ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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12月最初の投稿です。
今年もあと一ヶ月だ……。


第86話〝お前、狙われるぞ〟

 さて、新たに国家樹立の為に動き出したテゾーロ。

 島そのものを開発して自分の理想となる国造りに着手し、現在は島の調査中であるが、そんな中で彼はコネを利用して呼んだスライスと仮設事務所内で話し合っていた。

「しっかし、こんな島をよく開発しようとしたな。これ嫌がらせだぜ?」

「政府の意向はよく理解できないが、ガチで嫌がらせする気なら白ひげやビッグ・マムのナワバリ付近の島にでもするだろうさ。島自体はともかく、周辺のことを考えるとこちらとしてもメリットがあるようにも見える」 

 世界政府がテゾーロに与えた島は荒れているので、島自体はヒドイ有様だが周辺に目を向けるとそうでもない。元軍事施設ゆえに港や堤防は頑丈に造られているので敵船への備えには十分であり、護岸工事もしっかりしてるため高波などの被害は最小限に防げている。防衛という観点では申し分は無いのだ。護岸工事は莫大な費用が掛かるため、その辺りのコスト削減は財団にとっては有り難いことだった。

「あ~……成程、そういうことか」

「?」

「世界政府の連中はお前が怖いんだよ。一端の賞金稼ぎがドがつく曲者集めて国家樹立の前段階にまで成長したんだぜ? 一般市民から見れば英雄や天才の領域だが、天竜人や政府中枢の連中からだと脅威に感じるのさ……考えてみろ。覇気を全部使える上に能力者である民間団体の理事長って、海賊であってもなくても何か異質だろ」

「ああ、その辺はおれも……何とも……」

 スライスの指摘に、テゾーロは顔を引きつらせて視線を逸らす。

 彼自身は何とも思ってないが、覇気を三つ全部扱う能力者など普通に考えれば恐ろしい存在だ。海軍に入れば海賊にとって恐怖の対象となり、海賊になれば海軍の脅威となる。だがどちらにも属さない――厳密には海軍・政府寄りだが――民間団体という立ち位置が、別の意味で恐怖を煽るのだ。

「そういうつもりはねェんだがなァ……」

「そう言う野郎に限って「腹に一物あるんじゃねェのか」って思われんだよ」

 遠い目をしているテゾーロに、呆れた笑みを浮かべるスライス。

 するとスライスは、今度は世経をテゾーロに見せた。

「今日の新聞読んだか?」

「いや、全然。何か面白い記事載ってんの?」

「お前のネタだよ」

 新聞には、テゾーロの功績に関する内容が記載されていた。

 賞金稼ぎとしての活動から始まり、海軍もお手上げだった無法地帯・ジャヤの治安改善、船大工トムと共に海列車の建造の開始、700年前から始まったのに進行状態が微々たるものだったテキーラウルフの建設事業の飛躍的促進、そしてフレバンスの救済事業――数々の慈善事業を行って世界に貢献してきた彼の功績を称えるかのような内容であった。

 そしてその記事の見出しには、「〝出世の神様〟テゾーロ」と記されているではないか。

「賞金稼ぎから政府公認の一大財閥へと成り上がった〝出世の神様〟……大層な二つ名じゃねェの」

「そんな大層な異名持つ程の男になった覚えはねェんだがな……っつーかいつの間にテゾーロ財団が財閥になったんだよ」

「二つ名なんてのは他人から畏敬され、自然とそう呼ばれるようになるんだよ。お前の異色すぎる経歴を見りゃあ尚更だ、一般人というよりも逸般人だろうよ」

「何を上手いこと言うんだか」

 こめかみをひくつかせ、テゾーロはスライスを睨む。

 対するスライスはどこ吹く風だ。

「そんで、あんたは何でアタッシュケースを持っているんだ?」

「商談だ……実は油田開発の最中に面白いモンを手に入れてな」

「商談?」

 スライスは持ってきたアタッシュケースを開け、石のキューブを取り出した。

「触ってみな」

 スライスに勧められ、テゾーロは石のキューブに触れると、ふいに立ちくらみを起こした。

 今まで経験したことの無い初めての感覚だが、彼は確信した。この石の正体を。

「〝海楼石〟か……!」

「そう……おれがこれから行うビッグビジネスの中核を担う石ころ(ダイヤモンド)だ」

 スライスが持ってきたのは、能力者の弱点であるジョーカーアイテム・海楼石だった。彼曰く、油田開発中に偶然鉱床を掘り当てて採掘したらしい。

「よくこんなにも加工できたな……加工も破壊も困難のはずだろ?」

「とっくに死んだ初代当主(おれのじいさん)ある人物(・・・・)を頼ってワノ国へ留学し、その知識と加工技術を子孫に伝えたんだ。ある程度の加工はおれもできる……これ以上小さくはできないけどな」

 実を言うと、世界に拡がる海楼石はワノ国で生まれた代物であり、高度な加工が出来る者も鎖国国家であるはずのワノ国にしかいないとされている。産出国が鎖国国家でありながら、なぜ世界的に流出されたのかは不明だが、ワノ国を本拠にしている百獣海賊団が闇取引の為に利用したとか、密入国した者や国外に出た者が海楼石を国外に持ち出したとかなど囁かれているが原因は未だに不明だ。

 とはいえ、能力者の弱点であるのは事実なので商売の仕方によっては化石燃料の取り扱い以上に莫大な利益を得ることもできるだろう。

「実はその鉱床、ウチに所有権があるんだ。広さはどこまでかは知らねェが、かなり巨大な鉱床だ」

「……何が言いたいんだ」

「買えよ、テゾーロ。お前が創る理想国家の軍事的観点では必要になる代物だぜ」

 その言葉に、テゾーロは目を細める。

 確かに海楼石は使い方によっては様々な場面で活躍する。牢屋の格子をはじめ、手錠や網、果ては建築材など、所有しておくと武装だけでなく道具や施設の設備としても利用することができる。ちょうどベガパンクと知り合ったばかりなので、彼と交渉して製作してもらうのもいいだろう。

「……まァ確かに手に入れた方が得はありそうだな。だが限られた資源だろう? いいのか?」

「おれ達スタンダード家は、元々石油で成り上がった一族……新世界には未開の領域も多くある。ましてや海底なんざ未開そのものだ、心配無用さ」

 その言葉に、テゾーロは呆れた笑みを浮かべる。

 あの荒れ狂う新世界の海の底から石油を掘る連中など、世界中どこを探しても目の前の盟友(スライス)以外いないだろう。

「ああ、それと……」

「?」

「この海について少し話しておく」

 スライスは先程とは打って変わって真剣な眼差しになる。

 その意を察したテゾーロもまた、目を細めた。

「この新世界の海は常に覇権争いが絶えない。かつてはロジャーや白ひげ、金獅子、錐のチンジャオ、バーンディ・ワールドといった神話や伝説の怪物みたいな大海賊達がしのぎを削っていた。ロジャーは海を制した後ローグタウンで処刑、ワールドとチンジャオは脱落、金獅子は脱獄後は行方知らず。今は「〝白ひげ〟の時代」……海賊王になる気は無さそうだが、暫くは白ひげが海の王者として君臨するだろう」

「……」

「最近は〝赤髪のシャンクス〟っつーロジャーの系譜を継ぐ海賊が台頭し、カイドウとリンリンが勢力を拡大しつつある。そう考えると、新世界のパワーバランスは武闘派のカイドウとビジネス寄りのリンリン、王道の白ひげと赤髪ってトコだな」

「……何が言いたい?」

「――お前、狙われるぞ」

 珍しくドスの利いた声で告げるスライスに、テゾーロは一瞬気圧された。

 無意識かどうかは知らないが、〝覇王色〟の覇気も放っており、事は重大であると気づかせるには十分過ぎた。

「黄金を生み出せるなんざ、悪魔の実の能力であるとはいえ経済的な面では良くも悪くも強烈な影響を与える。リンリンは必ず損得を考えるから余程機嫌を損ねない限り手は出さないが、カイドウはわからねェ。いくらお前でもあの化け物には勝てねェからな」

「……それはご忠告どうも。だが自分の運命は自分で決めるモンでしょ、おれァおれのやり方でこの海を生きるぜ」

 スライスの忠告を意にも介さない返事をするテゾーロ。

「……忠告はした。死ぬなよ」

「んな夢半ばで死ぬような(タマ)じゃねェから気にすんな」

 

 

 一方、〝北の海(ノースブルー)〟のある島では――

《何、ドフラミンゴが?》

「ええ、どうやらテゾーロ財団との再接触を図ろうとしているようです」

 電伝虫を使う、全身にハートをあしらった服を着用して黒い羽毛のコートを羽織っている道化師のようなメイクの男。彼はドンキホーテ海賊団の最高幹部として潜入調査中のコラソン――ドンキホーテ・ロシナンテである。

 彼は今、上司である海軍本部大将のセンゴクと通話している。

「彼は今、大きくなっている。新世界の海に国家を樹立させる話があったでしょう? ドフラミンゴも、将来的には新世界へ向かう腹積もり……今は力を蓄えてる時期ですが……」

《早々に動いておく必要もあるという訳か……》

 ドフラミンゴは世界の破滅をただ望む、「破戒の申し子」のような男。その上生まれながらに怯むこと知らずな性分で、さらに実兄ときた。目の前で実の父を銃殺したドフラミンゴに、ロシナンテは彼の凶暴性に恐怖すら感じている。

 そんな男が暴走を起こしたら、世界がどうなるか誰も予想できない。

「テゾーロだけでなく、彼の部下も曲者揃いとはいえ有能で信頼の置ける連中であるはずです。シード君もいますし、彼らとも手を組んでドフィの暴走を止めるのが最善かと……」

《お前もそう思うか………》

 センゴクはロシナンテと同じ考えのようだ。

 軍を辞めたシードだけでなく、テゾーロの部下には歴戦の強者が揃っている。テゾーロ本人もそうだが、彼らにも協力を促す必要もあるだろう。もっとも、すでにテゾーロが話を伝えているのかもしれないが。

《……わかった。ご苦労だったな、この件はお前に任せてあるから好きに動け。だが気を抜くな、ボロが出るぞ》

「ええ、わかってます。では……」

 ロシナンテは電伝虫の受話器を下ろすと、懐から煙草を取り出し咥えた。

(ドフィ……おれは必ずお前を止める!! それが弟としての筋だ……)

 ライターの火がコートに燃え移りながらも、ロシナンテは()(えん)(くゆ)らせるのだった。


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