ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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第20話〝VSサイファーポール?〟

 履歴書。

 それは、自分自身の氏名、生年月日、住所、扶養家族などの基本情報に加えて、学歴、職務経歴、資格免許などをまとめて記載した書類。社会人にとっては絶対に超えねばならない「壁」であり、今まで培ってきた自分の全てを試される重要な存在だ。

 現実世界では、履歴書は学業や職業の経歴など人物の状況を記した書類として就職や転職時に選考用の資料として用いられる。就職先・転職先・アルバイト先などに提出するので、一生で最低1回は経験するだろう。

 しかし「ONE PIECE」の世界は案外無縁とも言えるのかもしれない。コビーが海軍に入隊する時は書類審査は無かったし、2年後の新世界編に至っては海軍は「世界徴兵」という徴兵制で〝(ふじ)(トラ)〟と〝(りょく)(ギュウ)〟の二人の実力者を海軍大将に特任させている。

 いずれにしろ、「ONE PIECE」の世界は書類審査というのは現実世界よりは結びつきが無いのだ。だからこその利点もあれば、欠点もあるが。

 そこに目をつけたのが、テゾーロだった。

 

 

 ウォーターセブンの町にある、大きな空き家。

 そこが、テゾーロ財団の仮の事務所だった。仮なのはいずれ新世界への進出やグラン・テゾーロ創設を踏まえた上である。

「ではこれよりオリエンテーションを始める。私がこのテゾーロ財団のトップであるギルド・テゾーロだ」

 テゾーロは、目の前に立つ人々の前で演説を始める。

 実は第1回目の募集は思いの外失業者が多かったため、いきなり390人が履歴書を送りつけてきたのだ。不況の煽りや荒廃は恐ろしいモノである。

「この組織は私が取り仕切るが、基本的には社畜のような過酷労働は控えている上、一応担当部署も様々だ。好きな部署で思う存分個性を発揮するといい。ではこれより、このテゾーロ財団の基本方針を説明する」

 テゾーロは手元の資料を見ながら声を紡ぐ。

「我がテゾーロ財団の最大の目標は、「革命」を起こして新時代の扉を開くことだ」

 テゾーロのその言葉を聞き、人々は動揺する。

 「ONE PIECE」の世界における「革命」、武力による政治体制の崩壊…いわゆるクーデターによる政権掌握のイメージであり、農業革命や産業革命のような技術革新のイメージは薄いのだ。

 無論、テゾーロもそれを把握している。

「だが、武力で国を倒すことではない。富と権力をメインに、武力と暴力で支配する今までの体制を変えることだ。戦争をするための組織ではない」

 テゾーロは政府と敵対するつもりなど毛頭無い。

 しかし、今までの政府の所業を考えれば自ずとわかるだろうが、あのような惨たらしいマネを延々と繰り返せば不幸な人々が増える一方であるのを許してはならない。とはいえ、政府加盟国は基本的には保身に走りやすい。国民を切り捨てる国さえあるのだ、最初(ハナ)から期待できるものではない。

 だからこそ、テゾーロが動いたというわけだ。

「君達はこのギルド・テゾーロと共に新時代の扉を開き、世界の道標となる! 働き場所と生きがいは与えた、後は君達自身だ。テゾーロ財団の基本方針は以上だが、賛同する者は拍手を」

 すると、一斉に拍手喝采が起こる。

 どうやら全員賛同してくれるようだ。

(ん…? あの黒スーツは……)

 ふと、テゾーロの目に黒スーツの男が映る。

 汚れた服や私服で来ている者が多い中、数少ない正装だ。

(――何か怪しいな……)

 テゾーロは黒スーツの男に目を配りながら、オリエンテーションを続けるのだった。

 

 

           *

 

 

《そうか、うまく潜入できたようだな……》

「ええ…本格的に動くそうです」

 黒スーツの男は、電伝虫である人物と連絡を取っている。

 実はこの男はサイファーポールの人間であり、モックタウンの一件から一躍有名になったテゾーロの懐に潜り込んで監視するよう政府上層部に命じられたのだ。

 そして電話の相手は政府の高官である。

「奴の目的は、金と権力をメインとした世界規模の革命です」

《そうか――やはり野放しにしておくのは危険だな……。万が一政府に盾突くことがあれば……》

「ちょっと、そこの君」

「っ!?」

 黒スーツの男に話しかける声が響く。

 声の主は、テゾーロだった。

「書類の件で少し問題が生じたのでね……来てもらうよ」

「え……あ、はい。では、また……」

《うむ……》

 電伝虫での通話を終え、黒スーツの男はテゾーロに呼ばれ事務室に入る。

「実は私は念の為、経歴を調べていてね。君だけ奇妙な点があったんだ」

「――と言うと……?」

「私はモックタウンでの一件で一躍有名人になってね…もしサイファーポールの諜報員が我がテゾーロ財団に潜り込んで大事な情報を盗み取られてしまったら困るんですよ。売上とか計画書とか、色々抱えてる身なんでしてね…」

 テゾーロは笑いながら言葉を紡ぐが、黒スーツの男は少し緊張気味だ。

 「サイファーポール」という単語が出て来たからだ。

「履歴書を作成させたのはそのためです。得体の知れない人間を部下にするなんて、危険でしょう? 愛するステラにも身の危険が及ぶしね…」

「……同感ですね」

「だろう? だから君の経歴を見させてもらったよ。この島の造船会社に勤めてたそうじゃないか」

「それのどこが……?」

「ああ、その造船会社は私の傘下企業だから情報の共有くらいはしてるのでね。それで担当部署に君のことを聞いたんだが…これがおかしいモノでしてね…「そんな男は知らない」と返事が来たんだよ」

 「わかるかい?」と笑みを浮かべながら口を開くテゾーロに、黒スーツの男は凍りついた。

 そう、つまり黒スーツの男は虚偽の履歴(・・・・・)を書いたということになるのだ。それを怪しまない者など、さすがにいないだろう。

「それを踏まえておれは質問しよう……お前は一体誰だ(・・・・・・・)?」

 テゾーロの顔から笑みが消え、鋭い目付きで黒スーツの男を睨む。

 金の指輪をはめたテゾーロの手からはバチバチと火花が散り始め、返答次第ではタダでは済まさないという意思を黒スーツの男に伝える。

 男はテゾーロの気迫に押され怯むが、殺気を放って対抗する。

 すると――

 

 コンコン……

 

「テゾーロ、いる?」

「!! ステラ……」

 ドアをノックする音が突如響き、ステラの声がする。

 テゾーロはドアを開けると、ステラが箱を携えて立っていた。

「4日前に頼んだ特注のスーツが届いたの」

「そうか。じゃあそこに置いといてくれないか」

「ええ」

 ステラは箱をドアの隣に置く。

 するとテゾーロは黒スーツの男に近寄り、不敵な笑みを浮かべて耳打ちをした。

「――まァいい、どの道こうなるとは踏んでいたよ。だがもし妙なマネをしたら……その時はわかっているな?」

「っ……!」

 男はこれ以上は危険と判断し、事務室から出ていく。

 一方のテゾーロはというと……。

(よかったァァァァ!!! 相手が〝CP9〟じゃなくて!!!)

 余裕な態度とは裏腹に、心の底から安堵していた。

 テゾーロの読みは当たっており、黒スーツの男はサイファーポールの諜報員であるようだが、CP9ではなかったようだ。

 CP9は「闇の正義」の名の下に、非協力的な市民への殺しを世界政府から許可されている。基本的に全員が「六式」という特殊体術を会得しており、並外れた身体能力を持ち合わせているので、介入されると面倒事になるのだ。

(CP9だけは来ないで欲しいな……おれはともかく、ステラが巻き込まれたらマズイし……)

 内心そんなことを願いながら、テゾーロは特注のスーツの試着を始めるのだった。




因みに特注のスーツは、「FILM GOLD」でテゾーロが常に着用してたあのピンクのスーツです。ただし黄金の装飾品無しバージョンですが。

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