ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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今年最後の投稿です。



第163話〝エレジアの真実〟

 その頃、サイはテゾーロの命令で、一人ある場所へと訪れていた。

「ここが、エレジアですか……」

 廃墟の中を進み、息を呑む。

 ウタとゴードンが暮らす、かつて世界一の音楽の都だったエレジア。たった一晩で国が滅んで以来、この島には廃墟だけしか残っていない。それでも文化的価値・歴史的価値の高い建物であるのは変わらない。

 街中、教会、城跡、港……エレジアの様々な場所を調査し、砂浜へ貴重な資料が残ってないか散策した時だった。

「これは……映像電伝虫?」

 見つけたのは、古い映像電伝虫だった。

 映像を再生できるのかどうか怪しいくらい、年季が入っている。映像電伝虫は当時極めて貴重な代物……おそらく、この国で行われる音楽祭に政府の人間も出入りしており、何かの記念で受け取っていたのだろう。

 中身は幸いにも、生きている。もしかすれば、()()()()()の記録があるかもしれない。

「これは確認する必要がありますね……」

 サイファーポールは諜報活動のプロ。

 スパンダイン親子の追放後、出世して高官となった今でも、テゾーロの外交官の傍ら、諜報員として活動している。

 少なくとも、貴重な記録として保管しなければならないだろう。

 

 ――たとえ、どんなに残酷な真実であっても。

 

 

           *

 

 

 古い映像電伝虫を再生すると、そこに移っていたのは、火の海と化したエレジアだった。

 

《誰か! 大変だ、トットムジカの話は本当だった! 〝魔王〟が――トットムジカでよみがえった魔王が街を破壊している!!》

 

 映像の配信者は、若い男性。

 炎で夜空は真っ赤に染まり、音楽の島は文字通りの地獄絵図だった。

 大火に包まれた街中には、首元の数珠のように並んだ髑髏とピアノの鍵盤の様な両腕が特徴的な、黒いハットを被ったピエロのような異形の怪物がレーザー光線で破壊の限りを尽くしていた。

 よく見ると、怪物に立ち向かう者達の姿が映っている。麦わら帽子と黒いマントの剣士――あの〝赤髪のシャンクス〟と赤髪海賊団だ。今でこそ大幹部とされる面々も、まだ若い。

 赤髪海賊団と魔王の戦闘は、苛烈極まりなく、同時に赤髪海賊団の劣勢だった。魔王の防御は鉄壁であり、覇気を纏った攻撃ですら完全に防ぎ切っている。シャンクスも果敢に攻め立てるが、魔王は巨大な腕を盾にしてレーザーで周囲を焼き払っている。

 大海賊の赤髪海賊団が総力で立ち向かっても圧倒する怪物――魔王の実在に、サイは絶句した。

 

《ハァ……ハァ……この映像を見ている人!! ウタという少女は危険だ!! あの子の歌は、世界を滅ぼす!! ――あっ!! うわーーーーーーーーーーっ!!!》

 

 ドゴォンッ!! 

 

 〝魔王〟が放ったレーザーが直撃したのか、爆音と共に音声と映像はそこで途切れた。

「…………こ、これはっ……」

 サイは血の気が引いた。

 エレジア壊滅の事件は、ゴードンとウタ以外は全滅。この配信をした男性も、トットムジカによって殺されたのだろう。

 海賊界でも穏健派として知られるシャンクスの、悪名を馳せたエレジアの事件。その真相は、ウタがトットムジカを歌って召喚してしまった〝魔王〟を、島の人間を護るために赤髪海賊団が戦っていたというものだった。

 しかし、それでもエレジアは滅んでしまった。四皇と称される前とはいえ、赤髪海賊団は10年以上前から名を轟かす鉄壁の海賊団。彼らの総力を以てしてもエレジアの民を護り切れなかったという事実は、衝撃という言葉では済まされない。

「こんなものが知られたら、世界は破滅するじゃないか……!!」

 サイは顔面蒼白のまま、そう呟いた。 

 この世界を脅かす存在は、古代兵器の復活。悪意ある人間の手に渡れば、四皇でも手に負えないだろう。当然、世界政府も。

 だが、映像に移っていた魔王は、古代兵器以上の脅威だ。後の四皇ですら圧倒する力、映像越しで伝わった明確な悪意、ウタウタの実の能力者がトットムジカを歌えさえすれば封印が解けるという顕現のしやすさ……どれをとっても、古代兵器よりも質が悪い。

 ましてや、悪魔の実をこの世から完全に抹消するのは不可能に近い。人間の手に渡らないようにウタウタの実を封印する以外、方法はないと言える。

 これ程の理不尽が、この世界に存在したとは。

「早くテゾーロさんに報せないと……!」

 

 

 その夜、グラン・テゾーロでは。

「今日は特別中の特別!!」

「カリーナさん! アンさん! そしてこの私、ウタで!!」

「最高最強のスペシャルショーだ~~~っ!!」

『うおおおおおおおおおおおおっ!!』

 グラン・テゾーロが誇る巨大ステージ「GOLD STELLA SHOW」では、三人の歌姫が降臨していた。

 

 一人は、紫髪をまとめ上げたドレス姿の美女・カリーナ。かつては〝女狐〟と呼ばれた怪盗だが、テゾーロに素質を見抜かれ、現在はグラン・テゾーロの歌姫として荒稼ぎしている。

 もう一人は、トンガリ島のライブハウス出身の歌姫・アン。大きなリボンとわたあめのような緑のツインテールが特徴で、天真爛漫な性格から人気が根強い。

 そして、今回のショーのゲスト……世界で一番愛されている人とも称されている世界の歌姫・ウタ。別次元とも言うべき歌唱力と無邪気な性格は、活動して間もないのに種族間の軋轢を通り越した人気を確立させている。

 

 そんな三人の歌姫が、一度に集まるなど前代未聞。

 このサプライズはテゾーロの独断で決定したため、観客は何も知らされてない。ゆえに熱狂ぶりは尋常ではなかった。

「諸君!! 盛り上がってるか~~~~~~~!!」

 ステージの中央に、蝶ネクタイとサスペンダー、短パン姿のコメディアンがマイク片手に現れた。

 グラン・テゾーロのステージで行われるショーを担当する、義足の名司会――〝仕切屋〟ドナルド・モデラートだ。

「今夜のサプライズに驚いた者は多い……いや、全員が度肝を抜いただろう!! 実は……おれもつい先程、フェスタさんとテゾーロさんに言われたばかりでな……スッゲェ緊張してる!! ショーが始まる直前にウタちゃんが参加するって聞いたんだぜ!? ぶったまげるだろ!!」

 その言葉に、観客も湧く。

 世界中のアイドルの頂点が雁首揃えば、誰だって緊張するだろう。

「まずは! この舞台(ステージ)が初めてであり、顔出しも初めてのウタちゃんの自己紹介からだァ!! ――そんじゃ、よろしくな」

「みんな! 初めまして! ウタだよ!!」

 ウタが軽く名前を言った途端、観客の熱気が一気に上がった。

 歓声に包まれる会場に、ウタも思わず「ごめん……ちょっと感動しちゃった」と涙ぐんだ。

「今日は私が尊敬するカリーナさんと、意気投合したアンさんと! スッゴく楽しいショーをします! 楽しんでねーーーー!!」

『うおおおおおおおおおおおお!!!』

 轟く歓声。

 ショーはこれからだというのに、すでに最高潮を迎えている。

 そこで、仕切屋の出番だ。

「ウタちゃん、ありがとよーーー!! さあ、これからショーが始まるんだが……ここで喉を嗄らすなよ!! 終わった頃にはミイラになってるぞ!!」

「みんなー! 水分ちゃんと摂ってねーー!」

 アンが慌てた様子で水分補給を促す。

 その可愛らしい姿に、アンを推すファンはウタのファンに負けない声援を上げる。

「ようし! 準備はいいな? いきなりかっ飛ばすぞ!! ウタちゃんが作曲した、文字通りの〝神曲〟……「新時代」だァ!!!」

 

 

           *

 

 

 新時代はこの未来だ

 

 世界中全部 変えてしまえば 変えてしまえば

 

 果てしない音楽がもっと届くように

 

 夢は見ないわ キミが話した 「ボクを信じて」

 

 

「……美しい……!」

「……何て素晴らしい」

「ああ、ここまで彼女が生き生きしているのは久しぶりだ」

 ホテルの最上階にある自室にて、テゾーロはステラとゴードンと共に、映像電伝虫で生配信を見ていた。

 観客と歌姫が一つになった瞬間だ。平和とはまさにこのことだろう。

「君にはいつも驚かされる……ウタも勿論だが、君も世界が必要とする人材と言える。間違いない」

「買い被りすぎです。所詮おれは成金ですよ?」

「だが武力ではなく、権力と経済力でこの世界を変えようとするその心意気は真実だろう?」

 ゴードンは朗らかに笑う。

 見た目はどう考えても悪役なのに、根っからの善人であるゴードン。人は見かけによらないものだ。

「……ウタを君の庇護下にすれば、政府や海賊達から狙われるリスクも減る。彼女をここに置いてくれないか?」

「エレジアを捨てるつもりですか? 彼女にも思い入れはあるかと」

「……すでに滅んだ国に、いつまでも居させるのもダメだろう」

 ゴードンの言葉に、テゾーロは納得した様子でシャンパンを飲み干す。

 ウタはゴードンとエレジアで二人暮らしだったためか、かなり世間知らずな一面も持ち、王下七武海や四皇の存在など、世界の大半が知っていることに対してほとんど知らない。書物などから知識や情報を得ているらしいが、それだけでは目まぐるしく変わる世界情勢についていけない。

 それを憂いたゴードンは、テゾーロにグラン・テゾーロへ()()()()を移住させてくれないかと提案したが……テゾーロの答えは「NO」だった。

「彼女の育て親はあなただ。今の彼女は、シャンクスに裏切られたと思っている……その上であなたが離れるのは絶対にダメだ」

「……なら……」

「そうね……だからこそ、シャンクスさんとのわだかまりの解消が必要なんでしょう?」

 ステラの言葉に、テゾーロは無言で頷いた。

 運が悪いことに、シャンクスは〝黒ひげ〟と彼を追跡する〝火拳のエース〟の対応で忙しく、今は白ひげとの交渉に向かっている。事前にテゾーロが海軍と政府中枢に手を回したとはいえ、四皇同士の接触に何の対応もしないのはマズいとし、海軍は最重要厳戒態勢を敷いている。

 四皇の中でも話がわかるタイプの男二人の会談に、世界は注目すると同時に危機感を抱いている。シャンクスはそれ程の存在なのだ。

「今の世界情勢次第では、ウタとの和解が先延ばしされる。チャンスを伺って、手を打たなきゃ手遅れになる」

「……テゾーロ……」

 

 プルプルプル……プルプルプル……

 

「!」

 ふと、電伝虫が鳴った。

 テゾーロは受話器を取ると、サイが慌てた様子で声をかけた。

《テゾーロさん! 大変です、エレジアでの任務の件ですが……!》

「収穫があったのか?」

《事件当日の映像を、入手しました……!!》

「「「!!」」」

 その言葉に、一同が目を見開いた。

 テゾーロは冷静に、サイへ指示を飛ばす。

「ご苦労。そのまままっすぐ帰って来い」

《了解……ですが、五老星への報告は?》

「まずはおれがチェックする。中身次第じゃあ、ウタの立場が危ぶまれるかもしれないだろ」

 テゾーロはウタが危険因子と認識されないように忠告する。

 その意図を察したのか、サイは了承するとすぐに連絡を終えた。盗聴を防ぐためだろう。

「……テゾーロ」

「……ゴードンさん、立ち合いをお願いします」

 

 新世界の怪物は、悲劇の真実を目の当たりにすることになるのだった。




楽曲コードの方、今回が初めてなので、使い方が誤ってたら教えてください。

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