「うわあぁあああああ―――――――?!」
「たま―――――――!?」
絶叫を上げ落下するエースにしがみついているためか、同じく落下するタマゾー。
真下には、空に浮かんだ大地に作られた、石畳の祭壇。
このまま何もしないと、叩きつけられそうだし、叩きつけられるのは、間違いなく危険すぎる。
「エース、リリースするたま!!」
「りっ、龍喚<リリース>!!」
取り出したD‐ギアにセットされたエッグドロップから、咄嗟に呼び出したのは、翼持つエースの盟友<モンスター>の一体、大灼熱・クレナイゴウカミ。
その背でエースとタマゾーをキャッチしてから、クレナイゴウカミは真下の石畳の上に着地した。
「た、助かったよ、クレナイゴウカミ……」
「どっ、ドラゴン?!」
クレナイゴウカミの背中から、エースが声のほうを向けば、そこにいたのはエースより歳が上そうな、金髪の少年と。
「……いぬみみと、しっぽたま?」
タマゾーの言うとおり、不安そうに垂れるピンクの犬耳と揺れる尻尾を持った、ピンクの髪の少女が、並んで立っていた。
「喋った!?」
そして金髪の少年の方は、タマゾーが喋ったことに驚いていたが。
「あの、どちら様、ですか?」
ピンク髪の少女の方は、意を決したようにエースに問いかけてきた。
「私がお呼びしたのは、シンク様、なのですが……」
少女の言葉に、エースは足元に出現した白い魔法陣のことを思い出し。
タマゾーと顔を見合わせ、クレナイゴウカミの背中から降りて、少女と少年の前に立つ。
「……まさか、とは思うんですけど……質問、良いですか」
「はい、どうぞ」
少女から許可が下りたので、エースは深呼吸してから。
「……ここって、……ビエナシティじゃ、ないってことですか……?」
そう問いかけた。
「はい」
そして少女は想定していた通りに、頷いた。
「ここはフロニャルドのビスコッティ共和国フィリアンノ領です」
そして少女が続けた言葉に、エースは再びタマゾーと顔を見合わせる。
「ぜんぜんきいたことないちめいたま……」
「どうしよう……。クレナ……あー?!」
タマゾーの言葉に、エースは律儀に待っててくれている、クレナイゴウカミを振り返って、絶叫する羽目になった。
理由としては、クレナイゴウカミの近くに、無残に地面にたたきつけられた、買い出しを頼まれた荷物があったからである。
「か、買った牛乳のビンが割れてるし、卵も割れてる……。うわ、だめだこれ……」
「え、エースのおかあさんに、おこられるたま……!!」
ずぅん、とへこむエースとタマゾーに。
「だ、大丈夫? えっと、買い物の途中だったの?」
少年が、心配そうに問いかけてきた。
「お母さんが営んでる軽食屋の買い出しが終わって、帰る途中に白い魔法陣が足元に出てきて、気づいたら空に……。確かに荷物まで気が回らなかったけど……」
『ウゥ……』
その言葉に、申し訳なさそうにクレナイゴウカミは小さく鳴いた。
「大丈夫、クレナイゴウカミのせいじゃないよ。……。えっと……」
エースはクレナイゴウカミにそう言い、心配してくれた少年の名前を知らないため、そこで言いよどめば。
「あ、僕はシンク・イズミ。君達は?」
「エースです」
「おいらはタマゾーたま」
そう名乗った金髪の少年…シンクに、エースとタマゾーも、名乗り返した。
それを見計らい、少女も、口を開く。
「私は、フロニャルドのビスコッティ共和国フィリアンノ領の領主を勤めさせていただいています、ミルヒオーレ・フィリアンノ・ビスコッティと申します」
「つまりおひめさまたま?」
「あ、確かに」
タマゾーの言葉に納得したエースの言葉に、ピンクの犬耳と尻尾を持った、ピンクの髪の少女…ミルヒオーレは少し苦笑して。
「まだまだ未熟ですけれど、領主を勤めさせていただいています。それで……この後はどうされますか?」
ミルヒオーレに問われて、エースとタマゾーは顔を見合わせる。
「……どうしよう、タマゾー」
「たまぁ……」
けれど、何もいい案は出てこず。
「でしたら、私がこの世界の事を説明します。一緒に来ませんか?」
ミルヒオーレにそう提案されて。
「……そう、ですね。ここに残っても何の当てもないので、付いていきます」
「分かりました。それでは、エースさん、タマゾーさん……。えっと、そちらのドラゴンさんは……」
エースがその提案に、頷き、ミルヒオーレが困ったようにクレナイゴウカミを見たところで。
「あ、待ってください。エッグドロップに戻します。助かったよありがとう、クレナイゴウカミ。戻って」
エースがそう言い、クレナイゴウカミはおぉん、と一つ吼えて、エッグドロップになり、エースの手のひらに納まる。
「これで大丈夫です」
「それでは行きましょう。付いてきてください」
エース、タマゾー、シンクは、ミルヒオーレの後を付いて、階段を駆け下りた。