ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~ 作:悪魔さん
新世界編では無双します。
CP-0に監視されるという事態に見舞われたテゾーロ。
ステラ達にも目が向けられてる以上、根回しは不可能。このグラン・テゾーロで大人しくしている他なかった。
(介入できない以上、エースは死ぬだろうな。あいつに未練はないが、白ひげ亡き後の世界の荒れようを考えるとな……だが敵討ちに〝黒ひげ〟に挑んで勝てるかどうかは別だな……)
テゾーロにとって、〝白ひげ〟の死は世界規模の損失になると考えている。
彼は自らの雷名でナワバリにある国々や島々を庇護下に置いているが、ビッグ・マムやカイドウと違って一切の見返りを求めず守っている。言い方を変えれば、白ひげはナワバリを
事実、世界政府に加盟していない国家は「人権」が無いも同然で、海賊や人攫いが蔓延る無法地帯と化している。加盟したら加盟したらで天上金を支払い続けねばならず、中には天上金を支払い続けたために国家財政が破綻・滅亡した国もあるという。
天上金に関してはテゾーロが無償で肩代わりすることもあって、加盟国の中でも財政難に苦しむ国家は年々減少傾向で、非加盟国からの要請も増えつつある。黄金を生み出す能力ゆえに何百億何千億ものカネを出せるテゾーロは、そういった国々にとっては救世主に見られることもあるが、武力という面では白ひげには到底及ばない。むしろ海賊達は〝新世界の怪物〟より〝世界最強の男〟を恐れるのだ。
「……これが俗にいう〝世界の修正力〟というヤツか……?」
テゾーロは頭を抱えた。
今のギルド・テゾーロは、成り代わりという似て非なる存在。彼が世界の流れに関わり過ぎたため、このような事態に陥っているのかもしれない。
「……今は静観を決めるしかないな。エースと白ひげは不可能だ。そうなると、ひとまず大物達に注視すべきか」
……ゴゴゴゴ……!!
「!? これは……!」
突如、地鳴りと共に島が揺れた。
幸い、このグラン・テゾーロがある「バーデンフォード」は、全ての建物に耐震構造をしてある。現実世界の巨大地震なら耐えうるように補強されてるので、特に問題はない。
「テゾーロ様!」
「大変だ、〝白ひげ〟と海軍が!」
「ぶつかったか……!」
大慌てで駆けつけたタナカさん達の言葉に、テゾーロは眉をひそめた。
ついに、マリンフォード頂上戦争が始まったのだ。
「先程の地震の負傷者は?」
「現時点では確認されてません……!」
「緊急事態宣言だ! 白ひげの能力行使による地震及び津波の発生が高まっている! 海岸にいる者がいれば必ず屋内、なるべく国の中心に避難するように通達しろ! 混乱による治安の乱れもあるだろうから、私がシード達にも命令しておく!」
『はっ!!』
グラン・テゾーロ中枢は慌ただしくなる。
結果がどうなっても、この先の未来の行く末に関わる巨大な戦いが〝赤い壁〟の向こうで勃発しているのだ。万が一の事態に備えねばならない。
国家間の戦争であれば仲裁役を買うことができるが、相手は四皇――それも50億越えの懸賞金がつけられた世界最強の海賊。〝新世界の怪物〟として四皇に並ぶ影響力を持つテゾーロでも、進撃を始めた彼を止めるのは不可能だ。
(……もどかしい限りだ。止められることも止められないとは。それも政治的な理由で)
政治的な駆け引きは、テゾーロも板についている。五老星との私的な謁見も許される身なのだから、権力も天竜人に匹敵する。
だが、今回ばかりは先手を打たれた。凄腕の殺し屋の一面を持つCP-0を派遣され、身動きがうまく取れない以上、この戦争の回避は不可能となり、ついに衝突した。
己の非力さが、憎く感じる。
(……本当に、すまない)
誰に対する謝罪なのか。
それは、テゾーロのみが知る。
そして翌日、全世界に号外が配られた。
――マリンフォード頂上戦争にて海軍が勝利し、〝白ひげ〟〝火拳〟が戦死。
*
それから二日が過ぎた頃。
CP-0が任務遂行を終えたとして引き上げた直後、センゴクから伝達が来たため、テゾーロはマリンフォードへと向かった。
マリンフォードの街と要塞は、未だに破壊の跡が生々しい。
「お疲れ様です! センゴク元帥がお呼びです!」
「ああ」
テゾーロはマリンフォードの広場を歩く。
マスコミも連日ここで起きた歴史的事件を伝えるべく、シャッターを押している。
(……モルガンズのところの記者もいるな)
「……え? あそこにいるの、ギルド・テゾーロさんじゃ!?」
「本当だ!! 〝黄金帝〟テゾーロ王だ!!」
「スクープだ!! 大売出しだぞ!!」
一斉にシャッター音が鳴り響く。
海兵達に警備されながら、テゾーロはセンゴクの元へ案内された。
「……来たか、テゾーロ。まあ、掛けたまえ」
「……失礼」
ソファに座り、湯呑みの茶を啜る。
その後、暫しの沈黙が訪れる。
「……センゴク元帥」
「わかっている。だが、上の決定には逆らえんし、どの道白ひげとの戦争は避けられんかった。エースの身柄を受け取った時点で決まってたんだ」
「……」
そう言葉を紡ぐセンゴクに、テゾーロは何も言えない。
彼もまた、世界の平和を願って軍務に没頭していたのだ。
「……白ひげはボランティアで島を護ってたんだ。白ひげという
「……」
「この際言うが、エースはこの時代の頂点にはなれない男だった。海賊王の息子という肩書きこそ効果があるだろうが、〝この海で最も恐ろしい能力〟の覚醒者じゃない」
「〝この海で最も恐ろしい能力〟?」
テゾーロ曰く。
覇気や悪魔の実、武術や戦法など、この世界を生き抜くためのチカラは多数あるが、その中でもその場にいる者達を次々に自分の味方につける、一種のカリスマ性とも言える「求心力」こそが恐ろしいチカラであるという。
その恐ろしさを、センゴクは身をもって知っているはずだと。
(〝麦わら〟か……)
頂上戦争の最中、突如乱入してエース奪還を一度は許してしまった、ガープの孫。
確かに彼は、初対面である白ひげの信頼を勝ち取り、頂上戦争で一際注目を集めた。それがテゾーロの言う「求心力」の持ち主ゆえなら、納得もいった。
「それを持つ人間と持たない人間とじゃあ、成長した時の差は歴然だ。白ひげも話のわかる人だったんだ、
「……」
「戦争は勝っても負けても失うモノの方が多い。それはわかってるさ。だから避けたかったんだ」
テゾーロの言葉に、センゴクは何も言えなくなった。
世界政府の尻拭いを若い頃からしてたからこそ、今の世界の在り方に思い悩んでいるのだろう。彼も平和を重んじることを理解している分、甘えるなだの現実を見ろだのと反論できない。
「……まあ、もう済んでしまったんだ。今はこれからの世界をどうするのかが大事だ」
「……そうだな」
「――で、話とは?」
「ああ、まずはこれに目を通してくれ」
センゴクはテゾーロに一枚の紙を渡した。
それは、世界政府からの要望が書かれた書類だ。
「……予想通りと言えば、予想通りか」
テゾーロはそう呟いた。
書類の中身は、今回の戦争における遺族への慰謝料と要塞の修復費、そして周辺海域で起きたであろう津波被害の復興費の全額負担だ。
テゾーロからカネを奪って力を削ごう、なんて思惑がゴルゴルの実の能力者に通じる訳もないので、政府中枢が泣きついてる状態と考えるべきだろう。
「別にカネは腐る程あるので結構ですよ」
スラスラとサインをするテゾーロに、センゴクは呆れた笑みを浮かべた。
その顔には、どこか安堵の表情を浮かべているようにも見える。
「……海軍はどうするつもりですか?」
「〝正義〟は価値観だ……世代は越えられない。コング総帥には、青キジを推薦していると伝えてる」
「政府中枢は、サカズキ大将を推すと思いますよ。仲があまりよろしくないと聞いてるので、ちゃんと仲介した方がいいですよ」
「それは確かにな……」
センゴクは溜め息を吐いた。
寛容さを持つ「ダラけきった正義」を掲げる青キジと、人間は正しくなければ生きる価値なしとして「徹底的な正義」を掲げる赤犬。まるっきり対極に位置する二人は、確かに何かと対立気味ではあった。
多くの人間と出会ってきたテゾーロは、赤犬を慕う者やその思想に賛同する者が多いため、大海賊時代に必要とされるのではないかと分析しているようだ。
「……ガープ中将は?」
「ゼファーと共に、軍の教官として残る。私も大目付という立場で、元帥は辞しても軍に残るがな」
「おつるさん、大変ですね」
「そうなると、どの道大将の枠が一つ減るな……どうしたものか」
センゴクの懸念は、どう転んでも大将が一人いなくなるということだ。
海軍の最高戦力に欠員が出た場合、今の海軍に候補者こそいるが、サカズキにクザンに匹敵するかは別問題。人望と実績は勿論、海賊達から畏怖される実力が無ければならない。それに今の海軍は、先の戦争で大きく人員を減らしているため、人材調達も必須だ。
そんな切実な悩みを聞いたテゾーロは、笑みを浮かべた。
「センゴクさん。これはおれの提案なんですが……徴兵制というのはいかがでしょう?」
「徴兵制?」
「世界各地から猛者を集めるんです。それこそ、大将に相応しい実力者を」
「フム……」
テゾーロの提案に、センゴクは唸った。
海軍は志願する人間を育ててきたが、その逆の徴兵は今までしてこなかった。時代が移り替わろうとしている中で実施するのは、いい刺激かもしれない。
「中々の妙案だ、検討しておこう」
「恐れ入ります……あと、あなたにだけ伝えたいことがあるんですが、いいですかね」
「私にだけ」
テゾーロはセンゴクに耳打ちをした。
その内容を知り、血相を変えて叫んだ。
「貴様、本気なのか!?」
「あの男を消せば、世界は大きく変わります。三大勢力の均衡は、近い内に役に立たなくなる。あいつが雲隠れする前に仕留めなければならないんです」
テゾーロの決意に、センゴクは息を呑んだ。
それは、世界中を巻き込む大事件へとつながる布石だった。
あの男は、薄々お分かりかと。