ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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地下闘技場摘発編
第43話〝個人的な頼み〟


「地下闘技場ね……それはつまり、「裏の社交場」を潰してくれってかい?」

 テゾーロの言葉に、ジンは頷く。

 ジンの依頼は、〝偉大なる航路(グランドライン)〟のどこかにある闇の闘技場を潰してほしいという内容だった。

「ただの闘技場っていうわけじゃねェよな?」

『?』

 テゾーロの言葉に、ジン以外の者達は首をかしげる。

「テゾーロ、それってどういう意味なの?」

「裏であれ表であれ、ただの闘技場なら依頼には出さないって意味だよ。純粋な競技としてなら、国技として政府加盟国でも行われているからな」

 ステラの質問に答えるテゾーロ。

 闘技場の建設及び開催は、そこまで固く禁じられておらず各国で管理している。有名なのはリク王家が治めるドレスローザのコリーダコロシアムだ。こちらの場合は犯罪者を剣闘士と戦わせ、犯罪者は100勝することで釈放されるシステムである。

 しかし地下闘技場は、そうではないのだ。

「だがお前の言う地下闘技場とやらは、「正真正銘の殺し合い」をしてるんだろう?」

 人の生き死にを金で弄び、絶命の瞬間に興奮し歓声を高める。

 要は、そういう意味だ。

「おれもこう見えて法律ってのを学び始めていてね、色々と頭に入ってるんだ。世界の法としては、闘技場の建設と開催自体は各国の判断――ただし殺し合いは非人道的として禁じられている。だが地下闘技場は平然と法を破って殺し合いで儲けている。でも政府はそれを罰していない……どういう意味かわかるか?」

 テゾーロの言葉に、周囲は段々と目を見開き冷や汗を流した。

 法律で罰せられない存在……それは、法律をも覆す程の力の持ち主以外いないのだ。

 そう考えると、絡んでいるのは――

「……まさか、天竜人!?」

 シードは呟く。

 この世で法で罰せられないのは、世界政府の中枢か天竜人くらいなのだ。

「……ああ、話の流れだとそう推測するのが妥当だが……どうなんだ?」

 テゾーロはジンに問い詰める。

 ジンは無言で頷き、肯定する。

「そうだ……事実、奴らの姿を何度も見た」

「参ったな……天竜人の遊び場を潰すってなると、政府も黙っちゃあいないな」

 天竜人の権威は、世界政府最高権力である五老星さえ上回る。

 その上、要請があれば海軍本部最高戦力である海軍大将や〝世界最強の諜報機関〟と呼ばれる「サイファーポール〝イージス〟ゼロ」が動く。海軍とパイプを持つテゾーロも、さすがに大ごとを起こすわけにもいかない。

 もし天竜人に敵うのならば、物理的には誰でもいいだろうが権力としては同じ天竜人しかないだろう。

「……どうするんですか?」

「相手は世界一の権力者が絡む裏の社交場だ……各国要人や裏社会の大物も首突っ込んでる可能性も否めないぞ」

「毒を以て毒を制す…天竜人を味方につければいいんじゃないか?」

『!!?』

 テゾーロのさりげない一言に、全員が驚愕する。

 あの傍若無人で傲慢で自己中心的な天竜人を味方につける……そんな芸当ができるのだろうか。

 すると、ある男性が入室してきた。その男性は白いラインが入った黒スーツ姿でソフト帽を被り、コートを羽織っている。その素顔は好青年であるが、只者ではない雰囲気を醸し出している。

「……お前は……?」

「サイ……丁度いいトコに来た」

 テゾーロは知っているようだが、それ以外の者は皆困惑した。

 そもそもテゾーロ財団にサイという人物がいた憶えがないのだ。もっとも、どさくさに紛れてテゾーロがスカウトした可能性も否めないが。

「あの……テゾーロさん、彼は?」

「ん? サイファーポールの人間だけど?」

『サイファーポール!?』

 テゾーロの爆弾発言が炸裂する。

 サイファーポールは〝CP〟という略称で知られる世界政府の諜報機関だ。そんな人間がテゾーロ財団に潜り込んでいたのだ。

「つっても、ロジャーが死ぬ前からウチにいたよ?」

 ※詳しくは第20話をご覧ください。

「そんなに前から潜り込んでた諜報員を野放しにしてたのか!?」

「だってサイファーポール(むこう)にもコネ持った方が後々いいじゃんか」

 テゾーロにもテゾーロなりの考えがあったようだが、あまりにも無神経すぎる。

 本当に機密情報が漏洩したらどうするつもりだったのか。そう思い、ハヤトは盛大に溜め息を吐いた。

「おれとサイファーポールのパイプ役を果たしているのが彼だよ……立場上はテゾーロ財団(こっち)だけどな」

「サイです。以後よろしくお願いします」

 深々とお辞儀をするサイ。

「いや~、改めて見るとイイ顔だね。最初に会った時驚いたもん、汚れた服や私服で来ている者が多い中でスーツで来てたもん」

「やめて下さい、黒歴史をバラさないで下さい!!」

 顔を赤くするサイと、それを見てニヤニヤ笑うテゾーロ。

「まァ、そんなこたァどうでもよくて……サイ。サイファーポールの情報網で天竜人の力関係を調べてくんねェか? 天竜人にも派閥くらいあるだろ?」

 テゾーロは、天竜人全員が非常に傲慢で自己中心的な性格ではないはずだと考えている。

 天竜人は、世界政府創設に伴いマリージョアに移り住んだ創設メンバーの王19人とその一族の末裔である。ドンキホーテ一族やロズワード一家というように様々な一族があるのは当然だ。

 テゾーロはその中でも取り分け良心的な一族に介入し、その権力を借りて潰そうと思いついたのだ。

「……時間はかかりますが、最善を尽くします」

「おう、頼むぞ」

 テゾーロが手を振ると、サイは一礼してその場から去った。

「いや~、彼をリストラしなくてよかった。こういう時に役に立つからね」

「それ以前の問題もあったがな……」

 テゾーロ、地下闘技場撲滅に動く。

 

 

           *

 

 

 同時刻、海軍本部。

 本部内のある一室に、スライスは酒を飲みながらある人物に依頼をしていた。

「っつー訳だからさ、テゾーロが首突っ込んだ時には支援とかお願いね。」

「……なぜそれを私に依頼する?」

「こういうネタは、上層部は中々動かねェんだよ。それに昇格祝いの任務(プレゼント)には打って付けだろう?」

「斬られたいのか貴様」

 半ギレでスライスと会話しているのは、大佐から准将へと昇格したモモンガだった。

 実を言うと、モモンガとスライスは旧知の仲である。幼少期のスライスが海賊に襲われた際、彼を助けたのが当時将校ですらなかったモモンガ…以来、二人は良き友として付き合っているのだ。

 ただし、スライスが一方的にモモンガに迷惑をかけるケースが多いが。

「あの地下闘技場の件は、センゴク大将ですら首を突っ込まんのだぞ? 下手に動けば海軍もただでは済まされない……貴様も正気か?」

「あそこでガッポリ得た金は各国要人や大物海賊の懐に流れてるらしいぜ? いいのかな~? 世界の秩序のために正義を掲げる国際統治機関が、こんな巨大で醜悪なモノを放っといてさ。またテゾーロに出し抜かれたら、今度こそ絶対的正義(かいぐん)の面目丸潰れだぜ?」

「……私を脅してるのか? スライス」

「心配せずとも、おれもそれなりに顔が知られてるぜ…表にも裏にもな。何かあったら、おれも金にモノ言わせてどうにかするからさ」

 ケラケラ笑っているスライスだが、モモンガは気が気でない。

 天竜人の数少ない遊び場を天竜人の味方である海軍が一斉検挙(つぶ)したとなれば、その後海軍にどんな厳罰が下るかわからない。下手をすればモモンガの首が飛ぶどころか海軍上層部の首も飛びかねない。

 それくらいに大きなヤマなのだ。

「そういうこった。こいつァおれの()()()()()()だ…だからこのことはセンゴクやコング、おつるさんには内密にな」

 人差し指を口に当てて、片目を(つむ)って笑みを浮かべるスライス。それに対しモモンガは、その口元に寄せた人差し指を折ってやりたいと言わんばかりに溜め息を吐いた。

 しかし、二人が話している部屋の外では……。

「……あららら……全く、えれェトコに首突っ込もうとしてんじゃないの…」

 壁にもたれかかりながら、クザンが頭を掻いていた。


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