ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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2月最初の投稿です。


第145話〝黄金と砂の首脳会談〟

 ルフィ達と別れたテゾーロ達は、アラバスタ王国へ急ぎつつ作戦会議を開いた。

「おれはアルバーナで首脳会談をする。付き添いはメロヌスで十分だ。その間にお前達は反乱軍とクロコダイルの動きを探り、この緊急事態の〝裏〟を炙り出せ」

「スパンダインとスパンダムは?」

「……まあ放置しても始末されそうな連中とも言えるが……一応所在は把握しよう」

 テゾーロが立てた作戦は、こうだ。

 コブラ側との電話会談の末、テゾーロはアラバスタ王国の首都・アルバーナに到着次第緊急会談を行うことになっている。その間はステラと共に宮殿で寝泊まりするため、財団時代のように直接出向くのは困難となる。そこでアオハル達に動いてもらい、クロコダイル率いる秘密結社「バロックワークス」と反乱軍の内部を探ってもらい、事態の早期終息を図るのだ。

 また、もし機会があればスパンダイン親子の身柄を拘束し、世界政府に罪人として引き渡すことも念頭に入れている。さすがの世界政府も、今回の件を知れば重く受け止めるだろう。

「そしてメロヌス。おれとステラは宮殿で寝泊りする。その間に国王軍の内情も調べておいてほしい」

「国王軍も? その必要はないんじゃないかしら……」

「いや、国王の言う通りだ夫人。アラバスタの国王軍にもスパイを送り込んでる可能性が高い……そうだろ?」

 テゾーロは無言で頷く。

 バロックワークスの存在は世界政府ですら把握していない。それゆえにあらゆる可能性があり、ましてや頭の切れる海賊として有名だったクロコダイルであれば、両軍にスパイを潜入させて思いのままに内乱を操るだろう。

「海軍は頼れない以上、頼れるのはあの一味だけ――」

「いや、そうとも限らないぞ」

 ハヤトの言葉を、テゾーロが遮った。

「先日、軍から連絡があってな。スモーカー大佐が部隊を率いてすでに偉大なる航路(グランドライン)入りしているってよ」

「あの野犬が? ……まあ彼じゃないとできないマネか」

 アオハルは煙草を吹かしながら呟く。

 〝白猟〟の異名で知られる海軍本部大佐・スモーカーは、素行の悪さから上層部「野犬」として煙たがられている問題児海兵だ。だが海軍の掲げる正義を妄信せず、それなりに頭もキレる一面もあるので、軍の命令を絶対視しない彼のやり方はありがたい。

「彼らの部隊がどこまで来てるかはわからないが、アラバスタに来たら事情を説明して味方に引き入れた方がいい」

「同感だな」

()()()()()は現場で一番強いからね」

 各々がスモーカーとの協力に賛同する。

 それ程、彼への期待が高いということなのだ。

「よし。アラバスタに合流次第、スモーカーの部隊と接触して手を組もう。味方は多い方がいい。本部の人間なら信頼に足る」

「それ支部の指揮官に対する悪口じゃ……」

「細かいことは気にするな」

 

 

 テゾーロが支部の腐敗ぶりを露骨にディスる中、スモーカー達は麦わらの一味を追跡していた。

「たしぎ、お前はどう思う」

「え? 何がですか?」

「ギルド・テゾーロがアラバスタに向かってる。コブラ王と緊急会談するそうだ」

「っ! ――〝黄金帝〟が()()アラバスタに、ですか!?」

 眼鏡をかけた女海兵――海軍本部曹長・たしぎは驚愕する。

 一代で天竜人に匹敵する権力を得た〝怪物〟が、アラバスタ王国に向かっていることは、かなり危険である。というのも、一国の王が他国との外交で自ら出向くということは滅多に無いからだ。大抵は手紙による文通で、使者はどんなに階級が高くとも大臣から上は絶対に動かない。暗殺事件やクーデターの勃発、海賊や反政府勢力の侵攻の可能性が拭えないからである。

 確かにテゾーロの国は軍事力も加盟国屈指であり、世界政府中枢との関係性の深さもあって国王不在でも国を護ることは可能である。だがスモーカーが気にしているのは、テゾーロ自ら動いたことの方だった。

「奴が直々に動くってことは、タダの反乱じゃねェっていう確信があるってこった。あいつの部下には情報屋とサイファーポールの諜報員がいるしな」

 ギルド・テゾーロは、財団時代はどんな所だろうと自ら出向いて功績を上げるような活発な男であった。今は国を治める身として落ち着いてはいるが、それでも保身にこだわる王侯貴族とは別物だ。

 そう語るスモーカーに、たしぎはハッとなる。

「つまりだ。奴はアラバスタに巣食うクロコダイルを怪しんでるってことにもなる」

「ま、まさか……アラバスタの内乱がクロコダイルの仕業だと!? スモーカーさん、それはいくら何でも――」

「出まかせに聞こえるだろうな。だが奴が向かった先には、何かしらの裏事情が必ずあった」

 スモーカーは、たしぎにテゾーロの功績とその裏事情を語った。

 裏の社交場である地下闘技場は、テゾーロとその盟友であるスライスが摘発し、多くの人々が救われた。地下闘技場は天竜人の遊び場であり、五老星も迂闊に手が出せない世界政府の〝闇〟だった。

 テキーラウルフの巨大な橋は、テゾーロの介入で橋の開通が成功した。しかし彼が来る前は全世界から犯罪者や世界政府非加盟国の人々を強制的に集めて建設しており、その重労働ゆえに死者が後を絶たない過酷な環境だった。

 長年黙認していた人身売買は、テゾーロの介入によって次々と人間屋(ヒューマンショップ)が摘発され、奴隷となって苦しむ人々が激減した。

 珀鉛病という鉛中毒に苦しんだフレバンス王国は、テゾーロの懸命な慈善活動によって王国崩壊の危機を乗り越えた。この功績はグラン・テゾーロの礎となった。珀鉛の有毒性を世界政府は把握した上で事実を隠蔽していたため、世間はおろか加盟国すらも世界政府の対応を非難した。

 偶然なのか、テゾーロが介入する場には政府の闇が隠れているのだ。そしてスモーカーは、テゾーロは政府の尻拭いをしているのではないかと考えているのだ。

「今回の件もそうだ。もし奴がアラバスタに用があるってんなら、何かマズイことが起きてるってことになる」

「……しかし……」

「まあ、行ってこの目で見りゃあわかる。()()()()()()()面を合わせることもできるだろうよ…………アラバスタへ急ぐぞ」

 

 

           *

 

 

 二日後。

 アラバスタ王国に到着したテゾーロは、首都アルバーナの宮殿でコブラ王と面会し、首脳会談を行った。

 テゾーロとコブラの会談内容は、枯れた町の復興支援。テゾーロはコブラ王の頼みならばと快諾し、その場で署名した。この首脳会談は予め世経のモルガンズにリークしておいたため、号外で全世界へと発信された。これにより反乱軍の動きも止まり、一時的にだが武力衝突の回避に成功した。

 そしてその日の夜、国王の私室にテゾーロとステラは招かれた。

「改めて……よくぞ参られた、テゾーロ殿」

「ええ。誠に光栄でございます」

 互いに軽い挨拶を済ませると、イスに座って本題に入る。

「内乱の件は耳にしています。書状でも確認しましたが……やはり何者かが煽ってるとしか思えません」

「君もそう思うか」

「ダンスパウダーの製造に必要な銀は制限したのに、これですからねェ……」

 テゾーロの権力によって銀の産出や取引は制限されたのに、未だにダンスパウダーが送られる。この事実に王家の関係者のほとんどは黒幕の存在に気づいているが、その正体はわからない上に反乱の鎮圧で多忙なため、探る機会が無いのが現状だ。

 そこでテゾーロ自らがコブラの味方となって動いてくれるのは、国王側にとっては救いの手を差し伸べられたも同然なのだ。

「……コブラさん、ここ数年でアラバスタ全域で起こった出来事を教えてくれませんか? 私達も力を貸します」

「うむ。チャカ、用意できるか?」

「はっ。ここに」

 ステラの提言に、コブラは王国護衛隊副官のチャカに声を掛けた。

「フフ……いつ以来かしら? 二人で問題解決に取り組むなんて」

「財団時代を思い出すよ、ステラ」

 財団時代の若き日々を懐かしんでいると、チャカが分厚い本をテーブルに置いた。

「ここには、現在までのアラバスタ王国で起こった全ての出来事を記録しているが……もしやこの中から黒幕を炙り出すと?」

「黒幕の正体自体は、大方の予想はつきますがね」

 聞き捨てならない発言にコブラとチャカは驚く。

 そんな二人のことなどスルーして、テゾーロは一文ずつ読み漁る。

 すると、ここでステラがあることに気がついた。

「あの……この〝ユバ〟の砂嵐、多すぎませんか」

「む……?」

 ステラが指摘したのは、反乱軍の拠点でもあったユバという街。

 記録によると、アラバスタ西部において旅人や商人の行き交う交差点であった物流の要所であるユバの地は、雨が降らなくなって以降衰退し、度重なる砂嵐の襲撃に見舞われ枯れた街となってしまったと記されている。

 砂嵐も干ばつも「大自然」であり、どうにもならない災害と思われるが……。

「砂嵐がそう何度もうまくユバを襲うわけないよなァ」

「「……!!」」

 コブラとチャカは、怒りに震えた。

 自然の力に、人間は敵わない。だがこの世界には、対抗できるどころか意のままに操る存在がいる。悪魔の実の自然(ロギア)系能力者だ。

 砂嵐を操れる自然(ロギア)系能力者は誰か……その結論(こたえ)を導き出すには、三秒も要らなかった。

「黒幕はクロコダイルか……!!」

「外道が……!!」

 黒幕は、王下七武海サー・クロコダイル。

 アラバスタの英雄が、アラバスタを滅ぼそうとしていることを悟り、今までにない憤怒の形相を浮かべた。

「クロコダイルは頭脳派の海賊……海賊界屈指の切れ者です。当然、スパイを送り込むでしょう。それも両方に」

「……!」

「我々にも反乱軍にも、奴の息がかかった者がおるということか……!」

 コブラとチャカの頬に、冷たい汗が流れる。

 反乱の鎮圧に加え一連の出来事の裏を探っている内に、すでに黒幕の魔の手がすぐそこまで迫っていた。たとえ反乱軍を抑えられても、国王軍に紛れ込んだクロコダイルのスパイが動けば、反乱は止まらず全面衝突となる。

 クロコダイルの用意周到さと狡猾さに、背筋が粟立つ思いだった。

「話を変えます。コブラ王、おれは先日ビビ王女と会っています」

「!? ビビは無事なのか!!」

 愛する娘の話となり血相を変えるコブラ。

 ビビは無事であると伝えると、彼は目に見える程に安堵した。

「彼女は頼もしい仲間と出会い、行動を共にしている。ビビ王女は彼らに任せて問題無い」

「君がそう言うのなら、ビビはさぞ心強い味方と出会えたのだろう」

「そして実は今、私の優秀な幹部達が動いている。反乱軍やクロコダイルの懐を探り、反乱の早期終結を図っている」

 テゾーロが提示した情報を聞き、コブラは考える。

 反乱軍は動きこそ止まっているが、機を見計らって動くのは明白。国王軍が挙兵してクロコダイルのいるレインベースへ討って出れば、反乱軍によって宮殿を落とされ、最悪国王軍が滅びる可能性もある。だがクロコダイルさえ討ち倒せれば、国民の手によって国は再建する。しかしこのまま国王軍と反乱軍が討ちあえば、クロコダイルの一人勝ちだ。

 ここにはギルド・テゾーロという強大な後ろ盾がいるし、ビビ達も頼もしい味方を引き連れて祖国に帰還しようとしている。何の犠牲もなく終結を見せる戦いではないと覚悟していたが、まだ希望はあった。

「チャカ、ペルを呼べ! 明夜、極秘の戦陣会議を開く。その際は士官達を集めるでないぞ」

「国王様、それは……!!」

「万に一つだ……私とて、国を想う者達を疑いたくはない」

 国王(コブラ)は誰よりも深く〝国〟を想い、国民を想う者である。

 本来ならば士官達を集めて出撃の準備を整えたいが、おそらくクロコダイルはそれすら見越して国王軍にスパイを潜り込ませているだろう。

 同じ国を想う者として、自分に付いて行く者を疑って行動するのは、コブラにとって辛い決断であったのだ。

「細心の注意を払い、出陣の準備を整えよ!!」

「はっ!!」

(まずは一手……皆、油断するなよ)

 打倒クロコダイルに向け、テゾーロは「包囲網」を着々と築き始めるのだった。


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