ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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2021年初の投稿は、いきなりアラバスタ編です。
しかも作者も忘れかけた二人が関与してます。(笑)


アラバスタ編
第144話〝影の共同戦線〟


 それは、突然の報せだった。

「テゾーロさん! 緊急の手紙だ!」

「うおっ!? 焦ったァ……」

 いきなりドアを豪快に開けてきたハヤトに、テゾーロはビックリしてコケそうになった。

 しかしハヤトの焦りっぷりから只事ではないと即座に判断し、渡された封筒を千切って中の手紙を広げた。

「……これは……」

 その手紙には、こんな内容が書かれていた。

 

 

 ――拝啓 ギルド・テゾーロ殿

 

   一国の主として御多忙の身であることであろうが、我がアラバスタ王国を助けてほしい。

   娘のビビが手紙を送った通り、我がアラバスタ王国では、ここ数年の間にダンスパウダーが首都に運搬される事件が続き、多くの町で全く雨が降らないという異常気象も相次いでいる。貴殿の活躍でダンスパウダーの原料である銀の生産が制限されたため、以前よりは少ないが未だにダンスパウダーを送られている。町が枯れ、人が飢え、ついには反乱軍が結成されて武力衝突が起こってしまい、連日後を絶たないのだ。

   それに最近、ビビとの連絡も途絶えてしまっている。私自ら探しに行くことも、軍に任せることも行かないため、娘の安否確認もお願いしたい。

   このままでは国の平和も、王家の信頼も、雨も町も、人の命までもが奪われてしまう。勝手なことで申し訳ないが、どうか助けてほしい。

 

             アラバスタ王国 ネフェルタリ家第12代国王 ネフェルタリ・コブラ

 

 

「……」

「……アラバスタ王国が最近揉めているとは知っていたが……」

「アラバスタ王国の影響力は大きい。早く止めないと厄介だぞ」

 テゾーロは内心焦っていた。

 というのも、かつて参加した世界会議(レヴェリー)でダンスパウダーの原材料である銀の産出量の大幅な制限を決定したため、原作のような異常気象は減っていると考えていたからだ。この予防策クロコダイルの国盗りは大きく狂うはずなのに、原作通りの展開となってしまっている。

 しかし、クロコダイルは海賊界きっての切れ者である。権力で封じるというテゾーロの大胆な策に面食らっただろうが、そこからの切り返しが想像以上に早かった。彼が計画は周到に立てる策略家であるのはテゾーロ自身も承知していたが、ここまで速いのは予想外だったのだ。

(こればかりは、少しマズイな……)

 テゾーロは立ち上がった。

「オーロ・コンメルチャンテの出港準備をしろ!! アラバスタ王国へ向かう!! アオハル達に伝え、世界政府にも通達しろ!!」

 

 

           *

 

 

 一週間後、偉大なる航路(グランドライン)前半のある海。

 財団時代より長く〝新世界の怪物〟を支えてきたテゾーロの所有する艦船オーロ・コンメルチャンテ号は、アラバスタ王国を過ぎて逆走していた。

「……アラバスタ王国過ぎていいのか?」

「手紙で十日ぐらいかかるって伝えちまったしな。先にビビの安否確認から行こう、偉大なる航路(グランドライン)からは出てないはずだ」

 甲板でくつろぎながら、テゾーロはステラとポーカーをしながらメロヌスの問いに答える。

 この世界において、財団時代の活躍ぶりからギルド・テゾーロという男を知らぬ者はそうそういない。それ程の超大物がアポなしで加盟国に乗り込めば混乱を招く。ゆえにテゾーロは多少時間を空けてから他国を訪問することを意識している。それは加盟国も例外ではない。

「海軍には言わなくてよかったの? テゾーロ」

「海軍本部は、言い方を変えれば「海上治安維持組織」だ。世界政府直属と言えど、加盟国の内政に干渉することはしないさ」

「……そうなのね」

 ステラは難しそうな表情を浮かべる。

 すると、新聞の間から一枚の手配書がパサリと落ちた。テゾーロはそれを拾うと――

「……! これは……」

 その手配書の写真を見て、目を見開いた。

 堂々と映る満面の笑み。左目の下の頬の切傷。トレードマークと言える麦わら帽子。

 そう、彼がついに海賊として名を上げていたのだ。

(来たか……ルフィ)

 モンキー・D・ルフィ。

 〝ゴムゴムの実〟を食べた能力者であり、「五番目の〝海の皇帝〟」と見なされることになる、明るく豪快な若き海賊。そして、本来なら衝突する運命であった海賊王を目指す者。

 この世界に生まれて数十年。ようやく待ち侘びた瞬間が近づいたことに、テゾーロは笑みを溢した。

 そんな上司の様子に勘づいたのか、アオハル達が続々と手配書に目を通した。

「モンキー・D……まさか英雄ガープの孫?」

「初頭の手配が3000万ベリー……世界的にも異例の破格ではあるな」

東の海(イーストブルー)って、たまに超大物出るんだよね……」

 アオハルの一言に、一同は無言で頷く。

 東の海(イーストブルー)はこの世界で最も治安が安定した海であるため、「平和の象徴」であると共に「軟弱な海賊しかいない海」と呼ばれている。

 しかし東の海(イーストブルー)はあの海賊王ロジャーや英雄ガープ、四皇シャンクスの部下である〝追撃者(チェイサー)〟ヤソップといった超大物が出てくる海でもある。かくいうアオハルも東の海(イーストブルー)出身であり、本当にとんでもないのが何十年かに一度は輩出されるのだ。

「英雄ガープの孫が海賊になった……胃とか痛めてないかな?」

「どっちかって言うと大爆笑してるだろ。胃を痛めるのセンゴクさんの方だよ多分」

「ハハハハ! 確かにそうかもな!」

 テゾーロが大笑いした、その時だった。

「国王様! 海賊です!!」

 オーロ・コンメルチャンテの乗組員の一人が、甲板に駆けつけ報告した。

 海賊船を視認したことにより、緊張が走る。

「……海賊か。海賊旗はわかるか?」

「麦わら帽子を被った海賊旗を掲げてます!!」

 その報告に、一同は顔を見合わせた。

 噂をすれば影が差すとは、まさにこのことだ。

「……ウチの国旗と世界政府の旗を掲げろ。さすがに加盟国の船にケンカは売らないさ。少しばかり挨拶してくるから、接舷の準備を」

「はっ!」

 オーロ・コンメルチャンテの乗組員は、海賊船と速度を合わせて巧みに船を操る。

 この船の乗組員は、シードが率いる「ガルツフォース」に所属している。その多くが足を洗った元海賊や諸事情で軍を辞めた元海兵であり、日々の訓練で高い操船技術を有している。

「羊って可愛いな、おい。海賊ってイメージじゃないんだけど」

「キャラヴェルだね……あれで偉大なる航路(グランドライン)は厳しいんじゃないかな」

「丸太船で新世界渡るよりかはマシだとは思うけどな」

 麦わら帽子の海賊船が、まさかの船首が羊のキャラヴェル。

 色んな意味でギャップのある船に、苦笑いを浮かべてしまう。

「……さてと。じゃあお邪魔するとしよう」

「あんた一人でいいのか?」

「戦闘になったとしても心配することは無い。おれを誰だと思ってる」

 愛用のサングラスをかけ、不敵な笑みを浮かべた。

(さァ、ご対面と行こうか)

 

 

 一方、海賊船「ゴーイングメリー号」では。

「デッケェ船だなーー! 何だアレ?」

「黄金の船なんて初めて見たぞ!」

「皆、あれは「グラン・テゾーロ」の船よ!」

 メリー号の倍以上はある黄金色に輝く船に、船長のルフィは興奮し、船医のトナカイ・チョッパーも目を輝かせている。

 しかし船が掲げている世界政府の旗と「GT」の文字が刻まれた旗を目にした航海士・ナミは顔を強張らせていた。

「グラン・テゾーロ?」

「何だそれ?」

「ギルド・テゾーロの治める国家よ!」

 その声に、一同は振り返った。

 声を発したのは、ネフェルタリ・ビビ。訳あって麦わらの一味の船に乗船しているアラバスタ王国王女だ。

「ギルド・テゾーロ? ビビ、そんなに有名な奴か?」

「ええ、世界一の大富豪であるカジノ王よ!」

 ビビはギルド・テゾーロについて語り出す。

 〝黄金帝〟あるいは〝新世界の怪物〟の呼び名で知られる、一流のエンターテイナーにして〝絶対聖域〟とも呼ばれる世界初の中立国家の国王を務める男……それがギルド・テゾーロという億万長者。

 その莫大な富は全世界の五分の一の金融資産を有するとも言われ、一代で世界政府も認める特権を得たことから「出世の神様」とも呼称されている。

「世界の海において、ギルド・テゾーロは知らない人の方が少ないくらいの超大物(ビッグネーム)なの!」

「それはさすがにヤバそうだな……」

 一味の料理人であるサンジも、一筋の汗を流す。

 海賊や海軍とは別のジャンルの、格上の相手。何かの拍子で不本意であっても攻撃行動を取ってしまったら、タダでは済まないだろう。

 甲板に緊張感が漂う。

「……誰か来たぞ」

 戦闘員のゾロがそう言い、欄干から顔を出した男を指差した。

 煙草を咥え、狙撃用のライフル銃を背負ったその姿は、まさしく狙撃手。同じ狙撃手という立場であるウソップは、その鋭い眼光にビビり散らした。

「おれはメロヌス。〝麦わらのルフィ〟ご一行とお見受けする。合っているか?」

「ああ! そうだ!」

「ウチの上司がおたくらと少し話をしたいとのことだ」

 メロヌスの言葉に、ナミ達はざわつく。

 世界政府の関係者が、名を上げて間もない一味との対談を望んでいる。何かの罠なのかと勘繰るが……。

「ああ、いいぞ」

「ちょっと、ルフィ!」

「ケンカ売りに来たわけじゃないから、そこは安心しろ。海軍にチクるような野暮なマネもしない」

 ルフィの即断に、ナミは焦る。

 しかしメロヌスも「戦意は無い」と発言しており、ルフィはそれを直感で信じているようだ。

「……だそうだ、国王」

「それは何より」

 

 ビリィッ!

 

 黄金船の欄干から火花が散った。

 それと共に、欄干が融解して階段が生まれ、メリー号の甲板にまで伸びた。

「何だ!?」

「悪魔の……!!」

「おおおっ!?」

 未知の悪魔の実の能力に、驚愕するルフィ達。

 すると、黄金の階段から一人の男が降りてきた。

「いやいや、私の勝手な申し出を受けて下さり、どうもありがとうございます」

 ルフィ達に声を掛けたのは、マゼンタのダブルスーツを着こなしサングラスをかけた長身の男だった。

 全身に黄金の装飾品をいくつも身に着け、緑色の髪をオールバックにキメた、いかにも大富豪な見た目の男。しかし只者ではない雰囲気も醸し出しており、歴戦の強者であると本能的に悟ったのか、ゾロとサンジは警戒する。

「誰だ、お前?」

「申し遅れました。はじめまして……私はグラン・テゾーロの国王、ギルド・テゾーロと申します」

「おれはルフィ!! 海賊王になる男だ!!!」

「ハハハハ!! 未来の海賊王に誰よりも早く謁見できるとは、一介の国王として実に光栄だ」

 胸を張るルフィに、テゾーロは朗らかな笑みで応じる。

「あ、あああれがギルド・テゾーロ……!!」

「新聞でしか顔は見なかったのに……まさか本人がいるなんて驚いたわ……!」

「ハハハハ! イッツ・ア・エンターテインメンツ……驚いてくれたようだ」

 テゾーロはサングラスを額に上げた。

 その後、ルフィとチョッパーが興味津々そうにテゾーロに尋ねた。

「なあ! アレはどうやったんだ!?」

「何の能力だ!?」

「あの階段のことか……黄金だよ。私は〝ゴルゴルの実〟の能力者。黄金を生み出し、一度触れた黄金は自在に操れる」

 物理法則を無視してな、と付け加えてリングを一つ外し、チカラを込めて火花を散らす。

 するとリングはバチバチと音を立ててアームチェアに変化した。

「「「スッゲーーーーーー!!!」」」

 これにはルフィやチョッパーだけでなく、ウソップも興奮した。

「当然、質量も形状も自由自在! この世にある全ての黄金を、私は支配できるのだよ」

 アームチェアにドカッと座るテゾーロ。

 すると今度は、青いロングヘアーの少女に顔を向けた。

「ビビ王女、ご無事で何よりです」

「!!」

「あなたの父親から手紙を受け取りまして。急遽駆けつけた次第です」

「パパが!?」

 テゾーロはその証拠にポケットから手紙を取り出し、ビビに渡した。

 それを広げて目を通したビビは、くしゃりと手紙を強く握り締めた。

「テゾーロさん、ありがとうございます……!」

「礼には及ばないさ……さて、なぜアラバスタ王国の王女様が海賊船に乗っているのかね? 何か深い事情がありそうだが、教えてくれるか?」

「実は……」

 ビビはどこか悔しそうな表情で語った。

 昨今のアラバスタの不安定な情勢と秘密結社「バロックワークス」の存在、そして潜入したことで気づいた黒幕の正体……ビビが知った真実を聞いたテゾーロは、目を見開いてから汗を流して頭を抱えた。

 自分が思っていたよりも――原作よりも事態が深刻だったのだ。

 

「――こいつは少々、ショックが強いな……!! 完全に油断していた……まさか利権と復讐の為にスパンダイン親子がクロコダイルと協力していたとは……!!」

 

 テゾーロはあまりにも衝撃的な事実に面を食らった。

 スパンダインとその息子・スパンダムとは、かつて船大工トムの一件で大揉めし、世界政府から追放した因縁がある。追放してからはその後の足取りが掴めなかったため、テゾーロはあまり気にしていなかった。

 ――まさか加盟国の内乱を利用するとは……!

「復讐って……ちょっと、一体何のこと!? それに利権って……」

「スパンダイン親子は、おれが世界政府から追放した悪党だ。世界政府の諜報機関「サイファーポール」のトップで、多くの汚職や不正をしていた」

「それであんたに復讐するってことか……」

 咥えた煙草に火を点け、サンジは納得した表情を浮かべた。

「じゃあ利権って?」

「戦争や反乱、革命は必ずカネが動くんだ」

 テゾーロ曰く。

 戦争はビジネスの側面もあり、戦争の準備や戦時中には軍需品を売りつけたり、戦後の復興事業で発生する利権を独占することで巨額の金儲けができる。カネと権力は万国共通であり、テゾーロが財力で天上までのし上がったように、スパンダイン親子も利権で世界政府に復権しようとする可能性があるのだ。

 あの二人が政府に戻ったら、長年のテゾーロの努力が全部無駄となりかねないだろう。

「テゾーロさん、力を貸していただけませんか? このままじゃ……!」

「残念ながら君達の直接的な援助(アシスト)はできない。私ができるのは政治的な駆け引きや終結後の復興支援ぐらいだ」

「そうですか……」

「だが、反乱軍の動きを一時的に止めることはできるかもしれない」

 テゾーロの言葉に、一同は目を見開く。

 〝新世界の怪物〟の権力や世界情勢への影響力は、この世界の頂点に君臨する世界貴族や四皇に匹敵する。彼が外交としてアラバスタへ来訪したとなれば、さすがの反乱軍も動きを止めざるを得ないだろう。

「他国の王にまで牙を剥ける程、反乱軍は愚かではないはずだ。問題なのは反乱軍にも国王軍にもクロコダイルの息がかかった者がいるかどうかだな……」

「あり得るわ……クロコダイルならやるはずよ……!」

 テゾーロとの衝突は、反乱軍も国王軍も、ひいてはアラバスタ王国もバロックワークスも避けたがるだろう。軍事力も権力も、あらゆる面のチカラでグラン・テゾーロはアラバスタ王国をはるかに上回る。

 しかしクロコダイルの目的はアラバスタ王国の乗っ取りだ。その為ならば、テゾーロすら利用して王国を崩壊させるだろう。

「……よし! ここは君達と共同戦線と行こう」

『!!』

 黄金帝の前代未聞の宣言に、その場にいる全ての者が驚愕した。

 海賊との共闘。それは天竜人と同等の権力を持つテゾーロだから成せる荒業とも言えた。

「おい、いいのかよ? あんた政府の要人だろうが」

「ロロノア・ゾロ。世の中とは綺麗事だけでやってける程甘くはない。おれじゃなくてもそうするさ」

 テゾーロは微笑みながらメロヌス達を見た。

 彼らの顔には呆れたような笑みが浮かんでおり、それこそ予想通りの展開だとでも言わんばかりだ。

「おれは外交としてアラバスタを訪問する手筈になっている。そこで反乱軍を抑える時間を稼ぐ。メロヌス達にはバロックワークスの面々を片付けさせよう」

「その間におれがクロコダイルをぶっ飛ばせばいいんだな!!」

「早い話、そういうことだ」

 トントン拍子に話が進む。

 だがビビは心の内では安堵していた。王下七武海(クロコダイル)という強大な黒幕(てき)に立ち向かう自分達に、強力な助っ人が全面サポートを約束してくれたからだ。

「ルフィ。クロコダイルをぶっ飛ばした後は手出し無用で頼む、そこから先はおれや世界政府の仕事だからな」

「ちょ、ちょっと! 勝手に決めないでよ!! まだ何も準備もできてないんだから!!」

 テゾーロに異を唱えるナミ。

 相手はかの王下七武海。当初こそ衝突を避けるべきと考えていた一味の常識人には、この流れは溜まったものではないはずなのだが……。

「ボランティアじゃないから報酬は払うつもりだったんだが……」

「いやん♡ 何でもお任せあれっ」

「「おいおいおいおい」」

 常識人、陥落。

 世界一の大富豪からの報酬に目が眩んだナミに、ウソップとゾロは頭を抱えた。

「……大方の方針は決まったな。ここから先は何が起こるかわからない。臨機応変に対応し、クロコダイルの野望を打ち砕くんだ! 君達の武運を祈る!!」

『おう!!!』

 

 ここに、歴史に刻まれぬ「影の共同戦線」が誕生した。


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