ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~ 作:悪魔さん
前半はウタ、後半は……例のアレです。
「ジャングズ~~~!!」
「……今まですまなかった、ウタ……!」
グラン・テゾーロの港で、シャンクスとウタは抱き合って涙を流していた。
テゾーロ・ステラ夫妻の陰の尽力で10年の溝が埋まり、ようやく和解できたのだ。
ヤソップもルウも、あのベックマンですら目頭を押さえて涙ぐんでいるので、双方にとって余程辛い案件だったのだろう。
「よかった……本当によかった……!!!」
(いや、何であんたが一番泣いてんだよ……)
涙で顔をグシャグシャにするゴードンに、テゾーロは呆れた。
ゴードンも育ての親と言えば育ての親だが、どっちかって言うとシャンクスの方が顔をグシャグシャにすると思う。
「黄金帝……何と礼を言ったらいいか……」
「ああ、おれ達にとっての一番の恩人だ!」
「礼を尽くしてもまだ足りねェ!」
「そこまでのことじゃない。ウタの身にもしものことがあれば世界規模の損失だし、
ライムジュース、ホンゴウ、ボンク・パンチの幹部三人はそれぞれ感謝を述べ、テゾーロはにこやかに対応した。
(それに、スライスの働きもなければダメだったかもしれないしな)
スライスに礼の品でも送らないとな、とテゾーロは笑った。
先程問い合わせたところ、あの時ウタの配信は《本当にたまたま観ていただけ》なのだそうだ。
あのアドリブがなければ、ウタの心はズタボロになりかねない。ステラの献身だけでなく、スライスの後押しがあったからこそ成り立った和解なのだ。
「シャンクス、私は礼などいらないですよ。金は腐る程あり、コネも無数にあるのでね」
「いや、これはおれ達のメンツにかかわる問題だ。そうだな……ここをおれのナワバリにするってのはどうだ?」
シャンクスの提案に、テゾーロは思案する。
四皇の中でもシャンクス率いる赤髪海賊団は、海軍から「鉄壁の海賊団」と呼ばれる程に個々の実力が高く、組織としてバランスが取れている。テゾーロも自国を護る軍隊や客将であるバレットがいる上、今は政治に身を置いているメロヌスら幹部陣も戦闘力が高いが、四皇には及ばない。
シャンクスと結びつき、一種の軍事同盟的な契約を結べれば、他の四皇や世界政府との全面戦争という最悪の事態は回避できる。ましてや、「ラフテルへの〝
そうとなれば、受け入れた方が得だろう。
「……わかった。じゃあ上納金についてだが――」
「いや、カネはいい。赤髪海賊団からの〝お礼〟として扱ってくれ。それにここなら食料やカネは自力で集められそうだ」
シャンクスは無償でグラン・テゾーロ周辺をナワバリにすると明言し、ベックマン達も一切の抗議もせず同意した。
それ程までに、ウタという少女は赤髪海賊団にとって大きな存在なのだ。
「ではお言葉に甘えて。……ただ、ウチのカジノでパンツ一丁になった腹いせで暴れるのだけはやめてくださいね」
「いや、そこまで落ちぶれやしねェよ!!」
「パンツ一丁はあるだろうな」
「シャンクスって、結構引っ掛かりそうだよね~」
ベックマンとウタの言葉の刃に、赤髪海賊団は大爆笑。
シャンクスは「笑うんじゃねェ野郎共!!」と怒鳴り散らすのだった。
その後、赤髪海賊団はグラン・テゾーロでの長期滞在を決定。
ウタは歌手として尊敬するカリーナとデュエットを組んでショーを盛り上げ、ヤソップらはカジノを楽しみ、ゴードンはテゾーロの部下達と政治の談話をしたり、それぞれで有意義な時間を過ごした。
そしてシャンクスとテゾーロは、ホテル最上階の天空劇場で再び会談した。
「〝
「さすが故郷の海だ、肌に染みるよ……」
酒を飲み交わす、海の皇帝と黄金帝。
二人は年の差が二つなので、親しく話すことができた。
特にウタの話とルフィの話は、シャンクスが一方的にしてくる勢いなので、本題を切り出すのが一苦労だ。
テゾーロは長年のノウハウで受け流し、ようやく落としどころを見つけて尋ねた。
「そうだ。シャンクス、白ひげと会談したそうじゃないか。結果は?」
「……決裂したよ」
シャンクスの言葉に、テゾーロは「あー……だろうね」と返した。
テゾーロフェスティバルの一件以来、白ひげはティーチに追跡命令を出した。テゾーロはそれに口を出さないようにしたが、当事者に因縁あるシャンクスは直談判しに行ったようだ。
ある意味では原作通りの展開だ。
そして、白ひげの対応も原作通りだ。強いて言えば、サッチが無念の死を遂げた仲間殺しではないという違いが生じているが、その代わりにとんでもないニュースが全世界に拡散した。
――大海賊白ひげが、過去に
どんなすれ違いを起こせばそんな複雑怪奇な話になるのか……世経のモルガンズが捏造レベルにまで誇張した話が事実として拡散し、世界的に大きな波紋を呼んでしまった。
まあ、内容は十中八九テゾーロフェスティバルで起きた事件であり、時系列もアラバスタの内乱の前であるので過去という点は合ってるが……少なくとも白ひげは表立って事を起こす性格の人間ではない。モルガンズは話題のネタでも尽きたのだろうか。
いずれにしろ、ナワバリを侵害していないのに、世界的な実業家であるテゾーロに手を出したという話が広まったのはよろしくない。見方を変えれば、言いがかりをつけて武力で制圧し、テゾーロの富と権力を奪おうとしたと歪曲して受け取られかねない。大海賊白ひげの長年の信頼と威厳に泥を塗る事態だ。
ゆえに白ひげは、落とし前をつけに追跡命令を出した。問題なのは、ティーチを追っていたのが〝火拳のエース〟だったことだ。てっきり親友であったサッチか、実力を考えて二番手のマルコかと予想していたが、まさかの原作通りだった。
「……マズいな」
「ああ……今のエースじゃあ、ティーチには敵わない」
「これは参ったな……白ひげ海賊団に一任するって言っちゃったし……」
テゾーロは食い下がるべきだったか、と苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべた。
エースとティーチの衝突によって、あんな大事件が起こり世界が荒れたのだ。
シャンクスの直談判にも応じないからには、やはり海軍との戦争への道は避けて通れないのか。それとも、エースが引き際を弁えてくれるのか。ちなみにテゾーロは前者の可能性の方が高いと踏んでいる。
「こうなったら、静観するしかないか……」
「……最悪の場合は戦争だぞ」
「こればっかりは運だよ。一応注意喚起はしたけど……海軍元帥は五老星にとっちゃあ中間管理職に過ぎない」
そう、海軍が戦争を避けようとしても、世界政府の中枢が望むとなれば逆らえない。
エースの
ティーチがエースと衝突するか否か。それだけで、今後の世界の命運が決まるのだ。
原作ではエースが敗れ、それを機に戦争が起こり、白ひげが死んで黒ひげが台頭した。ではこの世界はどうかというと、避けられない可能性もあるし避けられる可能性もある。だが、それはテゾーロの力量では手に負えない案件であり、天任せだ。
それにティーチの実力を考えれば、他の大物ルーキーでも事足りる。名を上げるのにわざわざ〝麦わらのルフィ〟にこだわる必要はない。まあ、彼も血筋が血筋だが。
(正直な話……海の王者を怒らせる方を選びそうだ)
原作を思い出し、テゾーロは頭を抱えた。
ティーチは原作で悪魔の実の能力者から能力を奪う〝能力者狩り〟を行い、自身も白ひげのグラグラの実を奪取している。このことを視野に活動しているとなれば、むしろ白ひげの一味の誰かを誘き出して政府に引き渡し、わざと白ひげと海軍の戦争を誘発させる可能性がある。
……というか、考えれば考える程、そうなりそうで怖い。
(クソ、あの時〝ヤミヤミの実〟を奪われた時点で詰んでたってことか!?)
テゾーロは後悔に苛まれた。
あのテゾーロフェスティバルでティーチを取り逃した時点で、白ひげと海軍の戦争勃発のカウントダウンが始まっていたのだ。
事実、原作では「色んなズレは生じたが計画通りだった」とティーチは言っていた。つまりティーチにとって、テゾーロの妨害や工作は色んなズレ
完全に、一本取られてしまった。
「テゾーロ、顔色が悪いぞ」
「ああ……もっと早く気づくべきだった。とんでもねェ策士だ」
かつての海では、金獅子のシキが海賊界きっての策士として名を馳せた。
今の海では、そこまで名を上げてはいないが、ティーチが金獅子と同等以上の策士として暗躍している。懸賞金は初頭手配の9600万ベリーのままだが、彼のことを侮る人間は多く、素性や得体の知れなさを理解している者にしか危険性を把握できてない。
「もはや何をしても無駄だ……ティーチの策略で白ひげ海賊団と海軍本部は衝突する」
「……」
――白ひげ海賊団と海軍の戦争は、最初から避けて通れない運命だったのか……!?
沈痛な声をあげるテゾーロに、シャンクスはやるせない表情を浮かべたのだった。