ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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遅れてしまいました、やっと更新です。

11/12、サイの名前を修正しました。


第80話〝予防策〟

 テキーラウルフ。

 雪が降り積もる中、橋の建設作業は進んでいる。その視察に訪れたサイは、作業員のもてなしを受けていた。

「寒いところで食べる温かいモノはいいですねェ」

 ウキウキとした様子でシチュー――ステラの作り置き――を頬張る。

 テゾーロからは視察に行けと言われたが、実際は有給休暇に近い状態だ。まァたまに作業の確認や用具の点検を行うよう指示されるが、今回はテゾーロ不在時の建設作業が順調かどうかを確認する程度なので、事実上の休業日だ。

 サイはテゾーロ財団とサイファーポールという二つの組織で兼務している。仕事としてはテゾーロ財団の方が多いが、やはりストレスは溜まるもの。テゾーロ財団ならばともかく、ブラック企業ならぬブラック政府の直属の組織で有給休暇を申請するのは簡単ではない。

 だからこそ、こうしてテゾーロ財団の仕事を理由に――政府を欺いて――ゆったりとした一時を味わう。何だかんだ言って社員を甘やかすテゾーロだからこそ、こういうことをやっていても咎められることは無いのだろう。

(橋の建設は順調ですね。そろそろ終わりも見える頃でしょうし、組織全体で息抜きができそうですね)

 すると――

 

 ドキュン!!

 

 サイはシチューが入った皿を置くと、「飛ぶ指銃(シガン)」を放った。

 〝武装色〟の覇気を纏った状態で炸裂したそれは、地面を小さく抉った。

「一体何の用ですか? ここはテゾーロ財団及び政府関係者以外は立ち入り禁止ですよ」

「……」

 警戒心を露にしながら問い詰めるサイ。

 ローブの男は誤魔化しきれないと悟ったのか、フードを外して素顔を見せた。その素顔は、左顔面を縦断する大きなダイヤの形の刺青を入れた気迫に満ちていた。

「……案ずるな、おれはお前と戦おうという意思は無い」

「――それはどうでしょうね。どこの馬の骨とも知れぬ輩でも、油断できないご時世ですから」

 サイはわかっていた。目の前の男が、只者ではないことを。

 そもそもテキーラウルフはこの〝東の海(イーストブルー )〟でもかなり北に位置し、事業が事業であるため政府の船の往来もある。それを掻い潜って関係者以外立ち入り禁止の建設現場へとやって来れたのだから、通常では考えられない事だ。敵意こそ示してはいないが、怪しさは最高潮である。

「……まァ、いいでしょう。私も戦う気はありませんしね、シチュー食いかけですし」

 両手を上げて溜め息を吐く。

 視察という名目のせっかくの有給休暇を邪魔されるのは心外のようだ。

「仕方ないですね、あなたの分のシチューも持ってきますか………名前は?」

「………おれはドラゴンだ」

 

 

           *

 

 

 寒空の下、シチューをドラゴンという男に奢りサイは二杯目を頬張る。

「目的は何ですか?」

「……この地は約700年前から橋を建設している。その労働者の多くは犯罪者や非加盟国の民衆で、過酷な環境下で苦しみながら生きてきた」

「……」

「だが、つい最近妙な噂を聞いた。ギルド・テゾーロという男が政府の命を受けて橋の建設を進めていると。おれはその男に興味を持った」

「成程、テゾーロさんに会いに来たっていう訳ですか……」

 ドラゴンが訪れた理由を察するサイ。

 この土地はある意味で曰くつきであり、世界政府に対し不信感や不満を抱く者からはかなり注目されているだろう。

(あれ? ってことは、テゾーロ財団が橋の建設に関わったのは……まさか反政府組織から目をそらすため?)

 ふと、テゾーロ財団が橋の建設に関わる前は不審な者達が度々目撃されていたことを思い出すサイ。テゾーロ財団が関わって以降は不思議なことに一度も不審者の報告は無かったが、その理由を運悪く理解してしまった。

 政府中枢は、テキーラウルフで目撃されていた不審者が反政府組織の人間であることを知っており、その者達がテキーラウルフの労働者を唆して反乱を起こさないようにテゾーロ財団を利用したのではないか。テゾーロは政府寄りでありながら民間団体であり、他者を理不尽に苦しめるようなマネは忌避している。政府中枢はそれに目を付けた可能性がある。

(「知らぬが仏」ってのはこういうことなんでしょうかね………)

 サイは思わず頭を抱えてしまう。

 やはり政府の薄汚い思惑が混じっていたようだ。

「……それで、あなたは何者ですか? 政府の人間でも民間人でもないでしょう?」

「なぜそう言える?」

「雰囲気でわかりますよ。これでもサイファーポールの人間です、相手は大体見ただけで察します」

「海賊だとは思わないのか?」

「海賊はこんな所に来ませんよ、ましてやここは〝東の海(イーストブルー )〟……その辺をプカプカ浮いてる海賊がわざわざ訪れねばならない訳があるとは思えない」

 サイの言葉に、ドラゴンは「そうか」と一言言ってシチューを平らげる。

 すると、今度はドラゴンがサイに話しかけた。

「お前の名は? さっき聞き忘れてな」

「……サイ。サイ・メッツァーノです。元々孤児だったゆえ本当の名がわからなかったので、サイと名乗ってました」

「サイファーポールのサイ、か?」

「ええ。メッツァーノの方は、今までの仕事の功績を認められて上司から報酬として与えられた名です」

「ギルド・テゾーロか?」

「いえ、サイファーポール(もうひとつ)の方です」

 ハハ、と陽気に笑うサイ。

 サイファーポールの人間とは思えぬ感情の豊かさに、ドラゴンは意外そうな顔をする。

「それで、そちらの仕事は?」

「………その前に、一つ問う」

「?」

「この世界の在り方をどう思う?」

 ドラゴンは、少しずつ話し始めた。

 庶民に対してあまりにも冷酷になれる世界貴族や出身国への失望。世界各国の理不尽極まりない格差社会。そこから導き出された、不要なものを淘汰する不条理な世界の恐ろしい未来。

 それらはサイですら把握できてない、非情すぎる現実だった。

「おれはそんな世界を変えるべく生きている」

「……この世界に戦争を仕掛けるつもりですか?」

「……」

 サイは鋭い眼差しでドラゴンを睨んだ。

「不条理な社会とその未来を正そうと革命家をやるのは結構ですが……掲げる目標の為に世界各地に戦争を起こし増長させるのならば、予防策としてここであなたを始末します」

 革命とは、社会観念(イデオロギー)の根本的な改革を行って政治権力や社会制度などの体制全てを変革させることだ。しかしその術は平和的な政権交代もあれば軍事的・暴力的な政権奪取もある。各国の体制の変化自体には世界政府の中枢はあまり口出しはしないが、クーデターのような暴力革命を見逃す程甘くない。

 たとえ非加盟国であったとしても、一国の崩壊を促した黒幕として世界政府から反政府組織の首領(ドン)として脅威と見なされるあろう。国を変えるために立ち上がることは結構だが、問題なのはその為の手段である。これが平和革命であればいいのだが、暴力革命として世界中に広まれば、各地でクーデターが発生して多くの血を流すだろう。

 それだけではない。血が流れることで、軍需産業が活発になる。それに目を付け巨利を得るために武器商人達がこぞって武器を横流しにし、クーデターをきっかけに金儲けの為にクーデターを内戦状態にさせ、それの長期化・規模の拡大を目論む。

 この流れが加盟国にまで影響を与えてしまった場合、世界政府はまともに機能しなくなり、革命家ですら望まないであろう「最悪の未来」が現実となるであろう。

「あなたはまだそこまで名は知られていないし、賞金も懸けられていない。それでも、世界の均衡と平穏を崩して破滅を目論むのなら、殉職上等であなたを消す。それが私の仕事だ」

 両腕に覇気を纏わせ、「飛ぶ指銃(シガン)」をいつでも放てるように構える。

 サイもまた、世界政府の英才教育を受けている。それはつまり、世界政府の為に死ねるように教育された人間だという意味でもある。目の前の男は素性も不明で能力も未知数だが、もしも世界の均衡と平穏を脅かす存在になるのであれば、命を捨ててでもここで倒さねばならない。それが、サイの正義であるからだ。

「……」

「……変わった男だな。サイファーポールにもお前のような男がいたとは驚いた」

「――世界政府の役人全員が汚職不正をしまくって私腹を肥やしてるゴミクズってわけじゃありませんからね」

「……」

 さりげなくとんでもない爆弾発言をしたサイに、ドラゴンは何とも言えない表情を浮かべる。

「あなたがこの世界で何を成し遂げようとするのか。どんな未来を真実として歴史に刻むのか。あなたが起こす革命の行く末、見届けさせてもらいますよ……我らテゾーロ財団が」

 期待を込めた言葉で、爽やかな笑みを浮かべるサイ。

「ああ、それと――」

「?」

「あなたとテゾーロさん、馬が合うかもしれませんよ?」

 

 

「ぶへっくしょん!! 誰だ、おれのこと言ったの……」

 同時刻、帰路の途中でテゾーロが寒くないのに謎のくしゃみをしたのは言うまでもない。


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