ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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久しぶりの更新です。

ウタの裏設定で、カリーナとマリア・ナポレを尊敬するミュージシャンとして挙げてるなんて初耳でした。
せっかくなので、その設定を活かします。


第162話〝国賓・ウタ〟

 数日後。

 グラン・テゾーロに、二人の男女が姿を現した。

 一人は、文字通りの美少女。髪色は右がポピーレッド、左が淡いピンクホワイトのツートンカラー。髪型は一言で言えば「うさみみ型」で、肩から胸にかけて下ろした髪の先はリング状に結んでいる。ヘッドセットにアームカバー、ミニワンピースとハイカットスニーカーという衣装は、どこか現代の歌姫を彷彿させる。

 もう一人は、突き出た頭とその頭に残るつぎはぎが特徴的な貴族風の大男。フランケンシュタインの怪物を想起させるが、とても柔和な雰囲気を纏っている。

 ギルド・テゾーロの「国賓」であるウタと、その育て親のゴードンだ。

「スゴイ……!」

「これが、黄金帝の国……! 何と素晴らしい……!」

 ウタはエレジアの事件以来、初めて外国へ訪れたのだが、ゴードン共々圧倒されていた。

 このグラン・テゾーロは世界で唯一の中立国家であり、同時に巨大なエンターテインメントの街でもあり、世界中の多くの人種が差別なく暮らしている〝夢の国〟でもある。平和で自由な新時代を望むウタにとっては、この国は一つの〝答え〟だったのだ。

「素敵な国……!」

 ウタはグラン・テゾーロの様子に感動を覚えた。

 すると二人の元に、褐色肌のセクシーな女性が現れた。

「お待たせいたしました。私はこのグラン・テゾーロでVIPのお客様をご案内させていただきます、バカラと申します」

「この国の案内係(コンシェルジュ)かね?」

「勿論! 特にあなた方はグラン・テゾーロ公認のVIPの最上位である()()! 民間の方ではあなた方が初めてです」

 つまり、ウタとゴードンは天竜人と同等の立場だと見なされているのだ。

「さあ、どうぞ。世界が認める()()()()()()()、ギルド・テゾーロ様がお待ちしております!」

 

 

 バカラに案内され、ウタとゴードンはテゾーロの自室を訪れた。

「よく来てくれたね。私がギルド・テゾーロだ」

「は、初めまして! ウタです」

 緊張気味に自己紹介するウタ。 

 ――これが、あの赤髪のシャンクスの娘か……。

 テゾーロは朗らかに笑うと、徐に立ち上がった。

「ではまず……会食と行こうか」

「へ?」

「君達二人は国賓として招いているんだ。ただ会話してバイバイだと、ロクなもてなしもしないのかと批判を受ける。国家の信用にも関わりかねないからね」

 テゾーロはイスに腰掛けるよう催促する。

 その前にある会食用のテーブルには、世界各地の様々な料理が並べられている。

 中でもウタが食いついたのは、ホイップがたんまりと乗ったパンケーキだった。

「――パンケーキは好きかね?」

「え、いや!」

「遠慮しなくともいい。好きな物を食べればいい」

「じゃあ、いただきまーす!」

 何と、本当に遠慮せずにパンケーキをがっつき始めた。

 さすがのゴードンも無礼だと注意したが、テゾーロは「せっかくの外界だから好きにさせて構わない」と笑った。

「しかし、ここまで歓迎を受けていいのかね?」

「それが国賓というモノですよ、ゴードン元国王。新時代を担う歌姫ならば、なおのことです」

(……これがこの国の王……何という器の持ち主だ)

 テゾーロの器量に感服しつつ、ゴードンもパエリアを食べ始める。

 なお、テゾーロはローストビーフを頬張っている。

「おいし~!」

「喜んでくれて何よりだ。私は世界中を飛び回ってる身でね、色んな国の食や文化を身を以て体験してきた。そしてその文化は、グラン・テゾーロに集中する」

「成程、異文化交流ということか……」

 ゴードンは関心を寄せた。

 というのも、グラン・テゾーロは移民が多く、多種多様な建築物が多い国だ。冬島ならではの屋根づくりの家から、夏島ならではの壁の家など、種類だけでも相当な数だ。色んな人種が幸福に暮らせるようにした、テゾーロなりの政策なのだろう。

「ねえねえ! カジノ王さん、カリーナさんっている!?」

「ん? カリーナがどうかしたのか?」

 突如、話題はグラン・テゾーロの歌姫・カリーナに切り替わる。

 その反応から、テゾーロはもしやと思い尋ねた。

「……会ってみるかね?」

「いいの!?」

 ウタの食いつきっぷりが、尋常ではない。

 テゾーロはどういうことかと、目線をゴードンに配った。

「ウタにとって、カリーナは尊敬するミュージシャンの一人なんだ」

「成程……」

 そんな縁があったとは思いもしなかったのか、テゾーロは驚きを隠せない。

 すると、それならばとあることを閃いた。

「……カリーナと一緒にステージに立ってみるかい?」

「ええっ!?」

 ピコーンッ! という効果音が付きそうなくらい、ウタのうさみみ型の髪が立ち上がった。

 テゾーロは一瞬ギョッとするが、すぐに通常運転に戻って話し出した。

「歌唱力に自信があるのなら、デュエットを組むなり歌合戦をするなり、色々と手を打てる。幸い、明日のステージのスケジュールは空白でね」

「ホント!? やったー!!」

 テンションが爆上げしてるのか、物凄い勢いで髪が荒ぶる。

 余程嬉しいようだ。

「話については私から通しておこう」

「ありがとう! おじさん、いい人だね!」

 

 ――ザクッ

 

「お……おじさん……ああ、そうか、そんな年齢だもんな……アハハ……」

「ウ、ウタ!! 少しはオブラートに包まないかっ!!」

「え? 何かマズかった?」

 無邪気で純粋な性格ゆえ、ド直球で言い放つウタ。

 今年で三十九歳――ドフラミンゴと同い年――を迎えるテゾーロは引き攣った笑みを浮かべ、ゴードンは血相を変えてウタを叱ったのだった。

 

 

           *

 

 

 その日の夜。

 明日急遽行われるステージに備え、ウタが寝ている頃。

 テゾーロはゴードンと一対一で飲み会をしていた。

「ウタの為にここまでしてくれて、どうもありがとう。私はあの島ではここまでのことはできなかった」

「国を挙げて歓迎すると言ったんです。こうでもしないとおれの気が済まない」

 シャンパンを煽るテゾーロ。

 ゴードンもまた、久しぶりに飲む「外の酒」を堪能する。

「……さて、ここから先はオフレコで行きましょう。まずはトットムジカについてです」

「!!」

 その言葉に、ゴードンは顔を強張らせた。

 エレジア崩壊の原因である〝魔王〟トットムジカ。テゾーロはその禁断の歌の楽譜について、あることを思いついたというのだが――

「ゴードンさん、トットムジカの楽譜は何枚ありますか?」

「楽譜は四枚だが……」

「その楽譜を、バラバラに保管するというやり方です」

 テゾーロ曰く。

 魔王が実体化して顕現する条件は、ウタウタの実の能力者がトットムジカを歌うこと。逆を言えば、ウタウタの実の能力者でなければ歌えない曲の可能性があり、能力者であるウタの手に渡らない状況を作ればいいというのだ。

 しかし、ゴードンは妙案だと思いつつも難色を示した。楽譜自体はエレジアに封印されていたにもかかわらず、封印が解かれてエレジアは滅んだからだ。これについてはウタの美しい歌声を国中に響かせようとしたため、トットムジカがそれに呼応した可能性があるが。

「封印が解かれた代物の管理はそう簡単ではないぞ……」

「そこで、おれとゴードンさん、そしてシャンクスで楽譜を管理することにしようって訳です」

 テゾーロは不敵に笑った。

 四枚ある禁断の楽譜を、シャンクスにも管理させるという大胆なアイデア。しかし分割して所有・厳重に保管すれば、ウタの手元に戻るのは容易ではないのも事実だ。

 ましてや管理者の一人が海の皇帝であれば、邪な考えを持つ人間が奪いに来るのも容易ではない。テゾーロもテゾーロで、天竜人に匹敵する権力を持つがゆえ、そう簡単に奪われることもない。ゴードン一人で管理するよりは、リスクは少ないだろう。

「楽譜の内、一枚目はシャンクス、二枚目はおれ、三枚目はゴードンさんが管理してください」

「わかった……だが四枚目は?」

「四枚目は、ある人物に託します。絶対的な人望と実績がある人ですので、ご安心を」

「……海兵か?」

 ゴードンの質問に、テゾーロは無言を貫いた。

 四枚目の管理者が海兵だとすると、トットムジカの伝説と孕む危険性を承知し、その上で世界政府の上層部が悪用に転じないように働きかけられる者――テゾーロはそんな人物を選ぶはずだ。

 だが、テゾーロは交友関係が広く深い。何らかのルートで世界政府に知られ、ウタの身に危険が及ばないよう、長年の親友に託す場合もあり得る。

(……詮索はしない方がいいか)

 ゴードンはその管理者候補については問わないことにした。

 政府上層部からの信任が厚いテゾーロが信用するのならば、ひとまず安全だと判断していいだろう。

「……トットムジカの楽譜の管理は、わかった。後日持ってくる」

「ありがとうございます。――それとこれは別の話ですが、トットムジカの楽譜の処分の検討ってしたことありますか?」

「……!」

 テゾーロの質問に、ゴードンは驚いた表情を浮かべた後、目を逸らした。

「私は……私は、音楽を愛する者として、トットムジカの楽譜を捨てることができなかった……! 自国に伝わる凶器に立ち向かわず、ウタ自身と向き合うことも……!」

「……トットムジカの楽譜は、処分してどうにかなる代物とは思えません。心に傷を負った子供に真実をいつ告げるべきかというのも、かなり難しい問題ですしね」

 懺悔するように、涙ながらに語るゴードンに、テゾーロは複雑な表情を浮かべる。

 しかし、大人になれば真実について色々考えて受け止められるものだ。今ここでウタと向き合わなければ、いつか自分で真実を知った時に精神的に追い込まれる。そうなってしまえば、自分はなぜ歌を歌うのかという根本的な部分が揺らいでしまう。

「ゴードンさん、おれが彼女と向き合う機会を作ります」

「!!」

「シャンクスにも来ていただくよう、おれが働きかけます。あなたの口で真実を語るんだ」

 テゾーロの提案に、項垂れていたゴードンは鼻をすすり上げた。

 ウタの歌姫としての在り方は「海賊嫌い」だが、今の内に手を打てば「海賊嫌いのウタ」の看板を下ろせる。幸いにもテゾーロは世界政府の有力者であり、世界政府の〝闇〟に殴り込んで悪漢達を追放した実績もある。いざという時は〝そいつら〟を黒幕扱いにすればいい。特にスパンダインとスパンダムを。

「それに、これでも五老星との私的な謁見も許されてます。権力は万国共通……政府側のアクションに関しては、五老星が動けば情報統制も容易い」

「……ウタの為に、そこまで……」

「正しくは、ウタとシャンクス、そしてゴードンさんの為ですが」

 テゾーロは、そう言うと笑みを深めた。

 部外者なのに、本気で自分達を救おうと力を尽くしてくれる――テゾーロの計らいに、ゴードンは声を震わせ感謝を述べた。

「ありがとう……本当に、ありがとう! こんな愚か者を、何だかんだ理由を付けて逃げている卑怯者の私を……!」

舞台(ステージ)はおれが作る。だから……育ての親として、ウタとゆっくり話してください」

 ――あの子は、これからの時代を背負う資格があるから。

 〝新世界の怪物〟は、ウタの可能性に賭けたのだった。


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