ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~ 作:悪魔さん
「そうか、よくやった」
アルバーナの王宮にて、テゾーロは笑みを溢していた。
ナノハナで起きた偽コブラ王事件により、民衆と反乱軍に真実が伝わったと電伝虫越しで報告があったのだ。これで国王の誤解は解けただろう。
だが、肝心のクロコダイルを潰せてない。この事実がクロコダイルの耳に届けば、計画は狂えど次の手を打ってくる。次の手を打たせないためには、ナノハナで起こった偽コブラ王事件を利用し、反乱軍の扇動に成功したように振る舞わねばならない。
無論、テゾーロはそのこともアオハル達に伝えてある。
「さて、あとは……」
余裕の笑みを溢した、その時。
ドタドタと慌てた様子で、血相を変えたステラが現れた。
「テゾーロ!! 大変よ、コブラ王が失踪したの!!」
「――な、何だと!?」
思わず声を荒げるテゾーロ。
このタイミングでコブラ王が、姿を消したなど想定していなかったのだ。
「今チャカさん達が必死で捜索してるの!」
「……ステラ、コブラはおそらくクロコダイルの刺客に誘拐されたんだ。もうアルバーナにはいないと考えた方がいい」
「そんな……!」
ステラがどうしようかと慌てふためく中、テゾーロは心を落ち着かせて
コブラの偽者は、先程ナノハナで目撃され、その正体も民衆の目に晒された。
となれば、考えられるのはクロコダイルが次の手を打ったか、あるいは別の勢力の介入となる。いや、クロコダイルとなればそうなってもいいように予め用意するだろう。
(ここには敵地視察でペルがいないとしても、覇気を扱うおれもいる。おれにも気づかれずにコブラ王を誘拐できるとすれば、透明になれる能力の使い手か……!?)
この世界において、透明になれる能力は非常に少ないが存在はする。
その最たる例が、
スケスケの実の能力は、自身の姿を風景に同化させ、文字通りの透明人間になる能力だ。着衣など自身が直接触れている物体も透明化の対象に含まれ、敵地への視察などの諜報・工作活動や暗殺・奇襲にはうってつけなのである。体臭までは消せないという欠点を抱えるが、その凶悪性は
しかし、今のスケスケの実の能力者は王下七武海ゲッコー・モリアの部下のアブサロムだ。七武海同士の仲はハッキリ言って最悪の関係であり、手を組むよりも潰し合う可能性の方が高い。クロコダイルがモリアと手を組むのは考えにくいし、モリアもクロコダイルと手を組みたがらないだろう。
(……まさか、
だが、透明人間になれる方法も保有するであろう連中も存在する。ジェルマ
ジェルマの幹部及び総帥は、戦闘時にはレイドスーツという特殊装備を纏う。普段は筒状に収納されているレイドスーツの機能は多様で、マントは盾になり、防御力と耐熱性に優れ、加速装置と浮遊装置でスピードアップや飛行を可能にしている。
それ程の科学力を持つのならば、透明人間も可能ではないのか……テゾーロはそう結論づけた。
「スパンダイン親子だけじゃなかったか……」
不覚にも、先手を打たれたテゾーロ。
真実を知ったのは、ナノハナの民衆と反乱軍。国王軍にも知れ渡るだろうが、肝心のコブラ王の行方がわからない以上、何が起こるかわからない。
これでクロコダイルが実力行使で攻めたとなれば、アラバスタ王国内で彼に敵う人間は一人としていない。
しかも、テゾーロはあくまでも外交目的で来ているという名目。あまり出しゃばると世界政府がうるさいのだ。
「早急に手を打たないと、少しマズイな……」
テゾーロは拳を強く握り締め、急いでチャカ達の元へ向かった。
同時刻、アルバーナ近辺の荒れ地。
そこでは、二人の男がコブラ王を拘束していた。
「随分と予定が狂ってるらしいが……大丈夫なのか?」
「何を言ってやがるんだ、ヨンジ。おれ達は仕事をして金を得るだけだ」
口を縄で塞がれ拘束されたコブラの前で会話する、二人の若者。
一人は、リーゼントがかった青髪が特徴でゴーグルを掛けた男。もう一人は、緑髪のオールバックが特徴の男。二人共、マントを羽織り髪の色と同じ服を纏っている。
彼らもまた、ジェルマ
(……ジェルマ王国……なぜ我が国に……)
「そういやあ、イチジが〝ボルトアクション・ハンター〟と
「へえ……あの元賞金稼ぎとか」
というのも、メロヌスは彼自身も知らないことだが、その類稀なる射撃の腕と頭脳から総帥ジャッジがヘッドハンティングしようと考えた程の人材なのだ。ジェルマの科学力で最新の銃火器を造り、それを最高の狙撃手に性能を最大限に発揮させ、ジェルマ王国を進化させようとしていたのである。
もっとも、その前にテゾーロの部下となったので、ジャッジにとって叶わぬ夢となったが……。
「クロコダイルの国盗りが成功したら、父上はどうするんだろうな」
「さァな。だがクロコダイルは海賊だ、ロクに信用しちゃいねェだろうさ」
(……戦うな……争ってはならん!)
*
一方、ナノハナではコーザ達反乱軍が項垂れていた。
国王を信じ切れなかった自分達が、クロコダイルの片棒を担いで国を滅ぼすコマとなっていた。今までしてきたことの全てが無意味で愚かであったことにショックを受けているのだ。
「おれ達は、取り返しのつかないことを……
「いや、ギリギリ踏みとどまったってところだね」
国の為にと思ってたのに、国を滅ぼすハメになった。
だがアオハルは、まだ望みはあるとコーザ達に声を掛けた。
「少し前に、アラバスタへ帰還するビビ王女と遭遇した」
「ビビとだと!? 無事なのか!?」
「屈強な船乗り達に助けられてね」
煙草の紫煙を燻らせ、アオハルは海上でのビビとの出会いを説明した。
彼女は黒幕がクロコダイルであるという真実に辿り着き、信頼できる新たな仲間と共に祖国を救うべく独自に動いているという。
さらに、自分の上司である〝黄金帝〟ギルド・テゾーロも、コブラ王の嘆願に応じ、裏でクロコダイルが指揮する秘密結社と戦っているという。
「ビビ……」
「君達には、まだやれることがあるだろう」
その言葉に、反乱軍の中枢はハッとなる。
真実を知ることができたのだ。今の自分達にやれるのは、戦争を止めること。一人でも多くの命を救うことだ。
コブラもまた、同じ答えに辿り着くだろう。この国を愛し、想う者であるのは変わらないから。
「クロコダイルはおそらく、ビビ王女の命を狙う。反乱軍の指導者とビビ王女の関係は、向こうも知ってる」
「……ビビが戦争を止める
アオハルは無言で頷き、さらに言葉を紡ぐ。
「こんなこと言うのもアレだけど……ビビ王女もクロコダイルの掌の上で踊らされてると思う。君とビビが手を組んでも、それを想定した作戦を練って修正するだろう」
「そんな……!」
「それじゃあ……」
反乱軍の幹部達の顔に、絶望の色が見え始める。
王国側もコーザ達も、クロコダイルを甘く見たわけではない。だが、彼らの想像以上の実力と智謀を、クロコダイルという海賊は兼ね備えていたのだ。
そもそも王下七武海は海賊であり、何だかんだ言って海軍からもあまり信用されていない立場だ。それなのに海軍は、アラバスタには部隊を配置しなかった。クロコダイルはそれ程までに用心深い策略家であるのだ。
(……おそらく、今回の一件はまだビビ王女には伝わってない。このままアルバーナに向かうだろうけど……)
「……アルバーナに向かうぞ」
『!!』
コーザは意を決したように言い放った。
「クロコダイルが国を盗るってんなら……必ず王宮を狙うはずだ……国王軍も
「……それを利用するのかい」
「わざと乗っかって、吠え面かかせてやる……!」
クロコダイルにとって、国王軍も反乱軍も目障りな存在で、用が済めば切り捨てるどころか滅ぼすつもりなのは明白。ビビのことだから、それを命懸けで止めるだろう。無論、クロコダイルから見ればネフェルタリ家も邪魔な存在なので、アラバスタと共に滅ぼすだろう。
それだけは避けねばならない。一国の王女を、昔からの幼馴染を、国を滅ぼそうとする英雄の皮を被った悪逆非道な海賊に葬られるわけにはいかない。
「首都アルバーナへ向かい、黒幕を討ち滅ぼす!!」
そして、場面変わってサンドラ河。
「まさかこんなところで鉢合わせとはな」
「あんたがこの国にいるってことは、すでにテゾーロがいるってことか」
「今は首都にいる」
背広に袖を通すメロヌスの視線の先には、ビビと麦わらの一味がいた。
ジェルマとの戦闘をくぐり抜け、河川敷で服を乾かしていたところ、アラバスタ王国の動物達の中で最速の足を持つ「超カルガモ部隊」と合流したビビ達と思わぬ再会を果たしたのだ。
「……麦わらのルフィはどうした」
「っ! ……ルフィさんは、クロコダイルと戦ってるの」
「砂漠の戦闘じゃあ間違いなく最強の男と、か……」
メロヌスは、ルフィは絶対負けると思っていた。
異例のルーキーではあるが、王下七武海でも最古参の部類かつ新世界の海でも破竹の進撃をした大物に、よりにもよって最大限のパフォーマンスができる砂漠で戦うなど、無謀の極みだ。十中八九負けるだろう。
しかし、それでも生き残り立ち上がる者もいる。戦闘力と勝敗は別物だ、心が折れた方が真の敗北を喫するのだ。
「……これからおれは、その辺から馬でも拝借してアルバーナに向かおうかと思ってる。もうオアシスや港町に用は無いしな。お前らはどうする?」
「私達も、アルバーナに向かうの! 今ならまだ間に合う!」
メロヌスは鋭い眼差しでビビを射抜く。
この内乱は、何の犠牲も無く終わらせることは不可能だ。ビビはそれでも、犠牲を出さずに終わらせようとしている。
だが、現実は残酷である。かつて珀鉛病という国難に遭っていたフレバンスも、テゾーロの財力・権力・人脈を揃えても犠牲者が出たのだ。全てを救うなど、夢のまた夢だ。
それでも、彼女は止まらないだろう。だからこそ仲間が集い、敵は優先的に命を狙う。
「……臨時の用心棒だ。
「え?」
「ウチの上司も、この場にいてもそう命じるさ。あんたらと同行させてもらおう」
メロヌスは一行との同行を願い出た。
それは、戦力的には申し分ない、十分すぎる提案だった。
「そこいらの海賊程度なら、おれ一人でもお前ら全員護れる」
「ほ、ホントに!?」
「……ウソじゃなさそうだな」
メロヌスの発言にナミは驚愕し、ゾロはウソはないと判断して笑みを浮かべた。
サンジやチョッパー、ウソップもどこか安堵した表情を浮かべている。
「じゃあ、契約者はネフェルタリ・ビビの名で。――今からここにいる全員のボディーガードを務めるメロヌスだ、指示をどうぞ」
「……この戦争の終結に、全面協力してください!!」
ビビ達は強力な助っ人を引き込み、最終決戦の場へと向かう準備を整えるのだった。