ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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フレバンス救済編
第67話〝センゴクの依頼〟


 センゴクからの手紙が届いて2日が経過した。

 テゾーロはセンゴクと面談するべくマリンフォードへと向かい、面談が終了するまでの間不在なため幹部達に業務を委託していた。

 そんな中、黙々と業務を遂行しつつメロヌス達は話し合ってた。

「おれ達も()()()()()が板についてきたなァ」

「デスクワークとやらも一種の戦場ですしね」

(ちげ)ェねェ」

 カリカリという筆記の交響曲(シンフォニー)が響く。

 メロヌスはタナカさんと共に書類処理に当たり、視線は書類に向いて手は書類を処理し続けている。時々ステラが淹れてくれたコーヒーを飲みながら、黙々と手を動かし続ける。

 そんな中、メロヌスはこんな話を切り出した。

「タナカさん……「珀鉛産業」って、知ってるか?」

「珀鉛産業?」

 珀鉛産業――それは、〝北の海(ノースブルー)〟にある「白い町」とも呼ばれるフレバンス王国の経済を支える一大産業。「珀鉛」という鉱物によって巨万の富を築き、その上まるで童話の雪国のように地面も草木も真っ白な美しく幻想的な風景のため、フレバンスは人々の憧れの町でもあるのだ。

「ウチの社員にもフレバンス出身がいるようだ。もっとも……そいつらは皆、珀鉛産業とは無縁だったようだが」

「――珀鉛ってことは、鉛ですか?」

「まァ、そうだな」

「ってことは、当然鉛中毒が起こる可能性がありますね……世界政府は地質調査をしたのですか?」

「するかねェ……しても金に目が眩んでスルーしてんじゃねェか?」

 鉛中毒は決して侮ってはいけない。

 実は鉛は食物にもごく微量が含まれているため、多くの人間は日常的に摂取している。摂取した鉛は体内に蓄積するが、その大部分は体外へ排出される。しかし鉛を長期間摂取すると体外への排出が追いつかず、体内に蓄積されて毒性を持つようになり健康に悪影響を及ぼすのだ。

 初期症状は疲労や睡眠不足、便秘といった体調不良によくありがちな症状であるが、深刻化すると貧血や脳の障害が現れ、最悪の場合は死に至ることもある。回復しても後遺症が残る可能性もあり、治療後も油断できない。

 かの世界的作曲家・ベートーヴェンも、その毛髪から通常の100倍近い鉛が検出されたことにより、彼が患った聴覚障害も鉛中毒が原因であるという説も浮上して注目を集めたという。

「珀鉛は、どうだろうな。伝染病の類じゃないとは思うが……」

 珀鉛による中毒症状。

 メロヌス自身は一度も見たことが無いのでよくわからないが、彼は通常の鉛中毒とは一線を画する症状が出るのではないかと考えている。

 長期間摂取すると体内に蓄積されて毒性を持つようになるという点は共通であろうが、その症状・後遺症の影響は一切不明。詳しく検査して調べねば取り返しがつかなくなるだろう。

「――少し詳しく調査するべきじゃねェかなァ」

「……」

 メロヌスは目を細め、コーヒーを飲み干した。

 

 

           *

 

 

 海軍本部、センゴクの部屋――

「おかき……食うか?」

「お茶で結構です。――早く本題を」

「……」

 センゴクはテゾーロの前にある海賊の写真を出した。

 サングラスをかけ、フラミンゴのようなピンク色の羽毛のコートを羽織った金髪の男。テゾーロはその男を知っていた。

 

「――私が最近危険視している男だ。名はドンキホーテ・ドフラミンゴ……ドンキホーテファミリーを率いて〝北の海(ノースブルー)〟で略奪や取引を行っている海賊だ」

 

(ドフラミンゴ……!!)

 ドンキホーテ・ドフラミンゴ。

 〝天夜叉〟という異名で名を馳せ、後に新世界最大規模の犯罪シンジケートを展開させる大物海賊である。残忍さや狡猾さ、傲慢さや執念深さを併せ持つ「悪のカリスマ」でもあり、原作では国盗りを成し遂げルフィを大いに苦しめた強敵だ。

 今はまだそこまでの大きな力を得てはいないようだが、数年の内に海軍どころか世界政府すらも見逃せない勢力へと成長するのは明白だ。

「センゴク大将、私に久しぶりに海賊討伐でもしろと言うんですか? 確かに腕の立つ者はウチには結構いますが……」

「そうとは言わん……こいつは海賊の割には用心深い奴だ、中々尻尾を掴めんのが現状だ。それにこの海賊の件はお前に直接やり合わせるわけにもいかん」

「――というと?」

 センゴク曰く、ドフラミンゴを討伐するには相当の年月が必要であり、あのロジャーや白ひげとしのぎを削った伝説的な大海賊〝金獅子のシキ〟と似たような性質(タチ)の海賊らしい。

 シキは当時の新世界で名を轟かせる海賊達を束ねており、海賊大艦隊の大親分に恥じぬ豪胆な男であった。だがそれ以上に有名だったのは、狡猾で用意周到な策略家としての一面だった。何事も入念に準備を済ませて行動するシキは、忍耐強く用心深いことで広く知られ、それを売りに同じ時代を生きた大海賊達と海の覇権を握り世界の頂点に立つべく激しい戦いを繰り広げてきたのだ。

「こいつを捕えるとなると、そう易々と海軍(こちら)の動きを読まれたり感づかれるわけにはいかん。ここはスパイを潜り込ませて奴らの隙を探るつもりだ」

「それとウチに何の関係が?」

「奴が率いる一味は、海賊というよりも犯罪組織の色合いが強い……つまり略奪よりも取り引きで利益を得る集団だ。マフィアに近い、と言えばわかりやすいだろう」

 その言葉に、テゾーロは生前の知識と記憶を思い出す。

 「新世界の闇を仕切る男」と称されたドフラミンゴは、略奪や襲撃よりも違法な商取引が得意なイメージだ。原作でもカイドウをはじめとした大海賊や戦争している国家等と取引をしており、自らの出自から天竜人とも深いコネクションを持ち合わせているため、あの世界最強の諜報機関である「CP‐0」をも容易く動かせる。

 今はそれほどの力ではないが、いずれにしろセンゴクの予想通り危険な男であるのは間違いではない。

「取引で利益を得る……となれば、お前も目が付けられているはずだ。ましてやあのフォードを捕えたのだ、注目しないわけが無い」

「確かに、何らかの形で接触する可能性はありますね」

「その時はお前に商談を持ちかけるはずだ。勢いで倒せる相手だとは思っていまい……そこでだテゾーロ。私はお前と手を組んで、ドフラミンゴを倒したいのだ」

「ドフラミンゴを?」

 センゴクの持ちかけた話は、ドンキホーテファミリーの討伐。

 ガープやゼファーらと共に大海の秩序維持に貢献してきた歴戦の将だからこそ、ドフラミンゴの危険性を考慮したのだろう。

 そしてテゾーロに話を持ちかけたのは、ドフラミンゴを出し抜くための一つの手なのだろう。

「……一応おれん所に情報屋いるんで、そいつに話は持ちかけてはみましょう。センゴク大将は?」

「機会を見つけ次第、スパイを送り込む。奴の実の弟を部下に持っている」

(……もうコラソンを送り込む気か?)

 ドフラミンゴの実の弟……それはコラソン――ドンキホーテ・ロシナンテのことだろう。

 彼は〝ナギナギの実〟の能力者で、周囲で発生するあらゆる音を遮断する「無音人間」だ。侵入や暗殺といったスパイ活動には最適で、その能力を得ている彼ならば――ドジっ子であるのが不安だが――ドフラミンゴを止められるだろう。

「……おれは色んな事業を抱えてます。そちらを全力で支援するなんてマネはキツイですが……それでもいいので?」

「構わんさ、だがドフラミンゴの情報は常に寄越してくれ」

「――了解しました、じゃあ今日はこの辺で失礼します」

「……期待しているぞ」

 センゴクはテゾーロと握手をした。

 今ここで、海軍大将とビジネスマンによるドフラミンゴ包囲網が構築されようとしていた。




今後の展開ですが、どこかでフレバンス編をやろうと思います。

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