ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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五月の投稿です。


第149話〝掃除屋と戦争屋〟

「クロコダイルめ、何と卑劣な……!!」

「卑劣って言うか、用意周到だな。奴はある程度の想定外(アクシデント)を考えた上で作戦を練るタイプだから」

 王宮内は、大混乱だった。

 コブラ王が誘拐されたことで、反乱軍の鎮圧だけでなくコブラの捜索という新たな問題が出てきたからだ。

 現状、一番大事なのは反乱軍の対処だが、それに集中していてはコブラ王の身に()()()()()()が起こってしまう。しかしクロコダイルの暗躍に彼が従える秘密犯罪結社(バロックワークス)がいる以上、下手に兵力を割くわけにもいかない。

(クロコダイルのスパイがどれ程いるか炙り出せてない今、このままぶつかれば……!!)

 チャカは悩み苦しむ。

 10年仕えて来た国王を信じて、この国を守るのが自らの使命だ。それに迷いはない。

 だが、相手は国を愛する国民であるのは変わらないし、戦闘となればそれこそクロコダイルの思惑通りに事が進み、結果的にアラバスタは滅ぶ。

 コブラとビビは不在、信頼の厚い護衛隊長のイガラムはバロックワークスの追手により生死不明。ペルも敵地視察にレインベースへ向かってから連絡が途絶えたまま。

 これ程までに追い込まれたことは無かった。

「チャカ様……」

「チャカ様、御命令を!」

「っ……わかってるさ」

 しどろもどろになる国王軍。

 その一方で、テゾーロは腕を組んで一人考えていた。

 

 このアラバスタの内乱で、黒幕は予想通りクロコダイルと判明した。

 その裏で、クロコダイルと密かに接触していたスパンダイン親子。クロコダイルが彼らを無償に庇護するつもりなど無く、大方は二人が持つ情報が目的だろう。それと共に、メロヌスからの報告で上がったジェルマ王国の介入。戦争屋であるヴィンスモーク・ジャッジ率いるジェルマ66(ダブルシックス)の暗躍は、さすがのテゾーロも面を食らった。

 しかし、ジェルマ王国は政府加盟国。加盟国同士の戦争に、世界の秩序の維持に努める世界政府が果たして黙っているのだろうか。

 

 奇しくも、アラバスタ王国は世界政府が解読はおろか探索すら禁じている歴史の本文(ポーネグリフ)を持っている。その一文の中には、古代兵器プルトンの在処が記されているという。

 その歴史の本文(ポーネグリフ)は、ネフェルタリ家が代々「護り手」として護り続けてきており、決して表には公表されず王家の墓の奥に鎮座・眠り続けている。

 

 ――もしその事実を世界政府が知っており、この内乱を機にアラバスタを葬ろうとしているとすれば?

 

「……さすがに無い、よな?」

 テゾーロは一筋の汗を流す。

 世界政府は都合の悪いことや禁忌(タブー)に触れた人間をことごとく抹消してきた。オハラがいい例だ。テキーラウルフやフレバンスは、少なくない犠牲を払いつつもテゾーロが救ってきたが、世界政府の本質が変わることなど無い。

(……クロコダイルの狙いはプルトン。ジェルマはアラバスタの内乱で利益を得るビジネスの為。そしてスパンダイン親子は、復権とおれへの復讐。だがスパンダムは部下からもあまり信用されない無能ぶり……)

 スパンダムが何らかの失態を犯し、それが政府に()()()で露見した。

 それも十分に考えられる。あのスパンダムだからだ。

(ここはおれが動くしかないな)

 テゾーロは意を決し、チャカに声を掛けた。

「チャカさん、コブラ王の件は私達に任せてくれないか」

「テゾーロ!?」

「おれにも相応の権限があるし、部下もある程度連れて来てる。穏便に事を済ませられる保証は無いが……少なくともコブラ王の無事ははっきり言える」

 テゾーロはそう語るが、チャカは躊躇った。

 本人はやる気だが、彼はあくまでも外交としてアラバスタを訪問している。いくら支援・援助の申し出があったとしても、彼の身に何かがあればアラバスタの責任問題となり、最悪の場合は加盟国から外されたり武力制裁が行われるかもしれない。

 しかし、テゾーロ自身にも味方は大勢いるのも事実。彼の言葉に甘えて乗るのも一つの作戦だ。

「……テゾーロ、すまぬ!」

「非常事態なんだ、お互い助け合うのが道理さ」

 深々と頭を下げるチャカに、テゾーロは笑みを浮かべた。

 

 

           *

 

 

 その頃、ハヤトはアルバーナから離れ、見聞色の覇気を用いて探索していた。

 彼もまた、王宮内での騒動を耳にし、テゾーロには内緒で独断行動に出たのだ。

 これは手柄を立てるためではない。王宮内にスパイがいてもおかしくないため、人目に触れるのを避けるためなのだ。

(あの崖の上から強い気配を二つ、弱い気配を一つ感じる。そこにいるのか?)

 背負った大太刀をゆっくり抜き、刀身に覇気を纏わせる。

 偉大なる航路(グランドライン)前半の海で強力な覇気を扱える者は非常に限られ、そもそも覇気という力そのものを知らない者の方が多い。いるとすれば隠居した伝説の海賊、あるいは王下七武海の面々とその傘下ぐらいだろう。

(おそらく弱い気配がコブラ王だな。残り二人は……クロコダイルの側近か何かか? まあ、誰だろうと斬殺するけどな)

 ハヤトは地面を蹴って跳躍し、一気に崖の頂上まで辿り着く。

 眼前には、縄で縛られ身動きが取れないコブラ王と、マントを羽織りサングラスをかけた二人の男。その光景に、ハヤトは絶句した。

 あの二人、まさか――

「ふんっ!!」

 

 バキィッ!

 

「ぐっ!?」

 刹那、緑の拳がハヤトの頬を抉った。

 ハヤトは殴られた勢いで、そのまま地面に激突する。

「へェ……〝海の掃除屋〟か」

「ちっ……! まさか、噂に聞く〝戦争屋〟か……!」

 緑の男――ヴィンスモーク・ヨンジは、ハヤトの異名を口にする。

 その直後、ヨンジと共にいた男、ヴィンスモーク・ニジが舞い降りた。

「ヨンジ! そいつは剣士だろ? おれがやる!」

「何ィ?」

 ニジは電気を纏った剣を抜いており、好戦的な笑みを浮かべている。

 ヨンジは自分が出る幕でないと悟ったのか、黙って崖の上へと()()()()()()

 それを逃すはずもなく、ハヤトは斬撃を飛ばしてヨンジを撃墜させようとするが、ニジに防がれてしまう。

「おっと! そうはさせねェ、大事な任務なんだからな」

「……一国の国王を誘拐するのが任務だと? 反吐が出るな」

 嫌悪感を剥き出しにするハヤト。

 まさに血も涙もない、冷徹な態度。人間としての感情が一切ない言葉に、戦慄すら覚える。

「誘拐犯であるのは言い逃れもできないぞ。コブラ王をこちらに渡すか、ここで半殺しにされるか、好きな方を選べ」

「ハッ! そんな脅しが通じるとでも思ってんのか?」

「「本物は死さえ脅しとならない」……言い得て妙だが、話し合いは通じないか」

 交渉の余地が無いと確信し、実力行使でコブラ王奪還を決意する。

 ニジはそれを察し、久しぶりの一対一(サシ)の勝負に燃え始めたのか、口角をさらに上げた。

「いいねェ、やる気か?」

「お前らのようなクズが海にのさばるのが嫌いなだけだ!」

 ハヤトは駆け、ニジと刃を交わせた。

 覇気を纏った大太刀と、電撃を纏った剣。二つの刃は衝突すると、周囲に衝撃と電撃を拡散させる。

 そしてすぐさま、斬撃のぶつかり合い――剣戟を繰り広げる。目にも止まらぬ速さで繰り出される斬撃は、互いに一歩も譲らず。リーチの長さや反射速度など、色んな面で大きな違いはあるが、両者は互角以上に渡り合っている。

 しかし、それは全力ではない。互いに相手の手の内を探り、技量を確かめ合っているのだ。

(攻撃は大振りだが、繰り出すのが(はえ)ェ上に風圧で懐に潜り込むのが容易じゃねェ)

(細身である分、電光のように鋭く速い一太刀……少し不向きか)

 互いに舌打ちしつつ、それぞれの剣の特徴を見抜く。

 ハヤトの愛刀〝海蛍〟は大太刀であり、刀身が長い分、通常の刀剣よりも大きな隙が生じやすい。完全に躱して懐に潜り込めば、一撃必殺を受ける可能性も高い。それを無くすため、覇気を纏い太刀風で空気の流れを変えることで、懐に潜り込めても太刀風によって体勢を崩しやすくしているのだ。

 対するニジは〝デンゲキブルー〟の通り名を持つ通り、電撃を操る。剣は勿論、拳打や蹴りにも電撃を纏わせて攻撃することが可能だ。剣による斬撃に電撃を放つ能力をプラスした二段構えで戦うスタイルは、かなり有効だろう。

 相性としてはかなり悪い方だが、覇気の練度はハヤトの方が格上。勝負はハヤトが優勢に見えた。

「〝超電光剣(ヘンリーブレイザー)〟!!」

「ぐっ!」

 ニジはすれ違いざまに電撃を纏った剣でハヤトに斬りかかった。

 すかさずガードするが、その瞬間に感電してしまう。

「……やるじゃねェか。今のを耐えるか」

「クソ……電撃が厄介だな」

 新世界の海でも通じる実力を持つハヤトは、己の肉体を鍛え上げているため、電撃による攻撃も大したダメージにはならない。

 しかし言い方を変えれば、電撃は絶縁体かそれと同じ体質でもない限りは防御不能の攻撃と言える。

「お前に恨みはねェが……任務の邪魔だからな。死んでもらう」

「……それはおれも同じだ」

 怪物の知らぬところで、国王を懸けた戦いが始まろうとしていた。




そろそろ150話か……随分と長く旅をした……。

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