ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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最新話立ち読みしました。
カイドウ、カッコよかったです。ルフィの攻撃を受け切った上での一撃必殺はシビれました。周囲が「人型に戻った」と言ってるので、彼もまたビッグ・マムタイプの〝規格外人間〟なんでしょうかね。


第83話〝鎮魂歌(レクイエム)

 フレバンス。

 静かに響く、若者の声。

 鬼のように厳しい教官がよく口ずさんでいた軍歌を、闘い続けて散った患者達に捧げる。彼の前にあるのは、テゾーロ財団が関わる前に建てられた慰霊碑だ。

「……ごめんなさい」

 嗚咽を上げず、ただ静かに涙を流すシード。

 腕っ節がいいために生き残り、自分以外の仲間が先に「青き、その先」へ旅立っていく。仲間と共に生きたいのに、先に仲間が海で命を散らす。故に、強さに悩みいつまでも生き残っていていいのかと自問自答していた時期があった。

 背中に世界の正義を背負った過去を思い出しつつ、己の為ではなく目の前で眠る人々の為に涙を流す。そんな彼の元へ、テゾーロが訪れる。

「……鎮魂歌(レクイエム)か?」

「テゾーロさん……」

 いつものスーツでなく、パーカーを着用した姿で現れた彼はシードの隣に腰を下ろす。

 するとテゾーロは指にはめていた黄金の指輪を一つ外し、慰霊碑の前に置いた。そして拳を強く握り締めると火花が散り、それが指輪に伝導して形が変わり黄金製の花束になった。

「……おれなりの献花だ」

「……」

「ベガパンクに資料を渡して、今は解毒剤を作ってもらっているところだ。血統因子見つけた程の頭脳ならうまく行くと思うが……完成するまでに一人でも多くの命を繋ぎとめなきゃならねェ」

「――僕達がもっと早く関わってたら、こうはならなかったのでしょうか……?」

「そういう優しいところがお前の長所だが……一々感受してたら身が持たねェぞ」

 涙声のシードに対し、淡々と言葉を並べるテゾーロ。

 テゾーロも人の子だ、救おうとした患者達が無念の内に亡くなったのは悲しい。財団の中でも一際優しく慈悲深いシードの心中も理解できる。

 だがその悲しみを押し殺し、最善を尽くさねばならない。非情になれという訳ではないが、仕事をする以上は私情に流されないようにしなければならないのだ。良かれと思ってしたことが裏目に出たりして財団の足を引っ張っては、シードの幹部としての面子も丸潰れであり財団の信用にも関わる。

「……わかってます、僕だって男ですから……!」

 涙を袖で拭い、踵を返すシード。

 テゾーロはその背中を黙って見届ける。

(お前が知るモノとは違った戦場……腕っ節は通じねェ。自分の手で救えない命が前にあるのは辛いだろうな……)

 

 

           *

 

 

 一方、聖地マリージョアでは五老星がベガパンクと電伝虫越しで会話していた。

「そうか、ではあとは量の確保なのだな?」

《ええ、テゾーロ氏の情報がとても役に立ちました……彼は大した男です、あなた方の無茶ぶりにうまく付き合えるのですから》

「嫌味か何かかね? ベガパンク君」

《……失言でしたね、すいません》

「まァ構わんさ、これで丸く収まるならそれでよし。では、失礼する……期待しているぞ」

 

 ガチャッ

 

「――聞いての通りだ、ベガパンク君は珀鉛の毒性を中和できる薬の開発に成功した」

『……』

 五老星の一人――長い白髪と長い白髭の老人――の声を聞き、残りの四人はどこか安堵に近い表情を浮かべた。

 これでフレバンスの鉱毒は一気に収束へと向かい、100年以上前の地質調査で珀鉛は人体に有毒であると知りながらこの事実を隠蔽したという真実が公にならず、珀鉛病を不治の伝染病だと思い込んだ周辺国の誤解も解けるだろう。それだけでなく、薬さえあれば珀鉛産業を停止させる必要も無くなり、混乱こそ生んだとはいえ結果的に莫大な富を失わずに済む。フレバンスでは多少犠牲を出したが、必要な犠牲だと政府は判断したとも言えよう。

「ここまで貢献できたのならば、奴の望みを叶えてこそ筋と言えよう」

「同感だ、今ここで奴を手放すわけにはいかん。これからも世界の為に動いてもらわねば」

 テゾーロはまだまだ使える。今まで政府が隠蔽してきたモノを彼に押し付け解決させれば、追及されることも公に晒されることも無い。

 五老星はそう考えながら、議論を続けるのだった。

 

 

           *

 

 

 そしてここは新世界。

 莫大な財を成すスタンダード家の当主・スライスは新たに開発を進めていた。先代の地図や経験を活かして新しく油田を見つけようとしているのだ。

 しかし―― 

「やっぱりダメだ、ここから先は一切掘れない」

「そうか……」

 地下闘技場の案件でスタンダード家の下で働くようになった「赤の兄弟」のリーダー・オルタの言葉に、頭を悩ませるスライス。実は開発を進める最中に、非常に硬い地層(・・・・・・・)に当たってその下の石油の採掘ができなくなったのだ。

 油田にある石油を地中から汲み出すには、油井という石油の井戸を通す必要がある。油田は地下にあるため常に地圧――重力などによって地層内に生じた応力――がかかっているので、そこにパイプを通すことで地圧に押されて石油が激しい勢いで噴き出してくるという仕組みだ。しかし現状は肝心の油井が通せないのだ。

 この原因について、真っ先に考えられることは――

「この辺りに鉱床なんてあったか……?」

 油田の上に偶然鉱床があった場合は、鉱床を貫く必要がある。

 しかし化石燃料に関する産業に携わってるとはいえ、ここ一帯にそんなにも固い鉱床があるなど聞いたことが無い。余程固い、それも金やダイヤモンドを上回る硬度の鉱物が眠っている可能性もあるのだ。

「おっかしいなァ……そんなにガッチガチの地層、ここらにあったか? 一回ウチの古い資料読み漁った方がいいか……?」

 考えれば考える程に謎が深まる。

 スライスは段々考えるのが面倒になるので思考停止しようと思った、その時だった。

「――待てよ? 金やダイヤモンドを上回る硬度の鉱物ってことは、そんな代物はこの世じゃ〝海楼石〟ぐらいだぞ……」

 海楼石は、〝偉大なる航路(グランドライン)〟の一部で産出される特殊な鉱物だ。

 悪魔の実の能力の弱点である海と同じエネルギーを発するだけでなく、加工も破壊も難しいこと極まりない程の硬度と優れた耐火性を有し、主に海軍が対能力者の海賊用の武装や監獄として使用している。

 当然、鉱物である以上は鉱床から採れる代物。それが偶然、油田の真上にあったとしたら?

「……あり得る話だ」

 思えば、ここ一帯は先代の当主達も調査こそしたが直接開発をしていない数少ないエリアだ。ましてやここは新世界……十分に考えられる。

「……別角度から調べてみるか。新たなシノギの匂いもする」

 ニィッと口角を上げ、不敵に笑うスライスだった。




冒頭の部分を変えました。
小説版はOKのようでしたが、さすがにこちらではマズイという指摘があったので……。

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