ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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夢の国で現実逃避して投稿遅れました、申し訳ありません。
ここへ来て、意外な人物が登場です。


第77話〝上下関係〟

 8日後。

 聖地マリージョアの廊下では、珍しく五老星がいつもいる「権力の間」から離れていた。

「テゾーロがフレバンスの件で交渉に来ているようだ」

「大方の予想はつく。期限の日数を伸ばしてほしいのだろうな」

「だがこれはイム様の決定であるのだ、どうにもならん。期限以外で妥協してもらうしかない」

 謎の人物〝イム様〟のことを口にしながら「権力の間」へと戻る五老星。彼らが口にするイム様とは、世界政府の最高権力者である五老星をも従わせる権力者である。

 世界政府の理念は「各国の王は平等、独裁の欲は持たない」と「パンゲア城の玉座には誰も座らないことこそが平和の証であり、世界にたった一人の〝王〟などいない」の二つである。そして何人であろうと座ってはならないパンゲア城内にある玉座は「(から)の玉座」と呼ばれ、世界の頂点に君臨する血族・天竜人ですら座らない玉座である。

 しかし実際はごく一部の人間以外には知らされていないが、本来誰も座れないはずの「虚の玉座」に座ることができる権限を持つ〝王〟がいる。それが五老星が口にしたイムという人物である。

 イムは世界政府の理念の都合上、表舞台に出るような事は一切無い。普段はパンゲア城の「花の部屋」で虫や植物と戯れたりしている一方で、五老星をも従わせる権力を行使して「歴史より消すべき〝灯〟」を指名して彼らに処理させているのだ。

 そんなイムが先程五老星に命じたのは「ギルド・テゾーロが期限までに治療法を確立しなかった場合、フレバンスを政府加盟国から排除せよ」という指令だった。恐らく珀鉛の毒性を今まで隠蔽していたことを公に晒されるのをきっかけに、反世界政府勢力が多く現れる可能性があると危惧したのだろう。イムの決定は神のお告げも同然なので、五老星は素直に実行に移すというわけだ。

「とはいえ、奴も我々との衝突は望まんはずだ」

「そうだな、イム様も奴に一目置いておられる……下手に争い事を起こすのは愚策だ」

 実を言うとイムはテゾーロの事業活動に興味を示している。特にテキーラウルフは700年もの間そこまで進展しなかった工事が彼によって急ピッチに進行したので、好意こそ示している節は無いが働きぶりには一定の評価をしている。

 叩き上げで成り上がったテゾーロに興味を示したイムに五老星は絶句したが、世界政府に反旗を翻し世界の実権を握ろうと画策したフォードの借りもあるので、内心では致し方無いと思ってもいる。

「すでに奴は到着しているそうだ。話さえ拗れなければ別に大した事ではない……早々に片を付けるとしよう」

「うむ」

 

 

           *

 

 

 「権力の間」にて。

 テゾーロは五老星と先日の書状の件についての交渉を始めた。

「それで……これはどういうつもりですか?」

『…………』

 怒りとも呆れともとれる表情で、五老星を問い質すテゾーロ。

 今回の案件は「〝天竜人〟の命令」であるが、五老星はその天竜人の最高位……ゆえにテゾーロは五老星の意向もあると判断したのだ。

「なぜあんな書状を送りつけたんですか? 珀鉛病が感染症ではないことも伝えてあるはず……私はあなた方の癪に障るようなマネでもしましたか? こういう事が度々起きれば我々の事業に支障をきたすので、やめていただきたいのですが」

「……テゾーロ、お前は立場上我々よりも下だ」

「お前に一任こそしてるが、決定権は常に我々にあることを忘れるな」

「ええ……ですがこの中の誰よりも現場を知ってます。現場に居もしないで滅茶苦茶な命令をしないでほしいんですよ」

 五老星の言葉に反論するテゾーロ。

 苛立ちを隠せなくなってきたのか、〝覇王色〟の覇気を放ち始める。

「まさか……こんなマネを指示したのは五老星(あなたたち)より〝もっと上の権力者(ヒト)〟――ってことじゃないですよね?」

『…………!!』

 テゾーロの言葉に、目を見開く五老星。

「正直に言いますと、あなた達の上に誰がいても(・・・・・)私は何も言いません……政治でもビジネスでも〝止むを得ない事情〟は生じますから。ただ、自らの保身と利益の為に非人道的行為を行うのであれば真っ向から対立する覚悟であるだけです……オハラのように」

 テゾーロとしては、五老星の上にたとえ何者がいようと関係無い。世界の平和と秩序、力の均衡の維持はとても難しいことだからだ。

 現実世界においても、大航海時代にヨーロッパ諸国が民間の船に他国の船を攻撃・拿捕することを認めた私掠船――王下七武海のモデル――の制度があったように、潔白のまま全てを綺麗事で済ませることはできない。それが政治というモノであり、現実というモノでもあるのだ。

「――平和や秩序は綺麗事だけで保てるような生易しいモノではない」

「でしょうね。でもその綺麗事をできる限り実行に移すのも大切では?」

「世界が相手ではお前のその甘い考えは通用せんぞ」

「…………」

 これ以上の言い合いは不毛と判断したのか、テゾーロは覇気を抑えて溜め息を吐く。

「まァ、今日はあなた方と対立するために来たのではないので言い合いは止めにしましょう」

「賢明な判断だ」

「では用件を改めて聞こう。といっても、我々の答えは決まっているが」

「……期日はどうしても伸ばせないのですか」

「無論だ」

 すると五老星は、政府側の意向を語り始めた。

 彼ら曰く、フレバンスの件は公になると大きな混乱を生むと考えており、できる限り内密に収拾させたいという。期日はすでに決めており、それまでに事が済まねばフレバンスを除名することも決めているが、その一方で期日を伸ばすこと以外ならばそれなりの配慮はするという。

「仕方ないですね……どうやらこちらが巻いていくしかないようだ。では、政府側(そちら)の人材や技術を使うのは?」

「それならば問題無い。お前の事業にベガパンクも協力するのだからな」

「……時間を伸ばせないのは残念ですが、それしか妥協できないようで」

 さすがのテゾーロもこの交渉はお手上げのようだ。

 しかし、今回の交渉によって世界政府は非情な手段も厭わない一方で一応は(・・・)それなりの配慮も考えてはいることもわかった。別に好きでもみ消しを行ってるわけではないと知れたのは、ある意味で重要な収穫と言えるだろう。

「……あなた方の意向はわかりました。こうなれば仕方ありません」

 不満気ながらも、テゾーロは背を向けて扉へと向かい、頭を下げて「権力の間」を後にした。

「フゥ…………まだ知ってはおらんようだが……」

「テゾーロめ、勘づいたか………?」

「しかし奴の力は今後の世界に必要だ。たとえ勘づいたとしても、テゾーロが暴れることはなかろう」

「うむ……それはあのお方も承知していることだ、今のところ問題はあるまい」

「確かに強大な力を秘めてはおるが、歴史から消すべき〝灯〟ではなかろう」

 五老星はテゾーロをそう評し、世界の均衡を乱そうとする人物ではないという認識で総意する。そしてその会話は、すでに近くの控え室へ移動していたテゾーロに聞かれていた。

(あのお方……やはり〝もっと上〟がいたか。一応敵対する気は無いようだな)

 意識を集中させて〝見聞色〟の覇気で五老星の会話を聞くテゾーロ。

 敵意は持っていないようなので、内心では彼は安堵していた。

「……なあサイ、()()()()()()()()ってどんな奴か知ってるか?」

「――それは言えませんよ、テゾーロさん……サイファーポール(われわれ)にも秘密保持の義務ぐらいあります。知ってたとしても言える立場じゃないですよ」

 テゾーロの質問を一蹴するサイ。

 サイもまた、1週間以上の調査を終えたばかりなのだ。

「……おれは政府の人材ならいくらでも使っていいって言われたけど、そっちは?」

「期待すればする程に失望する結果です」

「じゃあいいや」

 サイの言葉に全てを察したのか、テゾーロは訊かないことにした。

「……これからどうするおつもりで?」

「ベガパンクが協力してくれるなら、彼にも薬を作ってもらうさ。あと海軍本部の医療班をちょっと借りるようコング元帥に直接言うよ」

 これからテゾーロは、「新世界」に存在する世界政府直轄の島で研究をしているDr.ベガパンクの元へ向かって対談をする予定。その道中で彼は海軍の医療班にも協力を要請し、あわよくば何人かをフレバンスへと招致する気であるのだ。

「そうだサイ、たまにはテキーラウルフの様子でも見に行ってくれないか? 橋の工事は大分進んでるはずだが」

「了解」

 サイにテキーラウルフの視察を命じるテゾーロ。

 最近はフレバンスに集中しすぎてテキーラウルフを疎かにしかけたので、ここらで幹部に視察に行かせて進行状況を確認しなければならないだろう。

「……ああ、そうだ。これを渡さなければいけませんね」

「?」

 サイはテゾーロに大きな封筒を渡した。

「これは?」

「「CP9」に属する私の師からいただいた資料です。あるテロリストが水面下で動いているらしく、表だった事件こそ起こしてないものの政府上層部も注意を促しているそうです」

「テロリスト?」

 封筒の中身の資料に目を通すテゾーロ。

 サイ曰く、そのテロリストは仲間にも素性の詮索をさせない性格であるゆえに一切素性が掴めないらしい。サイファーポールも「世界政府を直接倒そうとするかもしれない」という認識の下で徹底した情報収集を行っているが、勘があまりにも鋭くて苦労しているとのこと。

「幹部のほとんどが覇気使いである財団と言えど、立場上狙われる可能性もあるので注意せよと」

「随分と気を遣ってくれる先輩じゃないか。属する部署は違うだろ?」

「諜報員も最低限の情緒はありますよ………いずれにしろ、素性も掴めなければ明確な動きも掴めないので警戒はしておくべきかと」

(……まァ、確かに()()()()じゃあ気を配るしかねェわな)

 テゾーロが目を通している資料には、ある写真が載っていた。

 その写真は、黒いローブを身に纏ってフードを被る顔の刺青が特徴の男であった。


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