ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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第65話〝東の海から〟

 さて、テゾーロがマリージョアから帰還して数週間。

 シャボンディ諸島に置かれたテゾーロ財団の事務所では、ある青年が保護されていた。

「すごい美味しいです」

「それはよかったわ♪」

「いや、それ以前におれの事務所の前で倒れるなよ」

 涙目でカレーライス――ステラ特製――をガツガツと食べる、黒縁メガネをかけた黒髪の青年。実はこの青年、テゾーロ財団の事務所の前で死人のように倒れていたところをステラが保護したのだ。ハヤトや社員達としては別にどうなってもいいのだが、立場は不明でも見捨てると財団の信用やモラルにかかわると理事長(テゾーロ)が主張したので渋々保護したのだ。

(とはいえ……こいつ何者だ? 只者じゃねェ気はするが……)

 テゾーロは彼が起きてからずっと〝見聞色〟の覇気を発動して青年を見続けている。

 〝見聞色〟は相手の気配をより強く感じられるようになる覇気。レイリーに師事して習得したテゾーロは、人物・強さをある程度見抜くこともできる程の熟練者にまで成長しているのだが、この目の前の青年だけはどうにも力量が図りにくい。精度がまだ粗かったりしているのもあるだろうが、少なからず相手はかなりの食わせ者であるのがわかる。

(果たして……敵か? それとも……)

 一応青年は直刀を二本腰に差している。その気になればここで戦闘をするかもしれない。ましてやここまで読めない人間となれば、不意打ちもありうる。

 一瞬の隙も見せないよう、テゾーロは様子を窺うが…。

「もぐもぐ……ああ、さすがにここでドンパチする気は無いんで。いつまでも〝見聞色〟使わなくてもいいんじゃないんですか?」

「!! ――お前、覇気使いか?」

「んぐっ……うん、それなりに」

 どうやらテゾーロが〝見聞色〟の覇気を発動して警戒していたのを看破していたようだ。

 テゾーロは溜め息交じりに口を開く。

「ハァ……じゃあしてるのはもうバレてたってのか」

「まァ、路上で撃沈してる人いたら誰でも警戒はするから」

「他人事のように言うな、当事者が」

 頭を抱えるテゾーロ。

「おれはアオハルっていいます。〝東の海(イーストブルー)〟で生まれ育って、ぬらりくらりと旅してたら一文無しになって……」

「それでおれの事務所の前でくたばったと……まァここまでよくぞ空腹で済んだな。航海能力が優れてるのか、ただ運が良いだけなのか……」

 この大海賊時代を生きる人間にとって――それ以前もそうだろうが――運は実力の内に入る。実力は決して高いものではなくとも「強運」で生き残れる者も多ければ、圧倒的な力を持ちながら運の無さで死ぬ者もいる。それがこの「ONE PIECE(せかい)」の摂理だ。

(しっかし、よくここまでこれたもんだな。〝凪の帯(カームベルト)〟でも渡ったか?)

 〝東の海(イーストブルー)〟から〝偉大なる航路(グランドライン)〟へ行くには、リヴァース・マウンテンの運河を経由するか強引に〝凪の帯(カームベルト)〟を渡るかのどちらかだ。もしかしたら海賊船に乗り込んで乗っ取るなり隠れるなりしてここまで来た可能性もあるが、何はともあれ五体満足でシャボンディ諸島までよく来れたものである。

「ごちそうさまでした。ご飯ありがとうございました……ってな訳でおれを雇ってくれませんか?」

「うん、金がねェからだろ? それだけじゃあ採用の理由にならんから出てけ」

 テゾーロはバッサリと斬って突き放す。

 しかしアオハルは食い下がり、微笑みながら口を開いた。

 

「おれが情報屋だとしても、ですか?」

 

「!」

「?」

 アオハルの言葉にテゾーロは目を見開き、ステラは首を傾げる。

 情報屋は、収集した情報で売買取引をする業者だ。国家権力の犯罪捜査や犯罪組織間の抗争、企業の新製品開発競争などの重要情報を持ち出して大金を得る情報屋は活用の仕方次第ではビジネスの成功にもつながるが……。

「信じられないな……仮にそうだとしたら、なぜ無一文になる? 情報は掴んでいるんだろう?」

「そうなんですけどね……肝心の中心人物――フォードが逮捕されたんで…」

 アオハルは、何とフォードに関する情報を握っていた。表と裏をひっくるめた収入と支出、権力者との密接な関係、裏社会での活動拠点……テゾーロが知りえない情報も持っていたという。

「今となっては余罪が芋づる式にバレるだけなので、売っても意味が無いんですよ……。大方の末路も予想できますし……」

「……何というすれ違いだ」

 ――もう少しタイミングが合えば、互いに利益があっただろうな。

 テゾーロは内心、残念に思えた。

「一応あなたがフォードと戦っているところを見たので、実力とかは一応理解してますけどね」

「……何が言いたい?」

「おれ、こういうのを取ってあるんですけど」

 アオハルが取り出したのは、世界経済新聞のテゾーロ財団の広告だった。

「これ、「自分の個性や腕っ節を世界に貢献したいと思う人物、歓迎募集」ってキャッチコピーなんですよ。決めたのはあなた自身か世経の社長さんでしょうが……それはともかく、おれは条件は整ってるんですよ」

「つまり――「おれを雇用した方が組織の為になる」という自己PR……と解釈していいんだな?」

 

 

 シャボンディ諸島27番GR――

 久しぶりの「試験」というわけで、テゾーロとアオハルだけでなくハヤトやタナカさん、創立当初の古参の社員達などが集まっていた。

 ハヤトやサイのように例外はいくつかあるが、テゾーロ財団の「試験」は自己PRが全てである。故に、理事長のテゾーロに模擬戦で挑むことも当然許されている。メロヌスやシードは自分の能力をその場で見せて就職したのだから、今回もそれに当たる。

「あの男、形状も質量も自由自在の黄金にどう立ち向かうんだ?」

「……わざわざ申し出たのですから、余程腕の立つ方では? ハヤト様」

「そろそろ女社員が欲しいな」

「ステラ副理事長だけでも十分花はあるんだがな」

 古参の社員達と話しながら、ハヤトとタナカさんは話し合う。

「そっちが先攻で構わない…おれはオールラウンダーなんでね」

「それじゃあ、お言葉に甘えて――」

 アオハルは刀を抜き、振り上げた。

 試験が始まり、一同は注目するが……。

 

 ……ブゥンッ!

 

『は?』

 

 ドパァン!!

 

「おわああああああ!?」

『!?』

 アオハルの持つ刀が突如赤い閃光を放ち、振り下ろすと同時に衝撃と共に地面を大きく抉った。

 両刃の刀身からは赤い光が放出されており、その光はまるで刀剣状に収束して10m以上伸びている。

「……これがおれの能力――超人(パラミシア)系悪魔の実〝ビムビムの実〟。おれは熱を発する光線を意のままに操れる。黄金と光線、どっちが上かな?」

『な……!?』

「冗談じゃねェぞ、オイ……「ビームサーベル」なんて聞いてねェぞ!!」

 さすがのテゾーロも顔を引きつらせて青ざめる。

 現在海軍中将を務めるボルサリーノは、自分の体を自在に光と化すことができる〝ピカピカの実〟の能力者。その技で、ボルサリーノ自身の半身以上もある巨大な光の剣を作り斬り裂く〝天叢雲剣(あまのむらくも)〟という技がある。だがアオハルは「光の剣」すらも上回る「ビームサーベル」を繰り出したのだ。

超人(パラミシア)系の中には最強種の自然(ロギア)系を超えるモノも存在するとは聞いていたが……こいつもか!)

 基礎的な戦闘力は動物(ゾオン)系や自然(ロギア)系と比較するといくらか劣る場合が多いと認識される超人(パラミシア)系だが、圧倒的な防御力を発揮できる〝バリバリの実〟や「世界を滅ぼす力」とまで称される〝グラグラの実〟、「究極の悪魔の実」とも謳われる〝オペオペの実〟など、性能が自然(ロギア)系以上の実も存在する。

 そして目の前にいるアオハルも、超人(パラミシア)系でありながら自然(ロギア)系に匹敵する能力者である上に、言動からかなり強力な覇気の使い手であることも窺える。下手をすればフォード以上の実力者であるのかもしれないのだ。

「厄介なんてレベルじゃねェな……!」

 テゾーロはゴルゴルの能力で黄金の指輪を融き、二本の黄金のサーベルを作りだす。

「こちらから行くぞ」

 テゾーロは駆け、距離を詰めてアオハルの懐に潜り込もうとするが…。

 

 ブゥン!!

 

「ぐっ!!」

 テゾーロの想像以上に、アオハルの攻撃は早かった。彼はビームを先程の倍以上に伸ばして振るったのだ。テゾーロはそれを何とか躱して〝武装色〟で刀身を黒化させ突きを放ち、アオハルは伸ばしたビームを縮めて長さを3m程に調整し受け止める。

 

 ドォン!!

 

「!?」

「っ!!」

 二人の刃が交わった瞬間、周囲に電流のような衝撃が走った。

 そう――アオハルもまた、〝覇王色〟の使い手だったのだ。

「……おれと同じ〝覇王色〟の使い手でしたか」

「お前、本当に何者だ……?」

 テゾーロは汗を流しながら睨みつける。

 懐へ潜り込むことに成功したが、刀剣状に収束したビームは高熱を発しており、あまり長く受け止めていると火傷を負ってしまう。その発熱の影響で、テゾーロの周囲だけが真夏日のように暑い。アオハルは汗をかいていないのは、恐らく能力の影響だろう。

「るおおおおお!!」

 テゾーロはもう一本のサーベルで攻撃すると、アオハルは一度退いて攻撃を躱す。

 すると今度はアオハルがビームを伸ばし、テゾーロの腹にぶつけた。しかしビームは直線に伸びるモノであり途中で曲がることは無い――テゾーロは腹部に〝武装色〟の覇気を集中させて防ぎ切る。

「……成程、かなりの手練れのようだ。一体誰に習ったんですか」

「ギャンブルで負けっぱの元海賊だよ……っと!!」

 テゾーロは手にしていたサーベルをアオハルに投げつける。アオハルはそれを難なく躱してしまい、地面に深く刺さってしまうが……。

 

 シュルルッ!!

 

「!?」

 アオハルの右腕に、金の糸が絡まった。見れば、先程のサーベルから糸が伸びているではないか。

「悪魔の実は使い方と鍛錬次第――この海では常識だぞ」

 すると金の糸が何本か収束して鞭となり、アオハルの顔を薙ぐ。

「ぐっ!!」

 しなやかで超硬度を誇る黄金の鞭。アオハルは咄嗟に覇気を頬に集中させて防ぐが、ダメージはあったようで刀剣状に収束したビームは消えた。

 その隙にテゾーロは間合いを詰め、残ったサーベルに〝武装色〟の覇気を纏わせて振るったが、アオハルは拘束されていない腕を武装硬化させて防ぐ。

「……固いな」

「お互い様でしょ」

 

 ブゥン!

 

「っ!!」

 アオハルは刀を右手から左手に持ち替え、能力を発動した。消えていたビームの刀身が復活してテゾーロに肉薄するが、彼は咄嗟に躱して距離を取る。

「くっ、中々面倒だ……」

 伸縮自在の高熱のビーム――その絶大な威力は申し分無い。相性や底力はいまだ不明だが実力はほぼ互角と判断しても間違いないだろう。

「さてと、次の手は……」

 

 バタッ

 

「――ん?」

「……ヤバイ、燃料切れ……」

 試験は、何とアオハルの「燃料切れ」という意外な形で終わった。

「カレーだけじゃあ無理だったかなァ……」

「……ハイリスクなのか?」

「実を言うと……覇気が通用する以外にも弱点が一つあって……」

 アオハル曰く、ビムビムの能力は絶大な威力を誇る反面、ビームは「能力者自身の持つエネルギー量」をエネルギー源(ねんりょう)としているために長時間の戦闘はできないという弱点があるという。エネルギー量は食事で賄うことができるのだが、彼にとってステラのカレーだけでは無理があったようだ。

「……まァ、とりあえず試験は合格だ。お前を野放しにして変な連中に丸め込まれると面倒だし。それより……飯、食うか?」

「喜んで…」

 そう言って、アオハルは撃沈した。試験を観ていた者達からは「もう終わりかよ」だの「締まらねェ」だの、散々な言いようだ。

 テゾーロは深く溜め息を吐き、アオハルを担ぎ上げて部下達と共に事務所へと戻るのだった。 




停滞気味かと思われますが、次回辺りからポンポン進める予定です。

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