ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~ 作:悪魔さん
ヤマトのCV、しのぶちゃんでしたね。
王宮の庭に馳せ参じたのは、アラバスタ王国のエリート護衛団・ツメゲリ部隊。
愛国心溢れる精神を持つ屈強な四名で構成され、アラバスタの兵士達の中でも指折りの少数精鋭である。
「国王様、あなたを死守するのが我ら4人の使命」
「手を出さないわけにはいきません」
「〝七武海〟が相手となれば」
「卑怯などとも言っておれぬ」
しかしクロコダイルは「見逃してやるから家に帰れ」と余裕に満ちた言葉を投げかけた。
「家に帰る? そうはいかん!」
「我らには退けぬ
無精髭と身の丈ほどもある巨大な剣が特徴の男・ヒョウタがそう言った時、腕にアザが浮かんできた。それは同志であるブラーム・アロー・バレルにも浮かび上がっている。
「お前達、まさか……!!」
「言うな」
「「!」」
「彼らの覚悟が無駄になる」
チャカの言葉を遮るテゾーロ。
すでに彼らは、国の為に殉ずると決めているのだ。
(
ツメゲリ部隊が口にしたのは、〝豪水〟と言う命を削り一時の力を得る水。嵌めていた腕輪を砕き割る程の力を得ることができるが、一定時間が経過すると身体が痙攣をおこし、息を荒げながら吐血して絶命してしまう副作用を持っている。
それを飲むことも厭わない程、国に一途な男達。テゾーロはその愛国心に心を打たれるが、同時に心を痛めていた。
(覇気を使えない上、ましてや弱点を突ける技量があるか……どの道手遅れだ)
「……ほう、〝豪水〟か」
『!?』
クロコダイルは体を瞬時に砂に変え、その身を城の上に移して見下ろした。
「あーあー……スマートじゃねェな。命は大切にしろよ。いやもう手遅れか? クハハハハハ……!!」
葉巻の紫煙を燻らせ、クロコダイルは笑った。
(どういうことだ……!?
本来の――原作の展開と違うことに、テゾーロは内心戸惑っていた。
そこで、ふと気づいた。
今回の一件でクロコダイルがジェルマと裏で繋がっていたことが発覚している。
ジェルマの兵士達は、組織の主戦力級たるヴィンスモーク家以外は全員がクローン兵であり、勝利の為であれば好き好んで命を差し出す程に士気と忠誠心が高く造られている。その上ヴィンスモーク家の命令に従順に従うため、イチジやニジは「盾」と部下に命じ使い捨てることに躊躇いが微塵もない。
――では、もしもヴィンスモークがクロコダイルに「一時的に強大な力を得られる薬とかは無いのか」と要求していたら?
いや、そんなことはどうでもいい。これで彼らの死はクロコダイルに踏み躙られてしまうのだから。
「クハハハハハ……勝手に死んでくれるんなら、俺が直接手を下すまでもねェよな?」
「戦うこともせんのか……!!」
「クハハハハハ!! 間抜けってのはまさにこのことだなァ!!」
ツメゲリ部隊が副作用で自ら苦しんで死んでいくのを、高見の見物で嘲笑う。
チャカは理性を抑えることができず、剣を抜いてクロコダイルに斬りかかった。
「おのれ貴様ァァァ!!」
「チャカ!! 止さんか!! お前まで死んではならん!!!」
「クソッ!」
テゾーロはすかさず能力を発動し、チャカのアシストに入ろうとしたが――
「そこまでよ」
「っ! ニコ・ロビン……!!」
ハナハナの実の能力で関節技を決められてしまう。
いかに覇気使いとて、関節技で拘束されては強引に動くのはかえって体に支障をきたす。
となれば、能力に頼る他ないが――
ガシャンッ!
「なっ!?」
「フフ……」
テゾーロの片腕に、手錠が嵌められた。
それも、ただの手錠ではない。
「海楼石……!!」
脱力感を感じ、苛立つテゾーロ。
新世界・ワノ国で産出される海楼石は、産出国を征圧している四皇カイドウの一味を除き、海軍及び王下七武海が所有している。現にクロコダイルもレインベースに海楼石でできた檻を所有しているため、手錠の所持もおかしくはない。
一方で海楼石にも純度が存在し、純度が高い程に能力者は弱体化し、逆に低いとある程度の行動が可能となる。テゾーロに嵌めた錠は、低い方。用意周到かつ狡猾なクロコダイルならば、なるべく高い方を用意すると思われるが……。
(まさか……)
――ニコ・ロビンはクロコダイルと縁を切りたがってるのではないか?
そんな考えに至ったテゾーロは、無言を貫くことにした。
その間にも、チャカはクロコダイルに秒殺されてしまった。
「チャカ!!!」
「……くっ……!!」
「
王宮広場爆破まで、あと25分と迫っていた……。
*
アルバーナ郊外。
よもや首都爆破という非常事態が迫っている中、メロヌスは疲弊しきったハヤトを見つけた。
「おい、しっかりしろ!」
「うるさい……死んじゃいない……」
「あ、じゃあ大丈夫か」
「おい……」
あっさり手の平を返す同僚に、青筋を浮かべる。
軽口を叩きながら安否確認を終え、メロヌスは一服する。
「……今、ビビ王女と麦わらの一味がこっちに向かってる。〝上〟は麦わらとの共闘という方針だが……どれぐらいで立てる?」
「……おれが海賊を嫌ってるというのに、わざわざそんな話振るんですか」
「仕方ねェだろ」
海賊嫌いの掃除屋を諭す。
もっとも、今回の一件で〝麦わらのルフィ〟がクロコダイルを打ち倒せば、自分達がアラバスタを救ったとして印象操作されるのがオチだろうが。
「政治絡みってのは、難しいな。信用だの威厳だので縛られちまって、伝えるべき
政治は正義を歪める。そういう場面はいくらでも見てきた。
「あの人は、随分と苦労の絶えない世界を選んだ」
「……」
「まあ、おれはそれでもあの人に付いて行くがな」
岩壁を灰皿代わりに煙草を押し付けて火を消す。
するとそこに、思わぬ乱入者が。
「グラン・テゾーロのメロヌスさんとハヤトさんですね?」
「!!」
「……海軍?」
二人の前に現れたのは、海軍の部隊だった。
その先頭には、ボーイッシュな出で立ちとショートボブの黒髪が特徴的な女海兵――たしぎが佇んでいる。
「……テゾーロさんの言っていたスモーカーの部隊か。当の大佐は別行動のようだが……」
「はい! スモーカーさんの命令で、あなた達の応援に……って、ああっ!! その刀はあの〝海蛍〟では!?」
ハヤトの刀を一目見た途端、たしぎは目を見開いて食いついた。
彼女は生真面目で真っ直ぐな女性だが、大の刀剣マニアという一面がある。資料だけでの知識がほとんどだが、自身が書き記した名刀のメモを常々持ち歩き、一目で名刀を言い当てる筋金入りなのだ。
「え? そんな有名なのこのデケェ刀」
「有名も何も! 数多の大太刀・野太刀の中でも〝知る人ぞ知る名刀〟として語られる程の剣ですよ!? 大業物21工の一振りで、一振りで津波をも斬ったという逸話もあります!! 一体どこで!?」
「昔、賞金稼ぎしていた頃に海賊から分捕った。まさかそれ程の剣だったとは……」
たしぎに言われるまで全く気づかなかったハヤトは、どことなく申し訳なく感じた。
「……で、本題に入るけど、どこまで把握してんだ
メロヌスは話を切り替え、本来の目的――アラバスタの内乱に切り込む。
たしぎ曰く、スモーカーからクロコダイルが黒幕であるという真相を知り、その上でこの一件で「自分が正しいと思った判断で事態収拾をしろ」と命令されたという。
スモーカーは内外から野犬と呼ばれる海軍随一の異端児だが、部下を見捨てるマネはしない。独自の行動でたしぎを援護するつもりなのだろう。
「……今、テゾーロさんが王宮で待機している手筈。アオハルも時期に合流する……反乱軍にはすでに真相を伝えてるから、一種の八百長に近い形で事を進めていくそうだ」
「そして自分の思い通りになったと浮かれてる隙に、クロコダイルとその傘下をまとめて潰す……そうすれば内乱は全て終わる。〝麦わら〟とも利害が一致してるから、まあうまく行くだろう」
「〝麦わら〟!? なぜそこに……海賊と手を組むのですか!?」
たしぎは海賊との共闘、ましてやスモーカーが逮捕にこだわる〝麦わらのルフィ〟とその一味と知り、海兵として抗議する。
しかしメロヌスは「〝上〟が決めたことだ」と一蹴する。
「この海で正義を貫くのは容易じゃねェ。時には海賊の助けが必要な場合もある……そういうやり取りはいくつかあった。今もそうだろう。七武海かそうじゃないかの差でしかねェ」
「っ!!」
「負け犬に正義は語れねェ……ここは
その一言に、海兵達はおろかハヤトですら顔を背けてしまう。
正義の味方は、勝ち続けるから称えられる。負けの続く弱いヒーローは、ボロ雑巾のように捨てられる。それがこの世界の理だ。
このアラバスタ王国の内乱も、
全てが終わった時に、世界政府は動く。ならば――
「おれ達がやれることは、クロコダイルの謀略を叩き潰すことのみ。それ以外は何も考えるな」
「……どれ程の民間人が犠牲になってもですか」
「
メロヌスは煙草をもう一本追加し、煙を吹かせる。
(にしても……そろそろ動かねェとな。テゾーロさんからの音沙汰がねェのが気掛かりだ)
メロヌスは上司からの連絡が途絶えていることに、不安を覚えた。
電波が悪いというわけではないので、少なからず何らかのトラブルに見舞われたとしか思えない。
一番あり得そうなのは、黒幕との戦闘だが……。
「ハヤト、お前いい加減立てよ。麦わらの一味に後れをとっちゃあ立つ瀬がねェぞ?」
「わかってる……!」
苦虫を嚙み潰したような表情で、ハヤトは立ち上がる。
全勢力が、アルバーナに集結しようとしていた。