ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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第75話〝シードの訴え〟

 ドフラミンゴからの突然の電話。

 室内には、異様な緊張感が漂った。

(ここへ来て、か……)

 テゾーロはサイに目を向け、サイにフレバンスにいる幹部達を呼ぶようアイコンタクトを取った。サイは彼の意を察したのか、部屋から出て行った。

 テゾーロ一人となった部屋で、天夜叉との交渉は始まった。

《お前も自分の部下から聞いただろうが……どうだ? おれと手を組まねェか?》

「断る。ウチは悪徳業者じゃないんだ」

 きっぱりとドフラミンゴの申し出を斬り捨てるテゾーロ。

 しかしドフラミンゴはそこで諦めるような男ではなく、食い下がる。

《そうか? 決して(わり)ィ話じゃねェはずだ、互いに利がある》

「いや、ウチは「海賊と手を組んでる」っていう風評被害が生じるんだが」

 海賊が世界中の人々にどれだけの恐怖と被害を与えているか。それを賞金稼ぎ時代の頃から理解しているテゾーロは、現役の海賊と手を組んでビジネスするのは風評被害が生じる点で抵抗がある。

 そもそもドフラミンゴという海賊(おとこ)は、「世界の破滅」を望む残忍で凶暴な輩だ。その願いをかなえるために、手を組んだ瞬間にテゾーロの財力とコネを根こそぎ奪い取ろうと画策しかねない。

 するとそこへ緊張した面持ちでシード達が現れ、ソファやイスに座って様子を見始めた。テゾーロはセンゴクに伝える必要があると判断し、メモを取るよう指で合図をしてから口を開いた。

「いいかドフラミンゴ……おれ達は海賊じゃない。交渉を持ち掛ける相手を間違えてないか?」

《フッフッフ! そうでもねェさ……まァ、お前が海賊だったら嬉しかったがな》

 ドフラミンゴは本音を少し漏らした。

 確かにテゾーロ達が財団ではなく海賊団として活動してたら、海賊同盟という形でうまくいっただろう。もっとも、テゾーロは海賊になる気など毛頭無かったが。

《――おれはお前が今、何を探しているのかは大体予想がつく。おれは裏社会での闇取引で生計を立てているんでな》

「………何が言いたい?」

《〝オペオペの実〟を探しているんだろう? おれならばそれを見つけ出せる自信と力がある!! ――これならどうだ?》

「っ!!」

 ここでドフラミンゴ側が、カードを切ってきた。

 テゾーロは珀鉛病の治療法が万が一にも確立しなかった場合、オペオペの実の能力で患者から珀鉛を取り出すという()()()()を用意する気である。ドフラミンゴはテゾーロに対し、オペオペの実を見つけ出せる発言で協力的になるよう誘導する気だろう。

「……ドフラミンゴ、お前は私を脅しているのか?」

《フッフッフ!! 脅しねェ……それはお前の解釈次第だ。正直な話、お前を攻撃することもできるがな……フッフッフッフ!!》

 テゾーロは少しだけ迷った。

 フレバンスの案件は、間違いなく財団史上最も過酷な事業である。最悪の場合、オペオペの実に頼るしかないという事も十分にあり得る。

 テゾーロの部下には、賞金稼ぎであったメロヌスとハヤト、情報屋も営むアオハル、現役の諜報員であるサイがいる。しかし彼らが確実にオペオペの実を見つけ出せるという保証もない。そもそもオペオペの実は海軍や世界政府を以てしてもトップシークレット扱いなのだ、海軍上層部や政府中枢がたとえ見つけ出しても、譲ってくれるのかどうかも疑問だ。

 それ以前に、ドフラミンゴもオペオペの実を狙っているのだ。オペオペの実を見つけ出すことに成功しても、必ずやこちらの事情など気を配らずに奪うだろう。

 とはいえ、ドフラミンゴは闇取引が得意分野であるのも事実だ。協力すれば海軍や世界政府を出し抜いて情報を得られる可能性も十分にある。だが……。

「下らんな、切らせてもらう」

 テゾーロにとっては、愚問である。

 彼はドフラミンゴの申し出を一蹴して受話器を下ろそうとした、その時だった。

「大変ですぞ!! 皆さん!!」

 脳天に響く程の大きな声だった。

 電話中のテゾーロの元に、タナカさんが紙を手にして慌てて駆けつけたのだ。

「どうした?」

「テゾーロ様にこれを!!」

 タナカさんがテゾーロに渡した紙――それは、世界政府からの書状だった。

 テゾーロはそれに目を通した瞬間、顔色を変え頭を抱えた。

「…………これは少々、ショックが強すぎるな……」

「……一体何が?」

「見ればわかる」

 テゾーロは書状の内容を言わずサイに渡すと、サイは内容を確認してからテゾーロと全く同じ反応をした。

 不審に思った一同は書状を読んでみると……。

「そんな……!!」

「何という事だ……!!」

 目を見開き、呆然とする一同。それ程に非情な下知だったからだ。

 何と書状には、「テゾーロ財団が2年以内に珀鉛病の治療法を確立させ事業を終えられなかった場合、フレバンスを加盟国から除外する」という旨が書かれていたのだ。

「な、何で……!?」

「珀鉛が生み出す巨万の富に目が眩み、珀鉛の毒性を今まで隠蔽していたことが公にバレることを恐れ始めたんだ……!!」

「珀鉛の資料は加盟国の王侯貴族に回してある……それを知った一部の連中が騒ぎ始めたのか……!?」

「いずれにしろ珀鉛の真実が公になれば、世界規模で流通している以上は相応の混乱を生みかねない……だからそうなる前に手を打とうと……!!」

「世界政府……どこまで腐ってるんだっ……!!」

「ゲスすぎると言うべきか、軍事力(バスターコール)で滅ぼさない分まだマシと解釈するべきか……」

 世界政府からの下知に、怒りや困惑の声が広がる。だが一番怒り困惑していたのはテゾーロ本人に他ならない。

「くっ……!!」

 〝覇王色〟の覇気を放ち、怒りに体を震わせるテゾーロ。

 世界政府の身勝手さは知っていたが、ここまで強引で横暴な手段に躊躇い無く出るのは想定の範囲外だった。加盟国の命運より自分達の保身を優先する政府中枢の判断に、怒りが爆発しそうである。

 しかし組織の長が取り乱しては、組織全体に混乱を生み出しかねない――そう判断し、〝覇王色〟の覇気を放つのをやめて爆発しそうな感情をどうにか押し殺し、冷静に考える。

(まさかこうなるとは……参ったな、どうするか……)

《どうした? 気が変わったか? フッフッフ!》

 今まで交渉決裂を辞さない態度であったのに、ここへ来て窮地に立たされたテゾーロ。その苦しそうな表情を浮かべるテゾーロを見透かしているのか、ドフラミンゴの笑い声が響く。

 フレバンスの人々を救うべく、テゾーロ財団はあらゆる手段をもって取り組んでいる。しかしここへ来て政府がとんでもない暴挙に出てしまい、予定が狂ってしまった。それこそ、ドフラミンゴと協力せざるを得なくなる状況になりそうだ。

(どうすればいい……!?)

 すると、ソファに座っていたシードが立ち上がり……。

「テゾーロさん!! その交渉は乗ってはいけません!!」

『!?』

「!」

 シードは声を荒げ、テゾーロに強く訴えた。

「所詮相手は海賊、何を企んでるか見当もつきません!! 我々を利用して、使えなくなったところを潰すに決まってる!! 奴らはあなたを貶め、この財団を乗っ取ることも目論んでいるでしょう……ドフラミンゴに関わってはいけません!!」

 ドフラミンゴにも電話越しで聞こえる程の大きな声で、彼と通話中のテゾーロを説得するシード。

 それはテゾーロを信じ、財団の事業は必ず成功すると思っているから言える言葉だった。その言葉に、テゾーロは動かされた。

「……だそうだが、どうするドフラミンゴ? 私の部下は交渉決裂も辞さないどころか()()()()()も覚悟しているという態度を示しているのだが」

 テゾーロの言葉に、ドフラミンゴは返事を返さない。

 たとえ弱みを握ったとしても、強硬的な姿勢であるテゾーロの部下達を抑えるのは難しくなると考え出したのだろう。

《…………フッフッフ! それは困るな。おれは武力衝突は望まないんでな、穏便に事を済ませたい》

「それは私も同様だ。今ここで本格的に争えば、双方タダでは済むまい」

 テゾーロとしては、今ここで無暗に抗争をすれば最優先事項を後回しにしてしまい今後の運営に支障をきたすと考えている。ドフラミンゴも、下手にやり合って海軍が介入したら厄介だと考えてもいるようで〝楽な手段〟には出れないようだ。

「――そういう訳だ、穏便に交渉は決裂だ。おれ達はお前には従わない」

《何だと……!?》

「オペオペの実は自力で探すさ、不老手術などにも興味無いしな。じゃあな」

《おい、待てテゾ――》

 

 ガチャッ

 

「……ハァ、厄介な事になったな」

 ドフラミンゴとの通話を一方的に終えたテゾーロは、深く溜め息を吐いた。

 本当なら世界政府が支援してほしいが、やっぱり切り捨てる方を選んでしまった。選択肢としてならばアリかもしれないが、選ばないでもらいたいものである。

「……シード」

「!? は、はいっ!」

「ありがとな。お前のおかげで迷わずに済んだ」

「――!! い、いえ、それ程でも……」

 シードはテゾーロからの感謝の言葉に、照れながらも当然のように胸を張る。

「とはいえ、これでドンキホーテ海賊団が退くとは思えませんな……」

「ああ。とりあえずドフラミンゴと今回の書状の件はおれがどうにかする。五老星とも掛け合って、一日でも長く期日を伸ばすよう働きかけよう。お前達は年内に治療法を確立させるんだ」

「ですね……まァ新しい鎮痛剤の開発や輸血の準備など、珀鉛病の症状に合わせてどうにか応急処置は施してますが、いつまで持つか……」

「……間に合いますか!?」

「いや、()()()()()()()()()()!!! ――諦めず、最後までフレバンス(このくに)を見捨てずに取り組もう」

 テゾーロの力強い言葉に、部下達は頷いて一斉に動き出したのだった。




最後の展開は、ちゃんと元ネタがあります。
ヒントは……邦画です。今まで観た日本の映画で個人的には最高傑作でした。

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