ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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アラバスタの反乱に彼らが介入してもおかしくないと思います。


第146話〝砂の国と四人の男〟

 その頃、アオハルはナノハナの港に潜入していた。

 バロックワークスは交易が盛んであるこの港を使ってダンスパウダーを輸送していたため、武器もまたこの港から流れると考えたのだ。

 そして停泊している商船を手当たり次第調べ、ある武器商船に乗り込んだところ、驚愕の光景が広がっていた。

「…………うわ、これどこから流れてくんの」

 紫煙を燻らせ、アオハルは一筋の汗を流す。

 拳銃や剣だけではない。自動小銃や擲弾銃、機関銃、手回し式のガトリング銃といった重火器が箱の中にぎっしりと詰まっていた。その中には、同僚メロヌスが愛用するボルトアクション式のライフルも入っていた。

(これは……完全に〝ビジネス〟だね。国際規模の武器の闇取引……ジェルマの差し金かな?)

 かつて北の海(ノースブルー)を武力で制圧したジェルマ王国。世界唯一の海遊国家が保有する科学戦闘部隊「ジェルマ66(ダブルシックス)」は、戦争屋の別名で裏社会にその名を轟かせている。

 裏社会の闇取引と言えば、王下七武海の一角であるドンキホーテ・ドフラミンゴも有名だ。彼の場合は武器や兵器だけでなく、違法薬物(ドラッグ)や悪魔の実も含めたあらゆる分野の危険物の闇取引を取り仕切っている。

 だが、ドフラミンゴとクロコダイルははっきり言って仲は悪い。そもそも王下七武海は海賊だ。ただでさえ一人一人が手の余る曲者揃いなのに、七武海同士が仲良くしてる場面など見たことも聞いたこともない。海賊である以上、利害が一致しても易々と手を組むなど考えられない。

 クロコダイルがドフラミンゴを頼るとは到底思えないので、やはり武器の出所はジェルマの可能性が高い……そう考えるのが妥当だろう。

「う~ん……」

 アオハルはモリモリと頭を掻くと、電伝虫を使ってスモーカーの部隊へ向かうメロヌスに掛けた。

 

 プルプルプルプル……プルプルプルプル……ガチャッ

 

「もしもし?」

《アオハルか、どうした》

「ナノハナの港に泊まってある商船を漁ってたんだけどさ……デカイのが釣れたよ」

 通話に応じたメロヌスに、アオハルは反乱軍の倉庫の状況を伝えた。

「平穏な加盟国が所有するとは思えない、数々の重火器のオンパレード。手回し式のガトリング銃とか」

《ハァ!? ず、随分と大掛かりだな……》

「そっちスモーカー側でしょ? 周辺海域にいる全ての船の監視取締り、特に商船の取り締まりを強化するよう要請して。王国の内乱を口実にすればどうにでもできるでしょ。それとデカイ船一隻よりも小型船か中型船数隻で送ると思うから、民間でも船団に注意して。とりあえず武器商船は沈めとくから」

 闇取引は一歩間違うと生命に関わる、利益が大きい分リスクも大きい稼業。ましてや武器の闇取引が内乱状態の加盟国で行われたことが公になれば、世界規模のスキャンダルになる。だからこそ、第三者に発覚されないように動かねばならない。

《わかった、こっちもやれる手は打っとく。気をつけろよ》

「了解」

 通話を終え、受話器を下ろす。

「さて……あとは武器を持ち込んでくる仲仕(ポーター)を叩ければいいけど」

 

 

 アオハルとの通話を終えたメロヌスは、目の前の人物に話を振った。

「……という訳なんだが」

「……ちっ、最悪な展開ってことか」

 舌打ちをする白髪の海兵――スモーカーは苛立ちを露わにする。

 アオハルが商船を漁る前にスモーカーと接触することに成功したメロヌスは、テゾーロの〝読み〟と黒幕と思われる人物に関する情報を提供していた。

 スモーカー自身は「〝海賊〟はどこまでいこうと〝海賊〟」として七武海のことを一切信用していないため、そこまで驚くことではなく、むしろ予想通りだと言ってのけた。だが部下のたしぎやマシカクは政府側の人間だと思ってたからか、アラバスタの英雄が国を乗っ取ろうとしていることに動揺を隠しきれないでいた。

「スモーカーさん、これは本部に報告するべきでは!? ギルド・テゾーロからの情報であれば――」

「バカ野郎。軍の上層部はともかく、政府の上層部が問題なんだよ」

『?』

 スモーカーの言葉に、メロヌスは補足するように口を開いた。

「さっき同僚から、反乱軍の港には本来海軍が所有するような重火器があったという連絡を受けた。闇の世界から流れたんだろう……ジェルマ66(ダブルシックス)の介入も否定できない以上、政府がアラバスタの為に動くとも思えねェ」

「ジェルマ66(ダブルシックス)!? それは空想上の悪の軍隊じゃないんですか!?」

「実在する組織だよ。ジェルマ王国は政府加盟国だ。世界会議(レヴェリー)で顔は出さなかったがな」

 メロヌスの言葉に、海兵達は開いた口が塞がらない。

「他の海の戦争にも参加している連中だ。アラバスタの件にも手ェ出してもおかしくねェ」

「……世界政府もグルだって言いてェのか? 加盟国の要人だろ、あんた」

「ウチは誰一人として世界政府を神と思っちゃいねェからな」

 煙草を吹かすメロヌスは、爆弾発言を炸裂させつつ夜空を仰ぐ。

 もみ消しが十八番(オハコ)の世界政府の隠蔽体質に加え、天竜人の繁栄の為に世間には絶対公表できない活動をするCP-0。世界政府の闇は深く、自分達に利益があれば加盟国を生け贄にすることも厭わないだろう。

「……まあ、状況的には結構悪くはない方だと思うんだよな」

「何だと?」

 その言葉に、スモーカーは目を細めた。

 

 海軍の掲げる「絶対的正義」を盲信しない海兵、〝白猟のスモーカー〟。

 アラバスタ王国王女と行動を共にする海賊、モンキー・D・ルフィ。

 王国の乗っ取りに向けて暗躍する王下七武海、サー・クロコダイル。

 そしてアラバスタの動乱を終わらせるべく動き出した大富豪、ギルド・テゾーロ。

 

 確かに考えてみれば、ここまでの大物が揃うことは無いだろう。

 そしてその内の三名の共通した敵が、クロコダイルである。

「……ウチはあくまでアラバスタ王国の国王に頼まれてきたからな。〝麦わら〟やクロコダイルをどうするかは海軍(そっち)に任せる方針だ」

「……あんたらとならともかく、海賊とも手ェ組まなきゃなんねェのか?」

「海賊と海兵がタッグを組んで巨大な敵を倒したって前例は過去にある。恥じても気に病むことはねェだろ」

 世界政府が表には出していない海軍の歴史を知るような発言に、スモーカーは眉間にしわを寄せた。

「そんでもって、おれは今回あんたらと行動を共にさせてもらう。黄金帝が認める頭脳を料金なし・キャンセル料なしで借りられるスペシャルプランってわけ」

「……フン、悪くねェ」

 不敵な笑みを浮かべるメロヌスに釣られ、スモーカーも口角を上げた。

 

 

           *

 

 

 翌日。

 「夢の町」と称されるギャンブルの街・レインベースには、クロコダイルが経営するレインベース最大のカジノ「レインディナーズ」が構えてある。

 その地下に存在する秘密基地では、オーナーが葉巻を燻らせていた。

「……テゾーロが先手を打ちに来たか」

 クロコダイルの眼前にある新聞には、コブラ王とテゾーロの首脳会談に関する記事が掲載されていた。

 王下七武海に加盟した海賊は、政府からの指名手配を取り下げられ、海賊および未開の地に対する海賊行為の許可以外にも様々な特権が与えられる。配下の海賊がいれば恩赦を与えられ不逮捕特権の対象とされたり、商船をも略奪の対象としても多少なら黙認されたり、四皇を除いた他の海賊と比べると色んな意味で優遇されている。

 しかしテゾーロは、王下七武海をも遥かに凌ぐ権力を持っている。世界政府の最高権力者である五老星との私的な謁見、天竜人とのコネクションがあるゆえの「神々の地」への出入り、世界会議(レヴェリー)への参加権など、クロコダイルが持っていない特権を多く持っている。

 それらは世界政府に莫大な上納金を納めたり、政府中枢からの指令に期待以上の結果で応えたりなど、世界の秩序の貢献に努めているからである。ただし実際は、テゾーロが政府の失態の尻拭いをこなしたことで得た特権(チカラ)でもある。

「成程、少しは賢い奴のようだ」

 クロコダイルはテゾーロの狙いを悟る。

 コブラ王との会談を大々的に報じることで、「おれはコブラ王の後ろ盾だ」というアピールにも繋がる。ギルド・テゾーロというビッグネームは世界規模で通じ、世界政府の中枢にも影響を与える大物がいれば反乱軍もバロックワークスも迂闊に手は出せないだろう。

 一代で国家を築き上げた大富豪の頭脳に、クロコダイルは感心していた。

「あら、随分と楽しそうね」

「……そう思うか、ミス・オールサンデー」

 新聞を読むクロコダイルへ近寄る、一人の女性。

 彼女はミス・オールサンデー。クロコダイルのパートナーであり、正体を隠すクロコダイルに代わって指示を送るなど、組織の総司令官としての役目を持つバロックワークスの副社長だ。

 その正体は、バスターコールによって地図上から削除された〝考古学の聖地〟オハラの唯一の生き残りである考古学者ニコ・ロビンである。

「〝新世界の怪物〟……いえ、〝黄金帝〟ギルド・テゾーロ。世界政府の使いかしら」

「いや、政府は何もしていない。奴が勝手に動いただけだ。……もっとも、コブラの奴が泣きついたんだろうが」

 クロコダイルがそう結論づけると、ミス・オールサンデーもといニコ・ロビンは彼を問い詰めた。

「……()()()()はどうする気なの?」

「クハハハ……ああ、あの間抜け親子か? 奴らが集めてきた情報は得たからとっとと始末するつもりだったが、気が変わった」

「……どういう意味?」

「殺す手間を省くために、役目を果たしてもらおうと思ってな」

 期待など一切していないが、と付け加えて笑みを浮かべるクロコダイル。

 彼にとってスパンダイン親子は、すでに用済みの存在だった。保護したのは建前であり、情報さえ手に入ったのだからあとは()()だけであった。

 しかしテゾーロとの因縁の深さを考慮すれば、目を逸らす程度の時間稼ぎはできるだろう。一分一秒でも綿密な計画では大きく影響し、本来の予定を大きく狂わすこともある。

「〝新世界の怪物〟が首を突っ込んじまったからには、相応の対処をしなけりゃならん。まあ使い方はいくらでもある。適当に唆してから武力衝突(ぶつけるの)も悪くあるまい」

「……」

「さて、延命治療を施したアラバスタ王国にはお薬を処方しないとな」

 クロコダイルはおもむろに電伝虫に手を伸ばし、ある人物と通話をした。

《――私だ、クロコダイル》

「この国にギルド・テゾーロが入った。奴の気を引いてほしい」

 電話相手に、クロコダイルはある作戦を伝えた。

 それは、人も住んでいないエルマルの町で偽反乱軍による暴動を起こすこと。バロックワークスの情報をあえて漏らし、テゾーロの注意を別の事件に向けることで「本来の作戦」の準備を進めるというものだった。

「クハハハ、当然金はくれてやる。おれが国を盗ったら必ず支払う」

《二言は無いな?》

「ああ、おれは約束は守る男だ」

 クロコダイルは受話器を下ろすと、葉巻の火を灰皿でもみ消す。

 一国を争う頭脳戦で後手に回ったクロコダイルは、次の一手に出たのだった。


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