とりあえず、あの後お腹事情を慮ってくれたミルヒオーレに、お昼の席に招かれたエースとタマゾーは、食べ損ねたお昼と消費したエネルギーを取り戻すべく、遠慮なく食べた。
おそらくメイドの女性たちが入れ替わり立ち変わりに食事をもってきてくれて、目の前に置かれるのは食べたことのない料理ばかりだったが、どれもおいしかった。
ミルヒオーレの後ろに控えていたロランが、唖然としていたがスルーして、食べた。
ちなみにシンクは、エクレールとリコッタに連れられて、この世界の仕組みを知るため、城下町に行っており、エースとタマゾーも後で合流予定である。
「……なるほど、先ほどの現象は、傷ついた星を治すためには必要なこと。けれどもモンスターが影響を受け、凶暴化し、被害が出てしまう」
その合間合間に、問われたことに素直に答えていたので、ミルヒオーレはそう話をまとめた。
「それを抑えることができるのが、エースさんのような龍喚士と呼ばれる人々という訳なんですね……」
「抑える、というよりは、その間被害が出ないように努めるのが、役目なんです」
「そうなんですか」
目の前に置かれた器に入った料理を平らげ、そこでようやくエースとタマゾーのお腹も、満たされて落ち着いて。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまたま。おいしかったたま」
エースとタマゾーは揃ってパチン、と手を合わせてそう言った。
「お口にあいましたか?」
「とってもおいしかったたま!!」
「見たことも食べたこともない料理ばかりでしたけど、おいしかったです」
ミルヒオーレの問いかけに、タマゾーがそう言い、エースもそう答える。
「それは良かったです」
「……お腹が空いていて考えもしませんでしたけど、こんなにご飯をもらってよかったんでしょうか? あ、ありがとうございます」
メイドの女性が、そういったエースの前から空っぽになった器をどけて、エースとタマゾーそれぞれの前に氷の浮かぶグラスに入った、ジュースらしきものを置いてくれた。
「もちろんです!! それに、さっきの出来事を考えれば、足りないくらいです」
「先ほどの一件、君がいなければもっと被害は大きかっただろうからね。……そういえば、エースくんはどうしてこちらの世界に?」
ミルヒオーレに力説され、ロランにそういわれ、タマゾーが美味しそうに、ジュースらしきものを飲む横で、エースはロランの問いに口を開く。
「『タスケテ』って、声が聞こえて、魔法陣のようなものが足元に出現して、気づいたら空に」
「……ふむ。それは、誰かに『召喚』された、ということなのかもしれないね。でもそれならば何故ビスコッティの祭壇に……?」
先ほどから出てくる、『召喚』について知らないエースは、ロランに問う。
「召喚って、そういえばどういうものなんです?」
「勇者召喚は、国の危機に最後に残された切り札だ。召喚された勇者はもと居た場所に帰れないという、難点を持つ故にね」
『……え?』
ロランの難しい声でそう告げられた事実に、グラスに手を伸ばしかけて、その手を止めたエースと、何故かミルヒオーレの声が、ハモった。
「? 姫様、どうされましたか?」
ロランが不思議そうに、ミルヒオーレに問う。
「……勇者様って、元居た世界に、帰れない、んですか?」
問われて、つっかえつっかえ、ミルヒオーレがそう言うと。
「何をおっしゃってるんですか、姫様。召喚された勇者は元居た場所に帰れないということは、常識ですが……」
その瞬間、その場に痛いほどの沈黙が降りる。
「……」
「……」
エースはグラスに、手を伸ばしかけてその手を止めたまま、タマゾーも空気を読んで、口からグラスを離したまま、青ざめていくミルヒオーレと、同じく青ざめたロランを見て、まさか、と一つの考えにいたり。
「…………姫様、まさかご存じなかった、とか」
「……」
少々青ざめたロランが、エースとタマゾーの考えがいたった言葉を告げられた、ミルヒオーレが上げた悲鳴が、お城を揺らした。
ちなみにではあるが、同じタイミングで城下町にてリコッタに説明を受けていた、シンクの悲鳴も上がったことを追記しておく。