ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~ 作:悪魔さん
マリージョア襲撃事件から数週間。
聖地から逃げシャボンディ諸島に集中した元奴隷達は、自力で帰る者もいれば人の手を借りて帰る者もいる。テゾーロはそんな元奴隷達に手を差し伸べ、自らが所有するオーロ・コンメルチャンテ号に乗せて無償で故郷へと送り届ける慈善事業を実施している。
だがその帰り道に、事件は起こった。
*
「あのォ……船、間違ってませんか?」
サングラスをかけ絶賛日向ぼっこ中のテゾーロは、呑気に声を上げる。しかし彼が置かれた状況は非常に緊迫している。なぜならテゾーロ達は巷を騒がす「タイヨウの海賊団」の
少し寝て起きたらいつの間にか船には大勢の魚人が乗っており、ほぼ制圧状態に近い。その中でもデッキチェアでジャージ姿で寝っ転がるテゾーロは、肝が据わっているというよりもただの能天気に近い。部下達は勝てない戦ではないだろうが下手に戦闘になると厄介だと理解しているのか、魚人達の動向に警戒はしつつも抵抗はしないでいる。
「おたくら……何しに来たんですか?」
「見りゃあわかるだろ、襲撃だ」
呆れた様子のテゾーロに、ズカズカと歩み寄る魚人。
その姿を目にしたテゾーロは、一瞬だけ目を見開いた。巨大なノコギリと鋭いノコギリ状の鼻が、若き日の〝彼〟であることを証明しているからだ。
(アーロンか……
現れたのは、後に〝
だがルフィと対決する時の彼は――〝
「噂は事実って訳ですな」
「あ?」
「魚人島周辺で活動していた海賊〝アーロン一味〟が、フィッシャー・タイガー率いる〝タイヨウの海賊団〟に合流したって話ですよ。まさかこんな形で会うとは驚きでしたがね」
足を組んだ状態でアーロンを見上げ、ドリンクを飲むテゾーロ。
「それで? 巷の有名人が、呑気に船の甲板でお昼寝していた実業家に何か御用ですかな。ドリンクでも飲みに来たならお出ししますけど」
「シャハハハハハ! フザけたことぬかしやがって……まァ確かに俺達はてめェに用がある。てめェが政府や海軍とグルであることも知っているしな」
「……それで?」
「見せしめに来たのさ!!」
アーロンは得物である巨大なノコギリ〝キリバチ〟を振るった。
しかし――
ガッ!
『!?』
テゾーロは片手でアーロンの攻撃を受け止めた。その手は黒く変色しており、〝武装色〟の覇気を纏っているようだ。
(〝キリバチ〟を素手で受け止めやがっただと……!?)
「慌てなさるな、今は仲良くやりましょう」
サングラスを額に上げるテゾーロは、口角を上げる。
対するアーロンは素手で得物の一太刀を受け止められ、動揺を隠せないでいる。それは魚人達も同様で、中には冷や汗を流している者もいる。
「おれが喧嘩を売ったならまだしも、売りも買いもしない相手に刃向けちゃあダメでしょうが」
「――下等種族風情がっ!」
「その下等種族に説教されてるあなたは何なんでしょうね」
テゾーロの言葉が癪に障ったのか、アーロンは憤り拳を強く握り締めた。それと共にメロヌスは愛銃を素早く構えて彼の眉間に照準を合わせる。
だがそれに待ったをかけたのは、テゾーロだった。
「メロヌス、武器をしまえ。交渉中の臨戦態勢は無礼だし、国際問題を起こすのは御免だぞ」
「だが――」
「メロヌス。しまえっつってんのが聞こえねェか」
〝覇王色〟の覇気を放ちながら強く言うテゾーロに、メロヌスは納得していない表情を浮かべつつも銃を下ろした。先程まで呑気に日向ぼっこをしていた男とはまるで別人の――それこそ歴戦の猛者や王者のような気迫に魚人達は一斉に怯む。
すると、そこへ魚を象った船首の海賊船が太陽のマークの海賊旗をなびかせ近づいた。
「アーロン、お前という奴は……」
「大アニキ!」
甲板にコートを羽織り迷彩柄のバンダナを着けた赤い肌の巨漢が、アーロンを咎めつつ現れた。冒険家から海賊に転身したフィッシャー・タイガーだ。
その横にいる下顎から2本の牙を生やした和装の魚人は、後々王下七武海になる〝海侠のジンベエ〟だろう。
「……お前がギルド・テゾーロか」
タイガーはジンベエを連れて乗り込み、テゾーロを質す。
アーロンもさすがにタイガーの前で手を掛けるのはマズイと思ったのか、すんなりと退いた。
「いかにも……テゾーロ財団理事長のギルド・テゾーロです。ということはあなたが奴隷解放の英雄であるフィッシャー・タイガー殿で?」
「……ああ。ウチのモンが迷惑かけたようだな」
「どっかのバカ世界貴族達がしでかした所業に比べれば些細なモンです。気にしないでください」
これだから人権問題は、とテゾーロは溜め息を吐く。
タイガーは魚人達の恨み・憎しみの対象である人間――ましてや政府側の人間でありながら一切手を上げなかった彼の度量に感心したのか、鋭い眼差しでありながら口角を少し上げていた。
「テゾーロといったな……正直な話、わしもお頭もお前さんを
「我々もあなた方も命一つの〝ヒト〟なんだ。人間も魚人も人魚も、根本は皆同じです。……それにおれは下らない常識に囚われるような野郎に成り下がる気はありませんから」
「………人間の割には、中々まともな感性の持ち主のようだな」
タイガーはテゾーロを評価する。他の魚人達もテゾーロの考えに興味を持っているのかコソコソと話し始める。
しかし、そこへ横槍を入れるのがアーロンだ。
「タイの大アニキ!! 絆されちゃいけねェ、こいつも所詮は人間だぜ? 腹ん中がそうとは限らねェ!! すでに通報しているだろうよ、とっとと潰しちまった方がいい!!」
「アーロン、よさんか!」
激しく主張するアーロンと、それを諫めるジンベエ。
するとテゾーロは呆れた表情を浮かべ、口を開く。
「こちらとしては穏便に事を済ませたいのですが……海上での戦いが必ずしも
ビリッ!
金の指輪をはめたテゾーロの手から火花が散った。
そして彼の意思に呼応するかのように、船に施された黄金の装飾や欄干が形を変え、触手の形となってうねりながら魚人達の首筋に当てられた。
「――タイガー、これは脅しではなくそちらが仕掛けた際のれっきとした
「能力者か……!」
「そうだ……おれは〝ゴルゴルの実〟の能力者。黄金を生み出し、自由自在に操ることができる」
テゾーロとタイガーが睨み合う。
両者共に殺気立ち、いつでも攻撃できる意志を見せつけ合うが――
「――まァ、
「……それもそうだな」
不殺を貫くタイガーと、そもそも手を出された場合のみ戦うというテゾーロ。無駄に血を流すことを不本意と思っているのはお互い様だ。
話し合いで手を引くのは、当然と言えた。
「お前ら、戻るぞ! こいつらに用は無い」
『お頭!!』
「今ここで互いに無駄な血を流せば、それこそおれ達が嫌う野蛮な人間達と変わらねェ。わかったな」
タイガーの一声で、魚人達は次々と自らの海賊船へと戻っていく。アーロンも納得しない表情のまま舌打ちするも、素直に引いた。
「お頭、わしらも……」
「ああ」
ジンベエに促され、タイガーもコートを翻し撤退を始める――が、立ち止まって背を向けたままテゾーロに声を掛けた。
「……ギルド・テゾーロ」
「?」
「お前の部下に、三つ目の剣士と二刀流の能力者がいなかったか?」
「! ――タタラとアオハルですか」
「その二人によろしく言っといてくれ」
タイガーはそう言い、ジンベエと共に自らの一味の船へ飛び乗り去っていった。
「……理事長、無事か?」
「まァな」
テゾーロは笑顔でアピールし、部下達を安堵させる。
(……人種差別、か。そんな下らないことに縛られ続けるのなら、おれが解放してやるとすっか。ただし、おれのやり方でだけどな)
数週間後、タイガーは懸賞金2億3000万ベリーの、ジンベエは懸賞金7600万ベリーの大物賞金首として指名手配された。それと共に「タイヨウの海賊団」は戦闘において敵への不殺を貫く異質の海賊団として破竹の進撃を続けた。
これに乗じてか、テゾーロもまた海軍や政府の知らぬところで大きく動こうとしていた。
一応予定ですが、近い内に新章をやります。
舞台はリュウグウ王国で、オトヒメ王妃と接触するかと。