ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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8月最後の投稿です。
9月は色々事情があるので、投稿が遅れてしまうかもしれないのでご了承ください。


第74話〝病は気から〟

 3日後。

 テゾーロはシード達と共に、周辺諸国の医療機関から借りた防塵マスクを着けてフレバンスの街中を視察していた。

「フレバンス……噂通り真っ白だな。まるで雪景色のようだ」

「テキーラウルフのような雪景色ですね……」

 珀鉛産業の影響で辺り一面が白一色であるフレバンスだが、珀鉛病によって賑わいは無く住民の出歩きも少ない。国民病と言っても過言ではない珀鉛の中毒症状の恐ろしさが窺える。

「それにしても……テゾーロさん、僕達に防塵マスクと手袋は必要でしょうか? 珀鉛の採掘は全て停止しているんでしょう? 鉱山には行かないんじゃないんですか?」

「街並みをよく見ればわかるさ」

 シード達は街の建造物をよく観察する。

 しかし、辺り一面が珀鉛で塗装された建造物だけで何もない。

「何も無いですけど……」

「その建造物の中に工場と煙突は無いか?」

 テゾーロのその一言に、シード達は顔を青くした。彼が何を言いたいのかをすぐに理解したからだ。

「おれ達がフレバンス(このくに)に来るまで工場は稼働していたらしい。じゃあその工場から排出される煙に、もしも珀鉛が混ざっていたら?」

「呼吸と共に摂取……」

「だよな。だったらおれがわざわざ郊外に仮設事務所を建てて、そこへ医師達を呼ぶ意味がわかるよな?」

 つまり防塵マスクと手袋を着用するのは、空気中に珀鉛の粒子が漂っている可能性が高いからだ。それを呼吸と共に吸い込んでしまえば肺に蓄積され、いずれは全身を蝕んでいく。

 それらの予防をするためにテゾーロはフレバンスの郊外に仮設事務所を設置し、摂取ルートの根絶に尽力している――ということである。

「おれ達だけがマスクをするのは、治療する側・援助する側が倒れたら全滅しちまうからだ」

「共倒れは最悪ですしね……」

「その通り。まァ幸いにも中毒症状であって感染症じゃない……健常者でも普通に接して問題は無いが、念の為だ」

 すると、テゾーロ達の前に一人の子供が現れた。頬や手の甲には珀鉛病特有の白い肌や髪の毛であり、病状は悪そうだ。

「――なぜここに?」

「今この国で働いてるのは医者やテゾーロ財団(おれたち)ぐれェだし、国民の多くが病院や自宅で療養している。見舞いなり差し入れなり持って出歩くってんなら別に不思議じゃない」

 テゾーロは子供に近づくと、子供と目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。

「やあ、元気かな少年?」

「……うん」

「それは何より。常日頃ポジティブに生活することは大事だからな」

 防塵マスク越しで口角を上げテゾーロ。

 少年に訊くと、彼は病院で働く父に毎日弁当を届けているそうだ。父は寝る間も惜しんで珀鉛病の治療法を確立させようとしており、最近は珀鉛病の症状とストレスの影響か体の調子が悪そうだという。

「今度弁当を届ける時は「体に気をつけて」と言うといい。病気を治す側の人間が倒れたら世話ねェしな」

「うん……ねェ、おじさん……」

(おれ、おじさんなの……?)

 テゾーロはおじさん発言にショックを受けつつも、どうしたんだと声を掛ける。

「これ……治るかなァ……?」

「……この世に不可能なことは何一つ無いんだよ、少年。かつてある王国で猛威を振るっていた小さな島そのものを滅す程の疫病も、多くの医者・専門学者の命を削るくらいの努力によって今では死亡率が極めて低い。人々の努力と進歩は恐ろしい病気にも打ち勝つことができる。君の体を蝕む珀鉛病だってそうさ、必ず治る」

 フレバンス王国と同じ〝北の海(ノースブルー)〟にあるルブニール王国は遥か昔――今から数百年程前、〝樹熱〟という疫病が猛威を振るっていた。この樹熱という疫病は植物全般にかかるモノで、人間が感染すればその死亡率は90%以上であるという鬼病……瞬く間に国中に蔓延し、10万人の死者を出した。

 樹熱はルブニール王国を苦しめていたが、後に〝南の海(サウスブルー)〟の植物学者が探検と研究を重ねた末に「コナ」という木の樹皮から取れる「コニーネ」という成分が樹熱の症状を治すのに効くことを発見し、それを用いた特効薬によって被害を止めることができた。

 樹熱との闘いは膨大な時間を費やし多くの犠牲を伴ったが、恐ろしい鬼病が今では完治できる程の病気となったのは紛れもない事実であるのは言うまでもない。

「ホント……?」

「〝病は気から〟だよ……病気というモノは気の持ちようによって良くも悪くもなる。お前が元気でいればいる程、体内の毒の進行も遅くなるかもしれないってことさ」

 テゾーロはそう言うと立ち上がり、少年の頭を撫でた。

「人が想像できることは、必ず実現できる。もう暫くの辛抱だ、それまで元気でな」

「……うん」

 

 

           *

 

 

「そうですか! はい……はい……わかりました」

 事務所に戻ったテゾーロは、電話対応をしていた。

 政府からの電話であり、それは朗報でもあった。

「では研究資料は後日そちらへ送ります。漏れると困るので。では……」

 電伝虫の通話を終えると、サイが声を掛けた。

「随分と上機嫌ですね。何か良い事でも?」

「ああ……良い意味で想定外の協力者(サポーター)が現れてね」

 テゾーロはある人物が協力を名乗り出たことに満足していた。協力を名乗り出た者の名はDr.ベガパンク――あの天才科学者である。

 彼は一歩間違えれば神の領域に達するような危ない研究も行うが、それらを含め全ての研究が世界や人々の為にすることを信条としてるので善良な人物でもある。彼はテゾーロ財団の懸命な働きかけとフレバンスの切迫した状況を知って感銘を受け、力を貸そうと動いたのだろう。

「それはありがたい限りですね。政府側(こちら)も彼の素晴らしさと頭脳明晰さは窺ってます、毒の中和も可能でしょうね」

「確かにそうだが、言い方を変えれば「天才科学者も手を貸す程の事」でもある。フレバンスの珀鉛産業の影響が、世界政府が重い腰を上げるくらい深刻化しているんだろう」

 これは数日前に確認したことだが、珀鉛製の物資は表も裏も問わず(・・・・・・・)世界中に輸出されているという情報をテゾーロは入手した。しかも珀鉛の毒性を知らないままなのでフレバンス以外の国でも珀鉛病の発症が危惧されるようになった。

 世界政府の中枢は自分達の想像を超える程に事が重大であると認知したのか、加盟国に珀鉛の中毒症状に関する資料を流したという。しかしそこは隠蔽・情報操作がお得意の世界政府――王侯貴族にのみ報せて一般市民には報せてないという。

「相変わらず姑息っつーか、保身しか考えてないっつーか……」

「世界政府はそういう組織(・・・・・・)です。誠実なのは末端で上層部は大体が欲深い」

「それ言っちゃっていいの?」

「どうせ聞こえませんよ」

 政府の機関に属する立場でもある人間とは思えない発言。ましてや政府の命令に忠実である諜報機関(サイファーポール)の人間がこのような発言をするとなると、政府内部の色々な事情が窺える。

「デカイ組織は大変だな」

「他人事のように言わないで下さいよ」

(海列車の方とテキーラウルフの橋の方は順調だし、暫くはフレバンス(こっち)に集中できそうだな)

 すると――

 

 プルプルプルプルプル……

 

「「!」」

 突如鳴り響く電伝虫。

 テゾーロは受話器に手を伸ばし、通話に応じる。

「はい、こちらテゾーロ財団。どちら様で?」

《フッフッフッフッ……!! ようやく本人と話せるな》

「!?」

 テゾーロの電話相手は、ドフラミンゴだった。


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