ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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最近忙しくなってるので、少し更新は遅れるかもしれません。


第81話〝無難の反対〟

「フゥ……これで少しは落ち着けるか」

 新世界から帰還したテゾーロは、仮設事務所内のソファーに座って深く息を吐く。

 ベガパンクが特効薬作成を了承した以上、あとは被害を最小限に止めるよう尽力すればいい。彼の頭脳をもってすれば、珀鉛の毒を中和できる薬を作ることも可能……テゾーロ財団のやらねばならない仕事は大分減り、ようやく一息つけるといったところだろう。

(海列車もテキーラウルフもうまく行ってるそうだし、そろそろグラン・テゾーロ計画を進めるか……)

 テゾーロ財団は今まで多くの事業を実施してきたが、ここらで大きな節目を迎えようとしている。

 珀鉛病の撲滅によるフレバンスの救済が終われば、この功績を政府中枢は高く評価し、兼ねてより要求していた土地の入手も実現するだろう。あの強欲でケチな政府中枢のことだ、テゾーロに与える土地は曰く付きの可能性もあるが、貰えるだけありがたいのでそこに関する文句は言わない。

「どうするかねェ……役職も体制も考えてねェし」

 一応は君主国であることは考えてるが、そこから先は何も考えていない。

 ようやく空いた時間で、いい加減進めるべきだろう。

「……一丁、頭使いますか!」

 両腕を伸ばし、グラン・テゾーロ計画の加筆修正を始める。

 まずテゾーロが手をつけたのは、役職であった。

(必要な役職は内政面・外交面・軍事面で分けるか)

 グラン・テゾーロ計画においては、原作通りの一大娯楽街(エンターテインメント・シティ)を造る予定でもある。しかし国家運営としての基盤も盤石なものである必要もある。

 内政面はグラン・テゾーロにおける財政・交通・法務などを司る。健全な財政の確保と適正かつ公平な課税の実現、交通網の整備、法律の制定と施行、社会保障政策など、国民の安全な生活と国内の秩序を維持するために「国の仕組み」を整える必要がある。

 外交面は世界政府や政府加盟国、場合によっては非加盟国との付き合いを積極的に行い、平和で安全な国際社会の維持に寄与しなければならない。内政のミスは後々チャラにできるが、外交のミスは一度やらかすと取り返しのつかない事態になりかねないので、細心の注意を払う必要がある。

 そして軍事面。国の平和と独立を守り安全を保つために自国の軍を配備・管理するのだが、これはこれで難しい。他国の軍隊よりも遥かに強力で質も悪い海賊団を相手にしなければならず、今のテゾーロ財団では渡り合うのは不可能ではないが困難だろう。カイドウやビッグ・マムのような強力どころか化け物レベルの海賊とも接触する事もあり得る話なので、これが最優先事項になるかもしれない。

(政治体制は君主制だろうが、他は少し趣向を凝らすか……)

 知恵を絞って国家運営の構想を立てるテゾーロ。

 その時――

「よう、理事長。何か考え事か?」

「……メロヌス」

 財団幹部の切れ者、メロヌスが声を掛けた。

 風呂にでも入って来たのか、上半身裸で濡れた髪の毛をタオルで拭いている。その肉体は鍛え上げられており、背中と右肩に大きな刀傷が生々しく刻まれている。

「まだ日は高いはずだが……」

「副理事長に銃の使い方をレクチャーしてた。大した人だよ、まだ教え始めて一週間弱なのにフリントロックの扱いを一通り覚えちまった」

「さすがステラ、抜かりなしだな」

「ジンはどうした?」

「海軍の猛者共ともう少し遊びたいってよ」

「あいつ、戦闘狂かよ」

 ステラの銃の訓練とジンの奔放さで盛り上がる二人。

「……で、あんたは何やってんだ」

「これから行う巨大事業だよ……せっかくだ、お前も参加しなよ」

 

 

           *

 

 

 服を着たメロヌスは、テゾーロからグラン・テゾーロ計画の全てを知った。

「国家樹立……それがテゾーロ財団の目標の一つ(・・・・・)だ」

「……まだ先の目標があるのか……!?」

「そう……その先にあるのが、おれにとっての最大の目標だ。――まァいい、今は仕組みを考えんとな。ちなみにおれの頭で描く国は、〝絶対聖域〟だ」

「〝絶対聖域〟?」

 テゾーロの理想である〝絶対聖域〟――それは、天上の権力も及ばぬ中立主義国家である。

 世界政府加盟国は、その多くが世界貴族〝天竜人〟から天上金という上納金を搾取され苦しんでいる。天上金を支払わなければ王により国民の命を奪われ、たとえ天上金を払ってもかなりの確率で国が滅びてしまうという、踏んだり蹴ったりにも程がある惨状だ。現に天上金が払えなくなったことで非加盟国となり、それゆえに無法地帯となったケースも数多く存在する。

 天上の権力も及ばない国にするには、巨大な財力を必要とする。幸いにもその財力は有しており、実現は十分可能だろう。

 ただ、問題なのは中立主義という点だ。中立主義は通常、特定の軍事同盟などに加盟せず他国間の国際紛争には中立を維持することを意味する。現実世界において、中立主義の目的は平和主義や国際主義の他、大国間のバランスにより自国の独立や地域主義を守るなど、時代や地域や立場によって様々だ。 この世界での中立国の概念・定義はと言うと、そもそもこの世界に中立国があるかどうかすらわからないのだが、恐らく「世界政府から課せられる加盟国への義務は任意」や「政府の命令に従うのは自由」といったところだろう。

 一方で中立国を掲げた以上、自国を護る際は他の国の力を借りないという大きなリスクを背負う。テゾーロ財団の現時点での戦力は一国の軍隊をも勝る程だが、新世界での国家樹立となれば大海賊達による海の覇権争いに巻き込まれる可能性が高まる。

「さすがに海賊に手ェ貸してもらうってのは嫌だよな」

「どの派閥にも属さず、有事の際はどの国にも加担しない……貿易って面では問題ねェが難しい立場だな」

「ああ、中立国は軍事的な問題ではどの勢力にも加担してはいけない。それだけじゃなく、自衛以外の武力行使は禁止され、軍事的脅威に遭えば自国の軍事力だけで解決しなきゃいけない」

「……そりゃあ大変だな。新世界の大海賊が喧嘩売って来たら大変な事になる」

 新世界の闇は深く、それは加盟国と非加盟国を問わず根強く巣食っている。

 立て続けに勃発する無法者同士のナワバリ・利権争いが常識となりつつある世界一の海で国を創ろうとするのだから、多くの困難が待ち構えていることだろう。

「なァメロヌス。無難の反対って何だと思う?」

「?」

 唐突な質問。

 いきなり投げ出された問いに、メロヌスは戸惑いつつも答える。

「……多難や至難、じゃないのか?」

「――ブッブー、正解は〝有り難い〟だよ」

 テゾーロの言葉に、メロヌスは目を見開いた。

「この事業が無事終わっても、また新たな困難に見舞われる……だがそれを乗り越えた先の光景は絶景だぜ」

「………絶望的な光景の方、じゃないよな?」

「うっ……それは時と場合によるな……。何はともあれメロヌス、今までの事業は我がテゾーロ財団の〝最大の目標〟を実現するための準備段階に過ぎない。これからが真の闘いだ」

「……おれ達のボスはあんただ理事長。あんたに付いて行くと腹ァ括っているから、安心しな」

「……出来の良い部下を持てて幸せだよ、おれァ」

 

 己が持ちうる力を全て使って戦い抜いた先にあるのは、安堵ではなく次なる戦場。

 次の戦場は、テゾーロ財団にどのような試練をもたらすのか……それは誰も知らない。




このペースだと、結構早くフレバンス編が終わるかも。

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