ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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先日、「FILM RED」観ました。
すごい感動しましたので、早速本作に……!

まだご鑑賞していない方、申し訳ありません。


第160話〝音楽のチカラ〟

 〝赤髪〟と〝黄金帝〟。

 前代未聞の二度目の会談は、テゾーロの活動拠点であるグラン・テゾーロで実施された。

「いきなり訪ねて悪かった。混乱を生んだか?」

「本当にいきなり仕掛けるんだなって思ったよ」

 シャンクスの猪口に酒を注ぐテゾーロは、呆れ半分といった様子。

 まあ、事前に電話で一報入れてくれた分、アポなしで突然来るよりかはいくらかマシだが。

「……これ、西の海(ウエストブルー)の酒じゃないか?」

「おれの故郷の味だ、飲んでくれ」

 年も近い分、久しぶりに会った友人のように接する両者。

 しかし、互いに立場は違えど世界的に大きな影響を与える男。一応センゴクには「シャンクス来るけど何もするな」と連絡しといたが、今頃世界政府の上層部は大慌てしている頃だろう。

「……美味いじゃないか」

「だろ? 遠慮せず飲め!」

「生憎、お酒はゆっくり嗜む主義でね」

 猪口に注がれた酒を一口。

 テゾーロは「さすが〝四皇〟が選んだ酒だ」と舌鼓を打ちながら、本題を切り出した。

「――黒ひげの件で話があると言ったな」

「ああ……実は白ひげに会うことにした」

「ブーーーッ!!」

 あっけらかんと言い放ったシャンクスに、テゾーロは酒を吹いた。

 いくら穏健派と言えど、四皇同士の接触は即座に五老星に報告が入り、世界政府・海軍はそれを阻止するため艦隊を差し向ける程の事態。そんなことになれば、世界の均衡にも関わる。

 と、ここで気づいた。テゾーロになぜわざわざ伝えたのか。その意味を考えると……。

「……まさか艦隊止めろとか?」

「おお! そこまで言っちまえば話が早い」

 テゾーロは悟った。

 黄金帝の富と権力は、天竜人に匹敵する。その経済力は四皇も無視できない程で、テゾーロマネーを未だに狙う一味もいるくらいだ。

 現状、テゾーロと良好な関係を築いているのはシャンクスと白ひげぐらい。その一人がテゾーロに頼るとすれば、海軍の艦隊派遣の中止ぐらいだろう。

「本当に戦争はしないよな……?」

「話し合いたいだけだ、そこまで大ごとにはしないさ」

「話し合いの中身を大方察しても、四皇同士が接触すれば大騒ぎだぞ」

 呆れたようにボヤきつつも、テゾーロはシャンクスの頼みを受け入れた。

 シャンクスとしても海軍との戦闘は避けたいし、海軍としても進んで四皇を討ち取る気はない。世界政府が危惧するのは四皇同士の戦争か同盟ぐらいなので、それとは直接関係ない案件ならば無視してもいいだろう。

 ただ、センゴクの胃に穴が空きそうだが。

「すまんな、テゾーロ」

「別にいいさ、バランサー役同士仲良くしよう。……それと、アラバスタでルフィと会った」

「っ! ホントか? じゃあクロコダイルを倒したのはルフィなんだな!?」

「3000万がいきなり億まで額が跳ね上がった時点でお察しのクセに」

 シャンクスはルフィの話となり、気分がよくなったのか豪快に笑った。

 テゾーロもルフィとは顔馴染みなので、そういう意味でも二人は気が合っていた。

 すると、そこへ外交官を務めるサイが顔を出した。

「テゾーロさん、少しいいですか?」

「何だ、仕事か? 席外そうか?」

「いえ、できればあなたもいてほしいですね〝赤髪〟」

 席を立とうとしたシャンクスを制止するサイ。

 サイは何も言わず、テゾーロに書状を渡した。

「これは?」

「〝エレジア〟って島、知ってます?」

 サイの言葉に、シャンクスの顔が一瞬強張った。

 テゾーロはそのわずかな変化に気づきつつも、サイに続きを促す。

「エレジアって何だ?」

「音楽の国として栄えていた王国です。その書状は元国王であるゴードン氏からのものです」

「ほう……」

 テゾーロは、ゴードンからの書状を読み上げた。

 

 

 ――拝啓 ギルド・テゾーロ殿

 

 

 

   一国の主として御多忙の身であろうが、頼みたいことがある。

 

   私は今、かつて栄えた音楽の国・エレジアの島で、一人の歌い手を育てている。その名はウタ。「世界の宝」と称賛するに相応しい類い稀な歌唱力を持つ娘だ。彼女は「歌を通じて世界中の人を幸せにしたい」と願っていて、素性を隠して世界中に歌声を発信し続けているのだが、最近はフレバンスやテキーラウルフを救った君に興味を示している。

 

   そして先日、彼女はあなたの影響力を頼り、ファンの前に姿を見せて行う巨大なライブをしたいと申し出た。私はかねてより貴殿の評判を他国の王から度々聞かされていたので、彼女の夢の為にと思いこの書を送った。

   

   彼女はある人物から託された。彼女を世界中を幸せにする最高の歌い手に育て上げることを誓って。その成果を、かつて私が犯した罪を代わって背負った〝彼〟への謝意として届けたい。

 

   どうか、ウタの気持ちに寄り添えていなかった私に代わって、ウタのライブ開催を手伝っていただきたい。

 

 

 

                           誰よりも音楽を愛する者 ゴードン

 

 

「……どうしますか?」

「やろう!」

 何とテゾーロは即断。

 判断が早すぎるのでは、と思わずサイは苦笑いした。

「音楽……武力やカネとは違う、全く新しいチカラだ! その手があったかと、思わず笑ってしまったよ……!」

「テゾーロさん……」

 テゾーロは、武者震いしながら笑った。

 暴力や武力ではなく、経済力や権力で革命を起こし時代を変えようとしたが、新しい選択肢――音楽があったことに、興奮が止まらなくなった。

 音楽は、言語・宗教・民族の壁を乗り越え調和を生むことができる。事実、現実世界には 音楽の力で紛争の爪痕が残る社会を癒そうとする団体があり、平和活動をするミュージシャンも大勢いた。

 現実世界でやれるのだから、この世界でもやれる――前世の記憶を持つテゾーロに、迷いは無かった。

「そうとなれば、色々な準備が必要だな。サイ、手紙を送る時間も惜しい。すぐにエレジアへ向かうんだ」

「何て伝えます?」

金主(スポンサー)になると伝えろ。二人では限度があるし、初めてとなれば相応のカネと人脈が必要だからな。これから忙しくなるぞ!!」

 完全にやる気満々のテゾーロだが、一方のシャンクスは複雑な表情をしていた。

「……そういう訳だからシャンクス、説明してもらうぞ。サイの情報収集力を甘く見るなよ」

「……そうだな、言い逃れもできなさそうだしな」

 観念したように笑うと、シャンクスは爆弾を投下した。

 

「ウタは、おれの娘だ」

 

「「……ハァァァ!?」」

 テゾーロとサイは、口をあんぐりと開けて驚愕。

 四皇〝赤髪〟に、娘がいたなど聞いたこともない!

「おい、お前さんサイファーポールだろ。何で驚く?」

「いや、そこまでの関係だとは……」

「それ以前にシャンクス! シードからフーシャ村でその子と会ったって報告聞いてないぞ!! ――ああ、そういうことか……」

 それらしき人物を見なかった理由を、テゾーロは察した。

 テゾーロの部下であるシードは、酪農を学びにフーシャ村へ留学した時期があり、そこでシャンクス達と会っている。だがその際にウタと思われる少女の報告は無かった。娘ならば、必ず同伴のはずだからだ。

 だが、留学中シードはシャンクスと行動を共にする少女と会わなかった。それはつまり、すでにウタはエレジアに行っていたということだ。

「……で、ウタと何で別れたんだ?」

「それについては、こちらの記事を」

 サイは当時の新聞をテゾーロに渡した。

 そこには、「赤髪によりエレジア滅亡」という信じられない見出しが載っていた。

「……あんたの性格から、到底そういうことはしないはずだ。真犯人は誰だ?」

「……いきなり核を突いてくるな」

「その方が手っ取り早いからな」

 シャンクスは酒を飲み干すと、エレジア滅亡の真相を話し始めた。

 

 

           *

 

 

「そんなことがあったのか……」

「あいつの歌声に、罪はない」

 真相を聞いたテゾーロは、未だ動揺を隠せないでいた。

 

 エレジアを滅ぼしたのは、地下深くに封印された魔王〝トットムジカ〟であること。

 それを呼び覚ましたのは、ウタの能力であるウタウタの実であること。

 シャンクスは彼女の為に、エレジア滅亡は赤髪海賊団の襲撃によるものと世間に伝えるようゴードンに頼んだこと。

 

 この世界に〝魔王〟なる存在がいたことに驚きだが、世界政府の中枢や海軍上層部もトットムジカを知っていることにも驚いた。

「……禁断の歌で出現する魔王。そんな古代兵器みたいな危険な楽譜、とっとと燃やせばいいでしょうに」

「いや、下手に処分をすればさらに厄介な形で蘇る可能性もある」

 テゾーロ曰く、封印されていたはずの楽譜がなぜかウタの手元にあったということは、楽譜が自らの意思を持って彼女の前に飛んできたという裏付けであり、それを考えれば破るなり燃やすなりしても復活する代物である可能性が極めて高いという。

 ウタウタの実の能力者に近づかせないように、厳重な場所に楽譜を閉じ込める以外に方法がない――そういうレベルの()()()()()なのだろう。

「……よしわかった! トットムジカの楽譜も、こちらで預かろう」

「それはさすがにゴードンさんも許さないでしょう……」

「心配すんな、おれに策が一つある」

 テゾーロは妙案を思い浮かんだらしく、サイに耳元で囁いた。

 サイは一瞬目を見開くと微笑み、「それなら問題なさそうですね」と断言した。

「……そういう訳だ、シャンクス。お前も手伝え」

「おれがか!? これから白ひげに会いに行くというのにか!?」

「それが済んでからでいい。親子喧嘩の場を設けるから、ちゃんと娘と向き合うべきだ。世界の命運も関わるんだ、()()()()()()()()()

 テゾーロはシャンクスに、ウタと再会させる準備をすることを伝えた。

 その計らいに、シャンクスは「すまん」と礼を述べた。

「サイ、ウタの件は一時お前に預ける。おれは白ひげと赤髪の会談の手回しをする」

「了解しました。フェスタさんには伝えときますか?」

「無論だ。興行力とプロデュース力はおれ以上の敏腕ぶりだ、必ず話を通しとくんだ。詳しいことはおれが直接話す」

「じゃあ、早速エレジアへ向かいますね」

 サイはそう告げると同時に、一瞬で姿を消した。

「……テゾーロ。おれの娘と――ウタと組むのか?」

「やり方は違えど、方向性が同じなら素性は問わない……それがおれのモットーだ」

 ――協力者は、一人でもいた方がいい。

 実業家らしい台詞を吐いたテゾーロに、シャンクスは笑った。

「テゾーロ、ウタを頼む。あいつは、赤髪海賊団(おれたち)の大切な家族なんだ」

「おれの革命は、あの子が必要らしいからな。あんたはあんたの仕事に集中してくれ、彼女はこのギルド・テゾーロが責任を持って夢を叶えさせる」

 テゾーロとシャンクスは、互いに口角を上げて固く握手したのだった。




本作では彼女の闇堕ちはさせません!!

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