ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~ 作:悪魔さん
テスト期間中なので、予め溜めておいたのを投稿します。
ロワイヤル島に潜入したスライスは早速捜査を行っていた。
スライスはロワイヤル島に地下闘技場がある事は知っているが、入り口がどこなのかはわからない。入り口に入れないのは、捜査以前の問題だ。
とはいえ、海軍に手を回してまで行った捜査の「真の目的」を悟られるわけにもいかない。
「ちっ、コルトを連れてくりゃあよかったかもな……」
自分が最も信頼する部下を連れてこなかった事を後悔するスライス。
新世界の経済の25%を牛耳る程の財力と権力を持つ名家・スタンダード家の長であるスライスは、コルト以外の部下はいない。傭兵出身のコルトはある意味で執事といえる。
部下が多いと組織の目が行き届かない時が生じるが、テゾーロ財団はそういった点が無い雰囲気なので、その点ではテゾーロが羨ましく思ってもいる。
「ここで部下集めするのも悪くねェかもな……」
そう呟きながら、路地裏を散策する。
「モモンガには悪いな……あいつの首が飛びそうだったら、どこに口利きすっかな……」
「おい、兄ちゃん」
「ん?」
ふと、スライスに絡んでくる謎の赤いパーカー集団。
全員柄が悪そうで、剣や斧、槍を持っている。
「ここはおれ達のナワバリだ、喧嘩売ってんのか?」
「嘘……マジ? ギャング?」
物珍しそうにギャング達を見るスライス。
海賊が暴れるこのご時世に、ギャングは中々お目にかかれない。ましてやスライスのような「お坊ちゃま」はほとんど見る機会は無いのだ。
「喧嘩ねェ……う~ん、そうだな。たまには売ってみるか。でも強くなきゃあ暇潰しにもならんし……まずは……」
スライスはそう言った瞬間、ギャング達を睨んだ。
ゴゥッ!
見えない衝撃が辺りを襲った。
その直後、ギャング達は次々に白目を向き、泡を吹きながら倒れてしまった。
スライスは〝覇王色の覇気〟の覚醒者。ギャング達の意識を奪うなど、造作もない芸当なのだ。
「な……何が……!?」
「お、おい! 起きろよ!!」
「てめェ、仲間に何しやがった!?」
「の、能力者か!?」
(あらら、しぶとく立ってやがらァ……)
全力でないとは言え、〝覇王色〟をモロに食らって立っていられた残りのギャング達に感心するスライス。
するとスライスは袖をまくり、今度は腕に〝武装色の覇気〟を纏った。腕は真っ黒に染まっていき、硬化していく。
「今更逃げんなよ? ケンカはこっからが本番だぜ」
この日、ハヤトはロワイヤル島に潜入していた。
彼はテゾーロの命令ではなく独断で潜入し、海賊狩りのついでに〝ロワイヤル島の闇〟を暴こうと目論んだのだ。
「見た目は普通の港町……だけどなァ……」
ラム酒を片手に大通りを歩くハヤト。
しかし、その中には高額賞金首がちらほらしている。
(〝壊し屋〟ロロネ、〝海兵殺し〟ロバート、シュテル・ベーカー……予想以上に揃っているな……)
賞金稼ぎであったハヤトは、世界中で悪名を轟かせている無法者の情報を得ている。そのため、このロワイヤル島をうろついている賞金首をほとんど知っているのだ。
別にここで大太刀を抜いて暴れ回り、陸上で海賊狩りをするのも悪くないが、一般人が紛れている上に海軍の軍艦を先程見掛けたため、面倒事は避けたい。
(いずれにしろ、地下闘技場には多くの賞金首がいるかもしれない。 一斉検挙すれば、この島の〝汚れ〟も浄化されるはずだ)
そんなことを考えながら、路地裏へと入っていった。
その時だった。
ズズゥゥン……!!
「!?」
ふと聞こえた、地響きのような轟音。
ハヤトは何事かと思って音のした方へ駆け付けると……。
「あーあー……ったく、どいつもこいつも……」
「こ、これは……!?」
ハヤトの目の前には、驚愕の光景が広がっていた。
血塗れになったギャング達が、ほぼ壊滅状態で無惨に密集していたのだ。
人間が石壁に串刺しになり、地面には亀裂が生じて陥没し、ギャング達の得物であった刀剣の刃はへし折られており、ぼやいているたった一人の男によって一方的に蹂躙されたということを瞬時に理解した。
コートを翻し、男は笑みを浮かべる。
「何だ? お前もこいつらの連れか?」
「っ……」
「ん? どこかで見た顔だな……」
目を細める男。
それと共にハヤトは、背負った大太刀の柄に手を伸ばして抜刀した。
刀身は段々黒く染まっていき、〝武装色〟の覇気を纏っているのが目に見えた。
「おいおい、そう殺気立つなよ。え~っと……あ、思い出した!! 〝海の掃除屋〟か!! あ~、スッキリした……っつー訳だ、おれァお前と戦う気はねェって。だから覇気を纏うのやめて納刀してくれ」
「……あんたは何者だ。名を教えればお望み通りにしよう」
「あら? お前の
「!」
その言葉に、目を見開くハヤト。
ハヤトはテゾーロの部下だ。つまり目の前の男は、テゾーロと顔見知り――もしかしたらビジネス相手なのかもしれないのだ。
少なくとも敵ではないと認識したハヤトは、大太刀を納刀する。
「……何者だ、あんた……」
「スタンダード・スライス……覇気を使えるだけの御曹司さ」
「そんな御曹司がいるか……」
「いるよ、おれだ」
カッカッカと上機嫌に笑うスライス。
「〝
「……あんたこそ、こいつら全員倒したんだろ」
「ああ、肩慣らしにもならなかったよ」
残念そうに口を開くスライス。
ふとハヤトは、ギャング達の中に泡を吹いて倒れている者がいる事に気がついた。
(この男、〝覇王色〟をも扱えるのか……!?)
「なァ〝海の掃除屋〟、お前も地下に用があんだろ?」
「!!」
「おれもお前と似たような目的がある。共同戦線といこうじゃないか、悪くねェ話だろ」
スライスの提案に、ハヤトは考える。
自分の目的は海賊狩りのついでに〝ロワイヤル島の闇〟を暴くことだ。スライスも似たようなことを目的としているのだから、手を組んで損は無い。それに自分がテゾーロの部下であることを知っている。彼との関係を考えるならば、スライスが裏切るようなマネをすることはまず無いだろう。
「……わかった、手を組もう」
スライスはハヤトが同意した事に笑みを浮かべた。
「じゃあ、早速行こうか。地下闘技場をぶっ潰しに」
*
〝
海軍の軍艦に乗ってロワイヤル島へ向かうテゾーロは、甲板でステラと電伝虫で通話していた。
《どうするの、テゾーロ……?》
「……ハヤトの件はおれに任せて、そっちは作業を続行してほしい。シードとメロヌスがいるから、二人の手を借りながらいつも通りの作業をしてくれるとありがたいんだ」
《わかったわ……気をつけて、テゾーロ……》
「大丈夫、すぐ終わらせてくる」
ガチャリ…
電伝虫での通話を終えるテゾーロ。
それと同時に、サイがテゾーロに声を掛けた。
「何かあったのですか?」
「……ハヤトがどっか行っちまったって連絡が来た。独断行動だな」
「……まさか、ロワイヤル島に……?」
「あり得るな、あそこら一帯は海賊の横行もあるって聞く……海賊狩りにでも行ったんだろうよ」
そんなことを呟きながら、欠伸をするテゾーロ。
「部下の好き勝手を放っといていいんですか?」
「ハハハハ! 好きにやりゃあいいさ、いざという時はおれが責任とりゃいいだけだろ? トップに立つ人間は部下にある程度任せて、どうしても困ったときは手ェ差し伸べて助けてやる……それでいいんだよ」
笑いながら持論を語るテゾーロ。
(やはり、この人と付き合うのは気が楽だな……)
サイが属するサイファーポールは、全体的に不正行為を平然と行いもみ消すようなドがつく程に腐った性根の連中が多い。
そんな中でテゾーロのような組織は、正直に言って居心地がとても良いのだ。もっとも、サイファーポールには地位と権力に縋るバカが多いのだから当然と言えば当然だが。
「まァ、そんなシケた話はこれでシメーだ。とりあえずおれは寝る」
「ね、寝る!?」
「疲れただけだ……着いたら起きるさ」
そう言い、テゾーロは船内へと戻っていった。
「……テゾーロさん…あなたって人は……」
――悪い意味ではないが……テゾーロはどこかの海軍中将と妙に似ている点がある気がする。
そう思ってしまったサイであった。