ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~ 作:悪魔さん
あと、アオハルのセリフを一部変えました。
一方、フレバンス。
珀鉛一色の街の郊外で、メロヌスはステラと共にテゾーロの商売仲間であるウミットから大きな木箱をいくつか受け取っていた。
「悪ィな、わざわざこんな所まで」
「うんだうんだ、そちらとはビジネスパートナーなのだ! 手を貸すことくらいして当然!」
「じゃあ、これぐらいの額で手を打ってくれるか?」
「それぐらいあれば十分だ」
メロヌスはアタッシュケースをウミットに渡す。
「では、私はこれで」
「すまないな、上司は今留守で」
「わっはっは!! 構わんさ、ビジネスとはそういうモノだ」
ウミットは上機嫌に笑いながら自前の船へ戻っていった。
「……メロヌスさん、これは?」
「開けりゃあわかるさ」
メロヌスは木箱をこじ開ける。
その中には大量の銃が所狭しと詰め込まれていた。
「これは……」
「少し前に理事長から「おれの代わりに護身術教えてくれ」と言われたんでな」
メロヌスが銃を仕入れたのは、ステラに護身として銃の扱いをレクチャーするためだった。
〝
西とは当然〝
テゾーロ財団は「表の勢力」だが、その闇の争いに巻き込まれる可能性があるのでこうして武器を調達・武装する方針になっている。幹部格はほとんどが覇気使いであるが、ステラだけが自衛の為の護身術を有していない。今後の活動と裏社会の勢力との対立などを考えると、ステラも自分の身を守れるようにならねばならないのだ。
「おれも財団の幹部だからな、報告義務と自己責任を前提に一定の権限はあるんだ。副理事長であるあなたもだ」
「そうだったの? 初耳だわ……」
ステラ自身が最近忘れつつあったが、彼女も副理事長という立場。テゾーロ不在時は代理権を行使することもできるのだが、彼女はその立場をすっかり忘れていたらしいようだ。
「――ということで、副理事長。あなたにも護身術として射撃訓練を受けてもらう」
「!」
財団の仮設事務所のすぐそば。
そこでメロヌスは、ステラに銃の知識を教え始めていた。
「この世界において、銃は大抵がフリントロック式……
大まかなシステムはマスケット銃――いわゆる火縄銃と変わらないが、装填不良や不発が起こりにくく、火器の弱点とも言える天候の影響もあまり左右されない。さらに構造が単純であるゆえに銃弾が尽きても銃口に入るものなら何でも発射できるので、戦場では大いに役立つ。
ただし短所として「撃発時の衝撃による銃身のブレやすさ」や「命中精度の悪さ」などが挙げられるので、銃火器の扱いに秀でた者以外はこれをメインに戦わないのが現状でもある。
「フリントロックは基本的に弾は一発限り……一発撃つ度に銃口から弾丸と火薬を挿入しなきゃいけねェから、面倒と言えば面倒だな」
「連射とかはできないのね……」
「そうだな、開発はしてるだろうが今のところ普及していない。一方で最近の改良によってこんな代物が流通して主流となりつつある」
ウミットから貰った大きな木箱から、ワイン木箱を出し蓋を取って開けた。
中には分解されたフリントロック式の拳銃が収められていた。
「見た目は変わらないように見えるわ……」
「
そう言うや否や、メロヌスは分解された拳銃を手早く組み立てていく。そしてその過程で、ステラはあることに気づいた。
「この銃、折れるの……!?」
「その通り、この銃は
ステラはテゾーロと共に色んな場所を訪れたが、時には海賊達との戦闘に巻き込まれたことだってある。それが何度も続けば、知識が無くても武器の違いくらいははっきりとわかるようになる。
「この銃の特徴は、フリントロックの部分がカートリッジ機能であること。つめねじ・コック・火打ち石・当り金・火皿・当り金用スプリングがセットになっている」
フリントロック式は大まかな仕掛けは火縄銃と変わらないため、弾を込めてから発射するまでに時間が掛かる。普通に考えれば銃口から火薬と弾丸を入れて押し込むよりも、手元の方で装弾できる方が楽だろう。
それを成し遂げたのが、メロヌスが今手にしている銃だ。フリントロックの部分が最初から装薬と弾丸を詰め込み済みで、それを撃つ度に取り換えることで時間短縮と連射を可能にしたのだ。
「これが普及すれば、連射式もいつかは流れるだろうな」
するとメロヌスは、今度は自身が携えているライフルケースを開けて愛銃を取り出した。
「これがおれのスナイパーライフル……おれの故郷で製作された銃だ。本来は命中率を上げるための
「こだわってるのね……」
「まァな……副理事長、銃を選ぶ上で一番重要なのは「目的に合わせること」だ。護身用ならばスナイパーライフルやショットガンよりも拳銃が向いている。拳銃は女性でも比較的容易に扱えるし携帯しやすいからな」
メロヌスは不敵な笑みを浮かべ、先程組み立てたフリントロック式の拳銃をステラに渡した。
「おれがレクチャーするよ副理事長。自分の身は自分で守るのが、「この海」を生きるコツだ」
「……ええ」
*
とある教会。
アオハルは礼拝堂のイスに腰かけて
(今んトコは大丈夫っぽいけどな………)
煙を吐きながらぼやくアオハル。
財団においても情報屋の仕事をしている彼は、この〝
というのも、〝
(おれも一応有名人だし、何か勘づかれたかな?)
収穫が無いという事は、相手の動きが読めなくなるという意味でもある。〝
「どうすっかな……」
そう呟いた、その時――
「何かお困りですか?」
「!」
アオハルに声を掛ける、一人の女性。
修道服を着ていることから、この教会のシスターのようだ。しかし顔をよく見ると所々肌が真っ白であり、珀鉛の毒に蝕まれていることが容易に窺えた。
「……その肌、珀鉛の?」
「はい……あなた方のことは耳にしております」
「お上のせいで急かされてるけど、もうちょっと待っててね。あと困り事は無いよ」
アオハルはシスターにそう告げ、口角を少し上げる。
シスターもアオハルに微笑みかけるとそのまま祭壇の前まで歩き、跪いて祈りを捧げた。
(……)
珀鉛で蝕まれた体に鞭を打って祈りを捧げるシスター。
それをイスから見ていたアオハルは、目を細める。
「……随分と熱心に祈るんだね」
「はい……神を信じれば救われます、その慈悲深さで民人である私達を導いてくださるのです」
「
「っ!?」
その言葉に、目を見張るシスター。
アオハルは畳み掛けるように言葉を紡ぐ。
「信じる者も信じない者も分け隔て無く救うのが、神と呼ばれる者のあるべき姿じゃない? 君の言葉が
「な、何をおっしゃるのですか!? そんな――」
「神は人間及び各人種から誕生した創作物であり、その実体は「未知」だよ。なぜならこの世に生を受けた全ての人種が神という存在を目にしてないからさ。おれも神という存在をこの目で確かめたことは一度も無いけど、君もそうじゃないの?」
人が求めるものを与えられるのは人でしかなく、人を救えるのは人でしかない。神が人類の価値観を共有できるわけも無く、人類は神によって選ばれた特別な存在でもない。神が人間の世界に介入することなどあり得ないし、人間が神の世界に介入することもできない。
それが、アオハルの価値観であり彼自身の
「あなたは、神を信じないのですか……?」
「――おれは少なくとも神や仏を否定できないよ。目に見えず確かめることもできない存在の有無は、誰であろうと証明できないからね。ただ、これだけは言えるよ」
――人間の世界は、神ではなく人間の手によって創られていくんだよ。
アオハルの口から出た意味深な言葉が、礼拝堂に響いたのだった。
次回はジンが暴れる回です。