ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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そろそろアニメもワノ国クライマックス。
緑牛の声、すごい気になります。


第172話〝奴のペース〟

 翌日、海軍本部では緊急の会議が開かれていた。

 それは、三大勢力の均衡の崩壊すらあり得る程に重大な事態だからだ。

「「王下七武海」とは……!! 世界でたった七人!! 世界政府によって選ばれた略奪を許可された海賊達!! 引き換えに必要とされるものは〝圧倒的な強さ〟と〝知名度〟!! 彼らが政府側に与することが世の海賊団への脅威とならなければならない!!」

 海軍の会議で司会進行を務めるブランニュー准将は、あらためて王下七武海の在り方とメンバーを説明する。

 

 世界一の大剣豪、〝鷹の目〟ジュラキュール・ミホーク。

 ドレスローザ国王にして悪のカリスマ、〝天夜叉〟ドンキホーテ・ドフラミンゴ。

 今や海軍の人間兵器、〝暴君〟バーソロミュー・くま。

 アマゾン・リリーの現皇帝、〝海賊女帝〟ボア・ハンコック。

 〝最悪の世代〟の一人にしてロッキーポート事件の首謀者、〝死の外科医〟トラファルガー・ロー。

 海賊派遣組織を率いる「伝説を生きる男」、〝千両道化〟バギー。

 今は亡き「世界最強の海賊」エドワード・ニューゲートの実の息子を名乗る、自称〝白ひげJr.〟エドワード・ウィーブル。

 

 彼ら彼女ら七名の大海の強者の武力で海賊界の皇帝「四皇」を牽制し、この世界のパワーバランスを保っているのだ。

 この三大勢力のパワーバランスが崩壊すれば、世界を混沌の時代へ導くことを意味し、手に負えないうねりとなる。事実、二年前の頂上戦争で白ひげが戦死した際、黒ひげの侵略やキッドを筆頭とした新世代の進出によって情勢が大きく荒れた。

 その後はサカズキの主導やクザンの根回しのおかげで、海軍はセンゴクが元帥だった頃よりも強力となったが、今回の件ばかりは無視できなかった。

「しかし、これは今朝……夜明けまでの話!! ドフラミンゴは突然の脱退!! ローも腹積りによっては七武海除名を余儀なくされます!! 「海軍本部」「四皇」に並ぶ三大勢力が、こうも不安定では……!!」

 そう、海軍が大きく揺れたのはドフラミンゴの七武海脱退だ。

 頂上戦争でも暴れた大物が、ここへ来て――海軍側から見れば――真偽不明の脱退。同時にトラファルガー・ローとモンキー・D・ルフィの海賊同盟発足。有事と見なしたギルド・テゾーロが動き出し、ドレスローザへと電撃訪問に向かっている。

 黄金帝が事態収拾を図っているのは言うまでもないが、海軍がそれを黙っている訳にはいかない。テゾーロと手を取り合い、解決する必要がある。

「──あァ、わかっちょるわブランニュー……」

「元帥!!」

「今〝ロー〟にも〝麦わら〟にも勝手なマネはさせん……!! 昨日「G-5」のスモーカーからうるそう連絡があってのう……一日様子をみちょれ……〝藤虎〟を行かせてある」

 

 

 そして同時刻。

 新たに設立された「SWORD」でも、クザンが隊員達にいつものだらけた態度で語った。

「――ってまァ、そういうこった。何か質問は?」

「話を端折り過ぎです」

 幹部を務める女性将校・アインに冷たい目で見られ、クザンはバツの悪そうな表情を浮かべた。

 この場にいる海兵達は皆、海兵の認識番号であるマリンコードを返上している。要は辞表提出済みの面々で、許可無しで戦ってはいけない勢力とも独自の裁量で戦うことが許されている。同時に捕虜や人質になるなどで邪魔になれば、いつでも処分が可能でもある。

 とはいえ、この組織の設立者は海軍大将経験者であるので、世界政府としても無視できない。安易にいつでも切り捨てられるとはいえ、元海軍大将の損失はあまりにも大きいので、中枢は一応釘を刺したりしてくる。

「〝天夜叉〟ドンキホーテ・ドフラミンゴ。彼は10年前、天竜人への貢ぎ金である天上金の輸送船を襲撃し、政府を脅迫し七武海に加盟。同時期に狂乱したドレスローザ国王リク・ドルド3世を成敗してドレスローザの王位に就任。その後は海賊女帝と同様の二足の草鞋を履いてます」

「……」

「そして本日の朝刊で、彼は突然の脱退を表明。理由は不明ですが、同じ七武海トラファルガー・ローとは因縁があると()()()()()()()()()()()()()()()から情報提供あり。さらにリク王の狂乱にも裏で糸を引いている可能性があります」

 アインの淡々とした解説に、一同は唸った。

 ドフラミンゴの悪行は、七武海として目を瞑れる範疇を超えていた。これ以上野放しにしては世界の秩序の崩壊に拍車をかけるばかりだ。それに海軍は政治の影響を受ける。五老星を筆頭とした世界政府の上層部の命令には、あの硬骨漢であるサカズキも逆らえない。

 だが「SWORD」は独立した遊撃隊。融通の利きやすさで言えば、政治の影響を受けずに活動できるというのは大きな利点だった。

「ハートの海賊団と麦わらの一味の同盟と同時に、黄金帝が電撃訪問を決行。この動きに乗じ、革命軍も大きく動くのではないかと」

「ああ……ドラゴンは来ないだろうが、サボかイワンコフ、軍隊長の誰かは来るだろうな」

 SWORDの最高司令官であるゼファーは、自らの見解を述べた。

 革命軍のNo.2である参謀総長のサボをはじめ、革命軍は油断ならない猛者が揃っている。

 あらゆるものを押しのける「オシオシの実」の能力者である巨人族の〝毛皮のモーリー〟、一声で人々に勇気を奮い立たせると同時に筋肉を増量させて戦う力を与える「コブコブの実」の能力者のベロ・ベティ、様々な兵器・科学を駆使した戦闘を得意とするネコのミンク族のリンドバーグ、体を煤に変える「ススススの実」の能力者のカラス――彼ら四人の軍隊長は、どれも億超えの覇気使い。実力は本物だ。

 幹部の層も中々に厚く、真っ向からぶつかるのは愚策。新海軍本部大将の二人も、正面から戦うのは骨が折れるだろう。そしてそれは、クザンや老いたゼファー自身にも言えることだ。

「サカズキはイッショウを動かした。こっちも手を回したいところだが、ドレークが百獣海賊団に潜入している今、あまり戦力を割るのはよくない」

「……おれ達もドデケェ山を迎えるってトコですけど、ウチはどうするんで?」

「クザンやおれが直々に出張れば、ドフラミンゴの警戒心は強くなるばかり……ここは藤虎に任せるとする」

 ゼファーはあくまでも静観の方針であることを告げた。

 七武海で最も危険な男の狡猾さを考え、戦力の向け過ぎはかえって不利になると判断したのだ。

「まあ、一番のジョーカーはガープの孫だろうが……あの若造の出方次第もあるな」

「麦わらが、ですか?」

 ゼファーは不敵に笑った。

 あの二年前の頂上戦争で、大きく戦場をかき乱したルーキー海賊。当時ゼファーはマリンフォードで暮らす関係者の避難と保護を担当したため、戦場にはいなかったが、新聞で大きく取り沙汰されて興味を持ったのだ。

「そういう訳だ、我々はあくまでも静観。だが有事に備え、出撃の準備はしておけ!」

『はっ!!』

 ゼファーの一声に、()()を手にした海兵達は呼応するのだった。

 

 

           *

 

 

 新世界のとある海域。

 目的地のドレスローザへ向かう麦わらの一味は、朝刊の一面を確認していた。

 見出しは「ドンキホーテ・ドフラミンゴ「七武海脱退・ドレスローザの王位放棄」」と載っていた。

「本当にやめやがったァ~~~!!!」

「鳥の国って、ドレスローザって名前なのかー」

「だがトラ男。おめェの言っていたことを踏まえると、こんなにアッサリ事が進むと逆に不気味じゃねェか?」

 慌ただしい一味の中で、フランキーはローに尋ねた。

 すでにローは、ドフラミンゴが元天竜人であり、七武海の中でも政府中枢との繋がりが深いことを知らされている。

 むしろこれこそ、ドフラミンゴが仕掛けた罠なのではないか。フランキーはそう言っているのだ。それに対してローは「かもな」と返した。

「おれ達はただシーザーを誘拐しただけ……それに対し奴は10年間保持していた「国王」という地位と略奪者のライセンス「七武海」という特権をも一夜にして擲ってみせた──この男を取り返すためにここまでやったことが奴の答えだ!!」

「でもトラ男君、もし七武海を辞めてなかったらどうするの?」

「その時はおれが時間を稼いで指示をする。少なくとも今回の一件で、海軍も大きく動くはずだ。赤犬が誰を差し向けるかにもよるが……」

 その時、電伝虫の受信音が鳴り響いた。

 このタイミングでサニー号に電話をしてくる者は一人しかいない。――ドフラミンゴだ。

 すかさずローが受話器を受け取ると、ドフラミンゴが声を発した。

《おれだ……「七武海」をやめたぞ》

「おれはモンキー・D・ルフィ!! 海賊王になる男だ!!」

「お前黙ってろっつったろ!!」

 ルフィはウソップに止められながら、ドフラミンゴと通じる電伝虫をローから奪い、怒鳴りながら話す。

「〝茶ひげ〟や子供らを(ひで)ェ目に遭わせたアホシーザーのボスはお前かァ!!! シーザーは約束だから返すけどな!! 今度また同じ様なことしやがったら今度はお前もブッ飛ばすからな!!!」

《〝麦わらのルフィ〟……!! 兄の死から2年……バッタリと姿を消し、どこで何をしていた?》

「!! ……それは絶対に言えねェことになってんだ!!」

《フッフッフッフ……おれはお前に会いたかったんだ。お前が喉から手が出る程欲しがる物を、おれは今……持っている》

 虚言なのか事実なのか、ドフラミンゴはルフィが揺さぶられるような言葉を口にした。

 まんまと引っかかったルフィは好物の肉を想像し、完全に相手のペースに乗せられてしまい、「お肉が一匹♡ お肉が二匹♡」と呟きながら妄想に駆られてしまった……。

 その隙に受話器を奪い返したローは、ドフラミンゴに余計な話はするなと釘を刺した。

「約束通りシーザーは引き渡す」

《そりゃあその方が身の為だ……! ──ここへ来てトンズラでもすりゃあ……今度こそどういう目に遭うか……お前はよくわかってる。フッフッフッフッフ!! さァ……まずはウチの大事なビジネスパートナーの無事を確認させてくれ》

(……何だ、この余裕は……!?)

 追い詰められている割には、やけに余裕綽々なドフラミンゴに、ローは違和感を感じた。

 普段から不敵ではあったが、この状況下でも余裕な態度に一抹の不安を覚えつつ、シーザーに受話器を向け、安否確認を二秒で済ませた。

 

「今から8時間後!! 「ドレスローザ」の北の孤島「グリーンビット」〝南東のビーチ〟だ!! 「午後3時」にシーザーをそこへ投げ出す──勝手に拾え!! ──それ以上の接触はない」

 

 ローは時間と場所を指定し、取引はそこで終わらせると告げた。

 ドフラミンゴは「淋しいねェ、お前と一杯くらい……」と一対一(サシ)で飲みたいと口にしようとしたが、ルフィに強制終了させられた。

「ふーーっ……危なかった!! また「奴のペース」にやられるところだった!!」

「いや、すでに手遅れだし!!」

「おい待て、相手の人数指定をしてねェぞ!! 相手が一味全員引き連れてきたらどうする!!」

 ルフィの目が骨付き肉への願望丸出しのままな中、サンジはドフラミンゴが一味総出で事を構える可能性があるのではと焦った。

 だが、ローは「スマイル」の工場を潰す方が目的であるため、シーザーの引き渡しは囮の様なものだと返答すると共に、問題なのは工場がどこにあるかがわからないことだと付け加えた。

「敵の大切な工場でしょ? 何か秘密があるのかもね」

「だろうな。そもそも奴の治める王国に行ったこともない」

「ほんじゃ全部着いてから考えよう!! しししし!! 楽しみだな~ドレス老婆!!!」

「ドレス()()()だ、麦わら屋」

 ルフィはサンドイッチで朝食を食べながら作戦会議をしようと提案し、各々好みの具材をサンジに伝えた。

 なお、ローはパンが嫌いなため、おにぎりを要求するのだった。

 

 

 そして、ドレスローザ近海。

「テゾーロさん、見えました!!」

「ドレスローザか……初めての来訪だ。気を抜くな、ドフラミンゴなら何をしでかしてもおかしくない」

 〝天夜叉〟と〝新世界の怪物〟の邂逅が刻一刻と迫っていた。


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