ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~ 作:悪魔さん
あァ、情けない…。
海軍本部。
その本部内の廊下を、二人の男がカツカツと歩いていた。
一人は、黒のサングラスを掛けコートを着用した海兵…後に海軍本部の最高戦力「大将」に属する事になる海軍本部中将のクザン。そしてもう一人は、ピンクのスーツ姿で黄金の指輪を嵌めた青年…テゾーロ財団を起ち上げ、一気に財を成しているギルド・テゾーロだ。
「しっかしまァ、随分と変わった正装だねェ」
「マズイですか?」
「いんや、全然」
いかにも偉い人がいそうな雰囲気の廊下を歩く二人は、互いに語り合う。なぜテゾーロが海軍本部にいるのか…それは、海軍本部上層部との会談があるだ。
事は昨日の夜に遡る。テゾーロ財団が所有する本船でいつも通りパーカー姿で職務をこなしていたテゾーロの元に突如クザンが現れ、「
(そういやあ何でおれ一人なんだ…? 酷く嫌な予感がする…)
俗に言う「嫌な予感」を感じ取るテゾーロ。
「着いたよ、ここが元帥室だ」
元帥室の前に立つ。
テゾーロは深呼吸してスカーフを整え、ノックして入室する。
「む…来たか」
テゾーロの目の前には、自身のデスクで緑茶を飲んでいた強面の大男と、アフロヘア―と丸渕メガネが特徴的な男がいた。
海軍本部の総大将であるコング元帥と、海軍の最高戦力である大将〝仏のセンゴク〟だ。
テゾーロは元帥室に入りチラリと辺りを見回すと、絶句した。
(コングとセンゴクを相手取るとは考えてたけど…さすがにこの面子は卑怯だろ…!!)
テゾーロは正直呆れていた。
なぜかというと、自分一人に対する海軍の対応がカオスだったからだ。
元帥であるコングと大将のセンゴクまでは想定していたが……何と後の三大将であるサカズキ、クザン、ボルサリーノがいるのだ。
海軍のトップ達VS民間企業のトップ一人…アウェーなんてレベルではない。
しかし臆するわけにもいかないので、気を引き締めてから笑みを零す。
「……初めまして、コング元帥殿。私はテゾーロ財団の理事長を務めるギルド・テゾーロと申します」
「海軍本部元帥のコングだ。よく来てくれたな、まァ座りたまえ」
コングに言われ、自分のために空いてるだろうコングのデスク正面のソファーに腰を下ろすテゾーロ。
「本来なら私の方から
「そうだな……我々にも事情があるんでな」
ドカッと座るコング。
その隣にセンゴクが座り、つるやサカズキ達も座る。
その時だった。
バンッ!
「おい、クザン! わしの煎餅知らんか!?」
「ガープ、何しに来た!? 今は取込み中だ!!」
急にドアを殴り飛ばし、海軍の英雄である伝説の海兵の一人兼
若き日の怪物ジジイの登場に、さすがに怯むテゾーロ。
「む? なんじゃお前、見ない顔だな。客か?」
「……テゾーロ財団の理事長を務めるギルド・テゾーロと申します。以後よろしくお願いします」
「……! おお、最近儲かっとるガキンチョか。噂には聞いておったが…」
興味津々のガープ。
すると、ここでクザンが一言。
「……ガープさん、一々ドアを壊さないで下さいよ……」
「おお、すまんな! ぶわっはっはっは!!」
「おいガープ、早く出てけ!! 後でドアの弁償しろ!!」
「何じゃい、それくらい気にするな!」
(それくらいって…)
「出てけェー!! バカヤロー!!! 仕事中だァー!!!」
センゴクは青筋を浮かべて怒鳴り散らし、ガープを追い出す。
「……賑やかですね、元帥殿」
「すまん…、あいつはいつもああなんでな……」
「あの……修理代、代わりに払いますか?」
「いいや結構、あいつに払わせないと罰にならん……」
どうやら最前線に立ってもガープの問題児ぶりは健在のようだ。テゾーロは思わず「お疲れ様ですね……」と顔を引きつらせながら呟く。
「――では始めようか……お前は中々賢いと聞く。口で説明するよりも、これを読んだ方が早いだろう」
そう言ってバサリと書類の束がテーブルに置かれる。
テゾーロは腰を上げて手を伸ばし、再び腰掛け書類を捲った。
「……!」
室内は紙の捲れる音だけが響く。
字を追って紙をめくる程に、テゾーロの表情は険しく変わる。数分で最後まで読み切ると、その間何も言葉を発しなかったコング達の視線はテゾーロに向いている。
その顔を視界に捉え、そして正面のコングに焦点を当てた。
「……私としては軍資金だけかと思ってましたが、ここまで要求するとは…私も随分と成り上がったもんですね」
「前々から検討していたことだ、君にしかできないと思っている」
「……」
細々長々と書かれていた内容を、簡単に言えばこうだ。
ロジャーの処刑と共に大海賊時代が開幕して、海賊達は一気に増えた。ロジャーが死んでからは彼と覇を競った〝白ひげ〟 エドワード・ニューゲートが海の王者として君臨し、その伝説的・怪物的雷名て多くの島々をナワバリとして護る事で多少なり「大海の秩序」は安定するようになったが、いずれにしろ海軍の軍拡は決定となった。
そんな中、政府が重視したのは軍事力ではなく財力の方だった。軍拡の為には大量の資金が必要であり、それを調達する必要がある。そこで目を付けたのが、ギルド・テゾーロだ。
海軍中将とも顔見知りである能力者の賞金稼ぎから商人へ転身し、ここ数年で急激に財を成したテゾーロの事を上層部は知っている。今までの功績も見込んでテゾーロと是非結託したいというのが政府上層部の考えであるので、
こんな感じである。
「え~っと……要は「政府と海軍に逆らうマネはするな」と?」
テゾーロがそう言うと、コングはニヤリと笑みを浮かべた。
「さすがだ、そこまでわかるなら話は早い」
「………」
テゾーロとしては、海軍及び政府とつながらねばならない。しかしいくら何でも一方的ではないか。
特に「海軍と政府の命令には従うようにする事」はそう易々と承諾する訳にはいかない。こういう要求をしたのは、恐らくテゾーロにも
テゾーロ財団は世界政府に対し絶対的な忠誠を誓え、と海軍は要求しているのだ。しかも海軍の最高幹部達をわざわざ揃えて。
断ったらどうなるか…考えずともわかっている。だがテゾーロは、思い切って攻めた。
「ハァ……コング元帥。あえて言いますが……交渉というのは、互いに何らかの利益があってこそ成り立つモノです。本気でそう思っているのなら、こちらの条件をいくつか飲んでもらわないとOK出せませんよ」
「条件?」
「そうですね……まずは船大工トムのオーロ・ジャクソン号製造の罪の帳消しですね」
『!?』
「実は彼の経営する造船会社は私の傘下企業でしてね。恐らく政府の役人は海賊王に手を貸しただとか、あるいはオーロ・ジャクソン号を造ったとか言って処刑するつもりでしょう…ですが本当にそれでいいのですか? 船造っただけで死刑だなんて前例ができてもいいと?」
テゾーロにとって、社長であるトムの処刑によるトムズワーカーズの倒産はかなりのダメージだ。造船業はテゾーロ財団の活動でも核と言っても過言ではないほどの重要性を有しており、政府の力で捻じ伏せられるわけにはいかないのだ。
「……すでにトムに対する裁判は決定しているが……いいだろう、政府には掛け合っておく」
この条件には、コングは承諾した。
テゾーロは内心ほくそ笑んで、畳みかける。
「次に、海軍の敷地内を自由に出入りできるようにすること。軍資金の提供は我々が直接渡した方が安全かと」
「まるでわっしらを信用していないような発言だねェ~……」
テゾーロの提案にボルサリーノ――後の大将〝黄猿〟――が口を開く。
それに対し、テゾーロは「金は自分で管理する主義なだけですよ」と言うが、実際は海軍の誰かが不正行為をして資金を横流しにされるのを防ぐためであるのは言うまでもない。
「最後に……そうですね。我がテゾーロ財団の私情及び機密情報には一切関与せず、世界政府の依頼を受理しない、または受理しても達成できない場合でも不問とする……でいいでしょう」
『!?』
テゾーロの一言に驚愕する一同。
「何をバカなことを……!!」
「いえいえ、別にいいんですよ? その時は我々テゾーロ財団が
センゴクが半分腰を上げるが、テゾーロはすぐさま牽制する。
テゾーロはもう、世界でも最高レベルの情報機関である世界経済新聞社にだってコネだってある。モルガンズに色んなネタをリークして偏向報道を促すことも可能だ。
もっとも、テゾーロはそういう手段をあまり使いたくないからやらないだろうが。
「……それをわしらが黙って見ていると思うちょるんか?」
「条件を飲むなら何もしないですし、難しい条件であるわけでもないと思いますが?」
サカズキがテゾーロにそう告げるが、テゾーロは平然と対応する。
「うむ……」
ズズ、と緑茶を飲んでコングは考える。
相手は一企業を起こした青年だが、彼に秘めたその力は強大だ。現に五老星も彼を手中に収めねばならないという考えであり、億越えの賞金首を仕留め無法地帯の街を一人で治めた実力も加味すれば野放しにしておくわけにはいかない。
「……わかった、条件を飲もう」
『!』
「だが、交渉が成立した瞬間にお前は我々政府側の人間となる。政府に逆らうマネをしたら…その時は見逃さんぞ」
「ええ、肝に銘じておきますよ」
そう言って、テゾーロとコングは握手する。
テゾーロが海軍との交渉に成立した瞬間だった。
「……どうした? 随分と顔色が悪いな」
「いや、余りにもアウェーな交渉でしたので……」
汗だくになって顔をこわばらせるテゾーロ。
そんな顔を見たコングは「まだまだ若いな」と不敵な笑みを零すのだった。
一応ですが、テゾーロの肩書は「理事長」です。