ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~ 作:悪魔さん
クザンが抜けたの、実際問題キツかったんですね……。
ドンキホーテファミリーに関する話を終えたテゾーロ。
耳を傾けていたロー達は、言葉を失っていた。
「……これからどうする? この先は相当世界は荒れるぞ」
「……変わらねェよ」
「!」
ローはテゾーロを一蹴するように笑った。
(やはり、原作通りになるか)
「……言いたいことは、それだけか?」
「ああ。武運を祈る」
ローは愛刀を片手に立ち上がると、一礼してから仲間を連れて部屋を出た。
一礼したのは、フレバンスの件で世話になったからだろう。
「……あとはクザンだな。間に合えばいいが……」
テゾーロが目を細めながら外の景色を眺めていると、電伝虫が鳴り響いた。
まさかと思い、すぐさま応答する。
「どうした」
《テゾーロさん! 海軍大将〝青キジ〟が!》
「噂をすれば影が差すとはこのことだな……私の部屋まで通せ」
《了解!》
テゾーロは続けざまにクザンとの対談に臨んだ。
数十分後、テゾーロは海軍大将と
「……お前、サカズキを推すのか」
クザンは目を細め、テゾーロの真意を問う。
海軍では過激派である部類のサカズキを元帥に推すとは、クザン自身も想定外だった。政府の顔役とはいえ、上層部の思想ではない彼がどういう経緯でサカズキを推したのかが、とても気になった。
その疑問に答えるように、テゾーロは口を開いた。
「理由は大したものじゃないですよ。その方が都合がいいからです」
「都合ね……必要な犠牲ってわけじゃねェよな」
「そんな訳ないでしょう。……クザンさん、自身の向き不向きを考えたことあります?」
その言葉に、クザンは目を見開いた。
「……どういうこった?」
「今の海軍に求められるのは、軍の強化です。海賊王ロジャーや白ひげを相手取った古参の英傑が前線を退き、さらに海軍大将が一人減る――海軍をより強力な軍隊にするとすれば、サカズキさんの方が向いている。あなたは軍の立て直しの方に向いてそうですから」
「成程ね……」
その上で、テゾーロはクザンに指を差しながら告げた。
「クザンさん。あなたはガープ中将と同じ型破りの組織人です。海軍大将をあえて辞して、遊撃隊を率いるという選択もある。大多数の指揮より、少数の隊長の方が向いてる気がするんです」
「……まさか似たようなことを言いなさるとはなァ」
「?」
クザンは頭を掻きながら、気になることを言い放った。
似たようなことを言う……クザンは一度、テゾーロに似たことを告げられたのだろうか。
「実はな……ゼファー先生から声がかかってよ」
「ゼファーさんから?」
「お前さんの言っていたような、遊撃隊を組織したいって」
「!?」
まさかの言葉に、テゾーロは驚きを隠せないでいた。
ゼファーで遊撃隊と言えば、海賊の殲滅を目的とする過激派組織「NEO海軍」がどうしても浮かび上がるからだ。NEO海軍は海軍の非正規部隊「海賊遊撃隊」を前身とした組織であり、そのきっかけはこの世界では起こってない演習艦襲撃事件である。
まさかここへ来て、思わぬ方向へ向かうとは。
「具体的な話は?」
「これからだな……司令官はおれで、ゼファー先生は顧問とする組織にしたいらしい。一応色んな海兵に声をかけてるってよ」
「……クザンさんは、どう思ってるんで?」
「……正直、迷ってる」
クザンは項垂れながら、困った表情を浮かべた。
サカズキが暴走した際に止められるようにしたいという想いもあれば、今までの海軍で出来なかったことがやれる新しい組織に入りたいという想いもあり、板挟みになってるようだ。
そんな彼の様子を見たテゾーロは、ガープの話を持ち出した。
「……クザンさん、ガープ中将がなぜ
「そりゃあ……活躍が活躍だからな」
「厳密に言えば人望と実績です。クザンさん、あなたにはそれがあるじゃないですか」
「!」
テゾーロは、迷いに迷うクザンを諭し始めた。
「海軍大将としての実力からくる実績と、センゴクさんが次期元帥に推す程の人望。……これだけでも十分大きな影響があるんです」
「……お前……」
「それに、サカズキ大将が元帥になったとしても、センゴクさんみたいにストレスに悩まされる日々だと思いますよ? 天竜人の無茶ぶりとか」
「あー……」
色々と振り回されるセンゴクの姿を思い出したのか、クザンは引き攣った笑みを浮かべた。
元帥になったらなったで、クザンは大きく変化する世界情勢の対応に追われ、ダラけることができなくなる。それにサカズキの正義は現場で効果が最大限に発揮されるのであり、海軍の指揮権を掌握しても思い通りにはいかないのだ。
そういう意味では、元帥はやめた方がいいかもしれない。
「……ちょっと考え直すわ」
「それでいいと思います」
テゾーロの不敵な笑みに、クザンは憑き物が落ちたのか朗らかに笑ったのだった。
*
聖地マリージョア。
世界政府最高権力の五老星は、テゾーロのことで話し合いをしていた。
「テゾーロとドフラミンゴが、どうやら対立しているらしい」
左目に傷のある、杖を突いた巻き髪の老人――ジェイガルシア・サターン聖は、二人の関係に言及した。
今では天竜人に匹敵する権力と富を持つ〝黄金帝〟ギルド・テゾーロと、七武海で最も危険とされる〝天夜叉〟ドンキホーテ・ドフラミンゴ……二人は世界的に影響力のある男であり、世界の均衡にも影響を与える程のチカラを秘めている。
そんな二人が、お互いの寝首をかくことを狙っている――その報せを聞いた時、彼らは肝を冷やした。四皇同士の接触とはまた別の意味で、世界に直接ヒビを入れかねないからだ。
「確かに……ここ近年の奴の行動も、不可解な点がある」
大きな白いひげと頭部のシミのような痕が目立つ老人――トップマン・ウォーキュリー聖は、テゾーロの実に起きたある出来事に疑念を抱いていた。
それは、グラン・テゾーロが中立国と認められているにもかかわらず、四皇〝赤髪のシャンクス〟と関係を持っていることだった。
「そのまま捉えれば、カイドウやビッグ・マム、そして最近四皇の一角となった黒ひげの脅威への抑止だろう」
刀の手入れをする禿頭と和装の老人――イーザンバロン・
白ひげ亡き後、新世界は不安定だ。先日に至っては、不死鳥マルコ率いる白ひげ海賊団の残党達と黒ひげ海賊団が大規模な抗争を繰り広げ、マルコ達が惨敗した。今までの白ひげの
この解釈については、長髪で長いひげをたくわえた老人――マーカス・マーズ聖も同意している。
「しかし、我々を意識しているとすれば話は別だろう」
金髪でカストロひげをたくわえた、首元の傷が特徴の若々しい老人――シェパード・
ドフラミンゴは、聖地マリージョアにある
それに対し、テゾーロは世界政府を内側から変えていこうと目論んでるが、この世界の秩序をより良くしようと動いているのは明白だ。経済力と影響力を鑑みれば、都合がいいのはテゾーロだ。
「……赤髪と密接な関係を築いたのは、ドフラミンゴを潰した際、奴の取引相手からの報復による被害を防ぐためか」
「そう考えることもできるな」
「ドフラミンゴを押さえて口封じすれば、厄介事は確かに減る。切り捨てるのならばドフラミンゴだな」
「テゾーロは世界政府の顔役としても必要だ。次の
マーズ聖の言葉に、他の四人は無言で頷く。
五老星の共通の考えは、テゾーロの利用価値の高さだ。
民間人から慈善事業や世界政府の依頼の請負で成り上がり、ついには天竜人と同等の権力と富をも手に入れた、まさしく出世の神様。彼は革新的で古い常識に囚われない柔軟な思考で、多くの事業を成功させてきた。ドフラミンゴは自らの出自や裏社会での立場で君臨しているが、テゾーロのような堅気の仕事で世界の最上位に成り上がった者に相応の権限を委ねる方が、世間的なウケがいいのだ。
世界政府の統治の正当性をアピールする上では、ギルド・テゾーロという男は絶大な影響力を発揮する
「ふむ……ならば、二人の抗争は様子を見ることにしよう」
「武力衝突となれば、大将を派遣して牽制すればよい」
「国王同士の衝突となれば、両国の国民は混乱するだろうが、奴の手口が露見すれば割り切れよう」
世界で唯一の中立国の国王と、王下七武海である国王の摩擦。
新時代を迎えようとしている今、五老星の腹は決まっていた。
「ドフラミンゴを切り捨てるぞ」
「
「あの男をうまく利用すれば、活発化する革命軍の抑止にも使えるからな」
テゾーロとの連携を重視した五老星は、ドフラミンゴの失脚を前提に今後の方針を固めることにするのだった。
もっとも、シャンクスの件に関しては、真実は