ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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第76話〝図書室〟

 翌日。

 仮設事務所の中で、テゾーロは部下が記したメモを片手にセンゴクと通話していた。かなりの重要案件なのか、サイ以外の財団の幹部格が全員集結している。

「――以上がドフラミンゴとのやり取りです」

《やはり接触してきたか……しかもお前には政府から書状が送られている。タイミングとしては最悪だが、よく妥協せず切り抜けたものだな》

海軍(そっち)で世話になった部下が、強硬的態度を示すべしと訴えてくれましてね。おかげで迷わずに済みましたよ」

《! シードか?》

「――良い子ですよ」

 テゾーロはシードについての評価を語り始めた。

 実力や業務での活躍ぶりも当然そうだが、何よりも評価してるのは「有事の際の毅然とした態度」だ。それが顕著に現れたのが先日のドフラミンゴとの対応における彼の訴えである。

 彼は普段こそ物腰の低い平和主義者であり、仕事人のメロヌスやサイと違って何かとしどろもどろする。だが先日のような思い切って強硬的な姿勢を示したのはテゾーロも初めてであった。それも感情任せではなく、海兵時代の経験を踏まえた上での彼なりに考えた強い主張だ。

 シードは心優しく温厚がゆえに迷いやすく情に流されやすいと思われるが、実際は芯が通っており意志も強いのである。

海兵時代(むかし)と変わらんのだな》

「正義は価値観です……「自分の世界」がひっくり返らない限り、早々に変わりませんよ」

《フッ……全くだな》

「そういうことです。一応用件は済んだので、電話は切りますよ。あなたの言う通り、おれ達は好きに動くんでよろしくお願いいたします」

《ああ、ご苦労》

 

 ガチャッ

 

「――ハァ~……」

 盛大に溜め息を吐く。

 それを見ていたアオハルは、恐る恐る声を掛ける。

「………で、どうなのギル(にい)

「……事の顛末はセンゴクさんに伝えた。センゴクさんはドンキホーテ海賊団を潰しに部下を潜入させる手筈……おれ達も巻き込む可能性があるが、その辺りは好きに動いていいそうだ」

 ドカッとソファに座り、足を組んでお茶を飲むテゾーロ。

 そんな彼に対し、正面でお茶を飲んでいたステラは心配そうな顔で口を開いた。

「でもテゾーロ……そのドフラミンゴって言う海賊は大人しく諦めないんじゃないかしら? 欲しいモノは力づくで奪うのが海賊だもの、きっと次の策を講じてると思うわ……」

「ステラさんの予想は間違いなく当たりだね。白ひげのように仁義や義理人情を重んじる昔気質の海賊(・・・・・・)じゃないだろうし」

「同感だ。理事長の話を聞く限り、奴がここで退いてくれる程潔いとは到底考えられない」

「最悪だな」

 ステラの推測を肯定するアオハル達。

 テゾーロ財団は数多くの事業を積極的に行い、莫大な利益を得ている。それだけではなくテゾーロ本人が財力と知名度を用いて多くの有力者とコネを持っているため、テゾーロ本人はある種の権力者になりつつある。

 テゾーロ財団の莫大な財力とコネ……それらを狙う者はいても不思議ではない。しかし相手が海賊となれば、商人や権力者の理屈は通用しない。欲しいものは力づくで手に入れるのが無法者というモノ――ましてや白ひげやロジャーのような昔気質の海賊ではないので、汚いマネも躊躇せず実行するだろう。その上相手は商才に恵まれたドフラミンゴだ、ここで手際よく引いてくれる保証も無い。

 しかしテゾーロ本人としては、ドフラミンゴは後回しにしてもいいと語る。

「おれとしては、最悪なのは世界政府(おかみ)だけどな。このタイミングで何つー書状を叩きつけてんだ……何だよこれ、新手のいじめかよ?」

「確かに、今回ばかりは頭にきたな」

 メロヌスは煙草の()(えん)(くゆ)らせて書状に目を通すと、テゾーロに返した。

 世界政府は世界の平和と秩序の維持に尽力しているのだが、実際は政府にとって都合の悪い事――オハラの抹消や人身売買の黙認など――は隠蔽・情報操作・軍事力を用いてもみ消しを行っている。ただしテキーラウルフに関しては、テゾーロ財団と世界政府による「就労支援施策」という名目で一部を除いて(・・・・・・)世間に公表しているので、全ての案件に情報操作をしているわけではない。

 とはいえ、今回の政府中枢からの無茶ぶりは全くもって酷い。もしかすればテゾーロ財団の尽力が功を奏して「フレバンスは大丈夫だろう」という判断をした者もいるかもしれないが、やはりあの文面だと自らの保身を考えているようにしか見えない。

「ギル兄、どうすんの?」

「……近い内に資料をベガパンクに渡すから、そのついでに五老星と交渉してくるよ」

「つっても、五老星はそう簡単に妥協してくれるのか? その書状の内容は五老星が承認したんだろ?」

 テゾーロの対応に、ジンが口を挟む。

 五老星は世界貴族〝天竜人〟の最高位であり、世界政府の最高権力者である。テゾーロ財団は世界政府に協力しており、テゾーロ本人が天竜人のクリューソス聖と交友関係があるなど、一応五老星と直に面識できる立場ではあるが彼らの決定を覆すのは難しいだろう。

「まァ、その辺りは話してみなきゃわからねェな。五老星は権力に溺れてない様子だし明晰な頭脳の持ち主だ、多少の配慮はしてくれると思うがな」

 テゾーロはそう言って湯飲みに茶を注ぐと、少し飲んでから書状を握り潰した。

 

 

           *

 

 

 一方、サイは聖地マリージョアのパンゲア城内にある図書室で探しものをしていた。

 パンゲア城内にある図書室は、加盟国・非加盟国問わず世界中で出版された全ての出版物を収集・保存しており、現実世界で例えれば国立国会図書館みたいなものだ。図書室には役人以外は手に取ってはならない貴重な資料も存在し、中には航海日誌や世界中で起きた事件の報告書の写しも厳重に保管しているのである。

 さて、そんな場所でサイが何を探しているのかというと、100年以上前のフレバンス王国の地質調査の報告書である。

「えっと………これかな?」

 サイは分厚いファイルを棚から取り出し、フレバンス王国の地質調査の内容を確認する。

(フレバンスには、珀鉛と呼ばれる有毒性の白い鉛が大量に埋蔵してある。その量は今回の調査では把握できず、数百年使い続けてようやく枯渇するであろうと判断している。――この時点で有毒性は把握していたんですね)

 ファイルに綴じられた報告書には、テゾーロ財団も把握できてない貴重な情報が正確に記されていた。

 フレバンスの真下には他国の領土も跨るくらいの巨大な鉱床があること、通常の鉛よりも製錬と加工をしやすく錆びや腐食に強いという性質が発見されたこと、性質上採掘も容易であるため通常の鉛や亜鉛と同様に安価な金属であることなど、珀鉛に関する貴重な記述が報告書に載っていたのだ。

(しかし、肝心の毒の中和方法は載ってないようですね……)

 珀鉛の毒の中和方法も乗っているのではと期待したが、この報告書には有毒性こそ詳しく載っていたが肝心の解毒の方法は載っていなかった。

 あの世界政府のことである、きっと珀鉛の毒性よりも巨万の富を優先したのだろう。

「ハァ~……全く、いざという時に役に立たないなんて………!!」

 サイは思わず、この場で世界政府(じょうし)の悪口を言ってしまう。

 だが言っても仕方ない。言ったところで状況は何一つ変わらないのだから。

「収穫ゼロか……何でホントこういう大事な時に……」

「お困りのようだな」

「! ああ、ラスキーさん……」

 苦悩するサイの元に、CP9のラスキー――カリファの父でアオハルの知人――が現れた。彼はサイとは諜報活動及び六式のイロハを教えた間柄であり、10年以上の付き合いなのだ。

「新しい職場はどうだ?」

「気楽に働けて最高ですね。トップも部下も堅物ではないので、とても親しみやすい職場です」

「それは結構……で、何に悩んでるんだ?」

「ああ…………それがですね――」

 サイは酷く落ち込んだ様子で愚痴を零し始めるのだった……。




単行本90巻買って読みました。
ステリー、小物臭が半端ないですね。あの顔で鳥海さんか~……って思うと、複雑です。
そう言えばアニメの方はまだまだ出てない声優さんいますね。個人的には井上和彦さんや宮野真守さん、中村悠一さん辺りがいい加減出ても良いのではと思ってます。

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