ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~ 作:悪魔さん
今回は短めに。
それとすいません、辻褄合わせるために一部修正しました。
第157話〝世界の動き〟
王下七武海・クロコダイルの大逆と、その失墜。
「英雄」として賞賛された海賊の本性と討伐劇は、全世界を駆け巡った。
新世界、ドレスローザ。
王下七武海で最も危険な男とされる海賊、ドンキホーテ・ドフラミンゴはその一報に疑問を持った。
「クロコダイルがテゾーロにやられた、だと?」
「「世経」にはそう書いてるもんねー」
ドンキホーテ海賊団の最高幹部である参謀・トレーボルの言葉に、ドフラミンゴは怪訝な表情を浮かべていた。
ギルド・テゾーロという男は、確かに実力を伴う男だとドフラミンゴは考えている。
数多くの慈善事業を介して、世界の頂点に君臨する天竜人と同等の権力を手に入れた手腕は、確かに目を瞠るものだ。天竜人の出身である自分と違い、元は貧民街の人間だったため、その敏腕ぶりとカリスマ性が余計に輝いて見える。
彼を慕う者達も強者揃いであり、打算的な関係とは言え
彼ならば、クロコダイルを倒すとなってもそこまで違和感はないが……。
「やったのはテゾーロじゃねェな」
「?」
「その証拠に、コイツを見てみろ」
ドフラミンゴが見せつけたのは、二人の賞金首の張り紙だった。
「〝麦わらのルフィ〟と、〝海賊狩りのゾロ〟だァ~~~?」
赤を基調としたド派手なファッションとフェイスペイントをしている最高幹部・ディアマンテは眉間にしわを寄せる。
二人共、新世界の海賊である自分達としては
「やったのはコイツだ。テゾーロはお膳立てしたんだろうよ」
「なっ!? このガキがか!?」
ドフラミンゴの推測に、最高幹部達は驚く。
テゾーロは自分が手を下すのではなく、どこの馬の骨だか知れないルーキー海賊に七武海を倒させて悪事を発覚させることで、世界政府は七武海の国家転覆に気づけなかったとアピールするのが目的ではないか。
おそらく今回はもみ消しただろうが、それも織り込み済みであり、次の七武海の悪事で王下七武海制度の撤廃を目論んでいる……ドフラミンゴはそう考えているのだ。
「根拠はねェが、そう考えると奴の今までの行動に辻褄があってくる」
「……テゾーロの野郎は、こうなるように仕向けたってのか? ドフィ」
「さァな。少なくとも、俺達を意識してるのは確かだろうな」
*
「……」
新世界のとある海域。
四皇からも警戒されるダグラス・バレットは、号外の新聞と手配書に注目していた。
旧敵クロコダイルがルーキー海賊に屈したことに、興味を抱いているのだ。
「……〝麦わら〟か」
野太い声で、手配書に写る笑顔を見据える。
新聞には海軍本部の大佐がクロコダイルを倒したとあるが、海軍の佐官などバレットは覇気を使うまでもなく叩き潰してきた。ゆえに新聞のウソを見抜き、真相を理解するのは早かった。
大海賊時代以前の海の匂いを残している海賊、ましてや自分と戦って生き残っている男が、ぽっと出の若造に負けた。こういう類の敗因は慢心や油断だが、用心深く頭の切れるクロコダイルが負けたのは「運がよかった」や「クロコダイルが相手を舐めすぎた」では済まされない。
ごく稀にだが、戦場では戦っている最中に急成長してくる奴が出てくる。その成長ぶりは凄まじく早いもので、中には常識的に考えて覆るはずのない実力差を埋めるどころか逆転してくることもある。
クロコダイルは、
そして奴は、奇しくも〝D〟に敗れた。
「……カハハハ……!」
グシャリ、と手配書を握り潰す。
手配書の小僧の笑顔は、どうしてもあの男を思い出すのだ。
憧れでもあり、目標でもあり、ライバルでもあった、世界最強の――
「
旧敵を倒した小僧に、鍛え抜いた〝本物の強さ〟を見せつけてやる――バレットは獰猛に笑った。
*
グラン・テゾーロでも、その報せは号外として国中に行き渡っていた。
「おーい。クロコダイルがワニ革の財布にされたってよ」
「スルルル……どうやら年貢の納め時のようで」
「七武海ローンは割高だからな」
「何!? 七武海ローンって!?」
テゾーロと共にアラバスタへ同行していない幹部衆は、テゾーロの活躍に大騒ぎ。
クロコダイルが何やら企んでるのは薄々把握していたが、何と実体は国家転覆未遂。
これには驚きを隠せない。
「……しかし、それと共に出回ったこの手配書はどう思います?」
そう言いながら、三つ目族のタタラは新聞に混じっていた手配書を見せつける。
「……モンキー・D・ルフィとロロノア・ゾロ?」
「麦わらの子は前回は3000万ベリーの賞金首で、もう一人は初頭。ちなみに元賞金稼ぎの剣士です」
「初頭手配で6000万ベリーか! 相当な腕前だな」
同じ剣豪であるジンも、海賊狩りのゾロに興味を向ける。
一般論として、懸賞金は戦闘能力の高さと世界政府に対する「危険度」で決まる。その上で初頭手配の懸賞金額は、当人に対する危険度を推し量ることができる。
たとえば、白ひげに次ぐ実力を持つ四皇カイドウは、13歳の頃の初頭手配で7000万ベリーの賞金首となっており、ビッグ・マムに至っては海賊稼業を始めた6歳で初頭が5000万ベリーだ。ニコ・ロビンのように世界政府に不都合という理由で高額懸賞金が懸けられているケースもあるが、いずれにしろ年齢・経歴・初頭手配の懸賞金額から危険度や実力を大方把握することができる。
今回の場合は、目立った悪事をしてなくても初頭手配で6000万ベリーなので、実力で懸けられたのだろう。
「……そういやあ、ここ最近は色んな若い衆が暴れてるよな」
「……まあ、彼らが我々の
幹部達の話題は、近頃の海で破竹の進撃を続ける若手の海賊達に替わる。
大海賊時代開幕以来、世界の勢力図は若干複雑になっている。三大勢力に加え、政府打倒を目指す革命軍、天竜人に匹敵する富と権力を持つ中立国「グラン・テゾーロ」、そして四皇に匹敵する力で世界中の海を回るダグラス・バレット……テゾーロの介入もあって、政府中枢は均衡維持の為に今まで以上に神経を尖らせている。
その中でも、最近この勢力図にカチコミをかけて巷を騒がせているのが、若手の海賊達の中でも懸賞金額が1億ベリーを超える「超新星」だ。
その超新星の中でも別格とされているのが、
二人は超新星の中でも断トツの強さと危険度を有してるとされ、海軍大将もその動向に目を光らせている程だ。
「……しかし納得がいかないですね。トラファルガー・ローは確か……」
「ああ」
幹部達は神妙な顔つきになる。
トラファルガー・ローはフレバンス出身で、彼の父はテゾーロの世話になったし、そもそも海賊と接点がないはず。
ふと思えば、あれからフレバンスとは関わっていないのだが……彼の身に何かあったのだろうか。
「それよりも気をつけるべきなのは、こっちよ」
バカラが手渡したのは、また別の手配書。
黒いバンダナと立派に蓄えた顎髭、何本も欠けた歯が特徴の男だ。そのギョロっとした目は凶悪性を孕んでおり、上がった口角もどこか不気味に思え、一種の威圧感を覚えさせるものだ。
「マーシャル・D・ティーチ……〝黒ひげ〟か」
「懸賞金は9600万ベリーのまま……逆にこれといった悪事重ねてねェ分、不気味だな」
それは、世間で最も注目を集めている海賊だ。
黒ひげは先のテゾーロフェスティバルにおいて、ケンカ祭りの商品であるヤミヤミの実を奪い、白ひげ海賊団から脱走した男だ。元四皇の船員に加え、テゾーロと白ひげが警戒する程の危険度ゆえに、その動向は彼を知る人物からは常に注視されている。
ただ問題なのは、賞金首となって以来、彼に関する情報が一切出回ってないことだ。ティーチとしては賞金首になるのは想定内なのだろうが、ここまで息を潜めていると得体の知れなさに不安を感じる。
「……いずれにしろ、これで七武海の一角が崩れたわけだ。その席を誰が埋めるかだな」
「何事も起きなければいいんですがね……」
手配書からも感じ取れる悪意に、目を配る一同だった。