ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~ 作:悪魔さん
テゾーロが島の開発を始めて、一ヶ月が経過した。
アオハルやジンの尽力により、造船会社「シマナミカンパニー」事務所の船大工・モブストンやワノ国で有名な大工のみなともさんなど、多くの大工・船大工が集まっていた。船大工まで「家を建てる大工」として集めた理由は、船大工の技術で建てられた家が存在することをテゾーロ財団は情報として入手していたからである。
現在グラン・テゾーロ計画は、「
さて、そんな気宇壮大な計画が推し進められる中、テゾーロは幹部達を集めて集会を開いていた。
「――ぼちぼち頃合い……国の制度の策定も進めるとしようか」
『!』
テゾーロの一言に、幹部達は瞠目する。
「今日はおれがちょっとした用事があるから、要職をどうするかだけ話し合おう……」
世界政府に加盟している国は、基本的には君主制である。
無論テゾーロも国王としてグラン・テゾーロを運営するので、君主制という点は何ら変わりはないが、革命をもたらすという野望を持つ彼の政体は、ただの君主制とは一味違って民主主義の制度を取り入れるものだ。しかし今回はそれを話し合う時間は無いので要職をどうするか決める。
「要職となると、分野ごとに分かれますね。特に国防と外交は内政と違ってミスを取り消すことは困難……中々難しいですよ」
サイはテゾーロにそう提言する。
内政のミスはぶっちゃけた話、政権が代われば取り戻すことができる。しかし外交のミスは、政権が変わっても取り戻すことは非常に難しい。現実社会の日本でも似たようなことが起きており、国家間の交渉・会合は国内の政治以上に厳しいのだ。
「おれが今想定しているのは国防省・外務省・内務省の三つに分けた国家運営。司法に関しては世界政府の介入が十分にあり得ることを想定して保留だ」
世界中の国家のほとんどは絶対君主制だと言っても過言ではないだろう。だが全てを王一人でやると個人間の関係が政策上の必要性に優先されることになり、間違っていてもチェックする手段が国王の判断以外に無い。魚人島を治めるリュウグウ王国のように右大臣と左大臣を置く太政官制を導入している国もあるが、実質的には絶対君主制であるのに変わりない。
そこでテゾーロが考えたのは、国の防衛・外交・内政をそれぞれ国防省・外務省・内務省の三つに分け、全てが王一人の決定で行われるのではなく各省の頂点である国務大臣が王と議論して方針を固め政策を実施するという、絶対君主制が主流であるこの世界においては全く新しい
「国家元首の国王、各省で職務をこなす国王に任命された国務大臣……太政官制とはまた別の、新しい統治だ」
「国防省と外務省はネーミングから職務内容は想像できますが……内務省は具体的に何を行うのですか?」
「国内行政の大半だな。一番忙しい部署ともいえるが、やりがいはあるぞ?」
内務省は地方行政や国内の治安、出入国管理などの内政を担当する省。中央集権国家では地方行財政と警察行政の総括官庁として絶大な権限を持っており、その権力は他の行政機関にも大きな影響力を与える程だ。
現実世界では国によるが、アメリカでは連邦政府の所有地、野生生物や天然資源、海外領土、先住民に関する行政などを担当している。かつての日本でも「官庁の中の官庁」「官僚勢力の総本山」「官僚の本拠」などと呼ばれ、かの有名な〝維新の三傑〟の一人・大久保利通が初代内務卿を務めた設置当初から内政の全般に及ぶ権限を持っており、連合国軍最高司令官総司令部ことGHQの指令によって解体されるまで74年間に亘って近代日本の行政の中枢に君臨した。
「一応配分はできている。国防はシード、外務はサイ、内務はメロヌスってところだ」
「元軍人に現役の諜報員、財団屈指の切れ者……中々いいんじゃない? それで、他はどうすんのギル兄」
「う~ん……その辺りをどうするかだな。国王はおれで確定だし……」
アオハルの指摘に唸るテゾーロ。
グラン・テゾーロ計画において、テゾーロは自らの国を世界最大のエンターテインメントシティにしようと画策している。国としてならばシード達でいいだろうが、娯楽街としてだと話は変わってくる。トップはテゾーロでいいだろうが、下の方はこれから幹部達と協議を重ねる必要があるだろう。
「それだけじゃない。国家を運営するからには政策も行う必要もあるし、軍隊も用意する必要がある。その辺もどうするか……」
メロヌスの指摘通り、国家を運営する以上は国民の生活を保障できるよう様々な政策を打ち出さねばならない上、海賊対策として軍隊の配備も必要になってくる。テゾーロは財団を運営する実業家に過ぎず、国家を運営することと財団を運営することは全てがイコールではない。
政治学はどうするのか。軍事はどうするのか。課題は山積みだ。
「おれとしては、政治は加盟国――ドレスローザやアラバスタ王国から学ぼうと考えているけどな」
「どちらも名君と名高い方が統治してますね」
シードの言葉に、テゾーロは頷く。
ドレスローザとアラバスタ王国は、どちらも国民や国を大切に思っている名君が統治しており、加盟国でも高く評価され敬意を払われている。国民や家来達の信頼を確実なものにする善政を敷くにはどうすればよいのか、留学して学ぶ価値は十分にある。
(しかし、
その時だった。
壁をヌケヌケの実の能力ですり抜け、タナカさんが現れた。
「するるるる……失礼しますよ」
「!」
「テゾーロ様、お客様がお見えになりましたよ?」
「そうか……すまないが今日はここまでだ。また時間があれば続きをしよう、解散だ」
テゾーロは手を叩き解散を促すと、幹部達はタナカさんを除いて全員外へ出ていった。
数分後、入れ替わるようにテゾーロの客人――いや、
「やあやあ、フレバンスの件は実に見事だったぞ!!」
「うっせェ、勝手に二つ名つけやがって。的を射てるから別にいいけど」
現れたのは、世界経済新聞社の社長・モルガンズ。
陽気に声を掛ける彼に続くように、続々と客人達が訪れる。
「うんだうんだ、これで北の貿易は滞りなくできる!」
「〝こちらの界隈〟だとお前は有名人だ!」
客人として来たギバーソンとウミットが、テゾーロを称えるように喋る。
珀鉛病の一件は世界中の有力者に知れ渡っているのか、その界隈でテゾーロは一躍時の人になっているようだ。
すると――
「グギギグギ! しかし〝出世の神様〟は随分と若いな」
特徴的にも程がある笑い声と共に、ライオンのたてがみにピエロのマスクを付け、大鎌を担いだ男が現れた。
「……これはまた個性的な……」
「ドラッグ・ピエクロ。大手葬儀屋でね、我々の業界では誰もが知る人物だ」
「グギギグギ! フレバンスの国葬もおれに任せればよかったのによ」
「生憎、自分が蒔いた種は自分で刈り取る主義でね」
テゾーロは両手を上げながら言う。
死神を思わせる雰囲気を出すドラッグ・ピエクロも、闇の世界の帝王達の一人。一応はちゃんとした葬祭業者――葬儀・葬祭の執行を請け負う事業者――らしいのだが、原作において〝福の神〟の異名を持つ闇金王のル・フェルドから「どうしてお前が招かれてんネン」と言われてるので相当の食わせ者だろう。
「それで、一体何の用だね?」
「まァ、まずは腰掛けて」
テゾーロに言われ、ソファに腰掛ける四人。
それに応じるかのように、タナカさんが四人分のお茶を用意し机に置いた。
「ああ、これはどうも。……それで、改めて訊くが何の用だね?」
「港湾労働者組合を解体する」
「! そ、それはまた急だな……」
「いやァ、ちゃんとした理由はあるからね。そこは聞いてほしい」
テゾーロは港湾労働者組合解体の理由を語り始める。
元々港湾労働者組合とはテゾーロ財団・倉庫業老舗・海運業者による連帯組織である。しかしテゾーロ財団の勢力拡大と他分野のビジネスパートナーの増加、新世界進出による活動拠点の変更により、港湾労働者組合という体制を改めて一元化する必要が出てきたのだ。
それだけでなく、港湾労働者組合という「表の組織」だと財団へのスパイ工作が行われるのではないかという可能性が浮上したのだ。特にドフラミンゴは自身の「最も重要な部下」であるヴェルゴを海軍本部にスパイとして潜入させ、ドフラミンゴの悪行が露見しないよう暗躍させ続けた。テゾーロ財団はテゾーロ直轄な上に幹部格が曲者・強者揃いなので騙し通すのは難しいが、港湾労働者組合は有能な幹部がいないので付け入る隙があるため、スパイを送り込まれたらたまったものではない。
こういった事情を考慮し、港湾労働者組合を解体して秘密結社のような秘密性の高い組織に作り替えようというわけだ。
「港湾労働者組合は解体され、新たな組織に生まれ変わる。名前は「ロッジア・イル・モストロ」だ」
「秘密結社に近いな」
「まァ正直な話、そういう方針になると決めてたし」
秘密結社と一言で言っても、テゾーロが新しく作ろうとしている秘密結社は存在そのものは隠そうとしないもの。だがそれ以外――活動の内容・構成人員・目的などは徹底的に秘密にし、付け入る隙を与えないようにするのだ。
「……まァこれは完全じゃないんでな。港湾労働者組合の解体は決定だがそれ以外は他言無用でな」
*
一週間後、〝
ドフラミンゴはディアマンテから、テゾーロの港湾労働者組合が解体された話を聞いていた。
「何? 港湾労働者組合が解体?」
「ああ。何でも財団の勢力拡大と他分野のビジネスパートナーの増加が原因らしいぜ」
ウハハハ、と笑いながら新聞をドフラミンゴに渡すディアマンテ。
だが――
「違うな。そう易々とこんなマネをするとは思えねェ」
「?」
ドフラミンゴの言葉に、首をかしげるディアマンテ。
そう、彼は港湾労働者組合解体の裏にある
「奴もそれなりに頭はいい方らしい。組合を介した財団へのスパイ工作を封じる腹積もりだ」
「!? ってこたァ――」
「フフ……フッフッフ!! ああ、間違いなく
自らが作り上げた
この大胆な行動に、ドフラミンゴは愉快そうに笑った。
(ギルド・テゾーロ……ひとまずお前を認めてやろう。成り上がりの一実業家にしては大した野郎だ。だがおれはお前が思うような甘い男じゃねェぞ?)
いつもは不敵な笑みを浮かべるドフラミンゴは、久しぶりに心の底から楽しそうに笑うのだった。
原作927話について二言。
オロチ、あんた絶対ヤマタノオロチでしょ!!
あと、居眠り狂死郎……あんたヤクザ者だったんかい!?