呼び声が誘う始まりを
その夏は、いつも以上に充実した夏休みを過ごせたようにエースは思う。
もともとのきっかけは、龍喚士になるには必須の能力である、星をめぐる根幹の力『ドロップが見える』ようになったことだった。
それゆえに、龍喚士たちの集う島で暮らす祖母…アンジーヌの元で基本を学ぶことを決意して、ドラゴーザ島行きの船に乗った。
それからはいろんな仲間との出会いと、自分にとっても、仲間にとっても、とても意味のある出来事ばかりで、どの出来事が一番だなんて決めきれないほど、大切な経験をして。
そしてエースは文字通りのひと夏の冒険を終えて、様々な盟友<モンスター>や、龍喚士仲間と出会い、星と対話して、ドラゴーザ島に行く前に想像していたより、心が大きく成長できた。
だが、あまりにも些細とはいえない、大きな出来事ばかり経験した為にか、それが一生分の体験にも等しく感じていた。
そして、エースは少しばかり、この平和な日常が、ドラゴーザ島のみんなに会えない日々が、物足りなく感じていたのもまた、事実だった。
「……なーんて、おかしいよね」
自嘲気味の言葉をこぼして、エースは考えを締め括った。
「どうしたたま、エース?」
それを聞いてしまったのか、隣で手提げ袋を持ってふよふよ浮かんでいた、エースの信頼できる盟友<モンスター>であり、たまドラと呼ばれる種族の、タマゾーが問いかけてきた。
「……何事もない平和が一番、とは分かってるんだけど、夏休みの体験がとんでもなかっただろ? ……だからちょっとだけ、みんなに会えない今がつまらなく感じちゃってさ」
「エース……」
心配そうなタマゾーに、エースはごめん、と告げる。
「でも、大丈夫だよ。みんなにもう会えない、って訳じゃあないし、長い休みはドラゴーザ島に行ってもいい、ってお母さんが言ってくれたし」
「そのときは、おいらもいっしょにいくたまよ!!」
「そうだな。今から楽しみだ」
エースの言葉にタマゾーがそう言い、顔を見合わせ笑いあうのだった。
「それじゃあ家に帰ろう。お母さんから頼まれた買い出し、これで全部だしな」
よいしょっ、と抱えていた荷物を持ち直し、エースが笑ってそういうとタマゾーも笑う。
「おひるごはんたのしみたまー!!」
「そうだね、俺もおなかすいちゃったなー」
そして家に帰ろうと、歩みだそうとして。
―――タスケテ。
「……え?」
エースは鈴の音のような声でつむがれたその言葉に、足を止めた。
きょろ、とあたりを見回すと、タマゾーとエース以外に、周りにはいない。
「…………なに、今の?」
「どうしたたま、エース?」
少し先に行っていたため、ぱたた、と羽を動かしてこちらに近寄ってきたタマゾーに、それが、と前置きして話をしようとして。
足元に、白い魔法陣が広がり、その魔法陣に書かれた文字は、全く読めなかった。
「へっ?!」
「エース!!」
がしっ、とエースの腕にタマゾーが掴まった瞬間、エースとタマゾーを光の柱が呑みこんで、消えた。
今のところ出来上がったのはこの話だけですが、マイペースに投稿していきます。