ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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第152話〝黄金時代(ゴールドラッシュ)

 アルバーナの宮殿。

 物事が順調に進んでいると判断し、テゾーロはほくそ笑んでいた。

「反乱軍が迫ってるが、すでに真実は知っている。大方、クロコダイルの首を狙いに来たんだろう」

「コーザ……」

 宮殿から首都郊外の砂漠を見つめる。

 その傍には、つい先程帰還したばかりの王女ビビの姿が。

「国は人が居てこそ成り立つ。――国家樹立を成し遂げた私も、それはよく身に染みている。ビビ王女、あなたもそうでしょう?」

「ええ。……チャカ、イガラムを欠いて2年以上の暴動をよく抑えていてくれたわ」

「ビビ様……」

「だけど〝あいつ〟が生きている限り……この国に平和はこない!!」

 そうだ。あくまでテゾーロは全ての〝堀〟を埋めたに過ぎない。

 是が非でも攻め落とすべき〝本丸〟は、まだ残っている。その〝本丸〟を落とせば、戦いは終わるのだ。

「フン……この調子ならおれの勝ちで終わりそうだな。()()()()()()()()()()()

 不敵に笑った、その瞬間。

 テゾーロはハッとなって目を見開き、見る見るうちに青褪めた。

 

 クロコダイルは「〝作戦〟ってのはあらゆるアクシデントを想定し実行すべきだ……」と語る、狡猾にして明晰な男であるのは言うまでもない。

 その用意周到ぶりは目を見張るもので、現に〝()()()()()()〟では直径五キロメートルを吹き飛ばす特製の爆弾を、万が一砲撃が無理だった場合に備えて時限式にした程だ。

 当然テゾーロ自身、あらゆる策を講じ、その手の内をことごとく封殺してきた。

 

 ――それすらも……第三者の徹底した妨害工作もクロコダイルは見越して、計略を練っていたら?

 

「マズイ……これはマズイ!!!」

「え?」

「テゾーロ殿?」

 テゾーロは止まらない冷や汗を気にも留めず、子電伝虫を通じて叫んだ。

「緊急指令だ! 身体のどこかに翼とレイピアをあしらったドクロマークの入れ墨をした奴がいるはずだ! そいつらは全員クロコダイルの手下だ、問答無用で拘束し――」

「〝砂嵐(サーブルス)〟!!」

 

 ドゴォン!!

 

「ぐわっ!!」

 突如として発生した砂嵐により、テゾーロは吹き飛ばされた。

 空高く上げられてしまうが、咄嗟にゴルゴルの能力で黄金の糸を作り、尖塔にくくりつけた。まるでワイヤーアクションのように受け身を取りながら着地すると、王宮の上から見下ろしてくる〝諸悪の根源〟を睨んだ。

 テゾーロを攻撃したのは、()()()()()()()()()()()()……アラバスタの騒乱の元凶にして黒幕であるクロコダイルだった。

「っ……!」

「クハハハ……さすがだな〝新世界の怪物〟。ただの成金とは違うようだなァ」

「クロコダイル!!!」

 テゾーロは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべ、ビビは顔色を真っ青に染める。

 幸い、愛妻(ステラ)は万が一に備えて首都から離れるよう頼んであるため、今は安全な場所に避難しているが……。

「それにしても……まさかここまで嗅ぎつけるたァな」

「まさかはおれの台詞だ。ジェルマとグルだったのは想定外だった……それとコブラ王を解放してもらおうか」

 テゾーロは〝覇王色〟を放出する。

 クロコダイルは意外そうな表情を一瞬浮かべるが、すぐさま嘲笑うかのように「くだらん」と一蹴する。

「お前がこうも食いついてきた以上、後戻りはできん。この騒乱に巻き込まれて事故死という形で死んでくれた方が、まだどうにでもできた。全く、てめェもバカさ加減は飛び抜けてるらしい」

 困ったように紫煙を燻らせるが、焦った様子は見せない。

 だが、クロコダイルは()()テゾーロを潰すつもりではなかった。テゾーロの影響力は四皇と引けを取らず、世界政府内では天竜人に匹敵する権力を持つ。どこぞのフラミンゴ野郎と違い、クロコダイルは未だ英雄と持て囃されているだけの一海賊であり、七武海を遥かに上回る富と権力を持つ男とは大きく違う。

 テゾーロを潰しにかかる時は、クロコダイルの国盗りが成就してからの話となるのだ。

「もっとも、たとえお前の能力が〝覚醒〟していようとも、砂漠での戦闘では話は別だろうがな」

「……御託はいい。彼はどうした?」

「その口ぶりだと、麦わらとも繋がってたようだな……こりゃたまげた」

「とぼけるな」

 テゾーロは静かに一喝する。

 クロコダイルが()()()()()ルフィと戦ったのなら、彼がうっかり言ってしまう形でテゾーロの暗躍は知るはず。策士のクロコダイルがすっとぼけるとは、すなわちそういうことである。

「まあ、土産話で教えてやろう。――奴なら死んだ」

「ウソよ!! ルフィさんがお前なんかに殺されるはずがない!!!」

「そうか? 少なくともテゾーロは現実を見てるらしいが」

 クロコダイルはテゾーロに視線を送る。

「テゾーロさん……!」

「お前も姫さんに一言言ったらどうだ? 人生の先輩としてな……クハハハ!」

 テゾーロは話を振られると、鋭い眼差しで答えた。

「彼が大人しく死ぬ(タマ)とは思えないな。英雄ガープの孫だぞ?」

「ほう……道理で聞き覚えがあるなと思ってたが、そういうことか。……だが奴は死んだ事実は変わらん。このおれが串刺しにし、流砂にぶち込んどいたからな」

「決めつけはよくないな、サー・クロコダイル。己の常識だけで物事を判断すると、墓穴を掘るぞ」

 腹の探り合いをする〝黄金帝〟と〝砂漠の王〟。

 強者同士が纏うただならぬ雰囲気に、ビビとチャカは息を呑む。

「何が狙いだ」

「それはお前には関係ない……! 用があんのはお前だ、国王(コブラ)

「ぐぅっ!」

 クロコダイルは抱えていたコブラを地面に投げるように降ろすと、見下ろしながら問い質した。

「コブラよ……〝プルトン〟はどこにある?」

「っ!? 貴様、なぜその名を……!!」

 驚愕し、目に見える程に動揺するコブラ。

 ビビとチャカは意味がわからない様子だが、テゾーロは違った。

(やはり、狙いは古代兵器か……!)

 クロコダイルは真の目的――プルトンを語る。

 プルトンは遥か昔に造船された、世界最強にして造船史上最悪の戦艦。その威力は凄まじいでは済まされず、一発の攻撃で島一つを跡形も無く消し飛ばすという。その古代兵器を手中に収めてアラバスタの王となることで、世界政府をも凌ぐ軍事国家を築き上げようというのだ。

 そしてクロコダイルは、そのプルトンがアラバスタに眠っているという情報を手に入れたわけである。

「クロコダイル、それは希望的観測に過ぎない。いくら強大でも、所詮は大昔の戦艦だぞ」

「彼の言う通りだ。一体どこでその名を聞いたのかは知らんが、その在処は私ですらわからんし、そもそもこの国にそんなものが実在するかどうかすらも定かではない!」

「だろうな。存在すら疑わしい代物であるのはおれも承知だ」

「……〝白ひげ〟への復讐の為もあるのか」

 その言葉に、クロコダイルは目を見開いた。

 対するコブラ達は「〝白ひげ〟だと……!?」と呟き、思わぬビッグネームの登場にざわめいている。

「〝白ひげ〟に戦いを挑んで惨敗を喫したことを、享受してはいないだろ。お前は伝説の怪物との戦いで涙をのんだ〝銀メダリスト〟だからな」

 テゾーロは挑発し始めた。

 クロコダイルはアラバスタに来る前、七武海就任後に大海賊時代の頂点である白ひげと衝突し、そして敗北したのだ。それを暴露することで隙を狙ったのだ。

 が、クロコダイルは怒りを見せつつも、テゾーロの思惑を悟ったのか、口角を上げた。

「――クハハハ……おれを挑発してその隙を突こうということか? 乗ってやってもいいが、生憎立て込んでいる」

「……ちっ」

「まあ、お前の持っている〝国宝〟を()()寄越すなら、国盗りを諦めてアラバスタから出ていくのも考えてもいいがな」

「……!」

 テゾーロは静かに見据える。

 やはりと言うべきか、〝闇〟ではテゾーロが所有する二つの国宝――ラフテルの永久指針(エターナルポース)古代兵器(プルトン)の設計図に関する噂が出回っているらしい。が、裏社会や闇の世界に詳しいフェスタやサイからは国宝の正体に関する話は聞いておらず、せいぜい「テゾーロは二つの秘宝を所有している」といった程度の情報が流れているのだろう。

 しかし、だ。相手は王下七武海であり、海賊界きっての切れ者であるクロコダイル。本当に知っているのかもしれないし、知らなくとも今この場で聞き出そうとするのかもしれない。

 気を抜かぬよう、言葉を選ばなければならない。

「……それを易々と言ってくれるとでも思うか」

「クハハ……まあ割らねェだろうな。だから必要なのさ、この国に眠る強大な軍事力(プルトン)がな」

「……だったら、余計お前を野放しにはできない。おれの野望の為にもな」

 テゾーロはガツン! と拳を地面に減り込ませた。

 バリバリと空気が破れ、プラズマの如き火花が迸り――

 

「〝黄金時代(ゴールドラッシュ)〟!!」

 

 ガキィン!!

 

『!?』

 金属音と共に、金箔でも貼られたかのように王宮の庭が一瞬で黄金に染まった。

 黄金を腕に纏って攻撃したり、触手のように操って攻撃するのがテゾーロの基本的な戦闘スタイル。それを〝覚醒〟によって自分に有利なバトルフィールドを展開させ、格上の相手とも真っ向勝負が通じるようにする……すなわち、「〝無〟から自分の支配力が及ぶ世界を創る」という離れ業である。

 これにはクロコダイルも度肝を抜いた。

「ちっ、厄介な……」

()には、少し削ってもらう」

 減り込ませた拳を抜き、無造作に手を振る。

 刹那、次々に黄金が噴水のように噴き上がり、太くしなやかな触手に変化し、クロコダイルに襲い掛かった。

 突き、払い、振り下ろし……しなやかな分、時間差が生じる変幻自在な攻撃に、回避を続ける他ない。しかも触手には覇気が纏われており、物理攻撃が通じない自然(ロギア)系能力者でも命取りになりかねない。

 能力を鍛え上げ研ぎ澄ましてあるのは、テゾーロもクロコダイルも同じだが、明確に大きな差が生じている。

「し、信じられん……!」

「あのクロコダイルが……!」

「テゾーロさん、スゴいわ!!」

 コブラとチャカは驚愕し、ビビは歓喜する。

「くっ……〝砂漠の宝刀(デザート・スパーダ)〟!!」

 クロコダイルは触手攻撃を躱しつつ、右手を砂の刃に変え、巨大な斬撃を放つ。

 それは大地を容易く両断する切れ味。岩すら斬り裂く砂の凶刃は、テゾーロ目掛けて襲い掛かるが、それに反応するかのように二つの触手が交差してテゾーロを護った。

 超硬度を誇る黄金、ましてや覇気を纏った状態となれば、並大抵の攻撃は通じない。突き破るとすれば、彼以上の覇気を纏った黄金を容易く破壊できる攻撃しかない。

 その後もテゾーロの猛追は続き、クロコダイルは技を駆使して回避し続けるが、勝負は急展開を迎えた。

 

 ギュルンッ!

 

「!?」

 触手の先端が針のように鋭くなり、クロコダイルに迫った。

 咄嗟に避けるが、覇気を纏っているせいか、顔に赤い筋が一つ走った。

 クロコダイルが血を流した瞬間だ。

「ま、まさか本当にクロコダイルを……!」

 テゾーロならやれると、コブラ達が確信した時だった。

「ハァ……ハァ……!」

「! クハハハ……!! やはりか」

 ふと、少しずつ息が荒くなることに気がつく。

 その真意を察し、劣勢のクロコダイルは笑った。

「そんな広範囲に覇気を纏わせりゃあ、長くは()たねェ……てめェも後先を考えてねェ……!! 笑わせてくれるじゃねェか、お前のお望み通りのエンターテインメントだ」

 そう、この技は覇気を纏った攻防一体の〝覚醒〟の戦術。

 使い勝手のいい代物ではなく、触手を完璧にコントロールしつつ覇気を纏わせることがいかに至難の業か。

 集中力と体力の消耗と引き換えに繰り出すため、長時間の使用は禁物なのだ。

「てめェの能力には恐れ入った。だが所詮は成金……おれとお前とじゃあ「格」が違う……!!」

 戦闘力と勝敗は別物だ。

 テゾーロがクロコダイルよりも実力が上でも、負ければクロコダイルが格上なのだ。

 しかしこれも計算の内。テゾーロは〝主役〟が来るまで時間を稼いでいるのだ。クロコダイルが気づかぬように。

「……そしてお前の最大のミスは、ここに間抜けな雁首が揃っちまってることだ。護る者が多いと大変だな! クハハハ!!」

「……図に乗るな。護るために強くなるのが人間のあるべき姿だろう」

「理想論だな。そんな戯言、この海じゃあ何の意味もねェ。金勘定とは訳が違う……!!」

 リアリストらしい言葉を並べるクロコダイル。

 すると、彼はテゾーロに揺さぶりを仕掛けた。

「クハハハ、まあ何とでも言うがいいさ。どの道このおれに構い続けていると、大変なことになる」

「何だと?」

「反乱軍はお前が真実を伝えたことで、このおれの首を取ろうと躍起だろう……あと15分もすればここまで来るだろう」

 クロコダイルは笑みを深め、さらに告げた。

「さらにその15分後……今から30分後に、王宮前広場に特大の爆弾を撃ち込む手筈となっている」

「っ!? 正気か、貴様……!!」

「直径5キロを吹き飛ばす特製弾だ。ここから見る景色も一変するだろうな」

 その狡猾かつ非情なやり方に、コブラは怒りを露にする。

「……そこまでするか。海賊というよりもテロリストだな」

「この内乱を止めるためには、本人達を吹き飛ばすのが手っ取り早い。――そうだろう?」

「どうしてそんなことができるのよっ!! あの人達が何をしたっていうの!?」

 人々の命を思うビビは悲痛な声で叫ぶが、クロコダイルは「くだらん」と一蹴する。

「予定変更だ、やはり始末する」

「あら、いいのかしら?」

 そこへ、女性の声が響く。

 振り返ると、コブラの()()()()()()()が、彼の喉元にナイフの刃を付きつけていた。

「ニコ・ロビン……!!」

「あなたも立場上、国王様の身の安全は欠かせないでしょう?」

(っ……この頃は悪女の方だったな)

 人質を取ったニコ・ロビンは妖艶な笑みを浮かべる。

 ミス・オールサンデーとしてクロコダイルのパートナーとなった彼女は、裏社会を生き抜いただけあって頭が回る。七武海と悪魔の子を同時に相手取っており、相性の悪さを考えれば、迂闊に手は出せない。

「クハハハ……まァお前を消すのは後回しでも構わん。利用価値の高さはそこらの権力者とは比べ物にならねェからな。それにプルトンさえ手に入ればこっちの勝ちだ」

「そうはさせん!」

 刹那、威勢のいい声が聞こえたかと思えば、大きな門がこじ開けられた。

 同時にロビンは手を押さえて後退った。その手からは血が滴り落ちている。

「……何者だ」

「お前達……!」

「〝ツメゲリ部隊〟!!」

 アラバスタ王国が誇るエリート護衛団が、死中に活を求め馳せ参じたのだ。




本作における、クロコダイルのテゾーロに対する意識は「利用価値は高いが、かなり操りにくく厄介」と言った感じ。
富と権力は万国共通なので、五老星との私的謁見も許可されている男を利用すれば大きな力となる一方、テゾーロ自身の影響力が強すぎて手っ取り早い手段が取れないという訳です。

ちなみにテゾーロが「マズイ」と言って子電伝虫で連絡を取ろうとしたのは、クロコダイルがバロックワークスの内通者に指示をして強引に戦火を拡大させる可能性を思いついたからです。
ホラ、社長なら潜伏している雑兵達に国王軍になりすまして攻撃するよう仕向けることくらい、普通に考えそうですし……。

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