風を切って飛ぶクレナイゴウカミの背で、エースとタマゾーはその『音』を、確かに聞いた。
「まにあわなかったたま……!!」
大気を震わせた『音』に、そしてその『目』に映った、星をめぐる万物の根源たる力、『ドロップ』が光の渦と共に、噴き出す光景に、タマゾーが声を漏らす。
「まずい、まだ避難し切れてない人たちと、シンクさんとエクレールさんが……え!?」
眼下の状況を見下ろして、『危ない』と続けようとしたエースが言葉を途切れさせて、絶句した。
その理由は、ドロップが渦巻いてあふれる、光の渦の中から咆哮を上げて、現れた姿があったからだ。
それは、重岩龍・ガルムットと、モリガノン3体。
「あれは、……ドロップ・インパクトのえいきょうをうけてるたま……」
そしてその目は、到底正気を保っている状態とは、言えなかった。
「!! シンクさん、エクレールさん、にげるたま―――!!」
ガルムットとモリガノンが、一般兵を逃がしているシンクとエクレールへと襲い掛かろうとしている事に気づき、叫んで飛び出すタマゾーが光に包まれる。
「皆、お願い!! ―――龍喚<リリース>!!」
エースはD-ギアを掲げ、そう叫んだ。
光に包まれたタマゾーの後をついてD-ギアから、弓から放たれた矢のように、光が放たれ、―――轟音と共に、土煙が大地を覆った。
× × ×
「けほっ、……な、何が起こったんだ……。こほっ……」
タマゾーとエースの叫び声が聞こえ、突如出現した『謎のカラフルな光の球体』があふれる『光の渦』から現れた、謎のドラゴンたちが襲い掛かってこようとした瞬間、シンクとエクレールの間に割って入るように、光が大地を貫いたのまでは見えたが、その後に発生した土煙のせいで、何も見えない。
その後すぐに幸いにも、土煙が消えてくれた。
しかし、土煙が消えたその後には、奇妙な格好をして槍を持つタマゾーと、2体のドラゴンと、剣を構える下半身が蛇の女性がそこに居た。
「ま、またドラゴン……と、よく分からない……人? と、タマゾーくん?!」
「な、なんだこいつらは……?!」
シンクが驚き、エクレールが身構えると、その前にどすん、と重い音を立てて、一番最初に見た赤いドラゴンが降り立ち、その背に立っていたのは。
「え、……エースくん?!」
険しい顔をして、光の渦から現れたドラゴンたちを見る、エースだった。
そしてエースは赤いドラゴンの背から降り、こちらに駆け寄ってくる。
「シンクさん、エクレールさん、ここはドロップ・インパクトの近くで、とても危険なので、避難してください。あとは、俺たちが引き受けます」
「貴様、あの光の渦や光の球体、それにあのドラゴンたちが何か、知ってるのか!?」
エクレールが、エースの言葉に噛みつくようにそう言うが。
「今はそれに答えてる暇はありません!! 俺がモンスターたちを抑えますから、先に逃げてください!!」
「そんな訳にはいかない!! まだ、一般兵の避難が完了していない!! それに、子供のお前一人に任せて逃げられるか!!」
エクレールがそう言うと、シンクが頷き。
「エクレールの言うとおりだ!! 避難も完了してないし、それに第一逃げるならエースくんもだよ!!」
そう言ったシンクの言葉に、エースは首を横に振る。
「俺は新米で、まだまだ未熟だけど……龍喚士です。逃げません」
決意のこもったエースのその言葉に、シンクとエクレールは言葉を失うが、すぐに顔を見合わせて、頷きあう。
「リュウカンシ……が何かは、知らないけど……エースくんが残るって言うなら、僕も残る!!」
「私も残るぞ。お前や勇者が逃げない以上、一般兵たちを避難させたとしても、いつまで経っても避難が完了したとは言えない」
「えぇ?!」
シンクとエクレールの言葉に、エースはぎょっとする。
「ドロップ・インパクトの影響を受けて、あのモンスターたちは狂暴化してるんですよ!? それにそれに……」
「エース、はやくきめるたま!!」
「~っ…………!! ああもう!!」
エースが言葉を言い募るより早く、謎のドラゴンたちを抑えていたタマゾーの言葉に、しばし葛藤した後、叫んで。
「あのモンスターたちは、盟友<モンスター>の皆と俺で何とかします。だから、兵士さんたちの避難の続きをまかせてもいいですか?」
「分かったよ!!」
「この状況を、どうにかできるんだな?」
シンクが笑顔で頷き、エクレールがそう言うと。
「どうにかします!! だって俺には、頼もしい盟友<モンスター>たちがいますから!! 力を貸して、皆!!」
エースの言葉に、タマゾーを筆頭にドラゴンたちと下半身が蛇の女性が、一旦謎のドラゴンたちから距離を取り、それぞれ戦闘の構えを取る。
そしてエースは、先ほどからドラゴンを呼び出すときに使っている奇妙な機械を構え、メダルのようなものを取り出し、それを指でピン、と上に跳ね上げ、キャッチして、奇妙な機械へと、セットした。
「クロスオン、大灼熱のソウルアーマー!!」
すると、着ていた服が一瞬で、胸や肩に鎧のついた服へ変わり、手足に鎧が装備され、背中に羽根のようなものが出現し、最後にドラゴンを模したようなヘルメットが、顔を覆い隠すように装備された。
「リーダースキル、紅蓮の轟焦尾!!」
ばっ、とエースが片手を翳すと、赤い光が地面を伝い、タマゾー、ドラゴンたち、下半身が蛇の女性へ伝わる。
「行くよ、皆!!」
そう言ったエースが何もない空に向けて両手を翳し、動かすと、空を荒れ狂う謎のカラフルな光の球体の内、赤い球体がエースの方に、集まっていく。
それがどういう事なのか、よくは分からなかったが、シンクとエクレールは頷きあって一般兵たちの避難を再開した。
しかし、光の渦から現れたドラゴンたちの中で、一際大きな、頭と背中に巨大な角を持つドラゴンが吼えると、一般兵に襲いかかろうとしたので、それを守るように、シンクとエクレールが立ち塞がる。
「させない!! 紅蓮華の女傑・エキドナ、『威嚇』!!」
エースがそう言って、赤い球体を3つ揃えるとそれが光となって、下半身が蛇の女性の中へ消える。
そして、それを待っていました、と言わんばかりに、下半身が蛇の女性は微笑むと、剣を高く掲げ、吼えた。
その瞬間攻撃しようとしていた、頭と背中に巨大な角を持つドラゴンが、攻撃をやめ、怯んだ。
「行くよ!! 大灼熱・クレナイゴウカミ、『インフェルノブラスト』!!」
再びエースは、赤い球体を3つ集めて揃える。
光となったそれは、最初に見た赤いドラゴンの中へ消え、今度は最初に見た赤いドラゴンの口から灼熱の炎が噴き出し、一際大きなドラゴンの側に居た、3体のドラゴンたちを消し去った。
そして、エースの周りにあった謎のカラフルな光の球体が5つ、赤い球体へと変わる。
「これなら、威力が上がる!!」
エースは今度は赤い球体を3つでなく、5つ揃えて、光へと変換する。
するとそれは、6つに分かれて、エース、タマゾー、ドラゴンたち、下半身が蛇の女性の中へ消える。
ドラゴンたちは灼熱の炎を浴びせて、下半身が蛇の女性の方へと吹き飛ばし、そこに待ち構えていた下半身が蛇の女性が剣で、ドラゴンを空高くへ跳ね上げると―――そこには、槍を構えるタマゾーがいた。
「エース、きめるたまよっ!!」
そう言って、槍でドラゴンを叩き落とし。
「これで、」
ドラゴンが落ちる先に居た、右手に焔を纏って放たれたエースの一撃が。
「どうだ!!」
ドゴォン、と轟音を伴って、最後に残っていたドラゴンを消し去った。