東方転生伝 ~もう1人のスキマ妖怪~   作:玄武の使者

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第8話 「奈良の都へ」

第8話 「奈良の都へ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八雲ゆかりSIDE

 

 

物見 黒蘭という燕の妖怪がゆかりの縄張りに居着くようになってから、季節が何度も巡った。

何時からか、ゆかりの縄張りは“夢幻郷”と呼ばれるようになっていた。

その名称の由来は定かではない。しかし、いつの間にか“夢幻郷”という呼び名が定着していた。

 

“夢幻郷”の先住民であるゆかりたちや妖精は相も変わらず悠々自適な日々を送っていた。

 

 

「シアン、私たちはしばらく夢幻郷を離れるよ。」

 

 

「急にどうしたんですか?」

 

 

ゆかりの突然の宣言にシアンディームは驚いていた。

ルーミアや焔月、蒼月は事前に聞かされていたのか、何も言わなかった。

 

 

「ちょっと人里の若き村長からお願いを引き受けたの。」

 

 

「お願い・・・ですか?」

 

 

「うん。内容が内容だけにいつまで掛かる分からない。」

 

 

ゆかりが人里の村長から引き受けたのは、夢幻郷には無い作物の種を入手してきて欲しいというモノだった。

村長も引き受けてくれるとは思っていなかったが、ゆかりにはちょうど都方面に用事があった。だから、村長の依頼を快く引き受けたのだ。

その旨をシアンディームに説明すると、彼女も納得した。

 

 

「ですが、都に一体何の用が・・・・・・」

 

 

「都でしか手に入らない貴重なモノを手に入れに行くの。」

 

 

まあ、本当の目的は平城京に舞い降りて来る人物なんだけどねぇ。

彼の有名な『竹取物語』の主役、かぐや姫。この世界での名前は蓬来山 輝夜。不老不死を得る秘薬を飲んだために地上に流されることになる月の姫。

私が都に行く真の目的はかぐや姫との接触と彼女によって運命を狂わされるになる少女の救済。

まあ、何処まで私が前世で手に入れた知識の通りに流れるのかは不確定だけど、行って損はない筈。

 

 

「私が留守の間、この夢幻郷のことは任せたよ?」

 

 

「分かりました。」

 

 

「それから・・・黒蘭!! 居るんでしょ!?」

 

 

ゆかりは声を張り上げると、一本の樹に付いた木の葉が揺れた。

 

 

「何の用じゃ?」

 

 

顔を見せることはなく、声だけが聞こえてくる。

 

 

「私はしばらく夢幻郷を留守にするの。その間、人里の守りは任せるわ。」

 

 

「それを同じ妖怪である儂に頼むのは筋違いだと思わんのか?」

 

 

「別に思わないよ。それとも、大好きな子供たちが無惨に食い殺されてもいいの?」

 

 

ゆかりはニヤニヤと笑みを浮かべながら言う。

 

 

「相変わらず喰えぬ奴じゃ。」

 

 

その言葉がゆかりの耳に届くと同時に、バサッと羽音が少しだけ聞こえた。

 

黒蘭とゆかりは当然ながらそれほど仲が良くない。一応、ゆかりと夢幻郷の管理者として認めてはいるが、妖精たちのように素直に言うことを聞いてくれる訳ではない。

ただし、人里に関する事項の場合は素直に言うことを聞いてくれるのだ。

また、人里の警備に関してはゆかりが命令しなくても率先して行ってくれる。

 

 

「これで人里の方は大丈夫だと思うけど・・・万が一の場合は妖精を指揮して守ってね?」

 

 

「分かりました。」

 

 

ゆかりのお願いにシアンディームはしっかりと頷いた。

 

 

「じゃあ、行こうか。」

 

 

そう言ってゆかりはスキマを広げた。

ルーミア、焔月、蒼月が順番にスキマを潜って、最後にゆかりがスキマを潜った。

 

 

「どうか、お気をつけて。」

 

 

閉じていくスキマを見つめながらシアンディームは願った。

 

 

・・・

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

シアンディームSIDE

 

~夢幻郷の何処か~

 

 

ゆかりが夢幻郷を旅立ってから数日後。

夢幻郷は相変わらず平和な時間だけが流れていた。

 

 

 

「せやぁ!!」

 

 

水を圧縮させて作り上げた刃が狼姿の下級妖怪を切り裂く。

切断力抜群の水の刃は下級妖怪の身体を真っ二つに切り裂いた。

絶命した妖怪の身体は跡形もなく消滅した。

 

 

「まったく・・・ゆかりさんが居なくなってから妖怪の襲撃が増えたわね」

 

 

シアンディームはため息を漏らした。

夢幻郷の管理者である八雲 ゆかりが居なくなったことでこれ見よがしに大勢の妖怪が襲撃してくることが多くなった。

その影響は人里にも出ているが、人里は妖精や黒蘭たちが守ってるので目だった被害は出ていない。

 

 

「ゆかりさんという存在がどれだけ影響力を持ってるのかよく分かるわ~」

 

 

なお、ゆかりの仕事であった龍脈の制御という大事な作業もシアンディームが引き継いでいる。

 

 

「さて、ちょっと汗もかいちゃったし、湖で水浴びでもしようかな?」

 

 

シアンディームは能力を解除すると湖に向かって歩き出した。

そして、いつもの湖にたどり着くと数人の里人と妖精たちが集まっていた。

 

 

「何かあったんですか?」

 

 

「あっ、シアンさん!!実は相談がありましてね」

 

 

「?」

 

 

 

 

 

妖精説明中・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「それは良い考えね。」

 

 

「でしょでしょ♪」

 

 

里人と妖精たちが考えた事をシアンディームは許可した。

ゆかりが不在の今はシアンディームが夢幻郷のトップである。

そのトップからお許しが出たので、里人や妖精たちは早速作業に取り掛かった。




今回で第1章がようやく終了。もう少し短くなる予定だったんだけどね・・・・・・。
第1章は全部一から書きました。

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