ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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8月最初の投稿です。


第70話〝重大な場面〟

 翌日、フレバンス王国。

 辺り一面が珀鉛によって白く輝くこの国に到着したテゾーロ財団は、王族達と面会して事のいきさつを語り郊外に仮設事務所を設け活動する許可を得た。

 財団がなぜ街中ではなく郊外で活動することにしたのかと言うと、珀鉛の摂取ルートを遮断するためである。鉛中毒――他の重金属中毒もだが――というものは、汚染された水・土壌で育った動植物を食べたり鉛製の銃弾が体内にまだ残ってたりすることで発症する。その上でテゾーロが危惧していたことは水道管であった。

 鉛製の管「鉛管」を水道管として使えば、管内の鉛が溶けだして水道水と混ざり合って人々はそれを飲んでしまう。水は人間が生きる上で必要なモノなので、確実に鉛中毒になるだろう。

 全てにおいて珀鉛で覆われているような状態のフレバンス。水道管も通っておらず珀鉛の汚染がまだ広がってない郊外ならば発症率は低いと判断し、財団は仮設事務所を建てたのだ。

「さて……ウチの理事長が色んなコネで支援要請をしているので、その間におれ達は珀鉛病の治療法を突き止めよう」

「ああ……じゃあ早速だが患者の容体を見てもらいたいが、いいか?」

「ぜひ見せてくれ」

 メロヌスがそう頼むと、医者達は珀鉛病に苦しむ男性患者を一人連れてきた。

 髪の毛はほとんど真っ白で、肌の一部も白い痣のようなものがあることからかなり進行しているようだ。

 メロヌスは患者を暫く見て、口を開いた。

「今までの患者の中で、共通した症状は何かあったか?」

「髪や肌が段々白くなって、全身が痛くなるんだ。珀鉛が原因だと思うんだが――」

「痛み、か……通常の鉛中毒にも頭痛や腹痛が生じる症状があるから似てる部分はあるな……。珀鉛が体内に溜まってるのなら、取り除けばいいはずだ」

「あなたもそう思ってくれるのか……!」

 フレバンスの医者達は安堵の笑みを浮かべる。彼らもどうやら珀鉛病が感染症ではなく中毒であるということを認知していたようだ。

(だが次世代にまで悪影響なのはおかしいな。何らかの形で珀鉛が次世代の体内へ流れてると思うが……)

 鉛中毒の一種であることは確信したが、生まれた子供にまで遺伝する点に関しては腑に落ちないメロヌス。通常の鉛中毒とは違った特異な性質があるのだろう。

「それにしても、随分と詳しいですね……医者じゃないでしょう?」

「賞金稼ぎ時代に戦闘で鉛玉食らって発症したんだ。普通の鉛中毒の方だが、結構辛かった」

 さりげなく暴露するメロヌスに、シードは海兵時代にゼファーから鉛中毒の話を聞いたのを思い出した。

 実は本部の海兵の中にも、戦闘で殉職した者だけでなく戦闘後の後遺症で辞職した者も多くいる。その中でも鉛中毒の割合はそれなりに多く、その症状の悪化で亡くなった海兵もいた。こういった事情から、海軍はロジャー処刑以降から鉛中毒のリスクを低減する予防法を医療班から習う方針にしたのだ。

「僕は骨を生み出せますけど……体内に蓄積されてるなら新しい骨に変えればいいのでは?」

「ダメだ。確かに鉛は骨に蓄積すると聞くが、お前の手段だと時間も手間もかかる……その間にも死者が出る」

「じゃあどうすれば……」

「とりあえず健康診断をしよう。何か新しい事実が発覚するかもしれない。人数は男女共に10人くらいでいいだろう、国民のほとんどが珀鉛病患者だと考えた方がいい」

 

 

 メロヌス達が珀鉛病の治療法を確立すべく動き始めたちょうどその頃、テゾーロはセンゴクと連絡を取り合っていた。勿論、ドフラミンゴの件である。

「ウチのメロヌスとアオハルはドフラミンゴと接触し、一応は保留って形で事は済みましたが……」

《ムゥ……思ったより早く動いたな。ロシナンテをそろそろ潜入させた方がいいか……》

「部下からは「手を組むかどうか考えておけ」というドフラミンゴからの伝言を聴きました。ただ、ウチの動きが向こうには大方知られているようで一筋縄には行かないかと」

《手を組むか組まないか、か……そうだな、その点はお前に任せる。私は今回はお前に合わせて動く……次の交渉の報告を待つ》

「そちらのスパイ役に、おれのことは?」

《必要な情報は伝えてはおいた……ドジっ子ではあるが腕は立つ上に能力が潜入捜査に向いている。お前の力になるはずだ》

 テゾーロは眉間にしわを寄せて考えを巡らせる。

 原作よりも多少早いペースでスパイを送る手筈になっている今、ドフラミンゴとはどう対応すべきか。テゾーロ自身としては風評被害は面倒な上に油断できない相手であるので、手を組むのは嫌なのだ。

 だが、そうなるとドフラミンゴがどう動くのかが見当もつかない。ドフラミンゴは執着心が強い海賊なので、テゾーロ財団を狙い続ける可能性は高いがどんな手段を用いるのかまではさすがのテゾーロも把握できない。

 いずれにしろ、一度交渉という形で接触してはっきりと返事する必要がある。ドフラミンゴの出方もあるので、先回りできるように動けるのがベストだろう。

(面倒っちいなァ……これに限っては交渉次第か……)

《どうだ? テゾーロ》

「ウチ、今大事な事業に取り組んでるんですけどね……でも暫くの間は〝北の海(ノース)〟で活動するので、ドフラミンゴ側がウチの動きを読めてるなら近い内に交渉するかもしれません」

《成程――少なからずドフラミンゴと一度会う可能性が高いということか、それは朗報だ……! テゾーロ、結果がどうあれまずは奴と会ってくれ》

「了解…次の連絡は交渉後でお願いします」

《うむ、ご苦労》

 センゴクの労いの言葉と共に通話は切れ、テゾーロは受話器を下ろした。それと共にステラがテゾーロに湯吞みを渡して緑茶を注いだ。

「ありがとう、ステラ」

「どういたしまして……テゾーロ、あなたは珀鉛病の事業はメロヌスさん達に任せるつもりなの?」

「今回はフレバンス以外にも〝面倒な勢力〟がウチに連絡してきたし、他の事業の方とも連携もしなければならないんだ。フレバンスの方はメロヌス達に一任して、おれは別の方の対応をするよ」

 テゾーロ財団は多くの事業に取り組んでいるゆえに、テゾーロが毎回主導するとそれなりのストレスとなる。

 ストレスが溜まりストレスフルの状態になると、様々な不調が起こり始め大きな病気の誘引や発病にもつながりかねない。特に胃腸は人間の体の中でもストレスに弱い臓器なので、少しのストレスにも敏感に反応してしまい胃潰瘍などの疾病を患いやすい。

 テゾーロも人の子なのだから、全ての事業を担うのではなく信頼できる部下にも一任させて少しでもストレスを減らさなければならない。トップが倒れたら財団全体の活動に支障をきたしかねないからだ。

「心配せずとも、ウチは有能な人材が豊富だ。必ず成功するさ」

 テゾーロは爽やかな笑みを浮かべると、それにつられてステラも笑う。

 その時、アオハルが慌ててテゾーロの元に駆け寄った。

「ギル(にい)、ヤバイ情報手に入れちゃった!」

「?」

「この前電話してきたドフラミンゴの名字の「ドンキホーテ」……どこかで聞いたことがあるなって調べたらこんなのが出てきた!」

 アオハルはテゾーロに自らが調べ上げてまとめた書類を提示した。そこには、ドフラミンゴの出自に関する情報が記されていた。

「ドンキホーテは世界貴族だったんだ! 〝元天竜人(・・・・)〟なんだよ! だから政府を通じておれ達の動きを把握したんだ!!」

「何ですって……!」

「……」

 アオハルの衝撃的発言に、ステラは驚く。

 一方のテゾーロは生前の知識でドフラミンゴの出自を知っているため落ち着いているが、怪しまれないよう初耳と言わんばかりの表情を浮かべた。

「成程……だが元天竜人ということは「天界から下界に降りた裏切り者」とも言える。なぜ政府とのコネがまだ残ってる?」

「残念だけどそこまでは調べられなかった…〝CP9〟の知り合いを通じて得たんだけど、何か政府中枢から圧力かけられて出身までしか聞けなかった」

(政府中枢からの圧力、か……)

 テゾーロは生前の知識を思い出しながら黙考する。

 ドフラミンゴは元天竜人であるがゆえ、聖地マリージョアの内部にある重大な(・・・)国宝(・・)」の存在を知っている。その国宝は存在自体が世界を揺るがす程の代物で、天竜人にとって外部に知られてはならないモノでもあるらしい。

 恐らく政府中枢は、アオハルが知り合いを通じてドフラミンゴの情報を収集していた際に万が一にも「国宝」の存在に気づかれることを恐れて圧力をかけたのだろう。

「――っていうか、お前CP9に知り合いがいるのかよ?」

「ラスキーって人なんだけどね。ちょっとした縁があって」

 〝CP9〟は一般市民には存在は知られていないサイファーポールで、「闇の正義」の名の下に非協力的な市民への殺しを世界政府から許可されている。情報屋を営んでいるアオハルがその存在を知っているのは当然だが、そのCP9の諜報員の一人であるラスキーとは知り合いであるのは驚きである。

 しかもアオハルの為にドフラミンゴの情報収集に協力してくれたことを考えると、それなりに仲は良さそうである。司令長官のスパンダインの方は知らないが、出世欲・権力欲・保身の三拍子しか興味の無いあの俗物とはきっと仲は悪い――もしかしたら関わってすらいない――のだろう。

「あのCP9がなァ……」

「人を第一印象で決めつけないってことだね……あ、お茶いい?」

「棚に湯吞みあるから、そっから自分の取って注げ」

 テゾーロはそう言うと、アオハルは棚から湯吞みを取り出して緑茶を注いだ。それに続いてステラも自らの湯吞みに緑茶を注ぐ。

「テゾーロ、さっきから言っている〝CP9〟って何かしら?」

「サイが所属している世界政府の諜報機関・サイファーポールは知っているだろう? その中に世間には公表されていない部署がある。それが〝CP9〟…非協力的な市民への殺しを世界政府から許可されているヤバイ所って思えばいいさ」

「そんな部署があるのね……」

「裏の世界に詳しい人はほぼ全員知ってますけどね……」

 CP9に関する話をしながら緑茶を飲む三人。

 するとステラは心配そうな表情でテゾーロに訊いた。

「テゾーロ、そのドフラミンゴっていう海賊はどう対処するつもりなの?」

「それは、難しいな……。向こうはかなりの切れ者だ、正直迷ってる」

 ドフラミンゴとの交渉はいずれ来る。だがそれは財団の命運――いや、今後の世界情勢にも影響を与えるだろう。

 もしドフラミンゴがこの時点ですでにドレスローザの乗っ取りを画策していたならば、ドレスローザの運命をも左右しかねない。それを考慮して、テゾーロはどう返事すべきか迷っているのだ。

「今、おれ達は重大な場面と向き合っている。厄介事にならなければいいが……」

「テゾーロ……」

「ギル兄……」

 テゾーロは珍しく、どこか不安げに愚痴を零すのだった。




ラスキーを知っている人は、かなり通な人ですよ。(笑)
ラスキーはちゃんと原作に登場してますよ。

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