ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~ 作:悪魔さん
四日後。
急きょ帰還したサイは、テゾーロとゴードンに例の映像電伝虫の映像を見せた。
「ま、まさか記録していた者がいたとは……」
かつての国王だったゴードンは、国民が命懸けで映像を回していたことに驚く。
だが、それ以上に衝撃を受けていたのが、テゾーロだった。
「……」
火の海と化したエレジアに顕現した〝魔王〟。
四皇と呼ばれるずっと前とはいえ、赤髪海賊団が総力で立ち向かっても大惨事を免れなかったという凶悪かつ圧倒的な〝破壊のチカラ〟に、血の気が引いていた。
今まで見たことない程に青褪めたテゾーロに、サイも驚いていた。
「……この件は政府上層部には?」
「まだ報告してません。私の上司はテゾーロさんですから」
そう言ったサイに、テゾーロは「英断だ」と感謝を述べた。
こんなものが世に出回ってはならない。真実は知るべきモノだが、これは別次元だ。
存在が露見すれば、
「悪魔の実の副産物か、古代兵器か……?」
「……」
サイは無言を貫いた。
そう、現地に赴いたサイの調査を以てしても、魔王の正体は不明なのだ。
ただ歌えばいいのではなく、ウタウタの実の能力者が歌うことで顕現するらしいので、悪魔の実と関係がある可能性は高いが、それどころではない。
魔王とは本来、悪魔の実が存在するこの世界でも、絵物語や真偽不明の伝説上の存在でしかない。だが、この映像にはその空想上の存在の実在が明らかとなっている。しかもそのチカラは四皇すら上回りかねない。
それにゴードンの証言によれば、魔王が消滅したのはウタの体力切れだという。言い方を変えれば、もしウタウタの実の能力者がとんでもないスタミナの持ち主なら、顕現したら体力切れになるまで破壊の限りを尽くすということだ。
まさに、制御不能。人智を超越した破壊の化身。トットムジカで顕現した魔王は人間が使役できる存在ではなく、本当に世界を破滅させる〝脅威〟なのだ。
「……シャンクスやゴードンさんがひた隠しにする理由がわかったよ……」
「テゾーロ君……」
「ウタは純粋な子だ、真面に受け止めたら精神的に追い詰められかねないぞ……」
これ程の大ごとには、さすがのテゾーロも参ったのか頭を抱えた。
エレジアを滅ぼしたのは魔王で、その魔王を召喚したのは何も知らずにトットムジカを歌ってしまったウタ。
シャンクス達はエレジアの為に魔王と戦うが、救えたのはウタとゴードンだけだった。
そしてエレジアでの全ての罪をシャンクスは被り、立ち去ることでウタを守っていた。
この真実を、ウタは知る権利がある。テゾーロはその考えに間違いはないと思ってるし、このままさらに歪む前に教えるべきとも考えている。
だが、本当にウタが知っていい真実なのか……それだけが引っかかった。
ウタは世界一の歌姫であり、彼女を必要とする人間は物凄い数だ。世界的な影響力は自分や四皇に匹敵、あるいはそれ以上とも言える。
だがこの真実を知れば、今まで海賊嫌いと公言していたウタは、目的を失ってしまう。海賊を嫌う資格が無くなり、誰の為に、何の為に歌うのかがわからなくなってしまう。
目的を失ったことで歪な道を歩む者は多い。ダグラス・バレットも、ロジャーとの決闘という目的を失ったことで、サイクロンのようにあらゆるものを無差別に破壊するようになったのだ。ウタが歌う目的を失えば、廃人どころじゃ済まなくなる。シャンクスとの和解など、夢のまた夢だ。
「……本当に、どうすればいいんだ……!」
手詰まりだと言わんばかりの重い声を上げるテゾーロ。
何が正解なのか、何が間違いなのか、わからなくなっている。
サイもゴードンも、助言はおろか提案もできない。今はこの場にいないシャンクスでも、おそらく答えが出ないだろう。
「っ……」
そんな様子を、息を潜めてウタが見ていた。
本来ならテゾーロは気づくはずだが、トットムジカの脅威を知ったことで冷静さを欠いており、彼女が隠れて見ていたことに気づかなかったのだ。
ウタは苦悩するテゾーロ達の姿をそれ以上見るのが苦しくなり、その場から逃げるように走り去った。
その姿を目撃している者も知らず。
*
「どうしろっていうの、今更……!!」
ホテルの天空劇場のステージで、ウタは蹲っていた。
色んな感情がごちゃ混ぜになり、整理がつかない。
海賊嫌いだと公言してきたからこそ、海賊に虐げられた世界中の人々がウタの曲に惹かれた。
が、それがつい先程根本から崩れた。
真実を知った今、海賊を――シャンクス達を恨むことができない。嫌う資格さえない。
――何をすればいいの……!? 何のために生きればいいの!?
ウタは自責の念に潰されそうになった。
「……大丈夫? ウタちゃん」
「……ステラさん……?」
その時、声をかけてきたのはステラだった。
かの黄金帝ギルド・テゾーロの妻が、世界の歌姫に手を差し伸べてきたのだ。
「……とても苦しそうよ」
「……あなたには、関係ないから大丈夫だよ」
ウタは無理矢理笑顔を作った。
が、テゾーロと共に苦楽を共にしたステラは騙されない。
「自分にウソをついてるのは、よくないわ」
「っ……!」
「良いことも悪いことも、全部溜めずに吐き出した方がいいわ。自分を壊さないためにも……ね?」
穏やかに笑って隣に座りこむステラに、ウタは涙を流しながら話し始めた。
自分と〝赤髪のシャンクス〟との関係。
エレジアで起こった大事件の真相。
自分の罪。
涙で顔がぐしゃぐしゃになっても、精一杯言葉を紡いだ。
ステラはそれを、遮ることなく黙って聞いた。
「私、歌を歌ってもいいのかなぁ……!?」
感情が崩壊したウタの、悲痛な声。
ステラは彼女の頭を撫でながら告げた。
「今まで頑張ってきたのね、偉いわ」
ありきたりとも言える常套句。
だがその一言は、今のウタにとって慈愛に満ちた囁きであった。
「ス、スデラ、ざん……!!」
「ウタちゃん……ファンの為に、世界中の人の為に歌ってくれてありがとう」
「う……あ、あぁああぁぁぁっ!!!」
大きな声で泣きじゃくるウタを、ステラは優しく抱き寄せる。
シャンクスに会いたい。
赤髪海賊団の皆に謝りたい。
逃げたいし、救われたい。
今まで隠していた本心を、言葉に表すウタ。
悲痛と後悔の想いが胸を通じて痛い程に伝わる。
(私に出来る事は限られているし、大した力にもなれないけど……どうかウタちゃんの心が少しでも和らぎますように)
そう願いながら、彼女が泣き止むまで――全てを吐き出し終えるまで、優しく包んだ。
しばらく経ち。
ウタがようやく泣き止んだところで、ステラは提案した。
「ウタちゃんって、映像電伝虫で配信しているんですって?」
「うん、私の声はそうやって届けてるの」
「それはいいことを聞いたわ。ウタちゃん、ファンの皆に尋ねるのはどうかしら?」
「ファンの皆に……?」
ステラはウタに、一つ提案をした。
海賊嫌いを公言していたが、
ファンがどう答えるのかは、ステラ自身もわからない。ひどく責め立てるだろうし、失望と非難の声の嵐になる可能性も高い。だが、自分にウソをつき続けるのはあまりに辛いのも事実だ。ならば、ここで「区切り」をつけた方がよっぽど気が楽になれるだろう。
「もしかすれば、シャンクスさんもどこかで聞いてるかもしれないわ」
「っ……」
「大丈夫、ウタちゃんならできるわ。私は信じてる」
「……うんっ!」
ウタはステラに励まされ、奮起した。
その様子をテゾーロは影から見守っていた。
「……ステラには敵わないな」
*
翌日、ウタはステラの提案通りに緊急生配信を敢行した。
「皆、今日はどうしても聞いてほしいことがあるんだ……」
いつになく思い空気を纏うウタに、モニターで見ていたファンは戸惑いを隠せない。
そしてウタは、ぼつり、ぼつりと言葉を紡いでいく。
自分は昔、ある海賊に出会ってから度々助けられていたこと。
その海賊は知らぬ者がいない程の悪名高き海賊であること。
その海賊は、私利私欲や気まぐれではなく、純粋にウタが好きで助けていたこと。
昨日、それが真実だと知ったこと。
拳を強く握り締め、俯きながら涙声で語るウタに、ファンは言葉を失った。
「私、海賊を嫌う資格がないよ……皆、どうしよう……」
海賊嫌いのウタが、何度も悪名を馳せる海賊に助けられていた。
未だ現実を受け入れてない彼女に、ファンも何と声を掛ければいいかわからない。
苦しみを分かち合い、安らぎを与える世界の歌姫が、人々を虐げる海賊に何度も救われていた事実。ファンの中には子供もおり、不安そうな表情を浮かべている。
その時だった。
《ウタちゃんに罪はねェよ》
「え……?」
ウタはバッとモニターを見た。
励ましの声を上げたのは、モニターの一つに映っているストライプのスーツの上に黒のコートを羽織った男性だ。
《人間、誰かに助けられることは必ずある。ウタちゃんの場合、それが
「……!!」
《ウタちゃん……たとえ君が海賊の娘であったとしても、海賊に育てられたとしても、海賊が実はちょっと好きだとしても、ウタは世界の歌姫だ。海賊が好きか嫌いかなんか関係ない。そうだろう?》
ストライプの男性の言葉に、ウタは唖然とした。
失望や非難を覚悟していたのに、あまりにも想定外な第一声だったから。
《このモニターに映る人間に心の安らぎを与え救ったのは事実だ。海賊は人の命を救えるかもしれねェが、心は別だ。だがウタは心を救える。海賊にできないことができるから、それを誇ればいいじゃねェか》
男性の言葉を皮切りに、ファンは一気に激励の声を上げた。
《そうだよ、ウタちゃん!》
《海賊を嫌う資格がなくても、関係ない!》
《ウタはウタだよ……!》
海賊は海賊、ウタはウタ――ファンは次々と落ち込む歌姫に寄り添った。
今まで寄り添ってくれたお礼とでも言わんばかりに、ウタの心に安らぎを与えていくではないか。
「みんな……ありがとう……本当に、ありがど……!!」
感極まって泣きじゃくるウタ。
すると、ストライプの男性が笑みを溢しながら口を開いた。
《おれも
「?」
何やら意味深な言葉を紡ぐストライプの男性。
泣き止んだウタは感謝しつつも何者なのか尋ねた。
「えっと……私のこと、最初に励ましてくれありがとう。おじさん、名前は?」
《おれの名か? そうだな、そっちが名乗るからにはこっちも名乗らないとな》
ストライプの男性は、不敵に笑って自己紹介した。
《おれの名はスタンダード・スライス。石油王にして〝黄金帝〟ギルド・テゾーロの盟友だ。今日は君の
『――ええェーーーーーーーーッ!?』
ストライプの男性がとんでもないビッグネームだと判明し、その上
この話の最優秀賞はステラに決定ですねー。
ウタちゃんも、ああいう人がいれば違ったのかなと思います。
それとスライスのこと、皆さん憶えていましたか?
作者は忘れそうになりました。ヾ(・・ )ォィォィ
だってオリキャラ多いもん、この小説。(笑)
次回はシャンクスとウタが仲直りできそうです。
それにしてもこの小説、どこで区切りつけよっかな……。