ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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お待たせして申し訳ありません。


第156話〝最後の用途〟

 シードの強硬手段で広場の爆破は阻止された。

 しかし肝心の国王軍と反乱軍の戦闘は、今なお継続。

 テゾーロの部下達とルフィの仲間達が、必死に止めようと踏ん張っている。

「少し乱暴だが、仕方ねェよな!」

「ケガで済むか死んで終わるかだ、前者の方が救いがある!」

 サンジは的確に蹴りを見舞い、メロヌスは銃床で叩いて兵士達の意識を奪う。

 ゾロは二刀流の峰打ちで、シードは徒手空拳で、誰も死なせないよう戦闘能力を奪っていく。

 ナミやチョッパーも奮闘し、ビビは機能しなくなった爆弾がある時計台から叫んでいる。

 しかし、声は届かない。

「キリがない……! ここは〝覇王色〟で止めるべきか」

 テゾーロは躊躇いながら、戦闘員の意識を奪っていく。

 その時だった。

 

 ドゴォン!!

 

「うをぉっ!?」

 眼前に、突然の落下物。

 轟音と共に土煙を上げ、テゾーロは素っ頓狂な声を上げた。

 やがて土煙が霧散すると、衝撃の光景が広がっていた。

「クロコダイル……!!」

 視線の先には、白目を剥いて血を流し、大の字に倒れる全ての元凶(クロコダイル)の姿。

 それが意味するのは、ただ一つ。

『――アイツが勝ったんだ!!』

 ルフィの仲間達は、船長の勝利に歓喜した。

 この国を苦しめ滅ぼし、世界政府を凌ぐ軍事国家を築こうとした元凶を、ついに打倒したのだ。

「……!!」

「まさか、あのルーキーがクロコダイルを……覇気使いじゃねェはずだろ……!?」

「さすがガープ中将の孫ですね」

 麦わらのルフィの勝利に、メロヌス達は動揺する。

 何せ、クロコダイルは王下七武海の中でも古参のメンバーであり、自然系(ロギア)の能力者の中でも上位に位置する強豪。水気があると本体が砂化できなくなるという弱点を抱えてるとはいえ、世界最強の海である「新世界」へ進出した実力は本物だ。

 そんな彼でも、麦わらのルフィに破れてしまったのだ。

「……やはり天はルフィに味方するか」

 テゾーロがそう言った直後だった。

 空からポツポツと、アラバスタの地面を濡らす雨が降り始めた。アラバスタの民が何よりも欲したモノが、戦場に降り注ぎ始めたのだ。

 爆弾でも止まらなかった群集の狂気が、静かに振る雨で止まった。雨が暴動の声を消し、砂塵を消していった時、ようやくビビの声が響き渡った。

「もうこれ以上……戦わないでください!!!」

 行方不明だったビビ王女の声と姿に、国王軍も反乱軍も驚きの目で注目した。

 ビビは、国民達に声を伝えた。

「今振っている雨は……昔のようにまた降ります。悪夢は全て……終わりましたから……!!!」

「……だが!! 「悪夢」なんて言葉で済むはずがない!!」

「この反乱で倒れた者達が納得するものか!!」

 ビビの声は聞こえたが、反乱軍の心には響かず、武器を掲げて憤った。

 三年間。三年にも渡り多くの町が潰れ、仲間が死んでいく地獄を味わってきたが、王は何一つ助けてはくれなかった。ナノハナの一件で真相は明るみになったが、結局は戦闘となってしまったのだ。

 殺気立つ反乱軍だったが、そこへチャカが叫んで国王軍を止めた。

「武器を捨てよ!! 国王軍!!」

「おま……ゴホン! マーマー……お前達もだ!! 反乱軍!!」

 そこへ、新たな声が。

 声の主は、カーリーヘアを極端に強調したような髪をした、黒タキシードに身を包み蝶ネクタイを巻いた長身の中年男性。それは、アラバスタの人間なら誰もが知る男だった。

「イガラム……!?」

「生きておられたのか!!」

 男の名は、イガラム。

 王国護衛隊隊長という、アラバスタにおける軍事・公安のトップを務めており、ビビと共にバロックワークスに潜入した恐妻家だ。

 実は彼はバロックワークスに潜入捜査中、ウイスキーピークで自分達の正体が露見したため、囮になるためビビに変装しアラバスタへと舵を取った矢先に船ごと爆破されてしまい、死亡したと思われていた。

 深く尊敬されていたイガラムの死は、王家及びその家臣達に多大なショックを与えたが、どうやら爆炎に巻き込まれる寸前に勘づいて脱出したようで、無事祖国まで辿り着けたようだ。

「この国に起きた事の全てを…私から説明しよう…………全員武器を捨てなさい!!」

 イガラムのその言葉に、全員武器を手放した。

 

 

「……だったらクロコダイルさんが……この男が全ての元凶だと……」

「何てことだ……信じられない……」

 イガラムから全ての事実を知らされた国民達は、国の〝英雄〟だった王下七武海(クロコダイル)が国を滅ぼそうとした巨悪だったと知り、驚きを隠せない。

 無理もない話だ。何せクロコダイルは非常に頭が切れる海賊――自らの本性・目的を隠すのが上手であり、必死に黒幕を探っていたコブラ達も見抜けなかったどころか、海軍も彼を信用してアラバスタには部隊を配置していなかったのだから。

 そこへ、海軍本部曹長・たしぎ率いるスモーカー部隊が現れた。

「〝王下七武海〟海賊サー・クロコダイル。世界政府直下「海軍本部」の名のもとに、あなたから敵船拿捕許可状及びあなたの持つ政府における全ての称号と権利を剥奪します」

『……』

 

           *

 

 

 同時刻。

 アラバスタの沖合に、バロックワークスが所有するダンスパウダー使用の為の人工降雨船が浮かんでいた。

 その船はすでに、たった一人の男によって制圧されており、海軍はその周囲で後始末をしていた。

「……たった一人で壊滅か。サイファーポールは伊達じゃねェな」

 そう呟くのは、麦わらの一味を追跡していた海軍本部大佐〝白猟のスモーカー〟。

 スモーカーは部下のたしぎと別れ単身海に出て、クロコダイルの実態とバロックワークス社によるダンスパウダーを使った気象コントロールの証拠を掴もうとしていた。そして、思ったとおり人工降雨船を発見して確保に成功した。

 ただ、予想外の先客がいた。テゾーロの部下であるグラン・テゾーロ外交官のサイ・メッツァーノだ。

 彼はスモーカーが来る半日前に乗り込んで制圧し、テゾーロの命令を執行したのだ。その内容は、非常に驚くべきものだった。

「しかし、まさかダンスパウダーの使用を認めさせるとはな」

「「経済力と権力は、いかなる暴力にも勝る時がある」……そうおっしゃってましたから」

 何と、テゾーロがダンスパウダーを使用したのだ。

 それもただ勝手に使った訳ではない。五老星の了承の下に実行したのだ。

 

 五老星との私的な謁見も許される程の権力者のテゾーロは、アラバスタの一件がクロコダイルの仕業と通達し、ダンスパウダーによる人工雨で戦火を止めるという奇策を申し出た。雨はアラバスタの民が一番求めているものであり、内乱の火種とも言えるからだった。

 クロコダイルの反逆を知り、その目的の大まかな内容を聞かされた五老星は「クロコダイル拿捕の為に使用を特例で許可する」と告げた。言質を取ったテゾーロは、サイに命令を下した。

 その命令は、外交官の立場を使って隣国の国王達との交渉。テゾーロはダンスパウダーの使用を認めてもらう代わりに、周辺諸国に干ばつ被害が生じた場合の復興資金の提供と天才科学者ベガパンクが製作した「ろ過装置」の無償寄付を約束することを伝えるよう命じたのだ。サイは迷わず実行し、見事その交渉を締結させた。

 なお、復興資金は()()()()()()()100億ベリー。小国の国家予算並みの額の大金をお小遣い感覚でポンッと出せるなど、テゾーロ以外に誰ができようか。

 

「まあ、これを機にダンスパウダーの使用も製造も全面的に禁止されるのは、火を見るよりも明らか。これが〝最後の用途〟となるでしょう」

「……クロコダイルが〝麦わら〟に倒された。世界は動くな」

「世界政府は借りができちゃいましたからね。まあ、良くも悪くも〝麦わらのルフィ〟の名はワールドクラスの猛者達の耳に届く」

 どこか酷薄な笑みを浮かべ、サイは新世代の海賊の行く末を想像したのだった。




次回は戦後処理。
黒腕の先生や世界中の強豪達とか、ワンピでよくある世界情勢の部分をやろうと思ってます。







そう言えば、今気づいたんですけど、この小説も今年で五年目迎えるんですよね……事実上の第一話である「プロローグ」が2017年02月09日(木) に投稿されたので。

改めて、感謝いたします。
色んな方に読んでいただき、様々な感想・批評を受け入れてここまで頑張ってきました。
筆者としても、読み返さないと未回収の伏線的な内容とかあると思ってるので、うまい具合に繋げて頑張ってまいります。
完結はいつになるのかは……正直わかりません。一応最終話の構想自体は何となくできてるんですけど、それまでの「道のり」が()()()()()長すぎて……。ただ、一度始めたからにはきっちりまとめるつもりです。
今やってるリボーンの小説が最終章にようやく突入できたので、少しずつ新連載に向けて動きます。リボーンの小説が終わり、準備が整い次第投稿します。

今後とも、皆さんよろしくお願いいたします。

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