ミルヒオーレについていき、城へつくと、シンクはあっという間にメイドさんに囲まれ、ついでにその周囲を布の囲いで覆われた。
エースとタマゾーがぽかん、としていると、ミルヒオーレがシンクに『戦』のルールを説明し始める。
基本は武器で強打すること、頭や背中に触れるとタッチボーナスが入る事、先ほどあの怪我人たちがなっていた丸っこいものがけものだまと言う事。
そして、この世界に満ちるフロニャ力と、それを使った輝力、紋章術の説明。
ちなみに紋章術に関しては、『前線に居るエクレールと言う騎士の方が詳しい』と言うことで、ぶっつけ本番らしかった。
そしてシンクが『戦』の舞台<ステージ>、フィリアンノレイクフィールドへと向かい、エースとタマゾーはミルヒオーレの後について、貴賓席、と言う場所に移動する。
「姫様!!」
向日葵色の髪と犬耳と尻尾を持つ、小柄な少女がミルヒオーレに駆け寄る。
「リコ、ただいまです!!」
「おかえりなさいであります!! 勇者様、来てくれたんでありますね」
そして少女は手に持っていたものを、ミルヒオーレに渡す。
「はい。私達の素敵な勇者様です!!」
にっこりと、綺麗にミルヒオーレは微笑み、手渡されたものを手に、口を開く。
『ビスコッティのみなさん、ガレット獅子団領のみなさん、お待たせしました!! 近頃敗戦続きな我らビスコッティですが、ビスコッティに希望と勝利をもたらしてくれる素敵な勇者様が来てくださいました!!』
見る限り誰もがその手を止めて、ミルヒオーレの言葉を待っており、空中に浮かぶスクリーンには、シンクの後ろ姿が写っている。
『華麗に鮮烈に、戦場にご登場いただきましょう!!』
パパン、と花火が上がって、軽やかにシンクは空中で身体を捻って、着地する。
「姫様のお呼びに預かり、勇者シンク、ただいま見参!!」
『ゆ、ゆ、勇者こうりーん―――――!!』
実況席の青年…後で聞いたところによると、フランボワーズ・シャルレーと言う名前だった…の絶叫が上がり、フィールドに居る戦士たちの絶叫が上がった。
「……。そういえば、姫様。この方たちはどなたでありますか?」
「エースさんとタマゾーさんです。理由は不明ですが、この世界に来てしまったようなので、私がこの世界の事を説明するという約束で、一緒に来て貰ったんです」
ミルヒオーレの紹介に、少女は安心したように笑う。
「そうでありましたか。自分はリコッタ・エルマールであります。気軽にリコと呼んでほしいのであります」
「こんにちは、エースです。よろしくお願いします、リコさん」
「こんにちはたま!! おいらはタマゾーたま」
向日葵色の髪と犬耳と尻尾を持つ、小柄な少女…リコッタがそう名乗ったので、エースとタマゾーも名乗ると。
「はわっ、喋ったであります!?」
「うーん、何処でも驚かれるなぁ。……っと、ミルヒオーレ姫様、確認いいですか?」
「はい、どうぞ」
そしてエースは、不思議そうにタマゾーを見、それを見るリコッタを見つつ、気になっていたことを聞くことにした。
「戦があるけれどアスレチック競技のようなものである事、フロニャ力と言う安全な力が働いている事、輝力と呼ばれる力が使われている事。そこまでは分かったんですけど、シンクさんが勇者、って今更なんですけどどういう事ですか?」
「勇者様は勇者召喚によって、別世界から呼ばれた人のことで、勇者召喚は、領主や王にのみ許された、勇者を召喚する魔法なんです」
説明を受けるエースと、説明するミルヒオーレが見る、空中に浮かぶスクリーンには、タッチアウトで敵を倒していくシンクの姿。
「それで召喚されたのがシンクさんで、勇者召喚は最後の切り札、と言う訳ですか?」
「はい、そうなりますね。……参加してみたいのなら、エースさんも参加してみますか? 砲術士とかで」
そしてシンク及び合流した若草色の髪をした垂れた犬耳と尻尾の少女…エクレール、とミルヒオーレが呼んでいた…が、一般兵に紋章砲と言う術で無双しているのを眺めつつ、ミルヒオーレはそう締めくくり、そう、エースに提案した。
「え? ……俺が、ですか?」
エースは目を瞬かせたのち、首を傾げた。
「前線で戦うだけが戦い方じゃないんです。後方から味方を、砲撃で援護するのも立派な戦い方で、リコも砲術士なんですよ」
「自分は、紋章術で、敵に攻撃する術者であります」
「うーん、後ろから援護だけ、と言うのは性に合わないんですよね。前線で盟友たちと一緒に、戦うので……」
ソウルアーマーを纏い、盟友<モンスター>たちと一緒に、何度強敵とぶつかり合った事か。
「? エースさんの世界では、争いがあるんですか?」
「あ、えっと、そう言う訳じゃなくて……」
『来たー!! 来ましたー!! レオンミシェリ閣下!! 戦場到着!!』
エースが言葉を探してまごついた瞬間、フランボワーズが叫び、一同が空中のスクリーンを振り返る。
そこには雄々しいセルクルに跨った、銀髪金目の女性が映っていた。
「レオンミシェリ閣下……。ガレット獅子団の?」
「はい、現在のガレット獅子団領国の王レオンミシェリ・ガレット・デ・ロワ閣下です。閣下と呼ばないと怒られますよ」
「あ、はい」
「わかったたま」
エースとタマゾーが頷いたところで。
「あ、勇者様がエクレに蹴り飛ばされたであります」
『この勇者意外とアホか?』
リコッタとフランボワーズの言葉に。
「……どうしたんだろ?」
「なにがあったたま?」
「……何があったんでしょう……?」
「分からないであります」
上から、エース、タマゾー、ミルヒオーレ、リコッタの順で、首を傾げるのであった。