エクレールが服の代わりに、布を身体に巻きつけたところで、ようやくタマゾーガードは外れた。
歯車の足場が動く中、ナイフを振るうエクレールと、軽やかにエクレールのナイフを避けるシンク。
全員が苦笑しつつ見ていたそんな中、タマゾーだけが突如、その顔を青ざめさせていた。
「エースエース!!」
「どうしたの、タマゾー?」
慌てるタマゾーを、エースは見上げる。
「このかんかく、まずいたま!! ドロップ・インパクトがおこるたま!!」
「……」
一瞬、シンクとエクレールの喧嘩の映像が写る、空中のスクリーンとそこから聞こえる声をバックに、エースが凍って。
「はぁっ?!」
我に返って、叫んだ。
「え、この世界、良くは知らないけど……え? 嘘? どこで起きるの!?」
「あそこでおきるたま!!」
タマゾーが示したのは、今、シンクたちのいる、動く歯車が足場のエリア。
「どうかしたでありますか?」
リコッタが突如慌てだしたエースとタマゾーに、首を傾げる。
「ミルヒオーレ姫様、この戦中断して、今シンクさんたちが居る場所の近くに居る人たち、避難させられますか!?」
「な、何か、起こるんですか?」
しかしリコッタの問いを流すほど、焦ってそう言い、シンクたちが今居る場所を示す、エースの慌てっぷりに呑まれつつ、ミルヒオーレは何とか問い返す。
「ドロップ・インパクトが起こります!!」
「ドロップ、インパクト……でありますか?」
リコッタは不思議そうに目を瞬かせる。
「今は説明している時間がありません!! 避難が遅れれば、下手をすれば命にかかわります!! 後から説明をちゃんとしますので、今は何も聞かずに、避難指示をしてください。お願いします!!」
「……分かりました」
エースの必死さに、ミルヒオーレは頷いて、マイクを手に取る。
『皆さん!! すみませんが、手を止めてください!!』
ミルヒオーレがマイクを通じて声を張り上げると、皆がその手を止めた。
『今は戦の途中ですが、緊急事態が起こるらしいので、戦中断を、主催者として宣言します!!』
その言葉に、困惑とざわめきが、フィリアンノレイクフィールド中に広がっていく。
『緊急事態が起こる場所は、現在勇者様と親衛隊長のエクレールの居るエリアです。説明はこの後、必ずしますから、今は急いでそこから避難をしてください!! フランボワーズさん、案内をお願いします!!』
『は、はい!!』
ミルヒオーレの言葉に、実況席のフランボワーズが頷いた。
「これでいいですか?」
「ありがとうございます、ミルヒオーレ姫様達!! 後は、俺達が被害を食い止めに行きますから」
その言葉に、ミルヒオーレとリコッタは目を見開く。
「危険なことが起きるなら、一緒に避難するであります!!」
「そうです!! 危険なら……」
リコッタとミルヒオーレの言葉に、エースは首を横に振る。
「大丈夫です。俺は龍喚士ですから!!」
そう言うなり、ばっ、と貴賓席のテラスから、エースとタマゾーは下へと飛び降りた。
『えぇええ?!』
ミルヒオーレとリコッタが叫び声をあげて下を覗き込むと、ばさり、と羽ばたきの音が聞こえ、ぶわり、と強い風がミルヒオーレとリコッタの頬を叩き、とっさに目を閉じる。
『オォオオン!!』
咆哮が聞こえ、風がやんで目を開けると、背中にエースとタマゾーを乗せた、赤いドラゴンがシンクとエクレールの居るエリアに飛んでいくのが見えた。
それは、祭壇でミルヒオーレが見た、赤いドラゴンだった。
「ど、ドラゴンであります!! そういえばさっきも、ハーランの隣に白と緑のドラゴンがいたでありますが、もしかして……」
リコッタのその言葉に、ミルヒオーレは頷く。
「はい、エースさんが今のように、呼び出していました。あのドラゴンさんも、エースさんが呼び出していたドラゴンです。何が起こるのか詳細は分かりませんが、今は避難誘導の手伝いをしましょう」
「はいであります!!」
ミルヒオーレの言葉に、リコッタが頷いて、二人は避難誘導の手伝いに行こうと、貴賓席の入り口に向かおうとした瞬間。
―――ドォン、と地響きのような音が大気を震わせた。