷の前はかの有名なかぐや姫を一目でも見てみたいという男たちで一杯だった。
翁の屋敷の近くには五つの牛車が止まっており、高貴な身分の人物がかぐや姫と面会していることを物語っていた。
かぐや姫の無理難題はまだ行われてなかったんだ〜。
妹紅と輝夜の関係修復は半ば諦めてたんだけど、運がいいね。
「ゆかり、どうやって入るの?」
「そうだねぇ・・・・・・まあ、翁から招待を受けてるって言えば通してくれるでしょ。」
取り敢えず、門の前に群がってる男どもが邪魔だから・・・
「少し退いてくれないかしら?」
威圧感を混ぜて言葉を発するとまるでモーセの十戒のように人だかりが左右に割れた。
「八雲 ゆかりよ。竹取の翁に会わせて貰えないかしら?」
「お待ちしておりました、八雲 ゆかり様。では、私の後についてきてください。」
門番の片割れに案内されてゆかりとルーミアは翁の屋敷に通された。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
「こちらで少々お待ちください。」
「ありがとう」
翁は立て込んでいるらしくゆかりとルーミアは待合室に通された。
畳張りで井草の香りが充満しているその部屋には見事なくらい何もなかった。
「・・・・・・どう思う?」
「私たちのように妖怪が人に紛れてると思う。 妖気が濃すぎる。」
「取り敢えずは紛れ込んでる妖怪を退治しないといけないか。」
ゆかりとルーミアが今後のプランについて少し相談していると待合室の扉が開かれて年老いた男性が入ってきた。
「お初にお目にかかります。私が竹取の翁でございます。」
「八雲 ゆかりです。」
「ルーミアです。」
「使いの者から聞き及んでいると思いますが、貴女方に依頼したいのはかぐや姫の護衛でございます。
かぐや姫は何分妖怪に狙われ易いものでして・・・・・」
「他の陰陽師に頼むという手段はなかったのですか?」
「腕利きとされる陰陽師も雇いました。しかし、どの方も大した腕は持ち合わせてなく・・・・・・」
納得。この屋敷を案内されてる時に何枚も御札が貼られてたけど、どれも術式の構築が雑。
あんな雑な結界じゃあ、少し力の強い下位程度の妖怪ですら突破させる。
やっぱり陰陽術が発展するのは平安時代辺りになるのか。
「正直申しますと貴女方が最後の希望なのです。」
「少し大袈裟なような気もしますが、かぐや姫には一歩も近付けさせないことを御約束しましょう。」
「おお!!何とも心強い御言葉で!!」
「報酬に関しては食事と住まいの提供で十分です。」
そう言いながら、ゆかりは火の御札を翁の背後に向かって投げた。
「ぎゃぁああああっ!!」
「ルーミア!!」
ゆかりが呼ぶとルーミアは翁の背後に居た猿のような妖怪を切り裂いた。
「屋敷の人間に気付かれず此処まで来たのは褒めてあげるけど、運が無かったね。」
「いつの間に妖怪が・・・・・・」
「大方、屋敷の人間にでも化けていたのでしょう。
人に化けるくらいなら、知能を持つ妖怪は全員できます。」
妖力の量から見て中位の下と言ったところかな?
「あと翁老。私を頼って来る人が居るかもしれません。その方は通してあげて貰えないでしょうか?」
「わかりました。門番にそのように申し付けておきましょう。
さあ、貴女方の部屋はかぐや姫の隣となっております。私が案内しましょう。」
「ありがとうございます、翁老。」
はてさて、この世界のかぐや姫・・・蓬莱山 輝夜はどんな人物なのかな?
何せ、ルーミアのことと言い、此処は私が知ってる世界と結構離れてるみたいだからね。
「あら、おじいさま。そちら方々は?」
「おお、かぐや。ちょうどお前に会わせようと思ってた所じゃ。
お前の新しい護衛じゃ。さっきも屋敷に忍び込んでた妖怪を退治なさった。腕は保証しよう。」
「まあ、そんなのだと思いました。でも、今度はまともな護衛で良かったわ。」
「そう言えば、かぐや。5人の貴公子はどうなさった?」
「結婚の条件を提示したらみな帰って行きました。」
結婚の条件はあの5つの無理難題で決まりだね。
確か、全部輝夜が持ってるんだっけ?覚えてないけど。
「此処が貴女方の寝室になります。」
「ありがとうございます、翁老。私たちは少しやることがあるので屋敷を散策しても構いませんか?」
「もちろんですとも。」
ゆかりとルーミアは翁、かぐや姫と別れて屋敷の中を散策し始めた。
「さて、取り敢えず新たに妖怪が入って来ないように結界を張りましょうか。」
そう言ってゆかりはルーミアに三枚の結界符を手渡した。
「ルーミアは西側をお願い。私は東側をやるから。
どうすればいいかわかるね?」
「もちろん♪」
ゆかりとルーミアは二手に分かれて結界構築のために動き出した。
キングクリムゾンしました(笑)